空にサヨナラ
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新しい境遇への期待と不安。そしてガチガチに緊張しながら彼女--暮宮 シュリ はここフェンリル極東支部を訪れていた。
案内され、通された先は何かの訓練所のような円形の場所。床も壁も剥き出しの鉄板で覆われ、そのいたるところに傷が付いている。
その中心にそれはあった。
複雑な機構と刃を持つ武器が台に乗せられている。あれが神機なのだと、すぐに理解した。
シュリはいたって普通の家庭で育った。フェンリルの統治する外部居住区で、幸いにも父親が末端とはいえフェンリルの子会社に勤めていたため、多少は恵まれた生活を送っていた。
フェンリルからゴッドイーターとしての資質があると通達を受けた時、両親と姉はもちろん反対した。いつ命を落としてもおかしくないそんな職業に就かせる訳にはいかないと。
しかしフェンリルの庇護下に暮らす者にとって、神機適合候補者となった場合の適合試験は義務であるし、なによりゴッドイーターの家族は様々な面で優遇されるのだ。
姉も働いてはいるが身体があまり丈夫ではないし、自分には仕事自体がない。
そしてなにより、外部居住区はいつアラガミに襲われても不思議ではないのだ。実際、そう遠くない地区でアラガミの侵入騒ぎが起こった事も幾度かある。
それが日常だった。
いつ全てを奪われてしまうか知れない。
そんな中で生きてきて、もし自分が家族を、誰かを守れる力を手に入れることが出来るなら。
いくら家族に反対されようと、シュリの決心は揺らぎはしなかった。
『心の準備ができたら、中央のケースの前に立ってくれ』
そんな声が響いて、シュリは我に返った。
そうだ、物思いに耽っている場合ではない。
視線を上げ、前を見据える。
ああ、台じゃなくてケースって言うのか…なんてどうでもいい事を頭の隅で考えながら言われた通り移動した。
フェンリルのマークの入ったその赤いケースには神機が置いてある。
「これ…絶対、サンドイッチ…よね…」
思わずそんな呟きが漏れてしまった。
そのケースは明らかに上部が降りてきそうな構造である。ちらりと上を見れば、早く手を突っ込めと言わんばかりの視線が自分に注がれている、気がした。
覚悟を決めて右手を伸ばし、武器を掴む。赤い輪の半分に固定するように腕を置けば、一呼吸の間もなくケースの上部が落下してきた。
上下にそれぞれ半分ずつ分けられて設置されていた腕輪が一つになり、その瞬間なんとも言えない感覚がその部分から走った。
まるで腕輪の部分から何かが自分の中に侵入してくるようなぞわぞわした感じと、同時に全身の血が沸騰して力がみなぎって行くような奇妙な感覚が混じりあう。
そしてケースからは何かを食べ荒らしているような音。
しかしそんな感覚の洪水はすぐに終わった。
空気の抜けるような音をたて、ケースの上部が再び上へと持ち上がる。
恐る恐る、自分の腕を見てみた。
赤い腕輪はしっかりと自分の右手首にはまっている。一生外すことのない、ゴッドイーターの証だと事前に説明は受けた。
受けたのだが、なんだか実感が沸かない。
ぐっ、と手に力を込めて握った神機を持ち上げてみる。
どうみても金属の塊であり、相当の重量があるはずのそれを易々と振りかざせた事に驚きを隠せない。
本当に自分が持ち上げたのかと、まじまじと神機を見てみる。
「え…?」
神機の根元、何か光る核のような物が埋まっている部分から、ずるりと黒い触手の様な物が出た。
それは赤い腕輪へと吸い込まれるように伸び、腕輪と神機とを繋ぐ。
そしてそれと同時に、腕輪から神機を掴む手へと黒い何かが走ったのが見えた。
『おめでとう、これで君がこの極東支部初の…いや……』
