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共通の設定からそれぞれのキャラへ繋がるようになっています。読みづらくてすみません。
共通の設定
今日はもう散々だった。抜き打ちの小テストは酷い点数だし、演習も酷かった。何もないところで転ぶしいつもなら避けれるような攻撃を食らったり。それだけじゃなくてみんなの足を引っ張ってしまった。勝手に私が怪我するだけだったらまだ良かったのに。課題もせっかくやっていたのに持っていくのを忘れてた。本当にダメだったんだ。寮に帰ってから真っ直ぐ部屋に戻る。いつもより少し乱暴にドアを閉じてしまった。鞄を足元に落としてフラフラとした足取りでベッドに倒れ込んだ。ずっと、ずっとずっと頑張ってきたけど限界を迎えた。みんなとお話している時も、体はそこにあるのに心はどこかに行ってしまってるみたいで。ダメなところ直すのにも疲れちゃって。ネガティブに沈んでしまいそうで、沈まないように心のボートを一生懸命直していたけど。応急処置じゃどうしようもなくなってしまった。多分もうそのボートは壊れてしまっていて。どんどんネガティブが入ってきてしまう。もう私自身が浮かんでいるのに精一杯。でもそれも疲れてしまった。ヒーロー志望なのにこんなんじゃダメだ。だけど気持ちはどんどん沈んでいく。今だって制服も脱いでないし何もしてない。けど今はこのまま眠ってもいいかな……。明日の朝にはきっといつもの私に戻っているから。今日ずっと気にかけてくれたお茶子ちゃんくらいには連絡しようと思ったけどスマホは鞄の中で取りに行く気にもならない。
「あー……ダメダメじゃん……」
口にすると思っていたよりも刺さってしまって。思わず溢れてしまった涙がシーツに染みていく。泣いてもどうにもならない事なんて分かってて。それでも溢れてしまって濡れたシーツを頬に感じる。疲れてしまったんだ。いろいろと。もういいやと目を閉じて意識を手放そうとした時。
コンコン
優しくドアノックする音が聞こえた。
爆豪勝己
「おい」
「…………」
「開けんぞ」
勝己の声がしてから、ドアノブが回る音にドアの開く音が聞こえた。あー鍵かけ忘れたななんて今さらながら思う。近づいてくる足音にどうしようかと思ったけどそのままでいてしまう。それでもそっちに顔を向ける気にはならない。シーツに顔を埋めたまま足音が傍で止まったのを聞く。
「ココアかホットミルク。どっちがいい」
「…………ホットミルク」
「ん」
コトっとベッドの下のテーブルにコップが置かれた音がして思わず見てしまう。そこには勝己の黒いマグカップに入ったホットミルクが。湯気が立ってて入れたばかりなのが分かる。まさか持ってきているとは思わなくて。答えたら作るためにも出ていくだろうと思ったのに。せっかく作ってくれたのなら飲みたい。でも動きたくなくて腕をバタバタさせてマグカップだけ手に取ろうとしてみる。フハッ笑い声が聞こえた。と思ったら両脇に手を入れられて持ち上げてくれる。涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくて布団を抱きしめていたけど勝己の前では意味がない。布団を引き剥がされて勝己のあぐらの上に座らされる。それからマグカップを手渡された。
「…………はちみつたっぷり?」
「はちみつたっぷりだわ」
「……あったかい」
両手で持って息を吹きかける。猫舌の私には少し熱くいけどその間手をあっためてられる。その様子を見た勝己は私のマグカップに入ったココアを飲んでいた。
「……甘くないの?」
「くそ甘ェわ。ただその為に来たからな」
その為に……?もしかして甘やかしに来てくれた?はちみつたっぷりのホットミルクを口にするといつもより甘くて。優しい温かさにまた目が潤んでしまう。フッと柔らかい笑い声が少し上から聞こえた。と同時に少しカサついた指が目の下を撫でてくれる。それで余計私の目からボロボロと溢れてしまう。いつの間にかココアのマグカップはテーブルに置かれていて。私の頬の涙をまるで宝石でも触れているかのように、優しく両手で拭ってくれた。私の持っていたホットミルクも取られてテーブルへ。それから普段の粗暴さからは考えられないくらい優しいキスを頬に何度も、何度も落としてくれた。ようやく泣き止んだ頃には時間も随分と経ってしまっていて。
