降谷零(安室透・バーボン)
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夜に唄えば
「無理をしすぎじゃないか」
上から声が降ってくると同時に視界に1つの缶が置かれた。ミルク多めのカフェラテ。今はカフェインの方が好ましいのに。
「お気遣いありがとうございます。しかし本日中とのご依頼ですので」
「あと5分じゃないか」
「絶望的です」
はは、と乾いた笑いが洩れる。そっと冷たい缶に触れながら視線をモニターに移す。モニター越しに降谷さんが傍に立っているのが見えた。
「カフェラテ、ありがとうございます。降谷さんも遅くまでお疲れ様です」
辺りはすっかり真っ暗。みんな今日は帰ってしまったらしい。何だかんだいつもは誰かが残業しているものなのに。
「……ああ」
降谷さんはもの凄く忙しい人だ。休める時にぜひ休んで頂きたい。すぐデスクに戻らないということはもう退勤できるんだろう。デスクの引き出しを開けてごそごそ手を突っ込む。目当ての物を捕まえると降谷さんにその手の内を見せた。
「よかったらどうぞ。糖分補給にでも」
なんてことはない、普通のミルクチョコだ。結構甘いですがと小さな声で付け加える。それを聞いた降谷さんは小さく笑いながらありがたくいただこうと手に取ってくれた。
さて、作業に戻ろうとモニターに視線を戻す。5分なんてとっくに経ってしまった。そもそも日付が変わる数時間前に言われた仕事だ。変わるまでに終わるわけがない。とはいえ一応そう言われたからできるだけ早く終わらせてしまおうとしているだけ。
それなのに、横の気配はちっとも動かない。なんなら横の椅子に座った。
「……なぜまだここに?」
「手伝わせてくれないかと思ってね」
「いつも残業してる降谷さんは今日くらい帰ってください」
ははっと全く気にしてなさそうに笑いながら私のモニターを覗き込む。ああこの案件かなんてすぐに理解したようで早速手を出そうとしている。なんでこんなに今日は構ってくるのか。
「これくらい降谷さんのお手を煩わせるものじゃないです」
「でも2人でやった方がはやく終わるだろ?」
それはそうだ。だけど私としてはこの酷いクマを隠しきれてないこの人を一刻も早く帰したい。
「目の下、酷いですよ。早く寝てください」
「そっくりそのまま返そう」
そっと私の目元を親指で降谷さんは優しく摩る。
「……あんまり優しくしないでくださいよ降谷さん」
「僕がしたいからしてるだけなんだが」
だめです、なんて降谷さんを全く見ることなく返す。本当にこの男は。わかってやっているなら余計タチが悪い。
「僕はもう退勤してるんだ。だからいいだろ?」
手伝わせてくれなんで少し困ったような口調で言われる。
「なおさらだめじゃないですか」
ピシッとしっかり言う。こういう時は強く言わないと聞いてくれない。
「つれないな」
小さく笑って降谷さんは私の髪を弄り始めた。それから少しキーボードを叩く音だけが部屋に響く。降谷さんが小さく息を吐いた。
「恋人と久しぶりに帰りたくてね。口実を作ろうとしたんだけど……どう思う?」
「直接聞いた方がいいかと」
急に何を言い出すかと思えば。わざわざそんな回りくどいことなんてしなくていい。
「それもそうだな」
キーボードの上の私の手に大きな褐色の手が重なる。男性らしく骨張ったその手にすっぽり覆われて私の手はあっさり見えなくなった。
ふるりと視線を降谷さんへと移す。真っ直ぐにこちらを見る青い瞳は相変わらず綺麗だ。全てを見透かしていそうなその瞳に吸い込まれそう。
「ようやく少し片付いたんだ。僕と一緒に帰ってくれないか?もちろん家まで送る」
少し緊張したように言葉を紡ぐ彼を見るのは随分と久しぶりな気がする。降谷さんはいつだって確固たる信念や自信があるから。思わず笑みがこぼれ、口角は上がった。答えなんて決まってる。
