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爆豪勝己
あまりにも寝れない日が時々ある。何か不安なことがあるとか、辛いことがあったとかそういう訳でもないのに寝れない。ベッドでごろごろしてるけど一向に眠気はやってこない。ベッドから起き上がってらテキトーにかけてあったパーカーを手に取る。特に意味もなく向かった先は共有スペースでもちろん誰もいない。夜中だしなとテレビの前のソファに腰かける。今日……いつもより長めに爆豪くんここにいた気がするな。いつもはすぐに部屋に戻るからなんだか嬉しかった。いつからか爆豪くんのことを目で追ってしまっていた。何か決定的な、例えば手伝ってもらったとか守ってもらったとかそういう事があった訳ではない。ただ目立つし純粋に尊敬していただけのはずだったのに。私だってヒーロー科の1人だ。毎日プロヒーローになる為に目まぐるしい日々を送ってる。だから、こんな、恋愛なんてしてる場合じゃないのに。
「困ったなぁ……」
「何がだよ」
「そりゃば……爆豪くん!?」
「……うるっせぇ」
声に驚いて振り返ると眠そうな爆豪くんが。まさかこんな時間にいるなんて思ってなくて思わず声を上げてしまった。けどいつものようにキレられるわけでもなくうるさいとだけ言われて拍子抜けする。
「ごっごめん……それよりこんな時間にどうしたの?」
「水……んなことよりそれ脱げ。んで男物着てんだよ……」
「え?兄ちゃんのだけど……」
そう言った爆豪くんが手にかけたのは私のパーカーで。兄ちゃんのと言っても手を離さないし仕方なくパーカーを脱ぐ。なんなんだ一体。そもそも爆豪くんと2人きりなんて初めてでこのうるさい心臓の音が聞こえてないか不安になる。手が震えてる気がするけど言われた通りパーカーを脱ぐ。深夜だし寒いし意味わかんないな……でも爆破されるのは嫌だしと差し出すと爆豪くんはなんだか満足そうな顔をしてた。それから台所に向かう爆豪くんを見送って寒いし部屋に戻るかと立ち上がると顔に何か投げつけられた。
「いったぁなに?」
「着とけ冷やすな。つーかテメェこんな時間に1人でいんじゃねーよアホか」
投げつけられたものはさっきまで爆豪くんが着てたパーカーで。いや冷やすなって貴方のせいですけどなんて内心思いながら顔が緩まないように必死に頬の裏側を噛む。
「さっさと寝ろや」
「うん戻るよ。おやすみ爆豪くん」
「…………っやすみ」
小さな声がギリギリ耳に届いて口元が緩んでしまった。もう背中しか見えてないはずだし大丈夫。こんなのきっと夢だと思い込んで布団に潜る。それでも朝起きたらやっぱりパーカーは夢じゃなくて。好きな人の物が部屋にあるのは嬉しいけど落ち着かなくて。それに爆豪くんは兄ちゃんのパーカーを持って行ってしまってるわけで。なんでパーカー持って行ったの?とかなんで渡してくれたの?とかなんで満足そうそうだったの?とか気になることばかりだ。このままだと都合のいい解釈をしてしまいそう。そんな訳はないと、頬を叩いて冷静さを取り戻す。とはいえ気になるものは気になる。それから私はこれまであまり自分から話しかけなかった爆豪くんに会おうと覚悟を決めて部屋を出た。
切島鋭児郎
「喉乾いた」
真っ暗な部屋に私の声だけが響く。寝ぼけなまこのまま部屋の冷蔵庫を見てみるも空っぽ。仕方ないと部屋のドアを開けて廊下に出た。少し肌寒い。半袖短パンと深夜には薄い格好だけど飲み物を取るだけだ。すぐに布団に戻れば問題ない。エレベーターに乗って向かう先は共有スペース。誰もいないだろうなと向かった台所には明かりがついていた。不思議に思いながら近づくと見慣れた赤髪が。
