花剣に捧ぐ
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貴重な何も用事のない日だった。
エドとアルは幼馴染みのウィンリィへ渡すお土産を捜すために外出中。私はいつも通りその外出には付き合わない。私からウィンリィに渡すものはもうあるから。――ウィンリィもエド達が選んだお土産の方が嬉しいだろうしね。ちらと視線を向けた窓の先は青空が広がっている。あのアホ兄弟がまたトラブルに巻き込まれてないといい。
同じ態勢のままで凝ってしまった首を回す。ゴキゴキとおよそ人体から聞こえてはいけないような音が静かなホテルの部屋に響いた。いったい何時間こうやって机に向かっているのかもう分からない。手元にあるのは毎年必要となる国家錬金術師の査定用の資料。そして机の上には壁のようにそそり立つ本の山。あいにくホテルに備え付けられている広々とした机でもこの本の前では無力なようで床にまで本は広がっている。査定用といえども好きで行っている自分の研究の一部を抜粋するだけ。しかしこれが正直面倒くさい。近くにある本をペラペラとめくっては手元の羊皮紙に書き込んでいく。
ドサッ。
後ろで何やら音がした。ベッドしかなかったはずだけど。まぁいっか。それよりもさっさとこの資料を仕上げたい。どうせこの後エドの手伝いもする羽目になる。
「あの……」
「悪い。後にして?もう少しで手が空くからその時ね。好き動いてもらってて構わない。が、ここから出たら撃つ」
「うっ!?」
さて、終わらせてしまおう。
「…………いっ!アホ姉貴!」
不穏な気配を感じて頭を下げると頭上を何かが通過する。後ろを覗き見ると鈍器かと思えるくらい分厚い本を持った金髪に赤いパーカーの少年、エドが目尻を吊り上げて立っていた。当たっていたらタダでは済まないと思うんだけどその本。エドの横には鎧姿の弟、アルもいる。兜で顔は見えないがなんだか困ったように笑っている気がする。ここまではいい。しかしもう一人、この部屋にいた。ベージュのような金髪、淡い青色の瞳に褐色肌の青年。
「……誰?その人」
「俺が!聞きてーんだよ!」
「兄さん落ち着いてよ……」
どんなに記憶を探ってもこの褐色肌の青年のことは全く引っかからない。――単に興味がなくて忘れているだけの可能性もあるけど。
ふと、その青年が手にしている本が目に入る。それは私の机にあったであろう物。床だったかもしれないが、この際そんなことはどうでもいい。
「いい本選んだね」
「え?」
「そこじゃねー!男部屋に入れて放置はありえないだろ!」
ギャンギャン怒っているエドに少し申し訳ない気持ちもする。私を心配してくれているのが分かるから。だから少し嬉しさもあってどんな表情をしていいのか分からない。エドには私が特段気にしてないように見えてるのだろうけど。
「はいはい心配ありがとね」
「ごめん兄さんたちいつもあんな感じなんだ……。でももし君が姉さんに何かするつもりで来たっていうなら、容赦しないよ」
いつの間にかアルが青年に話しかけていた。鎧姿の大男にそう凄まれるのは相当の恐怖があるだろう。しかし、その青年はきゅっと口を結んだまま本を持っている。その瞳には何か強い意志を感じた。へぇ……なんて何目線か分からないけど感心してしまう。
「アル、大丈夫。それでさエド」
「んだよ」
「帰って来た時に鍵、閉まってた?」
「そりゃまぁ……」
うん、やっぱりね。ここの鍵を持っているのは私のを渡したエドとホテルの受付くらいだろう。つまり彼が鍵を隠したとしても受付に確認するだけで分かる訳だ。錬成するにしても実物を見ずに作ることは出来ないと思う。型がなければ作れたとて開かない。
思い返してみれば何やら物が落ちる音がを聞いた。それから話しかけられたことも。不法侵入して宿主に話しかける馬鹿はそういないだろう。不法侵入ではないならどうやってこの部屋に入ったのか。原理は全く分からないが青年から警戒の色はあれど敵意は感じない。撃つなんて言ったのにも関わらず大人しく部屋に残っているし。撃つと言ったからかもしれないけど。
椅子から立ち上がって椅子の向きを変える。そのまま軽く笑いながら青年に話しかけた。