「もちろん。喜んで」
きっと今の私は綺麗とは程遠い笑顔を浮かべているんだろう。連勤に疲れた顔はもう1日経ったことでメイクも剥がれている。それなのに彼の表情は柔らかく甘いものだった。
そのまま抱きついてしまいたい衝動を職場だからとなんとか落ち着かせる。
安心したような笑顔を浮かべた降谷さんはそっと私の頬に触れた。そのまま軽く口付けをあっさりしてまた口を開く。
「ありがとう。ついでに貴方の家に泊まっても?」
「あまり片付いてないけど良ければ」
平静を装うのに全力を注いでいるけど内心嬉しくて仕方がない。本当に最近降谷さんは忙しそうだったんだ。私だって負けないように、足でまといにならないように精一杯働いていたけど彼ほどではない。
だから、1晩一緒に居れるなんて、本当に久しぶりで。思わず口ずさんでしまいそうなほど。
「いつもそう言って綺麗じゃないか」
「降谷さんほどでは」
いつもすっきりしていて綺麗な降谷さんの家を思い出す。
「あれは物がないっていうんだ」
それもそうですね、なんて返しながらデスクを片づける。やっぱり降谷さんには緊急の案件でないことなんてバレていた。明日でも一応間に合う案件だ。現にすぐ片付け始めても何も言わない。それどころかいつの間にか私の鞄は降谷さんが持ってくれている。
「そうだ降谷さん」
「ん?」
横の椅子を片付けながら降谷さんはこっちに意識を向けてくれた。
「そろそろ恋人の仕事が落ち着きそうかなって残業して口実を作るような恋人、どう思います?」
今日中と渡されたのは本当だけどなんて1人ごちる。
一瞬きょとんとした表情を降谷さんが見せた。また珍しい。今日は珍しい降谷さんが見れるいい日だ、なんて内心喜んだ。
「ははっ最高じゃないか!」
差し出された手に自分のそれを重ねる。しっかり握りこんだその手をそっと握り返した。
さぁ帰ろう。今日はきっと暖かい、いい夢が見れるから。
「無理をしすぎじゃないか」
上から声が降ってくると同時に視界に1つの缶が置かれた。ミルク多めのカフェラテ。今はカフェインの方が好ましいのに。
「お気遣いありがとうございます。しかし本日中とのご依頼ですので」
「あと5分じゃないか」
「絶望的です」
はは、と乾いた笑いが洩れる。そっと冷たい缶に触れながら視線をモニターに移す。モニター越しに降谷さんが傍に立っているのが見えた。
「カフェラテ、ありがとうございます。降谷さんも遅くまでお疲れ様です」
辺りはすっかり真っ暗。みんな今日は帰ってしまったらしい。何だかんだいつもは誰かが残業しているものなのに。
「……ああ」
降谷さんはもの凄く忙しい人だ。休める時にぜひ休んで頂きたい。すぐデスクに戻らないということはもう退勤できるんだろう。デスクの引き出しを開けてごそごそ手を突っ込む。目当ての物を捕まえると降谷さんにその手の内を見せた。
「よかったらどうぞ。糖分補給にでも」
なんてことはない、普通のミルクチョコだ。結構甘いですがと小さな声で付け加える。それを聞いた降谷さんは小さく笑いながらありがたくいただこうと手に取ってくれた。
さて、作業に戻ろうとモニターに視線を戻す。5分なんてとっくに経ってしまった。そもそも日付が変わる数時間前に言われた仕事だ。変わるまでに終わるわけがない。とはいえ一応そう言われたからできるだけ早く終わらせてしまおうとしているだけ。
それなのに、横の気配はちっとも動かない。なんなら横の椅子に座った。
「……なぜまだここに?」
「手伝わせてくれないかと思ってね」
「いつも残業してる降谷さんは今日くらい帰ってください」
ははっと全く気にしてなさそうに笑いながら私のモニターを覗き込む。ああこの案件かなんてすぐに理解したようで早速手を出そうとしている。なんでこんなに今日は構ってくるのか。
