まったくしょうがないやつらだ
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もうすぐ恋人、消太さんの誕生日。お付き合いを始めてから初めて祝う誕生日になる。
そう私達は随分と前から知り合ってはいたのだけど正式に交際を始めたのはほんの数ヶ月前だ。そもそも私は元雄英生徒。生徒と教師じゃどうにもならないことは分かっていたけれど諦めまずアタックを続けていた。その度に困ったような顔で大人を揶揄うんじゃないと嗜められていた毎日。そのまま進展なんてあるはずもなく卒業してしまったあったけれどどうやら私は運命の女神に見捨てられなかったらしい。サポートアイテム会社のいちOLとして働いていた時再会したのだ。とはいえ彼と再会してこの関係になるまで随分と時間がかかった。結果は私の粘り勝ちの様な形で付き合って貰うことになっている。
そして今回は相澤さんと恋人として過ごす初めての誕生日。それはもう私はとても張り切っていた。盛大にお祝いして楽しんでもらいたい。そもそもいつも消太さんのお世話になりっぱなしなのだ。こういう時にこそ返さなくていつ返させてもらえるんだろう。本当はゆっくり休みを取ってもらいたい。できるなら温泉旅行とかしたいと思っていた。だけど雄英教師にプロヒーローと多忙な消太さんにそんな時間は取れないだろう。誕生日だからと休むなんてありえない。だけど運のいいことに今年の消太さんの誕生日は金曜日。つまり、プロヒーローの任務がなければ土曜日まで少しは余裕があるかもしれない。
今日は私が消太さんの家にご飯を作りに来ただけ。あわよくば予定の確認できないかなと思っていたところにちょうどいいチャンスが訪れた。小さな希望を胸に私は消太さんに話しかけた。
「あの……消太さん」
「ん?どうかしたか」
「11月8日と9日って予定空いてたりしませんか?急に何か入ればいつも通りそちら優先でいいので!」
「いつも悪いな。確認してくる。あー空いてんな。デート、するか?」
「はい!ぜひ!」
これでひとまず、最低ラインクリアだ。思わず小さくガッツポーズを決めると見ていたらしい消太さんが小さく笑った。
「楽しみにしてるが、無理はするなよ」
「ありがとうございます!」
11月8日当日はもちろん雄英での授業がある。だからお祝いのメインは次の日。消太さんには無理をして欲しくないからお祝いは消太さんの家でやる予定。消太さんに相談した時は外でデートじゃなくていいのかと確認されたけどもちろん問題なんてない。むしろお家デートの方が好ましい。そのままお家デートがしたいですって伝えると問題なく了承をもらえた。それに金曜日からお泊まりの許可は貰っているしもうこっちのもの。これまで少しずつ重ねてきたお泊まりでそのセットはほとんど消太さんの家に置いてもらっている。だけど私の前に広がっているのは2泊3日くらいの時に使うスーツケース。中にはもちろんこの誕生日の為に用意してきた――。
「風船!」
王冠に可愛い紙吹雪入りのやつ、数字にHappy Birthdayの文字も忘れちゃいけない。風船用空気入れも忘れずに。
「それと手紙」
ベタかもしれないけど片想いを拗らせまくっている私の思いなんて文字通り重いかもしれないけど少しでも「憧れ」の勘違いじゃない事を今だって伝えたいから。きっと消太さんはまだ高校の憧れを勘違いしてるとか思ってるかもしれないから。念の為、ね。大好きなんだよって伝えたい。
「最後にプレゼント」
何を送ろうか本当に、最後まで、ものすごく悩んだ。だけどこれを見つけた途端これしかないと思った。これくらい消太さんに持ってて欲しくて、きっと好きだなって思えるもの。少しでもラッピングが崩れないように1番上にふわりと乗せてパッキングは完成!
