― An EvilPurify Ⅰ― 退魔師物語

ふぅ…と一旦息を吐くと、彼が居る方へ視線を送ってわざと大声で叫んだ。
今よ!リック!!
『え?』
任せとけ!カイン!!
 全ては賭けでしかなく不確実なものだったが、読み通りだった。蛇の時だってそうだ。召喚士を守るのが召喚獣が行う事ならこのグリフォンだって例外では無いんじゃないかと…だからこそ単独で居た彼女を狙う事にした。 マリアネットの目の前に振り下ろされる剣にカインの事等目もくれずアドニスは動いた。召喚士を守る為だろう
リックの目の前にアドニスの鉤爪が当たりそうになった瞬間に響いた一発の銃声。それは彼の心を貫き、彼女の頬へと掠ったのか赤い雫を垂らした。
 何が起こったのか分からないまま手で頬を拭うとニコリと微笑んだ。自分の真後ろで嘶きながら消えていく彼の羽根を一枚取ると、そのまま興味を無くしたように見向きもしないで、傘を閉じて傘を空へと掲げた。

「良い演技だったな。案外と」
「後数秒遅かったらこれも使い物にならなかったでしょうね…何にせよ…慌てて撃ったからちょっと心配だったけど…」
「悪りぃ…身体中痛くてさ…とりあえず早く行こうぜ!今がチャンスだろうし アドニスだっけ?アイツが浄化されて消沈してるみたいだしさ」
「そうね、長居して居たら何が起こるか分からないもの」
 急いで戻ろうと背を向けた時、先程まで黙って居た彼女が何かを口ずさんだ。少し遠いので聞き取れなかったがその異様さに二人は肌が泡立つのを感じた。 また何かが召喚されると思い慌てて走った瞬間。彼らの頭上に魔法陣が描かれると、さっきの蛇がまた召喚されてしまい、その角でマリアネットの近くまで弾き飛ばされてしまった。 逃げる術を無くし、これ以上の思考が回らない状態で居ると、こちらを見下ろしながら微笑む彼女の姿があった。
『逃げちゃダメ…マリーの玩具としてなるんだから…ちゃんと印を付けてあげなきゃね?綺麗にして着飾ってあげるね? だから…』

 その気になれば振り切って逃げられるかもしれないのに彼らは地面に縫い付けられたかのように全く動けない。只そこにあるのは恐怖のみ 彼女が傘を軽く振るう事でお互いの腕が吊り上げられた時であっても何の抵抗もしなかった。どうやって逃げるのかと言う事を考えるのを諦める事にしたからだ。
もうこんなんじゃ助かる訳がない。お互いがお互い同じことを考えて居ただろう
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