夢より現れしは紅き退魔の剣

同刻。エクの状況を知らない二人は特に何もする事も無く、縁側に腰掛けたままぼんやりと庭の桜を眺めていた

「おっそいわねー…」

「お楽しみなのであろう。たまにはこのような時間に遊ばせるのも社会勉強の一環と考えよ」

「社会勉きょーねぇ~…ちょっと早すぎる気もするんだけど;」

 お互いに「探しに行かなくても平気だろう」と考えているのか、未だに一歩も動く様子がないままに過ごしていると、二人の頭上に三羽の蝙蝠が到着し、しばらく迷った様にその場で何回も旋回していたがようやく判断できたらしく二人の目の前まで近寄った。

「はぁーぁ…たいくΣぎゃぁあっ?!!!

「何を騒いで…蝙蝠ではないか。その程度で騒ぐでない」

「ななな何でそんなに冷静なのよ…!いきなり目の前に現れたら誰だってビックリするっての…え?ちょっと…??」

呆れた様な様子でサラッと返される一方で本気で驚いたらしい御幻はその場で数回ほど落ち着かせる為にと深呼吸をしていると、その中の一羽が装備爪の付いている方の袖を銜えて引っ張り始めた

「??なに?え?何??!」

「どうやら気に入られたか…呼んでいるようにも見えるが?」

「蝙蝠に呼ばれるか気に入られるような事なんか私一回もしたことがないと思うんだけど…」

 必死になって引っ張る蝙蝠に対して、追い払うべきかそうでもないのか困惑した様子でおろおろしていたが、未だエクが帰宅する気配も無いので、少しだけ付き合ってやったらどうだ?と留守番を水晶に提案されたが、半ば強引に彼女も連れていく形で蝙蝠の後をついて行く事にした。

 エクがいつ帰宅しても大丈夫なように。と玄関の鍵は開けたままにして、月明かりだけが頼りになっている森の中を蝙蝠の羽音を頼りに歩いていた

「参ったわねー…只でさえエクが帰って来てないってのに覚えのない蝙蝠に呼ばれるなんて」

「自分はそうでも無くても知らぬ間に相手の恨みを買ったりしてしまう場合もあるというものだからな…」

「私がこの子達に何かをした事前提で語るの止めてくれない?…何か誤解されてる感じがするから」

「ふっふふふ。そう深く気にするでない 一つの例えを語ったまでではないか」

(嘘くさい…)

からかう様に笑いながら言う彼女の言葉に、疑う様に目を細めていると二人の目の前に蔦が覆っている寂れた礼拝堂前に到着した。

「こんな場所にこんな建物があったんだ…」

「私もここにこんな物があるのは初めて知ったが…」

 今まで気付かなかった存在の建物に二人が付近を散策している間。帰宅した彼女たちが扉を数回ほどたたくと閉じられていた入口の扉が開き、普段通りリースが出迎えたが先にお使いを済ませた彼女達と合流した。

『ヒヒヒッおっかえり~♪お使いご苦労様~セシリア、キッシュ、リサ あ、いらっしゃ~い剣姫ちゃんにー……水晶も』

このテンションの軽い奴は何…?!と半ば引いている御幻を他所に、水晶の表情は一瞬にして警戒の色になり、明るかったリースの声のトーンも一気に低くなった。
25/66ページ
スキ