「切島くん?」
「ん?おー茜じゃねーか……!?」
「ん?どしたの?」
「いっいやなんでもねぇ!それよりこんな夜中にどうしたんだ?」
「喉乾いちゃってさーそれなのに部屋になくて……切島くんは?」
「俺もなんだよなー。プロテイン作るのに使い切ったの忘れててよ。水で良ければ取るけどいるか?」
「うん!ありがとう!」
そのまま冷蔵庫を開けてた切島くんにお願いしてペットボトルをとってもらう。なんて平常心でいつまでも居れない。何を隠そう私は切島くんのことが好きだ。実習で守ってもらった時がずっと。でも今はお互い忙しいしこの想いはしまっておこうと決めていた。切島くんの邪魔をしたくない、その一心で。できるだけみんなと同じように、それも1人で話さないようにしてたのに、そんな切島くんが今目の前にいる。絶対今顔真っ赤だ。返事普通にできてたかな?変じゃなかったかな?そんな考えが頭の中をぐるぐると埋め尽くす。
「茜?大丈夫か?」
「ふぇ!?え!あっ大丈夫!ボーッとしてたみたい……!お水ありがとう!」
「おういいぜ!それよりよ……」
ペットボトルを受け取った手に影が落ちる。ん?と顔を上げると至近距離に切島くんが立っていた。髪下ろしてるせいが幼く見えるのにその表情はなんだか思い詰めたかのようで。不思議に思って首を傾げる。どうしたのと口を開く前に切島くんの口が開いた。
「茜さ。いつもそういう服なのか?」
「ん?服?…………もしかして似合ってない……?」
「いやっ!そうじゃなくてだな……その……」
なんだか言いにくそうにしてる切島くんを見てやっぱり変だったかなと自分の部屋着を見直してみる。……今度梅雨ちゃんとかにかわいい服教えてもらおうかな。
「あんま他のやつに見せたくねーんだよ!」
「えっ……?」
「あーっわりぃ!付き合ってもねぇのにいやでもちょっと思ったっつーか……えっと似合ってねぇとかじゃねぇから!」
「えっとありがとう……?上着着るようにするね?」
「おうそうしてくれ……それとさっき言ったこと忘れてくんねーか……?漢らしくなかったよな……!俺かっこわりぃ……」
え?と私の脳内は戸惑っていながらも返事しなきゃとどうにか頷く。すると嬉しそうな笑顔で切島くんはまた明日な。おやすみとエレベーターに乗ってしまった。え?見せたくないってどういうこと?とその場で固まってしまう。どうにか動けるようになった頃にはもうペットボトルの水は温くなってしまっていて。明日は寝不足になることだけは分かってしまった。
上鳴電気
ふと夜中に目が覚めてしまった。そして聞こえる空腹を訴える音。それでもこんな時間に食べるのは……と聞かなかったことにして布団に潜り込む。でももう手遅れだったようで。眠気はどこかに行ってしまったし無視できない空腹。このままでは寝れないなと早々に諦めてベットから降りる。大丈夫。明日たくさん動けばいい。そしたらきっと大丈夫。そう言い聞かせながらエレベーターに乗り込む。共有スペースに着くと何やらガサゴソ音が聞こえてきた。こんな時間に誰だろうと音の方を見ると暗い中でも目立つ綺麗な金髪が。
「上鳴?」
「うぇ!?って茜か……ビビらせんなよー」
「ごめんごめん」
こんな軽く返事してはいるけど内心バクバクだ。心臓の音聞こえてんじゃないか?ってくらい。私はこの男、上鳴電気に恋してる。いつもはおちゃらけているのに戦闘となれば真剣なかっこいい表情を見せるそのギャップにやられた。わかってる。この想いは一方通行だなんて。告白するつもりもない。知ってもらいたい気持ちもあるけれど、突然友達だと思っていた奴に告白されても困るだろうし。だから少しでも近くにいたくて、気のいい女友達のままでいようと決めてる。女友達として話すくらいならきっといいよねって。一緒に馬鹿なことして笑えるだけ充分なんだ。
