― An EvilPurify Ⅱ― 姫が為。捧げし互いの正義

 少し遅れて馬車が到着し、御者をしていたヴァレンチノが降りて来た時。目の前に立ちはだかる巨大な氷の壁や、壁の前で泣き縋るクロア、その近くで血を流して倒れるイザヨイの姿、少し離れた所で呆然と立ちすくんでいたローゼを見た彼女は何が起こったのかある程度理解したらしく、複雑な顔色で壁の前まで歩み寄った。
「!…ヴァレンチノさんっ…どうし…どうしたら良いんでしょうかっ。レト先輩が…レト先輩が私の、せい…でっ!」
「クロアちゃん…待て、落ち着くんだ…アイツらはまだ向こうにいるのかい?」
「は、い…まだ馬車の音はっ聞こえて…ませんからきっと…」
「そうか…なら」
泣きついてきたクロアをしっかりと受け止めてやりながらヴァレンチノは、向こうにいるであろう三人へと声を掛けた。
「シルドラ!ジーク!特急料金としての店内掃除は免除してやるから…そこにいるバカを必ず連れて帰って来い!良いな…三人共。私からの説教はそれからだ!」

壁の向こう側ではヴァレンチノの声が届いた二人は苦笑していた。
「そんなもん、言われなくっても解ってるわよ。っての私は愚痴と魔力なら際限なくあるもの」
「そうだな。店内掃除以上に久しぶりの大仕事だし…な。リオン、何か声を掛けなくてもいいのか?」
「母上……いい、これ以上は何も無い。さっさと出せ!」
強く下唇を噛み締めながら、リオンは急ぎ足で馬車へと乗り込んでしまったので、二人も急ぎ足で御者の席へと座ると、手綱を使って馬の向きを変え、一気に鞭を振るうと、高らかな嘶きと共に馬車は走り去って行ってしまった。


 馬車が走って行く音が聞こえなくなってからようやく泣きついていたクロアをそっと離した。
「アイツの事はの二人に任せてやりたい所だけど…流石に制限はあるだろうけれど…クロアちゃんはそれでも待っているの?」
「も…勿論ですっ。レト先輩が復帰すると行って下さった時だってずっとお待ちしてましたから今回だって…」
「そう…それなら、私は引退した身だから支部の事に一切介入は出来ないけれど…支部長の貴女なら…上に掛け合ったりする事もできるんしゃないかしら?」
「!なるほどっ…!それなら今すぐ本部に行かなきゃっ!!」
「喜んでくれるのは良いけれど少し待ちなさい。まずは、クロアちゃんはローゼと剣を回収して乗せておいて。私は…」
多少安堵した様に涙を拭いて持ち直したクロアは、言われたとおりにローゼたちの回収へと向かった。 その間。ヴァレンチノは、イザヨイを抱えて馬車へと乗せた。
「ヴァレンチノさーん。後ろ(荷物置き場)にローゼちゃん詰め込み終わりましたけど…え?ミコトさん?!な、何で…」
「このまま放置するのは忍びなくてな…だからと言って本部を待つ気も無かったから、私の地元。フォールン・ソノラで丁重に埋葬してやった方が良いと思って…ほら、隣に乗りなさい。先に本部へ送ってあげるから」
「ありがとうございます。…あ、でも先にWhite Roseに行って貰えますか?お届け物を…頼まれていまして」
「Whiteに?ここからなら…近いから先に行くとしようか」
馬の手綱引き、一気に馬を走らせると、二人はWhite Roseへと向かって行った。
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