「飯は?下行けっか」
「……行けない」
「ん、持って来たる」
軽く頭を撫でられてお姫様抱っこをされた。ベッドに座らせてくれて待っとけよとキスをまた1つ、落としてから勝己は部屋を出ていった。少し冷めたホットミルクを手に単純だけど心は暖かく浮かんできた気がした。その後も存分に甘やかしてくれてご飯も一緒に食べてくれたし寝るまで一緒に過ごしてくれた。
「ごめんね……すぐ戻るから」
「それが聞きたくてやってんじゃねェわ」
「……ありがとう勝己」
「ん、無理すんなや。お前はよーやっとる」
勝己の腕の中で見た夢は覚えていなかった。けれど確かに穏やかで、気分が沈んだ日に見るような夢じゃなくて。ありがとうと大好きをたくさん込めてまだ寝ている勝己にキスをした。
切島鋭児郎
「入っていいか?」
「…………」
「入るぞ?」
返事をしないでいたら少し不安そうな声をした鋭児郎が部屋に入ってきた。正直、入ってきて欲しくなかった。でも一声たりとも発したくなくて。布団に蹲ったままでいる。足音がどんどん近づいてきてベッドのスプリングが軋んだ。いつも元気な鋭児郎からとは思えない、か細い声で名前を呼ばれた。それだけでなんだか罪悪感を覚えて涙が再び溢れる。スンッと鼻を鳴らして涙を堪える。すると鋭児郎の大きな手が頭を撫で始めた。
「よく頑張ってたな、今日。運が悪ぃ日ってやっぱりあんだけどよ、それでも最後までよく頑張ってすげぇと思った!漢気感じたぞ!」
一生懸命話しかけてくれる鋭児郎の話しに耳を傾ける。私からすれば、失敗に失敗を重ねてる姿なんて滑稽でしかなかったと思う。途中まではあはは、やらかしちゃったなんて笑えてたのにそれすら厳しくなって。帰りたいけど帰れない。だってみんなも頑張ってる。なんだから細い糸にぶら下がってるみたいだった。ちぎれて欲しいけどちぎれて欲しくないみたいな。結局ちぎれなくて最後まで耐えたけど。優しい鋭児郎の手がゆっくり、だけどずっと頭を撫でてくれる。そしてずっとここが凄かっただのあの判断は良かったとか、彼なりにいっぱい褒めてくれて。
「俺はすげぇと思う!毎日、一生懸命頑張ってる姿知ってっしよ。今いっぱい伝わったと思うけどよ。こんなんじゃ足りねぇくらい俺知ってんだ。だから無理はすんなよな?」
その言葉にチラと顔を上げると優しい視線と絡んだ。溢れた涙を抑えられず涙を零しながら鋭児郎に抱きつく。思い切り抱きついたけれどそれでもビクともしない、がっしりとした鋭児郎の身体に安心感を覚える。横から抱きついたのに鋭児郎がおしりを持ち上げてくれて鋭児郎と向かい合わせになった。横からと違ってぎゅうぎゅうともっと強く抱き締めることができる。筋肉ダルマみたいな鋭児郎にはこんなものじゃ大したことないんだろう。それでも強く抱き締め続ける私に鋭児郎はそっと、でも強く抱き締め返してくれた。宙ぶらりんだった気持ちが地に着いたような気がした。細い糸でぶら下がっていた私を、鋭児郎が捕まえてくれた。そんな気がして少し落ち着いた気がする。
「……私かっこよかった?」
「ん?」
「漢気感じたって……」
「おう!最後まで諦めねー姿とかすげぇかっこよかった!」
「あんなにダサかったのに……?なにしてもダメで?」
「んなわけねーだろ!?それでも立ち上がる姿ってのがかっけぇんだよ!」
「私のとこ嫌いにならない……?」
「なるわけねぇ!大好きだしまた惚れたぜ!」
真っ直ぐな瞳と勢いのある返事に疑う余地なんてない。そもそも鋭児郎はそんな嘘つかないけれど。
「ありがとう。私も……」
「ん?どうしたんだ?」
「私も鋭児郎のこと大好きだよ……」
