爆豪勝己
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窮屈なスニーカーを脱いで裸足で砂浜に立つ。ズボンを膝上まで捲って足を踏み出す。
日本の端っこの島育ちの私は海に囲まれて生きてきた。仕事を機に上京してから海の見えない息苦しさを感じ始めた。どうやら生活の一部だったらしいと気づいてからはほとんど毎日少し離れた所にある海に1人足を運んでいる。足裏にさらさらとした砂を感じながら水の中へ足を進める。冷たい水が心地いい。
「また来たんか」
「ばくごーさん」
「はっクソ暇なんかよ」
「こっちの人が急ぎすぎなんだよ。流れは変わらないんだから。ほら、ばくごーさんもどうです?気持ちいいですよ?」
個性を使って海の水を少し持ち上げてばくごーさんの方に浮かせたまま近づける。少し、水が扱えるだけの個性。こんな事にしか使えないからよくばくごーさんの周りに浮かべて遊んでいる。
「やめろ。濡れんだろ」
「そんな不器用じゃないですよ」
ふふっと笑いながら水を海に還す。初めてばくごーさんに会ったのは春の深夜だった。仕事が終わらず残業だったのに懲りずに海に来てた。相も変わらず海の中で立っていたせいでたまたま通ったばくごーさんに自殺志願者かと思われ怒鳴られたのもいい思い出だ。それでも懲りずに海に通う私に気づいたのかばくごーさんも時々来るようになった。怒られた時「死ぬ予定はないはずですので……」なんて変なことを言ってしまったせいかもしれないけれど。「大丈夫ですよ、死のうとなんて本当にしてないです」たったこれだけ。これさえ伝えてしまえばばくごーさんは来なくなってしまうんだろう。きっと心配してくれて足を運んでくれてるから。だけど…………。
「あら、今日はなんだか高そうな服なんですね。お出かけですか?こんな寂しい奴の所わざわざ来なくていいんですよ」
水平線を眺めながらそんな可愛くないことを言う。――いつの間にか勝手に好きになっていたくせに。ばくごーさんと会った時はいつも他愛のない話を私がほとんど一方的にしていた。ばくごーさんはそれを静かに聞いてくれてて、時々返事を返してくれて、その時間が心地よかった。いつの間にかこの時間が大事なものになって自分の中で大きくなっていた。それもあってこの時間を終わらせる一言がずっと言えない。気づいた時には彼を待ってしまっているから。彼のことは何も知らないのに。ばくごーがどういう字なのか、そもそも本名なのかも知らない。それなのに恋をしてしまった。
「好きだな……」
「……何が」
「…………この景色がですよ。夕焼けに染まる海が1番好きなんです」
「俺んことじゃねーんか」
「ばくごーさんを好きになるには知らなさすぎですから」
本当によく言う。すでに好きなくせに。
「それなら知りゃいいだろ」
「え?」
驚いて振り向くと波打ち際までばくごーさんが来ていた。思っていたより近くてまた驚く。
「爆豪勝己。職業プロヒーロー、大・爆・殺・神ダイナマイト。今日は惚れた奴飯に誘いに来た」
「え?」
「他に聞きてーことなんなら答えてやる。着いてくんならな。タダじゃねーけど」
そう悪そうに笑うばくごーさんに目を奪われる。え?プロヒーロー?その名前はよく聞く人気の新人ヒーロー、ダイナマの正式名称で。まさかそんな人がここにいるなんて思えなくて。今まで私気づいてなかったの……?と自分にも驚きを隠せない。
「で?来んのか来ねーのか決めろや」
不敵に笑う赤い瞳から目を逸らせなかった。