-第二話-
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トンネルを抜けると、そこは雪国――なんて小説があったのをふと思い出した。
ノルンのデータベースに旧時代の書籍のデータが残っていて、暇なときにそれを見つけてたまたま読んでみたのだったか。
しかし今目を開けた俺の前に広がっているのは白い天井だった。鼻につく独特の薬臭さでここが医務室なのだと理解する。
「ん、起きたか」
「…リンドウ?」
ふと視界に入ってきたのは間違いなく俺の上官でもあるリンドウの姿だった。
「ソウキ、ここがどこか分かるか」
「アナグラの、医務室…」
「お前の名前と所属は?」
「空夜 ソウキ、第一部隊所属」
「よしよし、頭はしっかりしてるみたいだな。じゃあ今医療班の奴呼んで来るから、大人しく待っておけ」
そう言い残してリンドウは部屋を出て行った。
俺はと言えば、目覚めたばかりでぼーっとする頭の中でどうして今自分がここにいるのかという記憶を手繰り寄せていた。
今日は確かいつものメンバーで、贖罪の街でのヴァジュラ討伐任務のはずだ。
相手が油断してたところを背後から全員で奇襲をかけて、それで怒ったヴァジュラが…リンドウがいつもみたいに指示を出して、それで
「俺の神機っ!!」
そこまで思い出して思わず勢い良く飛び起きてしまった。その途端全身を鈍い痛みが襲って、俺は再びベッドに倒れこむことになるのだった
「お前な…大人しくしてろって言っただろ」
声のした方を向けば、リンドウが医者を連れて医務室に入ってきた所だった。
「だって!お、俺の…」
なにが言いたいのか悟ったのか、リンドウが複雑そうな表情で明後日の方向を向いた。
「まぁ、覚えてるなら言う必要もないかもしれないが…粉々、だな」
「うわぁぁやっぱ夢じゃなかったのか…!
ヤバイ、リッカにしこたま怒られる!!」
頭を抱えて項垂れる俺に追い討ちをかけるかのようなリンドウの言葉が飛んでくる。
「リッカだけならまだマシだけどな。
お前、サカキ博士からラボへの招待が来てるぞ」
「よしリンドウ俺は意識不明の重態で面会謝絶だと伝えろ。伝えてくれ。頼む」
「残念ながら今そこでサカキ博士に会ったんでお前が目を覚ましたことはバレてるんだな、これが」
その言葉に俺は絶望するしかなかった。
別に特別サカキ博士が嫌いだとかいう訳ではないのだが、あの糸目博士は何を考えているのかイマイチ把握出来ない。
そういうタイプの人間は俺が一番苦手としているのだ。
「やだー…行きたくねぇー」
「小さい子じゃあるまいしダダこねるなよ」
苦笑するリンドウをぎりりと睨みつける。
人事だからそんな簡単に言えるのだ。…間違いなく人事だが。
俺たちがそんなやりとりをしてる間にも医者はてきぱきと診察を行っていた。
結局怪我の経過は良好で、幸いどれも深刻なダメージを与えてはいなかったらしい。
痛みがとれ、自分で支障がないと感じればいつでも任務に復帰して良いとのこと。まぁ、神機の無い今の俺にこなせる任務なんてのは無いだろうが。
念のために今晩は医務室で過ごし、明日の朝になれば自室へ戻っていいと許可が出た。
それじゃ頑張れよー、なんていい加減な応援を残してリンドウは医務室を去っていった。ちくしょう、覚えてろ。
翌日、目が覚めた俺は医者に一言告げて自室へと戻った。
医務室とサカキ博士のラボは同じ階、というかすぐ隣にあるので今行ったほうが手間が省けるのは分かっていた。
だけどやはり後回しにしたくなってしまうのは仕方の無いことだと思う。
区画移動用のエレベーターのボタンを押し、新人区画へと降りる。
フェンリルへ入隊してからそこそこ経つし、実際何度かベテラン区画への部屋移動も提案されたのだが荷物やらなにやらを運ぶのが面倒だったりするので未だに俺の部屋は新人区画にある。
別にそれで困っていることもないし、特に問題はないのだ。
「お、ソーマ」
「…ソウキ」
新人区画で降りると、そこには普段なら見かけない珍しい人物がいた。
自販機前の椅子に座って缶ジュースを飲んでいたのは他でもないソーマ。
「あ、なになに、もしかして俺を心配して?優しいなぁソーマはっ」
「はっ…神機をぶっ壊した奴のマヌケ面を拝んでやろうと思っただけだ」
それを言われると俺には返す言葉がない。
うっ、と言葉につまり肩をがくりと落とす。
「そうなんだよな…まさかさ、あんな風に壊れるなんて俺も思わねぇし。どうしよ、神機が無かったら俺…」
もうゴッドイーターとして戦えなくなるのだろうか。
守るために掴んだ刃を失ってしまっては、もう自分には何も出来ない。
落ちこんで項垂れる俺の肩をソーマが軽く叩いた。
「考えこんでも仕方ねぇだろ。
適合する他の神機が見つかるまで、待つんだな」
そんな言葉もソーマなりの励ましだと分かったので俺は顔を上げる。
出会った当初はこの物言いにカチンときて喧嘩したこともあったが、長い付き合いになれば結構分かりやすい奴なのだ。
「ん、そうだよな…とにかく今は命が助かっただけで良しとするか!