「私の名前はエラ・レオンハルト。そこの金髪がエドワード・エルリックで鎧が弟のアルフォンス。君は?」
急に名乗り出した私に驚いたかのように全員目を見開いて私の顔を見てきた。アルに目はないけどあったらきっとエドと同じ顔をしてるんだろう。
「何呑気に名乗ってんだよ!」
「彼のことを聞きたくても私のことを知らないんだったら話しにくいでしょ?」
ね?と首を傾げるとエドは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。理解はしたけれど納得したわけじゃないらしい。
「僕は――降谷零です。気づいたらここにいました」
話を聞いてみると彼は、レイは自分の部屋に居たはずが、瞬きをした瞬間この部屋に落ちたらしい。不思議なこともあるもんだ。ちなみにフルヤがファミリーネームらしい。それで部屋にいた私に話しかけたらしいがまぁ脅されたから大人しくしていたと。随分冷静だなと口にすると頭を整理する時間だけは貰えたからと言っていた。それについては……申し訳ない。エドにも睨まれた。特大ため息つきで。いやだって資料が……とかいっても聞いて貰えないのは分かっているので聞こえなかったことにする。
「じゃレイの家はどこ?送るよ。車借りてくるから」
「えっいやそれは……。難しいかと……」
「難しい?どういう意味?」
これまで逸らされなかった青年の瞳が瞼で隠れる。一瞬口をつぐんで、覚悟を決めたように口を開いた。
「信じられないかもしれないですが……というか僕もありえないとは思ってますけど……ここ、少なくとも僕がいた国と違います」
「へぇ、どうしてそう思ったの?」
レイの話はまるで空想だった。ここではない東の島国、日本という国の首都である東都に住んでいたらしい。持ち物を見せてもらったが変な板があった。そんなものはこちらにないと言うとそれはスマートフォンという電話。科学がとても進んでいる国のようだ。そもそも、話し言葉は日本語で通じているのに書いている言語は英語とそこで違和感を覚えたとレイは言っていた。彼の言う日本語は彼の住む国以外で使われない。英語は世界的に使うが日本語はそうもいかないらしい。この話している言葉をレイが少し書いてくれたが全く分からなかった。東の国、シンでこんな字が使われていたかも知れないが生憎私たちは理解できない。そしてここはアメストリス。南部のサウスシティだと伝えても聞いたことがないと言われた。東ならとシンの名前を出すも過去にあった国と同じ名前だと。アメストリスはほとんどの国境で戦争してるような軍事国家だ。知らないとは正直思えない。どうも噛み合っていない。まるで――。
「世界ごとちがう……?」
「やっぱり姉さんもそう思うよね。でも……そんなことってできるの?」
「これだけ話をレイが作って話すメリットもない。実際そのスマートフォンとやらは見たこともない技術だし。東の方は詳しいこと知らないから実はニホンがあるかもしれないが」
「何払って来てんだよ。誰かと入れ替わったとかか?」
原理が分からない。対価も分からない。レイに聞いてみても錬成光のようなものは見てないらしい。錬成光がよく分からないとも言われたけど。そもそも瞬きしたら落ちたとの事だし錬金術ではそんなすぐ移動できないだろう。じゃあどうやって?私が机から書き損じた紙を引っ張り出すとエドとアルが今分かっている情報を書き始めた。こういう場合、例えば――不法入国者として軍に連れていく、なんていうのが正しい行動なのだろう。それか病院かもしれない。頭がおかしいとして。しかし、ここにいるのは錬金術師3人。ある意味、頭のおかしい人間しかいない。
「僕が言うのもなんですけど……」
「ん?なんだ?」
「信じたんですか?こんな、世界が違うかもしれないなんて、ありえない話」
レイは本気で分からないといった表情をしていた。この中で誰よりも戸惑っているように見える。自分で冷静に分析はしたと言えど、私たちが信じるとは思っていなかったのだろう。
「ありえない、なんて事はありえない。不本意ながら最近ある男に学んだんだよ」
「なぁエラ、もしかして……」
「エド、彼は違うと思うよ。確かにアイツらならこんなむちゃくちゃな錬成が出来るかもしれないけどね。レイはあくまで巻き込まれただけだよ」
