― An EvilPurify Ⅱ― 姫が為。捧げし互いの正義

 徐々に消えていくマリアネットの姿をしっかり腕に抱いていたが、眼から一筋。涙が零れた
『マリー…嗚呼どうかマリー…ワタシを置いて消えないで下さいっ…』
『…イ……ザ…ヨイ…』
しっかりとイザヨイに抱かれた腕の中。今にも崩れそうな手を必死に伸ばして彼の頬に触れ、名前を呼んで微笑んだ。
蘇ってから一度も無かった彼女の言葉に驚いていると、もう一度彼女が口を開いて意志を伝えようとしたが声がそれ以上出る事は無かったが、それでも口を動かして意志を伝えた。

― 一緒にいてくれて ありがとう―

それを言い終わると、静かに眼を閉じた。そして彼女の姿は完全に崩れてしまい、その後。彼女の身体はソヴァージュ同様に光の欠片となってその場から跡形も無く消え去ってしまったが、唯一常に彼女が付けていた蝶のヘッドドレスがイザヨイの手元に残っていた。
マリアネットがその場から完全に浄化された事でその場に静寂が訪れると共に、リオンにも異変が起こった。
 左手を中心に焼け付くような痛みが広がっていたものが徐々に和らぎ始め、不思議に思ったリオンが手袋を外すと、痣が刻まれていた部分が赤く光っていて、そしてそれも光の欠片となって消え去った。
「痣が…」
「先程のマリアネットの様に…消えちゃうなんて…どうして?」
状況が理解できず、互いに顔を見合わせていると、二人に背を向けてしゃがみ込んがままのイザヨイが独り言の様に語り始めた。

『杖が無ければ…呪術も…もう使えない。杖が無いのならば…反魂も解けてしまった。マリーの望んでくれた世界も…もうワタシに創る事は出来ない …レト先輩。貴方はワタシに復讐していたがっていましたね?支部で飼い殺しされるのはごめんですので…貴方になら殺られても構いません』
「お前…」
「お、お待ちくださいっ!そう言う訳には行きません!!ミコトさんは、総本部支部の決まりで連行しなければなりません…アルバトロ先輩も…フレイアもメリアルも貴方に奪われました。だけどっ!これ以上は『レト先輩は…隊長にあのマフラーの子二人の為にワタシを殺ろうと考えていたのでしょう?忘れてはなりませんよ…』
あくまで自分達は支部に連行する為に戦ったのだ。これ以上は只の弔い合戦でしかない。との思いを伝えようとしても、憔悴しきったイザヨイによって言葉は遮られ、更に煽る様な言葉が、クロアによって揺らいでいたリオンの意志を揺さぶった。
『クロア嬢の言う通り…ワタシは貴方から様々な物を奪いましたねぇ…それはもちろん貴方もですが、ワタシは潔く負けを認めたのですよ?急がないと…別の猟犬に捕えられてしまえば復讐できる機会は永久に失われますよ?…それで…三人に魂の安らぎは訪れるのでしょうか…?』
 手元に残ったヘッドドレスを大事そうに抱えつつ、こちらに視線を移して口元を三日月の様に歪めながら普段と何も変わらない口調で続けると、無言のまま剣を構え直したリオンが彼の背後へと歩み寄った。
「ダメですレト先輩っ!!本部の決まりを破ってしまったら貴方も!…」
アキやリック、カインの事もあるので確かに仇を考えたい所だったが、本部の意向に逆らうのは得策ではないと呼び掛け、止めるべく走り出そうとしたが、彼女の足元に先程水晶部分を破壊したナイフを、邪魔をするな。と言わんばかりに地面に投げて突き刺した。

『貴女は黙っていてくださいよ…クロア嬢。』
口元に歪んだ笑みを浮かべ眼を閉じていたが、リオンは震える手のままに剣を彼の隣へ突き刺した。
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