頬が熱くなるのを感じながら鋭児郎を見上げると、首まで真っ赤にして固まっていて可愛かった。漢気溢れるかっこいい漢でいたいだろう鋭児郎には内緒にしておこう。
上鳴電気
「なぁー!お前の好きそうなお菓子見つけたんだけど一緒食わね?」
ドアの向こうから遠慮のない大声が聞こえてくる。それに反してノックは優しくてまた軽くコンコンと叩かれた。答える気にもならなくてボーッとドアを眺める。
「なぁー?ってお?鍵開いてんじゃん!ラッキー!おじゃましまーす!」
「……えっちょっと!?」
まさか入ってくるとは思わなくて思わず起き上がってしまう。ぐしゃぐしゃの髪に濡れた頬、まだ涙の溜まってる目。こんな可愛くない姿って見られたくないのに思わず電気くんを見てしまった。潤んだ視界に綺麗な黄色がボヤける。すぐに近づいてきた優しそうな笑みを浮かべた電気くん。それからそっと抱きしめられた。
「俺もここ、座っていーい?」
「……うん。でも顔は見ないで」
「おっけ!ならこーしちゃおっと!」
こう?とは?と思っていると私の後ろに電気くんが座って抱きしめられる。そんなに背は高く見えないのにやっぱり私より大きくて。体格差ですっぽり包まれてるみたいでなんだか安心する。それからガサゴソとビニール袋の音が聞こえた。
「じゃーん!かぼちゃプリン!売り始めてたの見つけてさ!食わねー?」
「……食べたい……けど」
「ん?けど?」
「ご飯食べてないから……」
「あー……じゃあよしっ!」
それからまたビニール袋の音が。冷蔵庫にでも入れてくれるのかな。お金渡さないとだし私も動かなきゃ、と思うのに全然動く気にならなくて。帰りにお財布から取っといてというのも申し訳ないし……。なんてぐるぐるしてる間に電気くんが離れてく。私も動かなきゃ。
「はいっ!」
「……え?」
「内緒な?今日くらいいいだろー」
既に蓋が開けられたかぼちゃプリンにスプーンを手に電気くんは私の前にしゃがんでいた。驚いて目を見開いてしまってると思う。そんな私を見て電気くんはイタズラ成功!とでも言いそうな顔で無邪気に笑っていて。いいの?と首を傾げても大きく頷かれるだけで。戸惑っているとそのままスプーンで1口分掬ってくれた。そのまま私の口の前に持ってきてくれて。渋っているとずいっと近づけられる。少し口を開けるとすぐに口に入れられたかぼちゃプリン。
「……おいし」
「よかったー!やっぱかぼちゃプリンうめーな!俺もいーい?」
首を傾げる電気くんに頷くと美味しそうに食べてくれた。それからこっち来て!と言われて電気くんの傍に寄る。さっきと同じように後ろから抱きしめられてそのままプリンは持ったまま。口どこー!?なんて言いながら食べさせてくれて。散々な1日で沈んでいたけど電気くんのお陰で楽しい時間を過ごせて幸せだった。食べ終わった後の頬のキスの優しさを、私は忘れない。
瀬呂範太
「入ってもいい?」
はんたくんの優しい、気遣うような声が聞こえてきた。それからまたコンコンと優しくドアをノックする音。返事もしたくなくてそのままにしてしまう。
「入って良くなったら教えてくんね?それまで俺待つからさ」
そう聞こえた後にドアにトンっと何かが当たる音がした。なにか置いたのかなと思ったけど見に行く気にもならなくて。そのままベッドでボーッと過ごした。
どれくらい経ったか分からないけどやっぱり私はダメなことに変わりはなくて。せめてはんたくんが置いてくれたものだけでも回収しようとようやくベッドから起き上がる。足を引きずるようにしてドアにゆっくり向かう。大した距離じゃないのにいつもより長く感じてそんな事にすら溜め息が出る。重く感じるドアノブを捻って開けた。
「あだっ」
「えっ!?」
驚きを隠せず勢いよくドアを閉めてしまう。待って??今はんたくん居た??え?ずっとそこにいたってこと??ドアノブを握りしめたまま身体は固まってしまう。頭の中はハテナでいっぱいで暴れ回ってるのに。
「あれ?開けてくれたんじゃねーの?」
「いやえっ!?なんで居るの!?」
声が聞こえて幻覚や幻聴じゃなかったことを改めて認識する。ドアノブを捻られるけど私も持ったままだし開くことはない。