「こんな時間にどうしたんだよ?」
「いやぁそれが……」
そこで鳴ったお腹の音。恥ずかしすぎる。絶対食いしん坊だと思われた。顔が熱くなる。恥ずかしくて俯いていると上鳴があ!と声をあげた。なんだろうと見上げるとちょっと待っててとウィンクをして棚を漁り出す。
「じゃーん!これ!俺の秘蔵のポテチ!一緒食わねぇ?」
そういって上鳴が掲げたのは最近美味しいと話題のポテチが。ついこないだ気になるねなんて透ちゃん達と話したばっかりのポテチだった。すごく食べてみたい。でもこんな深夜にポテチなんて……いくらなんでも……。
「絶対太っちゃうよ深夜にポテチは……」
「茜ほせぇし別に今日くらい大丈夫じゃね?てか!なんか食べにきたんだろー?一緒食おーぜー?なー?」
しゃがんでる上鳴からの上目遣いのおねだりを惚れた女が断れるだろうか。否。
「わーかったよ!ならソファいこ?ここで立って食べちゃダメでしょ」
「やったね!共犯者ゲット!早く行こーぜー」
そうやって2人で食べたポテチはこの上なく美味しかったし嬉しそうな上鳴を見れてもう満足お腹いっぱいだ。
「分けてくれてありがとね上鳴。あとは上鳴が食べちゃいな」
「えー!?もういいの!?お腹いっぱいじゃないなら食お?ほら」
そういって手に持ったポテチを私の口元に持ってくる。え?これって?あーんってこと?嘘でしょと照れてしまう。どうしようと視線を彷徨わせる。すると上鳴も気づいたのか顔を赤くしてえっあっ俺……と小声で呟いていた。
「ごっごめん!なんかしたいなって思って……って違う!そうじゃなくてその!」
そんなことを言われてもしかして……?なんて少し期待をしてしまう。いやでも上鳴女の子好きだしな……落ち着けと自分に思いながら上鳴を落ち着かせる。してみたかったんだねなんか憧れるのわかるよって肩をポンポンと叩いてあげる。
「誰にでもしたい訳じゃねーからね!?茜だから!俺は!だーくそ!もう寝る!」
そう叫んでからエレベーターに乗ってしまった上鳴を追えるわけがなくて。え?もしかして……?と放心してた私に上鳴からの猛アタックが始まる日まであと少し。
瀬呂範太
遂に眠れない日が来てしまった。最近どんどん寝不足になっていたけどどうにか眠れていたのに。目を閉じて待ってみても眠気は少しもやって来ない。原因は分かってる。毎日不安に押し潰されそうになりながら過ごしてるから。名門雄英高校のヒーロー科の生徒として私はダメダメだ。周りがどんどん成長して前に進んでいるのに私は変わらず同じ場所に立ったまま。みんなの背中に必死に手を伸ばしても掠りもしない。そんな事ばかり思ってしまう。自主練も勉強も増やしてるのに一向に縮まらない。だから……だから余計この想い無くさないと。私はいつの間にか瀬呂くんに恋してた。いつだって優しく声をかけてくれる瀬呂くんに。でも恋も終わらせないと。集中出来なくなる。こんな想いに振り回されてる場合じゃない。
「少し風にでも当たろうかな……寝れないや」
カーディガンを羽織って部屋を出る。エレベーターに乗って共有スペースを抜けて玄関に向かおうとすると先客がいた。
「あれ?茜?」
「……瀬呂くん?」
「こんな時間にどうしたの。もう外暗いよ?」
「風に当たろうかなって……」