スピーカーから響く声が少し迷っているような感じを含む。
『…初の、「新型」ゴッドイーターだ。期待しているよ』
結局そう言い直して、あとは今後の予定について聞かされる。
入ってきた扉から出ると、逆に部屋に入ろうとする男性とすれ違った。
一瞬自分と同じ境遇なのかとも思ったが、それにしては妙に慣れた様子である。
その人にちらりと目をやって、シュリは言われた通りの場所で待機することにした。
ベンチには先客がいた。
年齢は自分より低そうだが、同期ということになるのだろう。
その少年はコウタと名乗り、その人懐っこい笑顔にシュリもつられて笑う。
そんなこんなで軽い雑談などしているところで自分達の教練担当のツバキ、という女性が現れ、今後の説明を受けていた真っ最中。
「この後のメディカルチェックだが――っ!?」
足元に振動を感じる程の衝撃と破壊音、それに怒鳴り声が聞こえてきた。
音の出所は間違いなく先程自分が出て来た扉の向こう側だ。
思わず何事かと扉の方を凝視してしまう。
あの扉はかなりの厚さがあったはずだ。ちょっとやそっとの音では外には聞こえそうもないはずなのだが。
コウタもツバキも、そしてその場にいた他の人も皆が揃って同じ方を見ていた。
「チッ…またソウキがやらかしたか…。
気にするな、ここでは日常茶飯事だ。それより話の続きをするぞ」
ツバキの言葉に、シュリとコウタは慌てて姿勢を正す。
それにしてもこれが日常茶飯事だなんて、このアナグラという場所は案外騒がしい場所なのかもしれない。そんなことをシュリは頭の片隅で思った。
一方、騒音の出所では。
「おい!話がちがうじゃねぇかぁぁぁ!」
シュリとすれ違いで訓練所へと入ったソウキは、強化ガラスの向こうからこちらを興味深げに見下ろしているサカキ博士へと大声で吠えていた。
その隣には手を離れ、床の鉄板を貫きめりこんだ神機。破壊音は間違いなくこれが原因である。
「何が『いつも通り神機を持ってくれればいい、大した違和感は無いはずだよ』だ!!違和感全開だ!めちゃくちゃ痛いじゃねぇか!」
そう叫ぶ通り、ソウキは若干涙目である。
普段なら一応敬語を使うはずのサカキ博士に対しても、すっかり敬語が消えていた。
『ほう、なるほど痛みが…どんな感じだったかな?』
「なんかこう、神機から何かが逆流して、俺が喰われてくような……って違う!」
『しかし私は痛くない、と言った記憶は無いんだがね?』
そう言われてしまえば、うっと黙り込むソウキ。確かに『痛くない』と言われた訳ではない。
しかし痛かったのは事実であり、それについて抗議してやろうと口を開こうとした瞬間。
『おや、時間だ。私はこの後、新人君たちのメディカルチェックがあるのでこれで失礼させてもらうよ。
…ああ、君のチェックについては同時進行したから問題ないよ。後は実践に出てから何かあれば報告してくれ』
「いやいや適当すぎるだろ。何かあってからじゃ遅いだろ」
『今のところ数値に目立った変わりはない。君の事例は特別だからね…まぁ、大丈夫だと思う』
「うわぁ、適当ー……」
それだけ言い残すとサカキ博士はさっさと部屋を出ていってしまったようだ。
残った研究員の何人かも、慌てた様子でその後を追ってしまう。
ぽつんと一人残される形になったソウキはしばらく呆然としていたが、ふと傍らの神機に目をやる。
これが自分の新しい神機。希少な、新型。
先程これに触れたとき感じたのは激しい痛みと、そして少しの恐怖だった。
何か大きなものが自分をまるごと飲み込んでしまうようなそんな感覚。
「新型、ねぇ…」
呟いて神機に手を伸ばす。今度は触っても何も感じなかった。
床に突き刺さった神機を引き抜き、引き抜いたあとの穴を見てふと思い出したかのようにソウキは呟く。
「…やべ、これは絶対怒られるわ…」