まったくしょうがないやつらだ
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突然の話であるが、私は昨年結婚した。お相手はヒーローの育成に力を入れている名門雄英高校の教師である相澤消太だ。そして、高校で教鞭をとりながら、現役のヒーローイレイザーヘッドの二足の草鞋を履いている。
考えるまでもなく、彼は多忙だ。だから、恋人だった時からデートを当日にキャンセルされることも、デート中に敵が現れて彼が走り去ってしまうことも、そもそもデートの予定が立たないことだってあった。どうしても一般人には話せない仕事も入ることがあり、急に連絡がつかなくなったことも一度や二度ではない。そして、やっと連絡がついたと思ったら『入院している』と言うメッセージが来て、肝を冷やしたことも三度や四度では済まない。それくらい、彼の恋人でいることは大変だった。
だが、そんな困難を越えた私たち。めでたく結婚と言うゴールインを迎え、そして今日は結婚して初めての消太さんの誕生日だった。
お泊まりしている時とは違う。彼に「お誕生日おめでとう」と告げた後に、泣く泣く一人暮らしの家に帰る必要はないのだ。だって、同じ一つ屋根の下に住んでいるのだから。
プレゼントはもう買ってある。だけど、どんな風に日頃から忙しい彼を癒そうか。そう思いを馳せてパソコン業務に向かっていたのだけど、あまり仕事に身が入ってないことがうっかり上司に見つかってしまい注意されたのだった。
何とか仕事を終わらせて帰路に着いた。
いつも目の下のに隈を飼っている彼を癒したい。だからこそ、ゆっくり出来る空間を提供したいと言う思いに決まり、私は彼の好きな手料理を準備することにした。消太さんはいつだって「君の作る料理は美味しいよ」と答えちゃうし、何なら失敗した時でさえ褒めてくれるので作るものには悩んでしまうけれど、喜んでくれるはず。
その後、私はケーキ屋さんとスーパーに寄り道をして消太さんの帰宅を心躍らせながら待った。だが、彼は午後十時になっても帰って来ず、だんだんと心がしぼみ始めた頃にやってきた一言のメッセージは『しばらく帰れなくなった』というものだった。
彼には誕生日祝いをしようなんて言ってないし、仕事なら仕方ないとわかっているけれど、今日までが賞味期限のケーキと冷めてしまった料理を見て溜息が出ないほど心が強くはなかったのだった。
*****
「なんだこの有様は」
「…おかえりなさい」
彼の誕生日から一週間後。
消太さんは帰宅早々、ソファにぐでんと伸びている私を見て言い放った。散々「ちゃんとご飯は食べて」「睡眠をとって」と口煩く言っていた女の醜態に驚きが隠せないらしい。一週間の出張に行ってたと言うのに、相も変わらず鞄を持ち歩かない彼は私の横にしゃがみ込んだ。
「体調が悪いのか」
「…ううん」
「何かつらいことでもあったのか」
心配そうにこちらを覗き込む目に、だんだんとバツが悪くなる。別に体調が悪いわけではない。ただ、貴方の誕生日を祝おうと思っていたのに帰ってきてくれなくて拗ねていただけです。そんな言葉を結婚もしている大の大人である妻が言えるわけがないのだろう。ただでさえ、彼と付き合うために大人の女を頑張って演じていたのだ。
今では「そんな君も可愛いよ」と言ってくれるけれど、やはり私だってこんな子供っぽい一面なんて見せたくないというプライドがある。
私はゆっくりと体を起こして、笑顔を張りつけて彼を見上げた。
「…おかえり。お仕事大変だった?」
「…まあ、な」
消太さんは私の態度に納得いってないようだけれど、小さく溜息を吐いて答えてくれた。詳しくは話せないけれど、ヒーローとしての仕事で急に遠方まで行くことになったようだ。わかってはいたけれど、その言葉の端々に自分の誕生日に関する言及は一切ない。きっと覚えてないのだ。