思わぬ先客に心臓が跳ね上がる。悟られないようにどうにか返事をする。なんで?さっきこの想いは無くさないとなんて思ったのに。そのまま1人玄関に向かうとなぜか瀬呂くんも着いてきてて。
「どうしたの?」
「いや俺も風当たろうかなーって」
「…………そう」
正直1人になりたかったけど残念ながら断る術は持ち合わせていない。あまり意識しないようにそっぽを向いて外に出る。態度悪いなぁ私。自分が集中出来ないからって本当に自分勝手で嫌になる。近くのベンチに腰掛けて夜空を見上げる。少し都会から離れた所にあるお陰で綺麗な星空が見える。
「茜さ……最近大丈夫?」
「……どういう意味?」
「物凄く焦ってるように見える。目の下に隈まで作って頑張ってんのはわかっけど。顔色わりーから心配」
まさかそんなこと言われるなんて思ってなくて唖然とする。隈が出来てたなんて自分で気づいてなくて思わず触れるけど分かるはずがなくて。
「俺で良かったら相談乗るし。女子も心配してっからさ。無理すんなよって伝えたかった」
そんな考えてくれてるなんて思ってなくて涙が浮かぶ。泣きたくないのに。俯いて唇を噛み締める。どうにか堪えてから口を開いて出てきたのは可愛くない返事で。
「優しいね。でも気にしないで。私の問題だから」
「気にしねーわけないじゃん。誰にでもじゃないし」
「…………え?」
「じゃ!それだけ!冷えるから早く戻りなよー」
そう言うだけ言って固まってる私を置いて瀬呂くんは寮に帰ってしまって。動けるようになった頃にはもう誰も共有スペースにはいなかった。え?待って?どういうこと?期待していいの?頭の中をぐるぐると都合のいい考えが渦巻いて考えすぎて部屋に戻ってすぐに寝れてしまった。こんな事で不眠症解消なんて聞いたことがない!それから瀬呂くんを見かける度に思い出しちゃって落ちつかない日々を過ごした。前より目が合うようになったのは気のせい……?
あまりにも寝れない日が時々ある。何か不安なことがあるとか、辛いことがあったとかそういう訳でもないのに寝れない。ベッドでごろごろしてるけど一向に眠気はやってこない。ベッドから起き上がってらテキトーにかけてあったパーカーを手に取る。特に意味もなく向かった先は共有スペースでもちろん誰もいない。夜中だしなとテレビの前のソファに腰かける。今日……いつもより長めに爆豪くんここにいた気がするな。いつもはすぐに部屋に戻るからなんだか嬉しかった。いつからか爆豪くんのことを目で追ってしまっていた。何か決定的な、例えば手伝ってもらったとか守ってもらったとかそういう事があった訳ではない。ただ目立つし純粋に尊敬していただけのはずだったのに。私だってヒーロー科の1人だ。毎日プロヒーローになる為に目まぐるしい日々を送ってる。だから、こんな、恋愛なんてしてる場合じゃないのに。
「困ったなぁ……」
「何がだよ」
「そりゃば……爆豪くん!?」
「……うるっせぇ」
声に驚いて振り返ると眠そうな爆豪くんが。まさかこんな時間にいるなんて思ってなくて思わず声を上げてしまった。けどいつものようにキレられるわけでもなくうるさいとだけ言われて拍子抜けする。
「ごっごめん……それよりこんな時間にどうしたの?」
「水……んなことよりそれ脱げ。んで男物着てんだよ……」
「え?兄ちゃんのだけど……」
そう言った爆豪くんが手にかけたのは私のパーカーで。兄ちゃんのと言っても手を離さないし仕方なくパーカーを脱ぐ。なんなんだ一体。そもそも爆豪くんと2人きりなんて初めてでこのうるさい心臓の音が聞こえてないか不安になる。手が震えてる気がするけど言われた通りパーカーを脱ぐ。深夜だし寒いし意味わかんないな……でも爆破されるのは嫌だしと差し出すと爆豪くんはなんだか満足そうな顔をしてた。それから台所に向かう爆豪くんを見送って寒いし部屋に戻るかと立ち上がると顔に何か投げつけられた。
