赤井秀一(沖矢昴)
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「俺と結婚してくれないか」
この言葉から逃れる術を私は持たない。
期間としては長い間付き合っている恋人がいる。しかし、彼と会えないなんて常で、連絡があるだけ良い方だ。一時期は音信不通になってこれが自然消滅かなんて思っていたくらい。何をしていたのかなんて知らない。何も教えてくれない。何度か、この関係を止めてしまおうと思ったことがある。だけど彼のことを愛しているからできない。それなのに彼との秀一さんとの、未来が描けない。
「おまたせー!」
声が聞こえて顔を上げると職場の友人が手を振ってくれていた。今日はちょっとランチを食べに4人で集まった。休日だけど彼からの連絡はない。
「そういえばさ」
おしゃれなカフェで注文を済ませて他愛もない話をしていた。仕事が面倒だとか、残業ばっかりで嫌だとか、いつもと変わらない話。そんな中1人が私の目を見て口にした。
「そろそろ結婚しないの?」
「私も思ってた!赤井さんだっけ?イケメンだしいい人そうなスペック高い彼氏!」
「うん赤井さんだよ。だけど結婚……ねぇ……」
確かに私の彼氏、赤井秀一は人が羨むような彼氏だ。背は高いし彫りの深い顔に翠の瞳。誰が見てもイケメンだとか、色気がヤバいとか言われてきた。私もそう思うし、なんなら私の方が絶対思っている。だけど釣り合ってないなんて思う隙がないほど愛されているから付き合ってこれた。――音信不通にはなるけれど。だけど、確かに愛されているんだ。
「結婚願望彼はあるんでしょ?」
「そうだねぇまぁ」
「相変わらずだなぁ……もったいない」
もったいないから結婚をするの?そんなこと言えないけどモヤモヤしてしまう。別に結婚がしたいから彼と付き合ってるんじゃない。彼のことを愛しているからなのに。そういう小さな反発心もあって元から結婚願望のない私は決めかねてしまっていた。
あのあとのランチは特に気まずくなることもなく終わった。どこの新作が可愛いだとか、コスメがほしいとかそういうよくある話。無事終わったことに安堵を覚えた。
「ただいまー」
誰もいない家に向かって言うのももう随分と慣れた。玄関の電気をつけて靴を脱ぐ。リビングのドアを開けて電気をつけようと手を伸ばした。
「おかえり Sweetie pie」
「え!?」
パチンとそのまま電気のついたリビングのソファには秀一さんが長い足をくんで座っていた。予想しない人物に思わず声を上げてしまう。彼に合鍵は渡しているし、部屋にいること自体はおかしいことではない。ただいつもなら連絡はあるし電気だってつけてる。
「どうしたの?急に」
「迷惑だったか?」
「そんなことないけど……珍しくて」
秀一さんに会えて嬉しい。けど珍しいからこそ少し心配にもなる。鞄なんかを簡単に片付けながら横目に秀一さんを見た。いつも私を見てくれる翠の瞳はローテーブルを見たままこちらを見ない。
「今日、茜を外で見かけた」
「えっ!そうなの?」
思わず片付けの手が止まる。声、かけてくれてよかったのに。そこでようやく彼と視線が交わった。いつもはキリリとしている眉と目尻が今は下がってしまっている。捨てられた子犬が見えるようだ。まさかこんな例えが彼を見て思いつくとは思わなかった。片付けよりもこっちが大事。急いで秀一さんの傍に駆け寄る。
「結婚したくないのか」
「え……」
聞かれていた。私が曖昧に答えていたところ。だから声をかけられなかったのか。逸らされた翠の瞳が伏せられた。
彼とこういう話をちゃんとしたことがない。滅多に会えない中、こんな楽しくない話より楽しいこと、嬉しいことばかりを話していたから。それで良かった。私は。だって特にそういう願望がなかったから。彼から充分過ぎる愛を言葉と行動を会う度に貰っていた。だけど時折結婚を示唆するようなことも彼は言っていて。私は曖昧に流してばかりだった。それを、今日、しっかりと聞かれた。
「俺のことはもう好きじゃなくなったか?酷い男だと自覚はしている」
見たことがない表情が向けられた。諦めたいけど諦めきれない。瞳から迷いが見える。何事も真っ直ぐ冷静に判断する彼からそんな顔を向けられた。そんな表情をさせているのは私。こんな顔をさせたいわけじゃない。なのに昼間の「もったいない」なんて言葉がモヤモヤさせる。私が結婚で縛るのは「もったいない」じゃない?