「まぁそうだよな……」
エドが言いたいこともわかる。だけどまず|人造人間に対峙した時のようなゾワゾワ感はレイにない。これは2人に理解して貰えないけれど。もし普通の人間だけど彼ら側だと言うのなら私のミス。護衛として必ずこの兄弟を守る事にする。
「よし、ひとまずご飯でも食べない?レイも悪かった。急に撃つとか脅して。お詫びにご馳走させて」
「いや僕は」
「エド、アル。荷物は部屋に置いておいで。外で食べるよ」
申し訳なさそうにしているレイはこの際放っておく。エドとアルを部屋に帰して窓の外を見る。随分暗くなってしまったけれど、まだ開いているところもあるだろう。レイに視線を戻すとしっかり目があった。ここに来る前は部屋にいたと言っていた通り、随分と薄着だ。それに靴も履いていない。エドたちが戻ってくるまでに用意しなくちゃ。
クローゼットに投げ入れていた革のブーツを取り出す。それから自分のブーツも。レイに足のサイズを聞いて右手をブーツにかざす。親指の指輪から眩しい錬成光が散る。履いてみてとローファーのようになったブーツを手渡した。それから靴下と上着になりそうなものを探し出す。暖かい南部とはいえ夜には寒くなる。私の物で悪いけどないよりいいはず。靴と同じように錬成して渡そうと後ろを向くと、靴を受け取った時のまま固まっているレイがいた。大きな瞳が心なしかきらきら輝いて見える。
「……すごい」
「へ?」
「これが錬金術ですか?」
「ん?そうだけど……」
それから私の手にあった上着と靴下を手に取ってすごいすごいと見始めた。本当に錬金術を見たことがないんだなと思うと同時になんだか照れてしまう。こんなこと今まで言われたことがない。それからなんだか楽しそうに着始めたレイを見てどうすればいいか分からず自分の準備を始めた。
「エラさん」
「どうした?合わなかった?」
「いえピッタリです。ありがとうございます」
満面の笑みでそういうレイから思わず視線を逸らしてよかったよなんて素っ気ない返事になってしまう。それから聞こえたドアを開ける音にものすごく感謝した。
「あれ?姉さん耳赤くない?」
「うっさい早く行くよ」
エドとアルは幼馴染みのウィンリィへ渡すお土産を捜すために外出中。私はいつも通りその外出には付き合わない。私からウィンリィに渡すものはもうあるから。――ウィンリィもエド達が選んだお土産の方が嬉しいだろうしね。ちらと視線を向けた窓の先は青空が広がっている。あのアホ兄弟がまたトラブルに巻き込まれてないといい。
同じ態勢のままで凝ってしまった首を回す。ゴキゴキとおよそ人体から聞こえてはいけないような音が静かなホテルの部屋に響いた。いったい何時間こうやって机に向かっているのかもう分からない。手元にあるのは毎年必要となる国家錬金術師の査定用の資料。そして机の上には壁のようにそそり立つ本の山。あいにくホテルに備え付けられている広々とした机でもこの本の前では無力なようで床にまで本は広がっている。査定用といえども好きで行っている自分の研究の一部を抜粋するだけ。しかしこれが正直面倒くさい。近くにある本をペラペラとめくっては手元の羊皮紙に書き込んでいく。
ドサッ。
後ろで何やら音がした。ベッドしかなかったはずだけど。まぁいっか。それよりもさっさとこの資料を仕上げたい。どうせこの後エドの手伝いもする羽目になる。
「あの……」
「悪い。後にして?もう少しで手が空くからその時ね。好き動いてもらってて構わない。が、ここから出たら撃つ」
「うっ!?」
さて、終わらせてしまおう。
「…………いっ!アホ姉貴!」
不穏な気配を感じて頭を下げると頭上を何かが通過する。後ろを覗き見ると鈍器かと思えるくらい分厚い本を持った金髪に赤いパーカーの少年、エドが目尻を吊り上げて立っていた。当たっていたらタダでは済まないと思うんだけどその本。エドの横には鎧姿の弟、アルもいる。兜で顔は見えないがなんだか困ったように笑っている気がする。ここまではいい。しかしもう一人、この部屋にいた。ベージュのような金髪、淡い青色の瞳に褐色肌の青年。
「……誰?その人」
「俺が!聞きてーんだよ!」
「兄さん落ち着いてよ……」