「彼女が落ち込んでんのほっとく彼氏なんていないでしょ?」
「こんな沈んでるの見られたくないの!はんたくんの気分まで悪くさせたくない!」
「俺の気分なんて一緒にいれるだけで幸せだから沈むわけないしさ。むしろ俺が少しでも沈まないようにしてやりてーの。だからさ……顔見してくんね?」
「やだぐちゃぐちゃだもん。かわいない」
こんなこと言ってる時点でもうかわいくないというのに。一緒にいたいと、顔を見たいと言ってくれるのを嬉しいと思う反面、大好きなはんたくんを嫌な気持ちにさせたくないのにそうなりそうなことしてしまいそうな自分に嫌気がさす。それにすら涙は溢れてしまってボタボタと床に染みを作る。
「ほっとけないから来てんだよ。大切な彼女の傍に居てーの。支えさせてくんね?」
そんな嬉しいことを畳み掛けるように言ってくれてあっさり私の心は動いてしまう。でも意地も残っていて。どうしようと悩んでいるといつの間にかドアノブを握ってた手の力が抜けてきていたみたい。ドアが引かれてそのまま倒れかけてしまう。そんな私をはんたくんはしっかりと受け止めてくれて。そのまま抱き締めてくれた。思わずそのまま強く抱き締め返す。それから襲う浮遊感にだっこされたと分かって足をはんたくんに巻き付けた。
「ふはっコアラみてぇかわいーな」
そのままだっこされたまま部屋の中へ踏み入れるはんたくん。ベッドに下ろそうとしてくれたけど離れたくなくてぎゅっと掴まったままでいる。また笑い声が少し聞こえてきてそのままはんたくんがベッドに座った。それから胸元にうずめたままでいる私の頭を優しく撫でてくれる。
「かわいー顔見してくんね?」
「……かわいくないからやだ」
「それはありえないから。ほら見せて?」
そう言われて渋々顔を上げる。涙の筋が出来てそのままベッドに倒れていたから髪もボサボサ。見れたものじゃないのに。それでもはんたくんは両手で私の頬をふわりと包んで笑いかけてくれた。
「元気になりますように」
そう1つずつ額に、目元に、頬にそして唇にキスを落としてくれた。まるで魔法をかけられてるようで。今はその魔法に包まれたくて目を閉じた。
共通の設定
今日はもう散々だった。抜き打ちの小テストは酷い点数だし、演習も酷かった。何もないところで転ぶしいつもなら避けれるような攻撃を食らったり。それだけじゃなくてみんなの足を引っ張ってしまった。勝手に私が怪我するだけだったらまだ良かったのに。課題もせっかくやっていたのに持っていくのを忘れてた。本当にダメだったんだ。寮に帰ってから真っ直ぐ部屋に戻る。いつもより少し乱暴にドアを閉じてしまった。鞄を足元に落としてフラフラとした足取りでベッドに倒れ込んだ。ずっと、ずっとずっと頑張ってきたけど限界を迎えた。みんなとお話している時も、体はそこにあるのに心はどこかに行ってしまってるみたいで。ダメなところ直すのにも疲れちゃって。ネガティブに沈んでしまいそうで、沈まないように心のボートを一生懸命直していたけど。応急処置じゃどうしようもなくなってしまった。多分もうそのボートは壊れてしまっていて。どんどんネガティブが入ってきてしまう。もう私自身が浮かんでいるのに精一杯。でもそれも疲れてしまった。ヒーロー志望なのにこんなんじゃダメだ。だけど気持ちはどんどん沈んでいく。今だって制服も脱いでないし何もしてない。けど今はこのまま眠ってもいいかな……。明日の朝にはきっといつもの私に戻っているから。今日ずっと気にかけてくれたお茶子ちゃんくらいには連絡しようと思ったけどスマホは鞄の中で取りに行く気にもならない。
「あー……ダメダメじゃん……」
口にすると思っていたよりも刺さってしまって。思わず溢れてしまった涙がシーツに染みていく。泣いてもどうにもならない事なんて分かってて。それでも溢れてしまって濡れたシーツを頬に感じる。疲れてしまったんだ。いろいろと。もういいやと目を閉じて意識を手放そうとした時。
コンコン
優しくドアノックする音が聞こえた。
爆豪勝己
「おい」