あとは当日に向けて料理の練習をもっとするだけ。できるだけ美味しくて綺麗に作れたものを食べて欲しいから。こんなに張り切るなんて子供っぽいなんて思われてしまうと思うけど、それでも精一杯大好きな消太さんの誕生日をら祝いたい。少しでも思い出に残るようなそんな日にしたい。そんな一心で私は1人準備を着実に進めていっていた。
11月8日。遂にこの日が来た。消太さんは既に雄英に向かっているし、私は有休を使って1日フリーにしている。具体的に何時にお邪魔するとは言ってないけど今日だから問題なしと勝手に自分を納得させて消太さんの家へと来ていた。まだ使ったことのなかった合鍵を握り締めてドアの前に立つ。だいたい出勤の時間も終わった午前、周りに人なんていない。なんだか震えてしまう手でどうにか家主のいない目的地へと足を踏み入れた。
「お邪魔しま〜す……」
消太さんがいないのは分かっているけど小声でそう言ってしまう。しっかり鍵もかけて靴を脱ぐ。さて、作戦開始だ。スーツケースの足を拭いてからリビングへとすぐに向かう。前に来た時より少し荒れた様子にやっぱり忙しいんだなと感じた。そんな気はしていたけど。連絡の頻度から消太さんがどれくらい忙しいかなんて分かってしまっていた。それでも私に心配をかけないように、不安にさせないように時間があれば連絡をくれる消太さんが好きだ。無理はして欲しくないけれど。
「よし」
軽く頬を叩いて気合を入れた。まず落ちている服とか寝袋とかを回収して洗濯機に入れていく。タオルやシーツも忘れずに。何度かもうやっている事だから手馴れたもの。洗剤なんかの位置も消太さんが下げてくれて随分使いやすくなった。
それから少ししか溜まっていない食器の片付け。またちゃんとご飯食べてない。コーヒーのマグと数枚のお皿。今日明日で作り置きもしときたいななんて考える。そうでもしないと相変わらずゼリー飲料で終わらせてしまう人だから。合理的とかいうけどやっぱりしっかりご飯は食べて欲しい。一緒にいると食べてくれるのにどうしたらいいんだろうと頭を悩ませる。そして少ない食器を洗いながら大事なことを思い出した。
「食材買ってなかった!」
そんなミスをしながらも準備は少しずつ進んでいる。風船は粗方膨らませたしあとは可愛く飾るだけ。ご飯も消太さんが帰ってくる時間よりは少し早く出来るように作っている。食材を忘れるなんて初歩的なミスをしてしまったけれど。小さめのケーキは冷蔵庫の奥に隠した。それからはひたすら風船をふくらませて飾って写真を撮って見栄えを確認しての繰り返し。
ガチャガチャ
どれくらい経ったんだろう。玄関から音が聞こえてきた。インターホンは鳴っていない。鍵を持っているのは私と消太さんだけ。そんなのもちろん消太さんが帰ってきたってこと。時計を見てもいつもよりうんと早い時間。それでもドアの開く音は聞こえたから慌てて火を止めて玄関に向かった。そっと後ろ手でリビングへの扉を閉じながら声をかける。
「おっおかえりなさい!」
玄関の私の靴を見つめたまま立っていた。声をかけるとふっと視線がぶつかる。
「来てたのか」
「えへへ楽しみで……」
へらりと笑いながらしゃがんだ消太さんに近づいた。靴を脱いでるだけだけどその様子を覗き込む。
「連絡しても返事がないから心配した」
「えっ!」
慌ててポケットのスマホを見るとこれから帰るとか迎えはいるかとかそういった連絡が入っていた。準備に夢中になって気づいていなかったみたい。
「ごめんなさい」
「無事ならいい。飯、用意してくれてんだろいい匂いがする」
そう言いながら立ち上がる消太さんに頭を撫でられた。当たり前のようなその動きに口角が上がってしまう。だけど今日は彼を先にリビングに行かせる訳には行かない。隙間に身体をねじ込んでリビングのドアの前に立った。
「どうした」
ドアノブをそっと握ったまま困惑顔の消太さんをドヤ顔で見上げる。そしていきおいよくドアを開けた。
「お誕生日おめでとうございます!消太さん!」
まず目に入るのはHappy Birthdayの文字。そしてソファやラグの周りの風船に色んな飾り付け。自画自賛だけど結構頑張れたと思っている。まぁ結果的に料理が間に合ってないけど……それは今から急ぐ分で!
