― An EvilPurify Ⅱ― 姫が為。捧げし互いの正義

クロアとリオンの痴話げんかが行われてから約数週間後。“T”Sheolと呼ばれている側の世界では、室内にある豪華な装飾の施されている立派な柱時計がボーン・ボーンと時間を告げていた。
その音に目を覚ました部屋の主はまだ眠そうにしつつ上半身部分だけを起こし、隣の棚に置いてあった金時計に目を通す。
『午前二時…か。確かクロア嬢との待ち合わせは一時間後でしたので…準備には丁度良さそうですねぇ…』
まだ頭がハッキリしないのか、重い足取りのままドレッサー前にようやく座ると寝乱れた髪を直してから毛先をリボンでまとめ、度の入っていない眼鏡を付けて整え、手早く寝間着から用意していた服に着替えるとため息交じりのまま杖を手にして室内を後にして広間を目指した。

 広間にはいつもの様にトレイタとソヴァージュが控え、最奥にある数段上の椅子の上には俯いたままほんの少しだけ目を開いている真っ白な髪と紅い薔薇のヘッドドレス。沢山のフリルとレースがあしらわれた膝丈程の白いドレスを着た少女マリアネット=アイディンドールが座っていた。 その姿を確認すると、嬉しそうに微笑み、彼女の前で跪き挨拶を行った。
『おはようございます。マリー』
『……。』
『嗚呼マリー…ワタシの可愛いマリー…今日はまた出掛ける事になるので帰ってくるのは遅くなりますが待っていてくださいね?』
『……』

どんなに彼が話しかけても返事は無い。
それはイザヨイも承知の上で話し掛け、跪いている。
数週間前。反魂の術で蘇らせた筈のマリアネットだったが、トレイタの時とは違い蘇った彼女は話す事はおろか笑う事も歩く事も叶わず、表情は一切変わらず、まるで本物の人形の様になっていた。


トレイタの時とは違って、唯一蘇らなかった『心』


その原因はイザヨイ自身にも全く分からなかったが、生前の頃に約束していた“彼女の住みやすい世界”へ創り変え、マリアネットを浄化した張本人を抹殺すればきっと…
そう信じているからこそ彼はマリアネットの為だけに仕え、跪き、いつしか醜く歪んだ依存と執着心。そして絶対に揺らぐ事の無い崇拝。
 
 彼女から与えられるのなら痛みでも悲しみでも憎しみでも全て快楽として享受していたあの頃に戻れるなら何でもする。

だからこそ彼は手段は選ばない。全てはマリアネット只一人の為に。
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