途中「君は何をしていた」と聞かれたけれども、彼の誕生日をお祝いすることを心待ちにしてた以外、本当に何もない。ただ一人寂しくご飯を食べて、仕事に行って、帰ってきただけだ。特に言うことなくて目を落としていたけれど、いつまでも拗ねていては話は進まない。
私は彼に呆れられることを覚悟して、小さな声で白状した。
「別に何もなかったけど、ただ消太さんの誕生日を当日にお祝いできなかったことを拗ねてるの」
「え?」
三白眼な目が大きく見開かれる。そして彼はぼそりと「そう言えば誕生日だったな」と呟いたので、やはり忘れていたようだ。私は目を伏せて、つらつらとあの日のことを語る。
「消太さんに急な仕事が入ることもわかってたけど、結婚して初めての誕生日だから私の帰りの時間とかも気にせず、ゆっくり祝えるかなって期待してたんだよね」
「うん」
「当日にケーキも準備して、手料理もたくさん作ったけど、そんなに日持ちする訳じゃないから全部一人で食べちゃったのが寂しくて」
言葉にしていたら、だんだんと目頭が熱くなってきた。たかが当日にお祝いできなかったくらいで泣き出すなんて、まるで小さな子供のようだ。本当は今すぐにでも涙を止めたいけれど、感情のコントロールと言うのは難しくて簡単にはいかなかった。
すると私の顔をジッと見つめていた消太さんが少し体温の低い手のひらで私の頬に触れた。親指で溢れる涙をすくってくれる。久しぶりに触れる体温に、さらに涙が溢れてきた。
「こんなに俺のことを思ってくれてありがとう」
「…うん」
「これは結婚する時にも言ったけど、仕事柄どうしても君を一番にしてあげられないことも多いよ。でも俺は君と一緒に居られて本当に嬉しい」
その言葉のあと、彼は私のことをキツく抱きしめた。今夜、あの日の仕切り直しをしよう。私はずっと言いたくて仕方なかった言葉をやっと伝えられたのだった。
「消太さん、お誕生日おめでとう」
考えるまでもなく、彼は多忙だ。だから、恋人だった時からデートを当日にキャンセルされることも、デート中に敵が現れて彼が走り去ってしまうことも、そもそもデートの予定が立たないことだってあった。どうしても一般人には話せない仕事も入ることがあり、急に連絡がつかなくなったことも一度や二度ではない。そして、やっと連絡がついたと思ったら『入院している』と言うメッセージが来て、肝を冷やしたことも三度や四度では済まない。それくらい、彼の恋人でいることは大変だった。
だが、そんな困難を越えた私たち。めでたく結婚と言うゴールインを迎え、そして今日は結婚して初めての消太さんの誕生日だった。
お泊まりしている時とは違う。彼に「お誕生日おめでとう」と告げた後に、泣く泣く一人暮らしの家に帰る必要はないのだ。だって、同じ一つ屋根の下に住んでいるのだから。
プレゼントはもう買ってある。だけど、どんな風に日頃から忙しい彼を癒そうか。そう思いを馳せてパソコン業務に向かっていたのだけど、あまり仕事に身が入ってないことがうっかり上司に見つかってしまい注意されたのだった。
何とか仕事を終わらせて帰路に着いた。
いつも目の下のに隈を飼っている彼を癒したい。だからこそ、ゆっくり出来る空間を提供したいと言う思いに決まり、私は彼の好きな手料理を準備することにした。消太さんはいつだって「君の作る料理は美味しいよ」と答えちゃうし、何なら失敗した時でさえ褒めてくれるので作るものには悩んでしまうけれど、喜んでくれるはず。