どんなに記憶を探ってもこの褐色肌の青年のことは全く引っかからない。――単に興味がなくて忘れているだけの可能性もあるけど。
ふと、その青年が手にしている本が目に入る。それは私の机にあったであろう物。床だったかもしれないが、この際そんなことはどうでもいい。
「いい本選んだね」
「え?」
「そこじゃねー!男部屋に入れて放置はありえないだろ!」
ギャンギャン怒っているエドに少し申し訳ない気持ちもする。私を心配してくれているのが分かるから。だから少し嬉しさもあってどんな表情をしていいのか分からない。エドには私が特段気にしてないように見えてるのだろうけど。
「はいはい心配ありがとね」
「ごめん兄さんたちいつもあんな感じなんだ……。でももし君が姉さんに何かするつもりで来たっていうなら、容赦しないよ」
いつの間にかアルが青年に話しかけていた。鎧姿の大男にそう凄まれるのは相当の恐怖があるだろう。しかし、その青年はきゅっと口を結んだまま本を持っている。その瞳には何か強い意志を感じた。へぇ……なんて何目線か分からないけど感心してしまう。
「アル、大丈夫。それでさエド」
「んだよ」
「帰って来た時に鍵、閉まってた?」
「そりゃまぁ……」
うん、やっぱりね。ここの鍵を持っているのは私のを渡したエドとホテルの受付くらいだろう。つまり彼が鍵を隠したとしても受付に確認するだけで分かる訳だ。錬成するにしても実物を見ずに作ることは出来ないと思う。型がなければ作れたとて開かない。
思い返してみれば何やら物が落ちる音がを聞いた。それから話しかけられたことも。不法侵入して宿主に話しかける馬鹿はそういないだろう。不法侵入ではないならどうやってこの部屋に入ったのか。原理は全く分からないが青年から警戒の色はあれど敵意は感じない。撃つなんて言ったのにも関わらず大人しく部屋に残っているし。撃つと言ったからかもしれないけど。
椅子から立ち上がって椅子の向きを変える。そのまま軽く笑いながら青年に話しかけた。
「私の名前はエラ・レオンハルト。そこの金髪がエドワード・エルリックで鎧が弟のアルフォンス。君は?」
急に名乗り出した私に驚いたかのように全員目を見開いて私の顔を見てきた。アルに目はないけどあったらきっとエドと同じ顔をしてるんだろう。
「何呑気に名乗ってんだよ!」
「彼のことを聞きたくても私のことを知らないんだったら話しにくいでしょ?」
ね?と首を傾げるとエドは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。理解はしたけれど納得したわけじゃないらしい。
「僕は――降谷零です。気づいたらここにいました」
話を聞いてみると彼は、レイは自分の部屋に居たはずが、瞬きをした瞬間この部屋に落ちたらしい。不思議なこともあるもんだ。ちなみにフルヤがファミリーネームらしい。それで部屋にいた私に話しかけたらしいがまぁ脅されたから大人しくしていたと。随分冷静だなと口にすると頭を整理する時間だけは貰えたからと言っていた。それについては……申し訳ない。エドにも睨まれた。特大ため息つきで。いやだって資料が……とかいっても聞いて貰えないのは分かっているので聞こえなかったことにする。
「じゃレイの家はどこ?送るよ。車借りてくるから」
「えっいやそれは……。難しいかと……」
「難しい?どういう意味?」
これまで逸らされなかった青年の瞳が瞼で隠れる。一瞬口をつぐんで、覚悟を決めたように口を開いた。
「信じられないかもしれないですが……というか僕もありえないとは思ってますけど……ここ、少なくとも僕がいた国と違います」
「へぇ、どうしてそう思ったの?」
レイの話はまるで空想だった。ここではない東の島国、日本という国の首都である東都に住んでいたらしい。持ち物を見せてもらったが変な板があった。そんなものはこちらにないと言うとそれはスマートフォンという電話。科学がとても進んでいる国のようだ。そもそも、話し言葉は日本語で通じているのに書いている言語は英語とそこで違和感を覚えたとレイは言っていた。彼の言う日本語は彼の住む国以外で使われない。英語は世界的に使うが日本語はそうもいかないらしい。この話している言葉をレイが少し書いてくれたが全く分からなかった。東の国、シンでこんな字が使われていたかも知れないが生憎私たちは理解できない。そしてここはアメストリス。南部のサウスシティだと伝えても聞いたことがないと言われた。東ならとシンの名前を出すも過去にあった国と同じ名前だと。アメストリスはほとんどの国境で戦争してるような軍事国家だ。知らないとは正直思えない。どうも噛み合っていない。まるで――。