それにしてもあまりにも消太さんからの反応がない。一抹の不安を覚えて消太さんの顔を覗き込もうとするけど大きな手で隠されていて下からではよく見えない。
「消太さん……?やっぱり…………」
子供っぽ過ぎたかななんて口にする前にふわっと身体が持ち上がった。一気に視線が高くなって消太さんの顔を上から見ることになった。
「準備、してくれたのか」
「えっと……はい。いつも消太さん忙しいけどできるだけ楽しんでほしいなって……。それに……」
「それに?」
優しい眼差しと口調で続きを待ってくれる。少し照れてしまって視線を外してしまうけど降ろしてくれる様子はない。
「私にとってこれ程大切な日はないので……」
口にしてから想像以上の恥ずかしさから思いっきり顔を背けてしまった。チラッと見ることのできた消太さんの顔はいつもより緩んで耳を赤く染めていた、と思う。喜んでくれてるならいいやとそのままその太い首に抱きついた。喉で笑われてるのを感じながら消太さんが抱え直してくれる。
「エスコートは終わりか?」
「ソファで待ってて欲しいです。まだご飯できてないので」
「仰せのままに」
そのままソファに一緒に座る。けど言った通りご飯はまだできていない。どうにかなるさ顔を火照りを抑えて消太さんから離れた。
「ちょっと待っててください。すぐにできるはずです」
宣言通り、そこから過去一のスピードで終わらせてご飯も無事済ませることができた。食器を片付けようとしてくれた消太さんをソファに押し込んでシンクに運ぶだけ運んでおく。それからキッチンに隠しておいた紙袋を後ろ手に持ってソファに戻った。
「消太さん」
「ん?ああ片付けまでありがとう。美味かったよ」
そう優しく笑いかけてくれるのが嬉しくて思わず口角が上がってしまう。にこにこした表情を取り繕えないままソファの隣に座った。
「改めて、お誕生日おめでとうございます!プレゼントです!」
そう言って目の前に出したのはそんなに大きくない紙袋。そっと消太さんが受け取ったのを確認してから手を離した。
「開けていいか?」
「はい!」
丁寧にその長い指でリボンが解かれていく。その間に温かいお茶でもいれようかと腰を上げたけどそれはあっさり阻止されてしまった。腰に回った手は離れる気がないらしい。まぁいいかとそのまま横に座っているとようやくプレゼントが出てきた。
私が選んだのはネクタイとネクタイピン。あんまりスーツを気ないことは知っているけどここぞと言う時に少しでも支えになれたらななんて思って選んだ。暗い緑色のそれは色んな場面で使えるはず。それにネクタイピンもパッと見る限りはシックなもの。でもよく見たら伸びをしている猫。猫が好きなのは学生の頃から知っていたしなにかしら関連づけたかった。でもあまりにも分かりやすいものも大人の男の人としては使いにくいかもしれないと悩んでいたから本当にいいものを見つけた。
「どうですか?使えるといいんですけど……」
「ああすごくいい。気に入った。ありがとう」
その言葉を聞けて思わず満面の笑みを浮かべた。良かった。喜んで貰えた。それだけで心が踊るよう。傍にある太い二の腕にぐりぐりと額を押し付ける。慣れた様子で後頭部を撫でてくれるその手つきは優しい。
「次スーツを着る時は必ず着けるよ」
「絶対見せてくださいね」
「もちろんだ」
それからは2人でゆっくり過ごした。今の雄英の生徒たちがどうなっているのか。ヒーローたちの活躍やサポートアイテムについても。それだけじゃなくて最近見た映画だったり参加した飲み会だったりそんな他愛もない会話をしている時間が幸せでしかなかった。テレビの画面のヒーロー特集に私の同級生がいた時は盛り上がったし何故だか消太さんは少し落ち込んでいた。歳だなんてそんなことないのに。ずっとかっこいいままなのにね。
明るいテレビの画面がぼんやりしてくる。手に持ったホットココアのマグカップをするりと消太さんに取られてしまった。
「眠たいならベッドに……」
「消太、さん」