その後、私はケーキ屋さんとスーパーに寄り道をして消太さんの帰宅を心躍らせながら待った。だが、彼は午後十時になっても帰って来ず、だんだんと心がしぼみ始めた頃にやってきた一言のメッセージは『しばらく帰れなくなった』というものだった。
彼には誕生日祝いをしようなんて言ってないし、仕事なら仕方ないとわかっているけれど、今日までが賞味期限のケーキと冷めてしまった料理を見て溜息が出ないほど心が強くはなかったのだった。
*****
「なんだこの有様は」
「…おかえりなさい」
彼の誕生日から一週間後。
消太さんは帰宅早々、ソファにぐでんと伸びている私を見て言い放った。散々「ちゃんとご飯は食べて」「睡眠をとって」と口煩く言っていた女の醜態に驚きが隠せないらしい。一週間の出張に行ってたと言うのに、相も変わらず鞄を持ち歩かない彼は私の横にしゃがみ込んだ。
「体調が悪いのか」
「…ううん」
「何かつらいことでもあったのか」
心配そうにこちらを覗き込む目に、だんだんとバツが悪くなる。別に体調が悪いわけではない。ただ、貴方の誕生日を祝おうと思っていたのに帰ってきてくれなくて拗ねていただけです。そんな言葉を結婚もしている大の大人である妻が言えるわけがないのだろう。ただでさえ、彼と付き合うために大人の女を頑張って演じていたのだ。
今では「そんな君も可愛いよ」と言ってくれるけれど、やはり私だってこんな子供っぽい一面なんて見せたくないというプライドがある。
私はゆっくりと体を起こして、笑顔を張りつけて彼を見上げた。
「…おかえり。お仕事大変だった?」
「…まあ、な」
消太さんは私の態度に納得いってないようだけれど、小さく溜息を吐いて答えてくれた。詳しくは話せないけれど、ヒーローとしての仕事で急に遠方まで行くことになったようだ。わかってはいたけれど、その言葉の端々に自分の誕生日に関する言及は一切ない。きっと覚えてないのだ。
途中「君は何をしていた」と聞かれたけれども、彼の誕生日をお祝いすることを心待ちにしてた以外、本当に何もない。ただ一人寂しくご飯を食べて、仕事に行って、帰ってきただけだ。特に言うことなくて目を落としていたけれど、いつまでも拗ねていては話は進まない。
私は彼に呆れられることを覚悟して、小さな声で白状した。
「別に何もなかったけど、ただ消太さんの誕生日を当日にお祝いできなかったことを拗ねてるの」
「え?」
三白眼な目が大きく見開かれる。そして彼はぼそりと「そう言えば誕生日だったな」と呟いたので、やはり忘れていたようだ。私は目を伏せて、つらつらとあの日のことを語る。
「消太さんに急な仕事が入ることもわかってたけど、結婚して初めての誕生日だから私の帰りの時間とかも気にせず、ゆっくり祝えるかなって期待してたんだよね」
「うん」
「当日にケーキも準備して、手料理もたくさん作ったけど、そんなに日持ちする訳じゃないから全部一人で食べちゃったのが寂しくて」
言葉にしていたら、だんだんと目頭が熱くなってきた。たかが当日にお祝いできなかったくらいで泣き出すなんて、まるで小さな子供のようだ。本当は今すぐにでも涙を止めたいけれど、感情のコントロールと言うのは難しくて簡単にはいかなかった。
すると私の顔をジッと見つめていた消太さんが少し体温の低い手のひらで私の頬に触れた。親指で溢れる涙をすくってくれる。久しぶりに触れる体温に、さらに涙が溢れてきた。
「こんなに俺のことを思ってくれてありがとう」
「…うん」
「これは結婚する時にも言ったけど、仕事柄どうしても君を一番にしてあげられないことも多いよ。でも俺は君と一緒に居られて本当に嬉しい」
その言葉のあと、彼は私のことをキツく抱きしめた。今夜、あの日の仕切り直しをしよう。私はずっと言いたくて仕方なかった言葉をやっと伝えられたのだった。
「消太さん、お誕生日おめでとう」