「世界ごとちがう……?」
「やっぱり姉さんもそう思うよね。でも……そんなことってできるの?」
「これだけ話をレイが作って話すメリットもない。実際そのスマートフォンとやらは見たこともない技術だし。東の方は詳しいこと知らないから実はニホンがあるかもしれないが」
「何払って来てんだよ。誰かと入れ替わったとかか?」
原理が分からない。対価も分からない。レイに聞いてみても錬成光のようなものは見てないらしい。錬成光がよく分からないとも言われたけど。そもそも瞬きしたら落ちたとの事だし錬金術ではそんなすぐ移動できないだろう。じゃあどうやって?私が机から書き損じた紙を引っ張り出すとエドとアルが今分かっている情報を書き始めた。こういう場合、例えば――不法入国者として軍に連れていく、なんていうのが正しい行動なのだろう。それか病院かもしれない。頭がおかしいとして。しかし、ここにいるのは錬金術師3人。ある意味、頭のおかしい人間しかいない。
「僕が言うのもなんですけど……」
「ん?なんだ?」
「信じたんですか?こんな、世界が違うかもしれないなんて、ありえない話」
レイは本気で分からないといった表情をしていた。この中で誰よりも戸惑っているように見える。自分で冷静に分析はしたと言えど、私たちが信じるとは思っていなかったのだろう。
「ありえない、なんて事はありえない。不本意ながら最近ある男に学んだんだよ」
「なぁエラ、もしかして……」
「エド、彼は違うと思うよ。確かにアイツらならこんなむちゃくちゃな錬成が出来るかもしれないけどね。レイはあくまで巻き込まれただけだよ」
「まぁそうだよな……」
エドが言いたいこともわかる。だけどまず|人造人間に対峙した時のようなゾワゾワ感はレイにない。これは2人に理解して貰えないけれど。もし普通の人間だけど彼ら側だと言うのなら私のミス。護衛として必ずこの兄弟を守る事にする。
「よし、ひとまずご飯でも食べない?レイも悪かった。急に撃つとか脅して。お詫びにご馳走させて」
「いや僕は」
「エド、アル。荷物は部屋に置いておいで。外で食べるよ」
申し訳なさそうにしているレイはこの際放っておく。エドとアルを部屋に帰して窓の外を見る。随分暗くなってしまったけれど、まだ開いているところもあるだろう。レイに視線を戻すとしっかり目があった。ここに来る前は部屋にいたと言っていた通り、随分と薄着だ。それに靴も履いていない。エドたちが戻ってくるまでに用意しなくちゃ。
クローゼットに投げ入れていた革のブーツを取り出す。それから自分のブーツも。レイに足のサイズを聞いて右手をブーツにかざす。親指の指輪から眩しい錬成光が散る。履いてみてとローファーのようになったブーツを手渡した。それから靴下と上着になりそうなものを探し出す。暖かい南部とはいえ夜には寒くなる。私の物で悪いけどないよりいいはず。靴と同じように錬成して渡そうと後ろを向くと、靴を受け取った時のまま固まっているレイがいた。大きな瞳が心なしかきらきら輝いて見える。
「……すごい」
「へ?」
「これが錬金術ですか?」
「ん?そうだけど……」
それから私の手にあった上着と靴下を手に取ってすごいすごいと見始めた。本当に錬金術を見たことがないんだなと思うと同時になんだか照れてしまう。こんなこと今まで言われたことがない。それからなんだか楽しそうに着始めたレイを見てどうすればいいか分からず自分の準備を始めた。
「エラさん」
「どうした?合わなかった?」
「いえピッタリです。ありがとうございます」
満面の笑みでそういうレイから思わず視線を逸らしてよかったよなんて素っ気ない返事になってしまう。それから聞こえたドアを開ける音にものすごく感謝した。
「あれ?姉さん耳赤くない?」
「うっさい早く行くよ」