「いったぁなに?」
「着とけ冷やすな。つーかテメェこんな時間に1人でいんじゃねーよアホか」
投げつけられたものはさっきまで爆豪くんが着てたパーカーで。いや冷やすなって貴方のせいですけどなんて内心思いながら顔が緩まないように必死に頬の裏側を噛む。
「さっさと寝ろや」
「うん戻るよ。おやすみ爆豪くん」
「…………っやすみ」
小さな声がギリギリ耳に届いて口元が緩んでしまった。もう背中しか見えてないはずだし大丈夫。こんなのきっと夢だと思い込んで布団に潜る。それでも朝起きたらやっぱりパーカーは夢じゃなくて。好きな人の物が部屋にあるのは嬉しいけど落ち着かなくて。それに爆豪くんは兄ちゃんのパーカーを持って行ってしまってるわけで。なんでパーカー持って行ったの?とかなんで渡してくれたの?とかなんで満足そうそうだったの?とか気になることばかりだ。このままだと都合のいい解釈をしてしまいそう。そんな訳はないと、頬を叩いて冷静さを取り戻す。とはいえ気になるものは気になる。それから私はこれまであまり自分から話しかけなかった爆豪くんに会おうと覚悟を決めて部屋を出た。
切島鋭児郎
「喉乾いた」
真っ暗な部屋に私の声だけが響く。寝ぼけなまこのまま部屋の冷蔵庫を見てみるも空っぽ。仕方ないと部屋のドアを開けて廊下に出た。少し肌寒い。半袖短パンと深夜には薄い格好だけど飲み物を取るだけだ。すぐに布団に戻れば問題ない。エレベーターに乗って向かう先は共有スペース。誰もいないだろうなと向かった台所には明かりがついていた。不思議に思いながら近づくと見慣れた赤髪が。
「切島くん?」
「ん?おー茜じゃねーか……!?」
「ん?どしたの?」
「いっいやなんでもねぇ!それよりこんな夜中にどうしたんだ?」
「喉乾いちゃってさーそれなのに部屋になくて……切島くんは?」
「俺もなんだよなー。プロテイン作るのに使い切ったの忘れててよ。水で良ければ取るけどいるか?」
「うん!ありがとう!」
そのまま冷蔵庫を開けてた切島くんにお願いしてペットボトルをとってもらう。なんて平常心でいつまでも居れない。何を隠そう私は切島くんのことが好きだ。実習で守ってもらった時がずっと。でも今はお互い忙しいしこの想いはしまっておこうと決めていた。切島くんの邪魔をしたくない、その一心で。できるだけみんなと同じように、それも1人で話さないようにしてたのに、そんな切島くんが今目の前にいる。絶対今顔真っ赤だ。返事普通にできてたかな?変じゃなかったかな?そんな考えが頭の中をぐるぐると埋め尽くす。
「茜?大丈夫か?」
「ふぇ!?え!あっ大丈夫!ボーッとしてたみたい……!お水ありがとう!」
「おういいぜ!それよりよ……」
ペットボトルを受け取った手に影が落ちる。ん?と顔を上げると至近距離に切島くんが立っていた。髪下ろしてるせいが幼く見えるのにその表情はなんだか思い詰めたかのようで。不思議に思って首を傾げる。どうしたのと口を開く前に切島くんの口が開いた。
「茜さ。いつもそういう服なのか?」
「ん?服?…………もしかして似合ってない……?」
「いやっ!そうじゃなくてだな……その……」
なんだか言いにくそうにしてる切島くんを見てやっぱり変だったかなと自分の部屋着を見直してみる。……今度梅雨ちゃんとかにかわいい服教えてもらおうかな。
「あんま他のやつに見せたくねーんだよ!」
「えっ……?」