あー、腹減ってきた…丁度良い、飯食いに行かね?」
「…単純なヤツだな」
「仕方ないだろ、そういう性格なんだから」
そう言って、今降りてきたばかりのエレベーターを再び呼ぶ。
アナグラ内は様々な施設が複雑に絡み合っている。いくつもの階層に別れ、それぞれが様々な通路で繋がっているアナグラ内だが、主な施設への通路はエントランスに集約されている。
食堂ももちろんその一つで、ここフェンリル極東支部に所属している職員や神機使い達は大体がここで食事を取るのだ。
エレベーターが目的地に着いたことを知らせ、ドアが開く。
「げ、リッカ…!」
開いたドアの向こうに立っていたのは、タンクトップを着たいかにも作業員、といった感じの少女だった。
「あ、ソウキ!!」
相手もこちらに気付く。その瞬間、彼女から怒りのオーラが湧き出すのに気付いた。
「キミねぇ!アタシが丁寧に整備した神機を粉々に…!一体どうしたらあんなふうに破片も残らず壊せるの!?」
「わ、悪いリッカ!だけど俺にも本当に訳が分からなくてだなっ」
ずずいと詰め寄られ、想像していた通りに怒られる。今までも無茶な使い方をして神機をボロボロにした事はあった。そのたびリッカには怒られてきたのだ。
しかし今回ばかりは自分でも訳が分からないのだ。あんな風に神機が壊れるのを見たのは初めてだった。
「そのくらいにしてやれ。
俺も見たが、あれは普通の壊れ方じゃなかった」
さすがに不憫に思ったのか、ソーマが助け舟を出してくれた。
「そうなんだよ!今回は俺も変な使い方はしてない!絶対!誓って!
その件でサカキ博士にも呼び出しくらってるくらいだし!」
以外にもソーマから言葉があったのと、サカキ博士からの呼び出し、が効いたのかリッカはとりあえずそこで追求をやめてくれた。
何か分かったらちゃんと教えること、という約束をして彼女は整備班へと戻っていったのだった。
「うう…気分が重い」
ソーマと食事をした後、ソウキはラボの前へと来ていた。
もちろんサカキ博士からの呼び出しなのだが、今すぐ逃げ出したい気分である。
「腹くくれ俺…!!行くぞ!よし!
失礼しまーすっ」
勢いに任せてドアの開閉ボタンを押した。
ピピ、と電子音が鳴ってドアロックが外れ、するりとドアが開く。
「おお、来たね。予想よりも1920秒も早い。上出来だ」
「じゃあまた1920秒後に来ます」
部屋に入るといつものように、正面の端末前で読めない笑みを浮かべる博士がいた。
秒数なんてどうでもいいが、とにかくなにかしら口実をつけてここから逃げてやろうと、入ってきたドアへと振り返ったのだが。
「ああ、ドアはロックしてあるからね」
くるりとドアを向いた背中に、絶望的な一言が飛んできた。
仕方無しにのろのろと振り返るといつの間にこちらまで来たのか、超至近距離に博士が立っている。この人、ある意味アラガミより怖いかもしれない。
「さて…君が壊した神機の事だけれど」
博士の声が急に真剣になったので、思わず俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「お、俺にもよく分からないんです、特に変な使い方したわけでもないし…っ」
「それは君と任務にいった他のメンバーからも聞いているよ。
攻撃しようとした武器が敵に触れた瞬間、粉々に砕け散ったと。そして破片すら残らず霧散したという事だね」
博士が何かを取り出して見せた。一見ただの短い棒のように見えたそれは、間違いなく自分の神機の柄の部分だった。
「それ…!」
「うん、君の神機だったもの、の残りだね。
一応調べてみたんだが…ここからは何も分からなかった」
博士はもう一度詳しくその時の話を聞きたいと言って、だけど俺に話せることはほとんど無いも同然だった。
「原因って…分かるんですか?」
「そうだね、簡潔に言えば現時点では不明、だね。
君も知っての通りオラクル細胞…そして神機もまた、未だに分からない部分が多い。
神機というものは人工的な制御を加えられたコアを持つ、一種のアラガミである…というのは君も知っているとは思うんだが」
「あの、とりあえず分かりました。博士にも不明って事ですね」
これ以上聞いていたら頭が痛くなりそうで、長々と続きそうな話を途中で切った。
「まぁ、私の中で可能性として考えられる要素はある。それはつまり、寿命、だね」
「寿命…?」
博士いわく、オラクル細胞やそれを統率するコアを生物とするならば、そこに寿命が存在してもおかしくはないと言うのだ。
それが人工的に作り出されたアラガミともいえる神機であるなら、尚更。
正直なところ専門用語飛び交う説明は理解が出来ないので自分の中で勝手に要約したのだが。
「えぇと、じゃあ俺はこの辺でお暇して良いですかね…」
なんだかここに自分がいる意味が無くなってきた気がする。
それならばもう出ていっても良いだろうと退室を申し出たのだが。
「おやソウキ君。私の話はここからが本題なんだがね」
やだもうこの博士。
相変わらず至近距離に迫ってくる博士から逃げようと後ずさりしながら俺は再びため息をついたのだった。