「…………」
「開けんぞ」
勝己の声がしてから、ドアノブが回る音にドアの開く音が聞こえた。あー鍵かけ忘れたななんて今さらながら思う。近づいてくる足音にどうしようかと思ったけどそのままでいてしまう。それでもそっちに顔を向ける気にはならない。シーツに顔を埋めたまま足音が傍で止まったのを聞く。
「ココアかホットミルク。どっちがいい」
「…………ホットミルク」
「ん」
コトっとベッドの下のテーブルにコップが置かれた音がして思わず見てしまう。そこには勝己の黒いマグカップに入ったホットミルクが。湯気が立ってて入れたばかりなのが分かる。まさか持ってきているとは思わなくて。答えたら作るためにも出ていくだろうと思ったのに。せっかく作ってくれたのなら飲みたい。でも動きたくなくて腕をバタバタさせてマグカップだけ手に取ろうとしてみる。フハッ笑い声が聞こえた。と思ったら両脇に手を入れられて持ち上げてくれる。涙でぐちゃぐちゃの顔を見られたくなくて布団を抱きしめていたけど勝己の前では意味がない。布団を引き剥がされて勝己のあぐらの上に座らされる。それからマグカップを手渡された。
「…………はちみつたっぷり?」
「はちみつたっぷりだわ」
「……あったかい」
両手で持って息を吹きかける。猫舌の私には少し熱くいけどその間手をあっためてられる。その様子を見た勝己は私のマグカップに入ったココアを飲んでいた。
「……甘くないの?」
「くそ甘ェわ。ただその為に来たからな」
その為に……?もしかして甘やかしに来てくれた?はちみつたっぷりのホットミルクを口にするといつもより甘くて。優しい温かさにまた目が潤んでしまう。フッと柔らかい笑い声が少し上から聞こえた。と同時に少しカサついた指が目の下を撫でてくれる。それで余計私の目からボロボロと溢れてしまう。いつの間にかココアのマグカップはテーブルに置かれていて。私の頬の涙をまるで宝石でも触れているかのように、優しく両手で拭ってくれた。私の持っていたホットミルクも取られてテーブルへ。それから普段の粗暴さからは考えられないくらい優しいキスを頬に何度も、何度も落としてくれた。ようやく泣き止んだ頃には時間も随分と経ってしまっていて。
「飯は?下行けっか」
「……行けない」
「ん、持って来たる」
軽く頭を撫でられてお姫様抱っこをされた。ベッドに座らせてくれて待っとけよとキスをまた1つ、落としてから勝己は部屋を出ていった。少し冷めたホットミルクを手に単純だけど心は暖かく浮かんできた気がした。その後も存分に甘やかしてくれてご飯も一緒に食べてくれたし寝るまで一緒に過ごしてくれた。
「ごめんね……すぐ戻るから」
「それが聞きたくてやってんじゃねェわ」
「……ありがとう勝己」
「ん、無理すんなや。お前はよーやっとる」
勝己の腕の中で見た夢は覚えていなかった。けれど確かに穏やかで、気分が沈んだ日に見るような夢じゃなくて。ありがとうと大好きをたくさん込めてまだ寝ている勝己にキスをした。
切島鋭児郎
「入っていいか?」
「…………」
「入るぞ?」
返事をしないでいたら少し不安そうな声をした鋭児郎が部屋に入ってきた。正直、入ってきて欲しくなかった。でも一声たりとも発したくなくて。布団に蹲ったままでいる。足音がどんどん近づいてきてベッドのスプリングが軋んだ。いつも元気な鋭児郎からとは思えない、か細い声で名前を呼ばれた。それだけでなんだか罪悪感を覚えて涙が再び溢れる。スンッと鼻を鳴らして涙を堪える。すると鋭児郎の大きな手が頭を撫で始めた。
「よく頑張ってたな、今日。運が悪ぃ日ってやっぱりあんだけどよ、それでも最後までよく頑張ってすげぇと思った!漢気感じたぞ!」
一生懸命話しかけてくれる鋭児郎の話しに耳を傾ける。私からすれば、失敗に失敗を重ねてる姿なんて滑稽でしかなかったと思う。途中まではあはは、やらかしちゃったなんて笑えてたのにそれすら厳しくなって。帰りたいけど帰れない。だってみんなも頑張ってる。なんだから細い糸にぶら下がってるみたいだった。ちぎれて欲しいけどちぎれて欲しくないみたいな。結局ちぎれなくて最後まで耐えたけど。優しい鋭児郎の手がゆっくり、だけどずっと頭を撫でてくれる。そしてずっとここが凄かっただのあの判断は良かったとか、彼なりにいっぱい褒めてくれて。