「あーっわりぃ!付き合ってもねぇのにいやでもちょっと思ったっつーか……えっと似合ってねぇとかじゃねぇから!」
「えっとありがとう……?上着着るようにするね?」
「おうそうしてくれ……それとさっき言ったこと忘れてくんねーか……?漢らしくなかったよな……!俺かっこわりぃ……」
え?と私の脳内は戸惑っていながらも返事しなきゃとどうにか頷く。すると嬉しそうな笑顔で切島くんはまた明日な。おやすみとエレベーターに乗ってしまった。え?見せたくないってどういうこと?とその場で固まってしまう。どうにか動けるようになった頃にはもうペットボトルの水は温くなってしまっていて。明日は寝不足になることだけは分かってしまった。
上鳴電気
ふと夜中に目が覚めてしまった。そして聞こえる空腹を訴える音。それでもこんな時間に食べるのは……と聞かなかったことにして布団に潜り込む。でももう手遅れだったようで。眠気はどこかに行ってしまったし無視できない空腹。このままでは寝れないなと早々に諦めてベットから降りる。大丈夫。明日たくさん動けばいい。そしたらきっと大丈夫。そう言い聞かせながらエレベーターに乗り込む。共有スペースに着くと何やらガサゴソ音が聞こえてきた。こんな時間に誰だろうと音の方を見ると暗い中でも目立つ綺麗な金髪が。
「上鳴?」
「うぇ!?って茜か……ビビらせんなよー」
「ごめんごめん」
こんな軽く返事してはいるけど内心バクバクだ。心臓の音聞こえてんじゃないか?ってくらい。私はこの男、上鳴電気に恋してる。いつもはおちゃらけているのに戦闘となれば真剣なかっこいい表情を見せるそのギャップにやられた。わかってる。この想いは一方通行だなんて。告白するつもりもない。知ってもらいたい気持ちもあるけれど、突然友達だと思っていた奴に告白されても困るだろうし。だから少しでも近くにいたくて、気のいい女友達のままでいようと決めてる。女友達として話すくらいならきっといいよねって。一緒に馬鹿なことして笑えるだけ充分なんだ。
「こんな時間にどうしたんだよ?」
「いやぁそれが……」
そこで鳴ったお腹の音。恥ずかしすぎる。絶対食いしん坊だと思われた。顔が熱くなる。恥ずかしくて俯いていると上鳴があ!と声をあげた。なんだろうと見上げるとちょっと待っててとウィンクをして棚を漁り出す。
「じゃーん!これ!俺の秘蔵のポテチ!一緒食わねぇ?」
そういって上鳴が掲げたのは最近美味しいと話題のポテチが。ついこないだ気になるねなんて透ちゃん達と話したばっかりのポテチだった。すごく食べてみたい。でもこんな深夜にポテチなんて……いくらなんでも……。
「絶対太っちゃうよ深夜にポテチは……」
「茜ほせぇし別に今日くらい大丈夫じゃね?てか!なんか食べにきたんだろー?一緒食おーぜー?なー?」
しゃがんでる上鳴からの上目遣いのおねだりを惚れた女が断れるだろうか。否。
「わーかったよ!ならソファいこ?ここで立って食べちゃダメでしょ」
「やったね!共犯者ゲット!早く行こーぜー」
そうやって2人で食べたポテチはこの上なく美味しかったし嬉しそうな上鳴を見れてもう満足お腹いっぱいだ。
「分けてくれてありがとね上鳴。あとは上鳴が食べちゃいな」
「えー!?もういいの!?お腹いっぱいじゃないなら食お?ほら」
そういって手に持ったポテチを私の口元に持ってくる。え?これって?あーんってこと?嘘でしょと照れてしまう。どうしようと視線を彷徨わせる。すると上鳴も気づいたのか顔を赤くしてえっあっ俺……と小声で呟いていた。
「ごっごめん!なんかしたいなって思って……って違う!そうじゃなくてその!」