あまり回っていない頭で言いたかった言葉をどうにか紡いでいく。手紙と同じことを言ってるかもしれない。ああ、手紙を渡し忘れた。帰り際に渡せばいいかな。散乱する思考のまま言葉に詰まっていると優しく声をかけられた。
「ん?どうした」
「お誕生日、おめでとうございます。大好きです」
夢見心地のまま伸ばした腕を消太さんの首に絡める。そのまま近づいてきた頬に口付けを落とす。彼の驚いた表情は現実か夢か。よく分からないけど可愛くて思わず笑ってしまった。
貴方の未来に幸多からんことを。
そう私達は随分と前から知り合ってはいたのだけど正式に交際を始めたのはほんの数ヶ月前だ。そもそも私は元雄英生徒。生徒と教師じゃどうにもならないことは分かっていたけれど諦めまずアタックを続けていた。その度に困ったような顔で大人を揶揄うんじゃないと嗜められていた毎日。そのまま進展なんてあるはずもなく卒業してしまったあったけれどどうやら私は運命の女神に見捨てられなかったらしい。サポートアイテム会社のいちOLとして働いていた時再会したのだ。とはいえ彼と再会してこの関係になるまで随分と時間がかかった。結果は私の粘り勝ちの様な形で付き合って貰うことになっている。
そして今回は相澤さんと恋人として過ごす初めての誕生日。それはもう私はとても張り切っていた。盛大にお祝いして楽しんでもらいたい。そもそもいつも消太さんのお世話になりっぱなしなのだ。こういう時にこそ返さなくていつ返させてもらえるんだろう。本当はゆっくり休みを取ってもらいたい。できるなら温泉旅行とかしたいと思っていた。だけど雄英教師にプロヒーローと多忙な消太さんにそんな時間は取れないだろう。誕生日だからと休むなんてありえない。だけど運のいいことに今年の消太さんの誕生日は金曜日。つまり、プロヒーローの任務がなければ土曜日まで少しは余裕があるかもしれない。
今日は私が消太さんの家にご飯を作りに来ただけ。あわよくば予定の確認できないかなと思っていたところにちょうどいいチャンスが訪れた。小さな希望を胸に私は消太さんに話しかけた。
「あの……消太さん」
「ん?どうかしたか」
「11月8日と9日って予定空いてたりしませんか?急に何か入ればいつも通りそちら優先でいいので!」
「いつも悪いな。確認してくる。あー空いてんな。デート、するか?」
「はい!ぜひ!」
これでひとまず、最低ラインクリアだ。思わず小さくガッツポーズを決めると見ていたらしい消太さんが小さく笑った。
「楽しみにしてるが、無理はするなよ」
「ありがとうございます!」
11月8日当日はもちろん雄英での授業がある。だからお祝いのメインは次の日。消太さんには無理をして欲しくないからお祝いは消太さんの家でやる予定。消太さんに相談した時は外でデートじゃなくていいのかと確認されたけどもちろん問題なんてない。むしろお家デートの方が好ましい。そのままお家デートがしたいですって伝えると問題なく了承をもらえた。それに金曜日からお泊まりの許可は貰っているしもうこっちのもの。これまで少しずつ重ねてきたお泊まりでそのセットはほとんど消太さんの家に置いてもらっている。だけど私の前に広がっているのは2泊3日くらいの時に使うスーツケース。中にはもちろんこの誕生日の為に用意してきた――。
「風船!」
王冠に可愛い紙吹雪入りのやつ、数字にHappy Birthdayの文字も忘れちゃいけない。風船用空気入れも忘れずに。
「それと手紙」
ベタかもしれないけど片想いを拗らせまくっている私の思いなんて文字通り重いかもしれないけど少しでも「憧れ」の勘違いじゃない事を今だって伝えたいから。きっと消太さんはまだ高校の憧れを勘違いしてるとか思ってるかもしれないから。念の為、ね。大好きなんだよって伝えたい。
「最後にプレゼント」
何を送ろうか本当に、最後まで、ものすごく悩んだ。だけどこれを見つけた途端これしかないと思った。これくらい消太さんに持ってて欲しくて、きっと好きだなって思えるもの。少しでもラッピングが崩れないように1番上にふわりと乗せてパッキングは完成!