「俺はすげぇと思う!毎日、一生懸命頑張ってる姿知ってっしよ。今いっぱい伝わったと思うけどよ。こんなんじゃ足りねぇくらい俺知ってんだ。だから無理はすんなよな?」
その言葉にチラと顔を上げると優しい視線と絡んだ。溢れた涙を抑えられず涙を零しながら鋭児郎に抱きつく。思い切り抱きついたけれどそれでもビクともしない、がっしりとした鋭児郎の身体に安心感を覚える。横から抱きついたのに鋭児郎がおしりを持ち上げてくれて鋭児郎と向かい合わせになった。横からと違ってぎゅうぎゅうともっと強く抱き締めることができる。筋肉ダルマみたいな鋭児郎にはこんなものじゃ大したことないんだろう。それでも強く抱き締め続ける私に鋭児郎はそっと、でも強く抱き締め返してくれた。宙ぶらりんだった気持ちが地に着いたような気がした。細い糸でぶら下がっていた私を、鋭児郎が捕まえてくれた。そんな気がして少し落ち着いた気がする。
「……私かっこよかった?」
「ん?」
「漢気感じたって……」
「おう!最後まで諦めねー姿とかすげぇかっこよかった!」
「あんなにダサかったのに……?なにしてもダメで?」
「んなわけねーだろ!?それでも立ち上がる姿ってのがかっけぇんだよ!」
「私のとこ嫌いにならない……?」
「なるわけねぇ!大好きだしまた惚れたぜ!」
真っ直ぐな瞳と勢いのある返事に疑う余地なんてない。そもそも鋭児郎はそんな嘘つかないけれど。
「ありがとう。私も……」
「ん?どうしたんだ?」
「私も鋭児郎のこと大好きだよ……」
頬が熱くなるのを感じながら鋭児郎を見上げると、首まで真っ赤にして固まっていて可愛かった。漢気溢れるかっこいい漢でいたいだろう鋭児郎には内緒にしておこう。
上鳴電気
「なぁー!お前の好きそうなお菓子見つけたんだけど一緒食わね?」
ドアの向こうから遠慮のない大声が聞こえてくる。それに反してノックは優しくてまた軽くコンコンと叩かれた。答える気にもならなくてボーッとドアを眺める。
「なぁー?ってお?鍵開いてんじゃん!ラッキー!おじゃましまーす!」
「……えっちょっと!?」
まさか入ってくるとは思わなくて思わず起き上がってしまう。ぐしゃぐしゃの髪に濡れた頬、まだ涙の溜まってる目。こんな可愛くない姿って見られたくないのに思わず電気くんを見てしまった。潤んだ視界に綺麗な黄色がボヤける。すぐに近づいてきた優しそうな笑みを浮かべた電気くん。それからそっと抱きしめられた。
「俺もここ、座っていーい?」
「……うん。でも顔は見ないで」
「おっけ!ならこーしちゃおっと!」
こう?とは?と思っていると私の後ろに電気くんが座って抱きしめられる。そんなに背は高く見えないのにやっぱり私より大きくて。体格差ですっぽり包まれてるみたいでなんだか安心する。それからガサゴソとビニール袋の音が聞こえた。
「じゃーん!かぼちゃプリン!売り始めてたの見つけてさ!食わねー?」
「……食べたい……けど」
「ん?けど?」
「ご飯食べてないから……」
「あー……じゃあよしっ!」
それからまたビニール袋の音が。冷蔵庫にでも入れてくれるのかな。お金渡さないとだし私も動かなきゃ、と思うのに全然動く気にならなくて。帰りにお財布から取っといてというのも申し訳ないし……。なんてぐるぐるしてる間に電気くんが離れてく。私も動かなきゃ。
「はいっ!」
「……え?」
「内緒な?今日くらいいいだろー」
既に蓋が開けられたかぼちゃプリンにスプーンを手に電気くんは私の前にしゃがんでいた。驚いて目を見開いてしまってると思う。そんな私を見て電気くんはイタズラ成功!とでも言いそうな顔で無邪気に笑っていて。いいの?と首を傾げても大きく頷かれるだけで。戸惑っているとそのままスプーンで1口分掬ってくれた。そのまま私の口の前に持ってきてくれて。渋っているとずいっと近づけられる。少し口を開けるとすぐに口に入れられたかぼちゃプリン。
