― An EvilPurify Ⅱ― 姫が為。捧げし互いの正義

『しかし惜しいものだ…アレの生存が解っていたのだったら襲撃が起こった時にはもう既に私の手中だと言うのに…これほどまでに被害を出しておきながら解ったのはアレの生存のみとは…使えぬ。全く使えぬ犬共だ。』
フンッと鼻を鳴らしながら呟くアーネストへ今まで黙って抑えていたヒガンが座っていた椅子が後ろに倒れるほどの勢いで立ち上がり、持っていた鞭を床に叩きつけた。
「いい加減にしやがれっ!!アンタは…アンタには犠牲になった奴の事考える頭はねぇのかよ?!!」
「お、おい!落ち着けヒガン!」
『静まれ黒薔薇の犬よ。貴様も先程の犬と同等か…見苦しい。なんとも見苦しい!!犬一匹に情を持つなど言語道断であるぞ。それも解らぬから貴様はその程度だと言う事だ。 だが…貴様の言葉は私に対する反逆罪として…見せしめに始末してやろうか?』
 不敵な笑みを浮かべながら右手を上げると、背後に控えていた二人が渋々一歩前に出る。 それでも怯まず、止めるセドを無視して激昂した感情のまま鞭を振るおうとした時。アーネストと同じぐらいの勢いで、机にジュウザの鉄扇が叩きつけられた。

「おやめなさいな。ヒガン。 うっふふふ。ごめんなさいね“お爺様”…いえ、本部支部長様? 今この子は気が立っていて判断が出来ない状態…ここは、元弟子からのお願いと言う事で許してあげてくださいな?」
『フンッ。変わらず腹の読めぬ狸女がしゃしゃり出おってからに…』
「うっふふふ。狸は時として傲慢で強欲に溺れる哀れな獅子を食べちゃうかもしれませんわよ?…ふふふっ。だから…余生はどうぞ、お気を付けなさってくださいな?」
意味深な言葉と共にそのままニコリと微笑んでみせると、気が変わったと言わんばかりに彼は上げていた手を下げた。
「さあさ、いつまでそうしているのかしら?早く座りなさいな」
「お…おう」
「…チッ…」
ジュウザのおかげ?で一旦は場が収まり、十分の休憩を行おうとグレアが言いかけた時。その場にいる全員が持つ魔物感知用の眼が光った。

「こんな時に襲撃だと?!」
「まさか…だけど一体何処からかしら?」
「ど…どうしましょうレト先輩っ」
タイミングが悪いと苦々しい表情をするセドや、極めて冷静に辺りを見回すジュウザ、動揺して慌てるクロア。と反応は様々で、不穏に思った皆が警戒していると、突然。地震の様な激しい揺れが起こり、まともに立っている事も困難に思われた時。会議室の天井が轟音と共にひび割れて砕け散り、様々な大きさの屋根だった破片が落下して地面にぶつかる度に轟音と粉塵を起こして破壊されていく。
 それぞれが机下に緊急避難する中。車椅子だった故に自由に動けないアーネストめがけて今まで以上に大きな天井の瓦礫が落下した。
『!お逃げくださいっ!!アーネスト様っ!』
一刻も早くこの場から避難して欲しいとグレアが力の限り叫ぶが、それは落下する瓦礫の音に掻き消されて彼には届かなかったが、頭上に当たる。その寸前で落下してきた瓦礫はジークの居合術によって一気に剣で斬り壊され、残った破片部分はシルドラの雷撃魔法によって完全に破壊された。
「うーん…利き手じゃなくても案外斬れるもんだな」
「今は悠長に言ってる場合じゃないわ。 グレアとジークはアーネスト様を安全な場所へお連れして」
『は、はい!』
「了解。護衛は任せろ!あ、後合流には時間掛かるだろうからそれまで任せた!」

シルドラに指示され、なんとかアーネストへ合流したグレアは車椅子を押してジークに護衛されつつ会議室を脱出した。
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