あとは当日に向けて料理の練習をもっとするだけ。できるだけ美味しくて綺麗に作れたものを食べて欲しいから。こんなに張り切るなんて子供っぽいなんて思われてしまうと思うけど、それでも精一杯大好きな消太さんの誕生日をら祝いたい。少しでも思い出に残るようなそんな日にしたい。そんな一心で私は1人準備を着実に進めていっていた。
11月8日。遂にこの日が来た。消太さんは既に雄英に向かっているし、私は有休を使って1日フリーにしている。具体的に何時にお邪魔するとは言ってないけど今日だから問題なしと勝手に自分を納得させて消太さんの家へと来ていた。まだ使ったことのなかった合鍵を握り締めてドアの前に立つ。だいたい出勤の時間も終わった午前、周りに人なんていない。なんだか震えてしまう手でどうにか家主のいない目的地へと足を踏み入れた。
「お邪魔しま〜す……」
消太さんがいないのは分かっているけど小声でそう言ってしまう。しっかり鍵もかけて靴を脱ぐ。さて、作戦開始だ。スーツケースの足を拭いてからリビングへとすぐに向かう。前に来た時より少し荒れた様子にやっぱり忙しいんだなと感じた。そんな気はしていたけど。連絡の頻度から消太さんがどれくらい忙しいかなんて分かってしまっていた。それでも私に心配をかけないように、不安にさせないように時間があれば連絡をくれる消太さんが好きだ。無理はして欲しくないけれど。
「よし」
軽く頬を叩いて気合を入れた。まず落ちている服とか寝袋とかを回収して洗濯機に入れていく。タオルやシーツも忘れずに。何度かもうやっている事だから手馴れたもの。洗剤なんかの位置も消太さんが下げてくれて随分使いやすくなった。
それから少ししか溜まっていない食器の片付け。またちゃんとご飯食べてない。コーヒーのマグと数枚のお皿。今日明日で作り置きもしときたいななんて考える。そうでもしないと相変わらずゼリー飲料で終わらせてしまう人だから。合理的とかいうけどやっぱりしっかりご飯は食べて欲しい。一緒にいると食べてくれるのにどうしたらいいんだろうと頭を悩ませる。そして少ない食器を洗いながら大事なことを思い出した。
「食材買ってなかった!」
そんなミスをしながらも準備は少しずつ進んでいる。風船は粗方膨らませたしあとは可愛く飾るだけ。ご飯も消太さんが帰ってくる時間よりは少し早く出来るように作っている。食材を忘れるなんて初歩的なミスをしてしまったけれど。小さめのケーキは冷蔵庫の奥に隠した。それからはひたすら風船をふくらませて飾って写真を撮って見栄えを確認しての繰り返し。
ガチャガチャ
どれくらい経ったんだろう。玄関から音が聞こえてきた。インターホンは鳴っていない。鍵を持っているのは私と消太さんだけ。そんなのもちろん消太さんが帰ってきたってこと。時計を見てもいつもよりうんと早い時間。それでもドアの開く音は聞こえたから慌てて火を止めて玄関に向かった。そっと後ろ手でリビングへの扉を閉じながら声をかける。
「おっおかえりなさい!」
玄関の私の靴を見つめたまま立っていた。声をかけるとふっと視線がぶつかる。
「来てたのか」
「えへへ楽しみで……」
へらりと笑いながらしゃがんだ消太さんに近づいた。靴を脱いでるだけだけどその様子を覗き込む。
「連絡しても返事がないから心配した」
「えっ!」
慌ててポケットのスマホを見るとこれから帰るとか迎えはいるかとかそういった連絡が入っていた。準備に夢中になって気づいていなかったみたい。
「ごめんなさい」
「無事ならいい。飯、用意してくれてんだろいい匂いがする」
そう言いながら立ち上がる消太さんに頭を撫でられた。当たり前のようなその動きに口角が上がってしまう。だけど今日は彼を先にリビングに行かせる訳には行かない。隙間に身体をねじ込んでリビングのドアの前に立った。
「どうした」
ドアノブをそっと握ったまま困惑顔の消太さんをドヤ顔で見上げる。そしていきおいよくドアを開けた。
「お誕生日おめでとうございます!消太さん!」
まず目に入るのはHappy Birthdayの文字。そしてソファやラグの周りの風船に色んな飾り付け。自画自賛だけど結構頑張れたと思っている。まぁ結果的に料理が間に合ってないけど……それは今から急ぐ分で!