「……おいし」
「よかったー!やっぱかぼちゃプリンうめーな!俺もいーい?」
首を傾げる電気くんに頷くと美味しそうに食べてくれた。それからこっち来て!と言われて電気くんの傍に寄る。さっきと同じように後ろから抱きしめられてそのままプリンは持ったまま。口どこー!?なんて言いながら食べさせてくれて。散々な1日で沈んでいたけど電気くんのお陰で楽しい時間を過ごせて幸せだった。食べ終わった後の頬のキスの優しさを、私は忘れない。
瀬呂範太
「入ってもいい?」
はんたくんの優しい、気遣うような声が聞こえてきた。それからまたコンコンと優しくドアをノックする音。返事もしたくなくてそのままにしてしまう。
「入って良くなったら教えてくんね?それまで俺待つからさ」
そう聞こえた後にドアにトンっと何かが当たる音がした。なにか置いたのかなと思ったけど見に行く気にもならなくて。そのままベッドでボーッと過ごした。
どれくらい経ったか分からないけどやっぱり私はダメなことに変わりはなくて。せめてはんたくんが置いてくれたものだけでも回収しようとようやくベッドから起き上がる。足を引きずるようにしてドアにゆっくり向かう。大した距離じゃないのにいつもより長く感じてそんな事にすら溜め息が出る。重く感じるドアノブを捻って開けた。
「あだっ」
「えっ!?」
驚きを隠せず勢いよくドアを閉めてしまう。待って??今はんたくん居た??え?ずっとそこにいたってこと??ドアノブを握りしめたまま身体は固まってしまう。頭の中はハテナでいっぱいで暴れ回ってるのに。
「あれ?開けてくれたんじゃねーの?」
「いやえっ!?なんで居るの!?」
声が聞こえて幻覚や幻聴じゃなかったことを改めて認識する。ドアノブを捻られるけど私も持ったままだし開くことはない。
「彼女が落ち込んでんのほっとく彼氏なんていないでしょ?」
「こんな沈んでるの見られたくないの!はんたくんの気分まで悪くさせたくない!」
「俺の気分なんて一緒にいれるだけで幸せだから沈むわけないしさ。むしろ俺が少しでも沈まないようにしてやりてーの。だからさ……顔見してくんね?」
「やだぐちゃぐちゃだもん。かわいない」
こんなこと言ってる時点でもうかわいくないというのに。一緒にいたいと、顔を見たいと言ってくれるのを嬉しいと思う反面、大好きなはんたくんを嫌な気持ちにさせたくないのにそうなりそうなことしてしまいそうな自分に嫌気がさす。それにすら涙は溢れてしまってボタボタと床に染みを作る。
「ほっとけないから来てんだよ。大切な彼女の傍に居てーの。支えさせてくんね?」
そんな嬉しいことを畳み掛けるように言ってくれてあっさり私の心は動いてしまう。でも意地も残っていて。どうしようと悩んでいるといつの間にかドアノブを握ってた手の力が抜けてきていたみたい。ドアが引かれてそのまま倒れかけてしまう。そんな私をはんたくんはしっかりと受け止めてくれて。そのまま抱き締めてくれた。思わずそのまま強く抱き締め返す。それから襲う浮遊感にだっこされたと分かって足をはんたくんに巻き付けた。
「ふはっコアラみてぇかわいーな」
そのままだっこされたまま部屋の中へ踏み入れるはんたくん。ベッドに下ろそうとしてくれたけど離れたくなくてぎゅっと掴まったままでいる。また笑い声が少し聞こえてきてそのままはんたくんがベッドに座った。それから胸元にうずめたままでいる私の頭を優しく撫でてくれる。
「かわいー顔見してくんね?」
「……かわいくないからやだ」
「それはありえないから。ほら見せて?」
そう言われて渋々顔を上げる。涙の筋が出来てそのままベッドに倒れていたから髪もボサボサ。見れたものじゃないのに。それでもはんたくんは両手で私の頬をふわりと包んで笑いかけてくれた。
「元気になりますように」
そう1つずつ額に、目元に、頬にそして唇にキスを落としてくれた。まるで魔法をかけられてるようで。今はその魔法に包まれたくて目を閉じた。