― An EvilPurify Ⅱ― 姫が為。捧げし互いの正義

 片方は部隊を壊滅させられ身代わりとして隊長を無残に殺された憎き相手として

 もう片方は魔物から救ってから自分と一緒に過ごしてくれていた良き相手として

「お前っ…あの時の…?!」
「…コト…ミコト…さん…?」
動揺する二人を静かに見下ろしニッコリと微笑むと、空いた手を軽く下げてソヴァージュを一旦退かせた。
『ふっくくく。こんばんわ…ご無沙汰しておりますクロア嬢。それに派遣部隊長だったレト先輩 どうでしょうか?貴方の母に潰された目も…貴方に折られた角も野外部隊の少年に斬られた傷も綺麗に治っているでしょう?今日は貴方の為…お届け物がありましてねぇ…まずは、そこにいる黒薔薇様へコレはお返ししましょう。丁度さっき拾いましたので』
軽くそう言い放つと、小脇に抱えていた人物を彼は躊躇いなく放り投げた。 最初は誰か解らず眺めていただけだったが、月明かりに照らされる銀朱色の髪に気が付き、痛む足や怪我も全て考える余裕も無いままに走り出し、地面に当たる寸前の所で受け止めることに成功した。 が、ようやく発見できた彼は右胸部分を大きく貫かれていて、Rose制服も真っ赤に染まって冷たくなっていた。だがそれでもヒガンは何度も呼びかけた。コレは嘘だ。嘘に違いないと 先程まであんなに楽しそうにじゃれていたルクトがこんな姿になるとは信じられなかったから。
 何度も何度も声を詰まらせながら呼びかけるヒガンを眺めながら愉しそうに肩を揺らせて嗤った。

『すみませんねぇ黒薔薇様。その犬は、ソヴァージュが殺ってしまったようで…ですが黒薔薇様…そんな穴の開いた死人にいくら声を掛けても、無駄だとは思いませんか?』
「テメェっ…!!よくも…よくもルクトを!テメェはぜってぇに許さねぇええっ!!!」
『ふっくくく。おやおや…これは失礼。折角の再会を壊してしまったようで…?』
 嘲笑する彼の言葉に煽られる様にして手にしていた鞭を一気に地面に叩きつけ、イザヨイに向けて走ろうとしたが、その行動はコクレイによって制止された。
「放しやがれっ!!青犬!アレはオレ様が殺らねぇとルクトがっ!これ以上ルクトの事も好き勝手言われてたまるかよ!!」
「Σあ…青犬っ……!それは俺だって同感ですけど今はダメですよ!手負いで勝てる訳無いですし今はこれ以上犠牲出さないようにするのが一番っす!!」
 
 二人のやり取りを眺めながら、ああそうだ。と取って付けた様に呟くと眼鏡と軽く括っていた髪を解き、赤い小さな帽子のヘッドアクセサリーを付け、足元に置いていた杖を手にした。
『さて…本題に入りますが、こちらの…クロア嬢の好きな“ミコトさん”の姿ではなく「元:Rose“T”truthful Rainbow Rose総本部支部特殊部隊長のイザヨイ=ミコト」としてお話をさせて頂きましょうか
 ここに来たのはお二方に…特にレト先輩にコレを返しに来たんです。 わざわざ御大層な隊長さまですよねぇ…マリーの痣があるのにたかが副隊長の為だけにこちら側にまで来てトレイタも…ワタシのマリーまでを浄化するなんて …あの後。ワタシが帰宅した時は瓦礫の山でワタシは地面に横たわり貴方に浄化…いえ、刺殺されたマリーを見つけましてねぇ…彼女は無事に保護し、貴方の大事な二人も見つけましたよ?』
「リック君にカインちゃんを…?彼らは今どこにいると言うんだ!?確かあの時…彼らは自力で何とかすると言っていた筈…」
『ええ。“自力で対処”していましたよ?お互いがお互い…半分異形の姿をして…手元には同じ様に銃が握られていましたね
 嗚呼何て賢いのでしょうねぇ…このまま生きていては醜いと悟ったのでしょうね。ですからワタシは彼らの意を尊重して…城外で犇めく魔物どもの餌となって頂きました。 もし生きていたのならば…トレイタかマリーへの反魂の術用にと贄にしても良かったのですがねぇ…』

言い終わると同時に、コートの前を開け、腰に巻きつけていた赤と青のマフラーを解いて、リオンに向けてそれを投げ渡した。
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