― An EvilPurify Ⅱ― 姫が為。捧げし互いの正義
~EpilogueⅡ~
広々とした執務室内。両肩を白い薔薇のコサージュで留められた深緑色のマントを羽織った新Rose“T”truthful Rainbow Rose総本部支部長となったジュウザ=オールランイーターがテラスから見える景色を眺めて時間を潰していると、扉がノックされて、彼女の側近であるヴァラファールが帰宅した。
「ジュウザ様。御命令通りリオン=レトの釈放。及び退魔師としての復帰手続きが完了致しました。」
「ご苦労様。ヴァラファール」
「いえ…ですが宜しかったのですか?元本部支部長様がお決めなさっていた者を釈放しても…」
「うっふふふ。可愛い支部長さんから泣いて頼まれたら承諾しない訳ないでしょう?それに、私はあんな呪術や…人工退魔師なんて興味がないわ。それに、愛犬家であってお人形にも興味がないわ。私は前のお爺様と違って慈悲深いのよ」
くすくすと笑ってみせ、自分の傍に寄る様に手を軽く上下にさせると、それを合図に彼女の傍へ歩み寄った。
「ヴァラファール…私の良き忠犬。貴方が居たからこそ私は、あの腐った獅子を毒で潰し、最期を看取って周りには「お爺様が私を次の支部長に選んだ」と安心させて最高位まで上り詰める事が出来た…そんな私をお前は支部長殺しの大罪人と見るか…崇拝する飼い主として見るか…?」
「私の全てはジュウザ様に捧げると誓っています。今までも、これからも…それは永久に変わる事はありません」
「ふっふふ。それでこそ私が手塩にかけて育てた甲斐があると言うもの…White Roseに支部長代理として送ったグレアも、その様に言ってくれたらいいのだけれど…」
「彼も主を失って意気消沈なさっている時にジュウザ様へ会って救われたと思われますが…何かご不満な点が?」
「操りやすさは認めるけれど、操作する者が居なかったら何も出来ないと言うのは…ね。やはり頑張っても名犬ぐらいにはなって欲しいのだけれど…」
やれやれとため息交じりに話していると、扉が小さく数回ノックされた。
扉を開けるべく近づくヴァラファールを制止させ、彼女は机に載せていたいくつかの資料を手に持った。
「それは…?」
「私の共犯者さんがどうしても元に戻る為にと欲しがっていた本部の研究資料よ。油断すると私まで喰らおうとする危ない小型犬だけれど」
「小型犬…もしや彼ですか?」
「そう、緑の御主人様よ。…私が支部長へ昇り詰める為に手伝ってくれた…」
「…その方はどうなさるのですか?」
「そう殺気立たなくても大丈夫よ。少しづつ情報を与え、油断させて…徐々に堕としていくだけよ。私に噛み付けない様しっかりと… 懐かない犬を躾けるのも、また愉しみと言うものよ」
肩を揺らして愉快そうに嗤い、研究資料の一部を手に持ったままようやく扉を開けてやると、不機嫌そうにこちらを見上げるエトワルの姿があった。
「開けるのが遅いぞ…全く」
「うっふふふ。いらっしゃい エトワル。さ、どうぞ中に入って頂戴な」
小さく開けられた隙間からエトワルが入室すると、厳重に鍵が掛けられた。
お互いに黒く歪んだ思惑を隠しながら、いつ裏切られるかも分からない状況でありながら、本部支部長を失脚させた共犯者同士は不敵な笑みを交わし合っていた。
~EpilogueⅡ~
―Black End―
―Black End―