「だが――離したくない」
瞳の奥に炎が見えた。意思の強い炎。私の迷いなんて燃やし尽くすくらいいとも簡単。そんな炎が見えた気がする。
「俺の一生をやる。だから茜の一生を俺にくれないか。愛しているんだ」
そんな目で見られて、一生をくれるなんて。嬉しくないわけがない。でも素直に頷けるような可愛い子でもなくて。返事が出来ずに俯いてしまう。涙が溢れそうだ。開いた口からは言葉にならない音が漏れる。
「本当にもう好きじゃなくなったか?」
不安そうな声音が聞こえる。座ったままの秀一さんに顔を覗き込まれた。目元に溜まった涙が視界を歪ませる。
「そんなことない!あるはずないよ……ありえない」
「そうか。それが聞けてよかったよ Sweetheart」
立ち上がった秀一さんの腕が伸びてきた。そのまま抱き上げられて私の視線は彼よりも上になる。慌てて首に抱きつくと彼の柔らかい微笑みが見えた。私を抱き上げていない方の手が頬に触れた。目元の涙を拭われて視界が鮮明になる。
「俺と、結婚してくれないか」
この言葉から逃れる術を私は持たない。だって私も彼を愛しているから。
この言葉から逃れる術を私は持たない。
期間としては長い間付き合っている恋人がいる。しかし、彼と会えないなんて常で、連絡があるだけ良い方だ。一時期は音信不通になってこれが自然消滅かなんて思っていたくらい。何をしていたのかなんて知らない。何も教えてくれない。何度か、この関係を止めてしまおうと思ったことがある。だけど彼のことを愛しているからできない。それなのに彼との秀一さんとの、未来が描けない。
「おまたせー!」
声が聞こえて顔を上げると職場の友人が手を振ってくれていた。今日はちょっとランチを食べに4人で集まった。休日だけど彼からの連絡はない。
「そういえばさ」
おしゃれなカフェで注文を済ませて他愛もない話をしていた。仕事が面倒だとか、残業ばっかりで嫌だとか、いつもと変わらない話。そんな中1人が私の目を見て口にした。
「そろそろ結婚しないの?」
「私も思ってた!赤井さんだっけ?イケメンだしいい人そうなスペック高い彼氏!」
「うん赤井さんだよ。だけど結婚……ねぇ……」
確かに私の彼氏、赤井秀一は人が羨むような彼氏だ。背は高いし彫りの深い顔に翠の瞳。誰が見てもイケメンだとか、色気がヤバいとか言われてきた。私もそう思うし、なんなら私の方が絶対思っている。だけど釣り合ってないなんて思う隙がないほど愛されているから付き合ってこれた。――音信不通にはなるけれど。だけど、確かに愛されているんだ。
「結婚願望彼はあるんでしょ?」
「そうだねぇまぁ」
「相変わらずだなぁ……もったいない」
もったいないから結婚をするの?そんなこと言えないけどモヤモヤしてしまう。別に結婚がしたいから彼と付き合ってるんじゃない。彼のことを愛しているからなのに。そういう小さな反発心もあって元から結婚願望のない私は決めかねてしまっていた。
あのあとのランチは特に気まずくなることもなく終わった。どこの新作が可愛いだとか、コスメがほしいとかそういうよくある話。無事終わったことに安堵を覚えた。
「ただいまー」
誰もいない家に向かって言うのももう随分と慣れた。玄関の電気をつけて靴を脱ぐ。リビングのドアを開けて電気をつけようと手を伸ばした。
「おかえり Sweetie pie」
「え!?」
パチンとそのまま電気のついたリビングのソファには秀一さんが長い足をくんで座っていた。予想しない人物に思わず声を上げてしまう。彼に合鍵は渡しているし、部屋にいること自体はおかしいことではない。ただいつもなら連絡はあるし電気だってつけてる。
「どうしたの?急に」
「迷惑だったか?」
「そんなことないけど……珍しくて」
秀一さんに会えて嬉しい。けど珍しいからこそ少し心配にもなる。鞄なんかを簡単に片付けながら横目に秀一さんを見た。いつも私を見てくれる翠の瞳はローテーブルを見たままこちらを見ない。
「今日、茜を外で見かけた」
「えっ!そうなの?」
思わず片付けの手が止まる。声、かけてくれてよかったのに。そこでようやく彼と視線が交わった。いつもはキリリとしている眉と目尻が今は下がってしまっている。捨てられた子犬が見えるようだ。まさかこんな例えが彼を見て思いつくとは思わなかった。片付けよりもこっちが大事。急いで秀一さんの傍に駆け寄る。
「結婚したくないのか」
「え……」
聞かれていた。私が曖昧に答えていたところ。だから声をかけられなかったのか。逸らされた翠の瞳が伏せられた。
彼とこういう話をちゃんとしたことがない。滅多に会えない中、こんな楽しくない話より楽しいこと、嬉しいことばかりを話していたから。それで良かった。私は。だって特にそういう願望がなかったから。彼から充分過ぎる愛を言葉と行動を会う度に貰っていた。だけど時折結婚を示唆するようなことも彼は言っていて。私は曖昧に流してばかりだった。それを、今日、しっかりと聞かれた。
「俺のことはもう好きじゃなくなったか?酷い男だと自覚はしている」
見たことがない表情が向けられた。諦めたいけど諦めきれない。瞳から迷いが見える。何事も真っ直ぐ冷静に判断する彼からそんな顔を向けられた。そんな表情をさせているのは私。こんな顔をさせたいわけじゃない。なのに昼間の「もったいない」なんて言葉がモヤモヤさせる。私が結婚で縛るのは「もったいない」じゃない?
「だが――離したくない」
瞳の奥に炎が見えた。意思の強い炎。私の迷いなんて燃やし尽くすくらいいとも簡単。そんな炎が見えた気がする。
「俺の一生をやる。だから茜の一生を俺にくれないか。愛しているんだ」
そんな目で見られて、一生をくれるなんて。嬉しくないわけがない。でも素直に頷けるような可愛い子でもなくて。返事が出来ずに俯いてしまう。涙が溢れそうだ。開いた口からは言葉にならない音が漏れる。
「本当にもう好きじゃなくなったか?」
不安そうな声音が聞こえる。座ったままの秀一さんに顔を覗き込まれた。目元に溜まった涙が視界を歪ませる。
「そんなことない!あるはずないよ……ありえない」
「そうか。それが聞けてよかったよ Sweetheart」
立ち上がった秀一さんの腕が伸びてきた。そのまま抱き上げられて私の視線は彼よりも上になる。慌てて首に抱きつくと彼の柔らかい微笑みが見えた。私を抱き上げていない方の手が頬に触れた。目元の涙を拭われて視界が鮮明になる。
「俺と、結婚してくれないか」
この言葉から逃れる術を私は持たない。だって私も彼を愛しているから。
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