そんなことを言われてもしかして……?なんて少し期待をしてしまう。いやでも上鳴女の子好きだしな……落ち着けと自分に思いながら上鳴を落ち着かせる。してみたかったんだねなんか憧れるのわかるよって肩をポンポンと叩いてあげる。
「誰にでもしたい訳じゃねーからね!?茜だから!俺は!だーくそ!もう寝る!」
そう叫んでからエレベーターに乗ってしまった上鳴を追えるわけがなくて。え?もしかして……?と放心してた私に上鳴からの猛アタックが始まる日まであと少し。
瀬呂範太
遂に眠れない日が来てしまった。最近どんどん寝不足になっていたけどどうにか眠れていたのに。目を閉じて待ってみても眠気は少しもやって来ない。原因は分かってる。毎日不安に押し潰されそうになりながら過ごしてるから。名門雄英高校のヒーロー科の生徒として私はダメダメだ。周りがどんどん成長して前に進んでいるのに私は変わらず同じ場所に立ったまま。みんなの背中に必死に手を伸ばしても掠りもしない。そんな事ばかり思ってしまう。自主練も勉強も増やしてるのに一向に縮まらない。だから……だから余計この想い無くさないと。私はいつの間にか瀬呂くんに恋してた。いつだって優しく声をかけてくれる瀬呂くんに。でも恋も終わらせないと。集中出来なくなる。こんな想いに振り回されてる場合じゃない。
「少し風にでも当たろうかな……寝れないや」
カーディガンを羽織って部屋を出る。エレベーターに乗って共有スペースを抜けて玄関に向かおうとすると先客がいた。
「あれ?茜?」
「……瀬呂くん?」
「こんな時間にどうしたの。もう外暗いよ?」
「風に当たろうかなって……」
思わぬ先客に心臓が跳ね上がる。悟られないようにどうにか返事をする。なんで?さっきこの想いは無くさないとなんて思ったのに。そのまま1人玄関に向かうとなぜか瀬呂くんも着いてきてて。
「どうしたの?」
「いや俺も風当たろうかなーって」
「…………そう」
正直1人になりたかったけど残念ながら断る術は持ち合わせていない。あまり意識しないようにそっぽを向いて外に出る。態度悪いなぁ私。自分が集中出来ないからって本当に自分勝手で嫌になる。近くのベンチに腰掛けて夜空を見上げる。少し都会から離れた所にあるお陰で綺麗な星空が見える。
「茜さ……最近大丈夫?」
「……どういう意味?」
「物凄く焦ってるように見える。目の下に隈まで作って頑張ってんのはわかっけど。顔色わりーから心配」
まさかそんなこと言われるなんて思ってなくて唖然とする。隈が出来てたなんて自分で気づいてなくて思わず触れるけど分かるはずがなくて。
「俺で良かったら相談乗るし。女子も心配してっからさ。無理すんなよって伝えたかった」
そんな考えてくれてるなんて思ってなくて涙が浮かぶ。泣きたくないのに。俯いて唇を噛み締める。どうにか堪えてから口を開いて出てきたのは可愛くない返事で。
「優しいね。でも気にしないで。私の問題だから」
「気にしねーわけないじゃん。誰にでもじゃないし」
「…………え?」
「じゃ!それだけ!冷えるから早く戻りなよー」
そう言うだけ言って固まってる私を置いて瀬呂くんは寮に帰ってしまって。動けるようになった頃にはもう誰も共有スペースにはいなかった。え?待って?どういうこと?期待していいの?頭の中をぐるぐると都合のいい考えが渦巻いて考えすぎて部屋に戻ってすぐに寝れてしまった。こんな事で不眠症解消なんて聞いたことがない!それから瀬呂くんを見かける度に思い出しちゃって落ちつかない日々を過ごした。前より目が合うようになったのは気のせい……?