それにしてもあまりにも消太さんからの反応がない。一抹の不安を覚えて消太さんの顔を覗き込もうとするけど大きな手で隠されていて下からではよく見えない。
「消太さん……?やっぱり…………」
子供っぽ過ぎたかななんて口にする前にふわっと身体が持ち上がった。一気に視線が高くなって消太さんの顔を上から見ることになった。
「準備、してくれたのか」
「えっと……はい。いつも消太さん忙しいけどできるだけ楽しんでほしいなって……。それに……」
「それに?」
優しい眼差しと口調で続きを待ってくれる。少し照れてしまって視線を外してしまうけど降ろしてくれる様子はない。
「私にとってこれ程大切な日はないので……」
口にしてから想像以上の恥ずかしさから思いっきり顔を背けてしまった。チラッと見ることのできた消太さんの顔はいつもより緩んで耳を赤く染めていた、と思う。喜んでくれてるならいいやとそのままその太い首に抱きついた。喉で笑われてるのを感じながら消太さんが抱え直してくれる。
「エスコートは終わりか?」
「ソファで待ってて欲しいです。まだご飯できてないので」
「仰せのままに」
そのままソファに一緒に座る。けど言った通りご飯はまだできていない。どうにかなるさ顔を火照りを抑えて消太さんから離れた。
「ちょっと待っててください。すぐにできるはずです」
宣言通り、そこから過去一のスピードで終わらせてご飯も無事済ませることができた。食器を片付けようとしてくれた消太さんをソファに押し込んでシンクに運ぶだけ運んでおく。それからキッチンに隠しておいた紙袋を後ろ手に持ってソファに戻った。
「消太さん」
「ん?ああ片付けまでありがとう。美味かったよ」
そう優しく笑いかけてくれるのが嬉しくて思わず口角が上がってしまう。にこにこした表情を取り繕えないままソファの隣に座った。
「改めて、お誕生日おめでとうございます!プレゼントです!」
そう言って目の前に出したのはそんなに大きくない紙袋。そっと消太さんが受け取ったのを確認してから手を離した。
「開けていいか?」
「はい!」
丁寧にその長い指でリボンが解かれていく。その間に温かいお茶でもいれようかと腰を上げたけどそれはあっさり阻止されてしまった。腰に回った手は離れる気がないらしい。まぁいいかとそのまま横に座っているとようやくプレゼントが出てきた。
私が選んだのはネクタイとネクタイピン。あんまりスーツを気ないことは知っているけどここぞと言う時に少しでも支えになれたらななんて思って選んだ。暗い緑色のそれは色んな場面で使えるはず。それにネクタイピンもパッと見る限りはシックなもの。でもよく見たら伸びをしている猫。猫が好きなのは学生の頃から知っていたしなにかしら関連づけたかった。でもあまりにも分かりやすいものも大人の男の人としては使いにくいかもしれないと悩んでいたから本当にいいものを見つけた。
「どうですか?使えるといいんですけど……」
「ああすごくいい。気に入った。ありがとう」
その言葉を聞けて思わず満面の笑みを浮かべた。良かった。喜んで貰えた。それだけで心が踊るよう。傍にある太い二の腕にぐりぐりと額を押し付ける。慣れた様子で後頭部を撫でてくれるその手つきは優しい。
「次スーツを着る時は必ず着けるよ」
「絶対見せてくださいね」
「もちろんだ」
それからは2人でゆっくり過ごした。今の雄英の生徒たちがどうなっているのか。ヒーローたちの活躍やサポートアイテムについても。それだけじゃなくて最近見た映画だったり参加した飲み会だったりそんな他愛もない会話をしている時間が幸せでしかなかった。テレビの画面のヒーロー特集に私の同級生がいた時は盛り上がったし何故だか消太さんは少し落ち込んでいた。歳だなんてそんなことないのに。ずっとかっこいいままなのにね。
明るいテレビの画面がぼんやりしてくる。手に持ったホットココアのマグカップをするりと消太さんに取られてしまった。
「眠たいならベッドに……」
「消太、さん」
あまり回っていない頭で言いたかった言葉をどうにか紡いでいく。手紙と同じことを言ってるかもしれない。ああ、手紙を渡し忘れた。帰り際に渡せばいいかな。散乱する思考のまま言葉に詰まっていると優しく声をかけられた。
「ん?どうした」
「お誕生日、おめでとうございます。大好きです」
夢見心地のまま伸ばした腕を消太さんの首に絡める。そのまま近づいてきた頬に口付けを落とす。彼の驚いた表情は現実か夢か。よく分からないけど可愛くて思わず笑ってしまった。
貴方の未来に幸多からんことを。