夢より現れしは紅き退魔の剣

 台所に到着してから冷蔵庫を覗いたものの、特に思う様な材料が無かった。

「やれやれ参ったなぁ…材料は無いし作れるのは限られるから……おむすびとかでも良いか?」

「やったぜ!じゃあオレは向こうで完成待ってるぜ♪」

「はいはい、じゃあ待ってる間に手洗いでも済ませてこいよ?分かった?」

「はーい!」

稽古の時には一切見せなかった笑顔でエネルギッシュに跳ね回り、軽い足取りのまま洗面所へと向かって手洗いを行い、縁側で待機をしていた。
しばらくして完成したおむすびとお茶をお盆に乗せたレーンが来てくれた。 その姿を見つけると、両腕を広げて催促と喜びを表現し、お盆が床に置かれる寸前に皿の上からおむすびを一つ取って食べ始めた。

「Σあ、おいこらエク!行儀悪いぞ」

「ごふぇーん(笑)」(訳:ごめーん(笑)

「全くもうお前は…」

全くの反省の色がない口調で返されてしまい、呆れた様子で呟いていたが、これ以上は言っても仕方無いな。と考え、彼はそれ以上言うのを止めて天気の良い空を見上げた。
 エクが残りの一つを食べている途中で玄関からのんびりとした声が聞こえた

「んん?あののんびりした声…シー兄ぃだ!」

「ようやく交代の時間か おーいシーラ!サン!縁側に居るからこっちに来てくれ!」

 少し声を張り上げながら呼び掛けた声が届いたらしく、二人は玄関には入らず縁側へと向かって来てくれた。

「レーンお待たせ~ 少し手間取っちゃったけど午前中の美術品チェック終わったよ~」

「僕の方も庭のチェックをしておいたけど異常は無かったから平気」

「そっか、二人ともお疲れさん。後は俺が午後の分をやっておくけどー…エクの稽古、頑張ってな?たかが素振りぐらいで喚いてたけど」

「うん、任せて~出来るだけ頑張るよ~」

「何か散々そうな気もするけど…まずは一旦着替えようよ」

エクの状況を聞いてサンは少し不服そうに眉を寄せていたが、稽古に移るため早く準備しようと呼び掛け、食事を終えたエクには先に道場の方で待ってるように伝え、残りの三人は縁側から入って二人と一人で別の部屋に向かった。
 数分後。手のひらに木刀を乗せて暇を潰していたエクの元へ、稽古袴に着替えて腰にはお互いの持つ刀を挿したサンとシーラが合流した。

「お待たせ~エク それじゃあ始めよっか」

「うへぇ…始めたくねぇよー……一応聞くけど素振りとか腕立て伏せとか、そーいう筋トレとかじゃないよな?イヤだぜ俺…しんどいのとか」

「う~ん…しんどいかどうかは僕の場合エク次第かな~? 予定してるのはね、その木刀を持ったエクが僕に攻撃して一本取れたら勝ち~って言うのだよ~」

「僕の場合は時間を決めて…鞘に収めたままだけど、本気で攻撃するから避ける。と言うのだけど……大丈夫。きっと当たっても打ち身位で済むと思うから」

「サン姉ちゃん…せめて俺の目を見て言ってくれよ…」

自信が無いらしく伏し目がちに説明すると、その様子が余計にエクの不安を煽った。
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