「これくらい降谷さんのお手を煩わせるものじゃないです」
「でも2人でやった方がはやく終わるだろ?」
それはそうだ。だけど私としてはこの酷いクマを隠しきれてないこの人を一刻も早く帰したい。
「目の下、酷いですよ。早く寝てください」
「そっくりそのまま返そう」
そっと私の目元を親指で降谷さんは優しく摩る。
「……あんまり優しくしないでくださいよ降谷さん」
「僕がしたいからしてるだけなんだが」
だめです、なんて降谷さんを全く見ることなく返す。本当にこの男は。わかってやっているなら余計タチが悪い。
「僕はもう退勤してるんだ。だからいいだろ?」
手伝わせてくれなんで少し困ったような口調で言われる。
「なおさらだめじゃないですか」
ピシッとしっかり言う。こういう時は強く言わないと聞いてくれない。
「つれないな」
小さく笑って降谷さんは私の髪を弄り始めた。それから少しキーボードを叩く音だけが部屋に響く。降谷さんが小さく息を吐いた。
「恋人と久しぶりに帰りたくてね。口実を作ろうとしたんだけど……どう思う?」
「直接聞いた方がいいかと」
急に何を言い出すかと思えば。わざわざそんな回りくどいことなんてしなくていい。
「それもそうだな」
キーボードの上の私の手に大きな褐色の手が重なる。男性らしく骨張ったその手にすっぽり覆われて私の手はあっさり見えなくなった。
ふるりと視線を降谷さんへと移す。真っ直ぐにこちらを見る青い瞳は相変わらず綺麗だ。全てを見透かしていそうなその瞳に吸い込まれそう。
「ようやく少し片付いたんだ。僕と一緒に帰ってくれないか?もちろん家まで送る」
少し緊張したように言葉を紡ぐ彼を見るのは随分と久しぶりな気がする。降谷さんはいつだって確固たる信念や自信があるから。思わず笑みがこぼれ、口角は上がった。答えなんて決まってる。
「もちろん。喜んで」
きっと今の私は綺麗とは程遠い笑顔を浮かべているんだろう。連勤に疲れた顔はもう1日経ったことでメイクも剥がれている。それなのに彼の表情は柔らかく甘いものだった。
そのまま抱きついてしまいたい衝動を職場だからとなんとか落ち着かせる。
安心したような笑顔を浮かべた降谷さんはそっと私の頬に触れた。そのまま軽く口付けをあっさりしてまた口を開く。
「ありがとう。ついでに貴方の家に泊まっても?」
「あまり片付いてないけど良ければ」
平静を装うのに全力を注いでいるけど内心嬉しくて仕方がない。本当に最近降谷さんは忙しそうだったんだ。私だって負けないように、足でまといにならないように精一杯働いていたけど彼ほどではない。
だから、1晩一緒に居れるなんて、本当に久しぶりで。思わず口ずさんでしまいそうなほど。
「いつもそう言って綺麗じゃないか」
「降谷さんほどでは」
いつもすっきりしていて綺麗な降谷さんの家を思い出す。
「あれは物がないっていうんだ」
それもそうですね、なんて返しながらデスクを片づける。やっぱり降谷さんには緊急の案件でないことなんてバレていた。明日でも一応間に合う案件だ。現にすぐ片付け始めても何も言わない。それどころかいつの間にか私の鞄は降谷さんが持ってくれている。
「そうだ降谷さん」
「ん?」
横の椅子を片付けながら降谷さんはこっちに意識を向けてくれた。
「そろそろ恋人の仕事が落ち着きそうかなって残業して口実を作るような恋人、どう思います?」
今日中と渡されたのは本当だけどなんて1人ごちる。
一瞬きょとんとした表情を降谷さんが見せた。また珍しい。今日は珍しい降谷さんが見れるいい日だ、なんて内心喜んだ。
「ははっ最高じゃないか!」
差し出された手に自分のそれを重ねる。しっかり握りこんだその手をそっと握り返した。
さぁ帰ろう。今日はきっと暖かい、いい夢が見れるから。