空にサヨナラ
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「あーもう!わっかんねぇなぁ…」
自室にあるターミナルを半ばやけくそ気味に蹴りつけてソウキは頭を抱える。
先日のサクヤとの一件の後、様々な方向に探りを入れてはみているのだがなかなか有力な情報は得られない。
ただ明らかに不自然なのは、あの日の任務履歴がデータベースからきれいさっぱり消されていたことだ。少なくともこれで一連の出来事が『普通でない』ことが分かった。
「一般神機使いの権限じゃな…限界か。やっぱり…」
そう小さくソウキは呟くと、足早に自室を後にしたのだった。
「ふふ…ちょっとしたコネを使えばこのくらい余裕なんだよ…!」
なぜか得意そうな表情で荒廃したビルの屋上にソウキは立っていた。
埃っぽい風が吹き渡るそこからは贖罪の街が眼下に広がっている。
「バレたらちょっと困るけど…ま、なんとでも言い訳できるか」
帰還中に民間人をみかけたー、とかなんとか言って。
そう誰に言うでもなく零すと、ズボンのポケットから薬品の入ったアンプルを数本取り出す。そしてそのうちの一本を開けると中身を飲み干した。
「…相変わらず好きになれない味だな」
空になった容器を微妙な表情で見つめると、残りのアンプルと一緒にポケットへ戻した。
偽装フェロモンはアラガミからの注意を引きにくくする薬品で、本来なら遠距離から狙撃するスナイパーなどが使用する。もしくはこのような偵察の際にも使えるものだが、逆に言えばそういう時以外にはあまり使い所がない。
「どうせ痕跡なんてもう何も残ってないだろうけど。…犯人は必ず現場に戻ってくる」
この前コウタに付き合って見ていた旧世代のドラマでそんな台詞があった。影響された訳ではないが、なるほどと思うところもあったのだ。
この場合の犯人はアラガミなのでその通りにいくかどうかは分からないが。
(あのヴァジュラ種、あれ以来発見報告もあんまないみたいだし…)
一度ここに現れたのだから、再び同じ場所に現れる可能性はある。
少なくともアテもなく無闇に探し回るよりは効率的だろう。
「とりあえず今は他の奴らに見つからないように…と」
正攻法でここに来ようとしたら、既に先行チームがミッション中だということで許可が下りなかった。
だからわざと贖罪の街付近の偵察に出て、そのついでとばかりに立ち寄ったという訳だ。他のチームが作戦行動中に無関係のチームが介入することは禁じられているから、誰かに見つかったらまずい。
先程飲んだ偽装フェロモンでアラガミはごまかせても人間はごまかせない。
(上から見渡せば楽かと思ったけど)
すたすたと廃屋の屋根やら屋上やらを歩きながら四方へと視線を巡らす。しかしアラガミはおろか何か動くものも見当たらない。
ソウキは少し間の開いた隣のビルへと軽々と飛び移り、下に目をやるとそこには。
「ん?」
建物の入口に隠れるようにぴたりと身を添わせ、神機を構える姿が見えた。
かなり距離があり、はっきりと確認は出来ないが特徴的な赤い神機が夕日を反射して光る。
「アリサ…?」
間違いなくそれはアリサだった。原隊復帰し、しばらくリハビリがてら簡単な任務を受けていたとは聞いていた。しかし実戦にもう参加していたとは。
(まずい、このままじゃ!)
アリサの奥、側面の壁に大きく穴のあいたビルからヴァジュラがのそりと姿を現した。それに気付いている様子のアリサは周囲を見渡し物陰から飛び出した。神機を向けるものの、照準は定まっていないように見える。
「間に合うかっ…!」
自分が感応現象で見たもの、そしてその後サクヤから聞いたのは、アリサは昔両親をヴァジュラ種に喰い殺された事がトラウマになっているという話だ。
それなら、まだ復帰して間もないアリサがヴァジュラを前にして身がすくんでしまうのは仕方ないのかもしれない。
これを乗り越えられるか、もしくは今まで見てきた仲間のように心折れてしまうか――
様々な思いが一瞬で脳内を駆け巡ったが、今はそんなことを考えている暇はない。
すぐさま神機を銃に変え、ソウキは銃口をヴァジュラへと向けた。
射程距離の長いレーザータイプのバレットを装填したとはいえ、正直言ってソウキは銃が苦手だ。苦手というかもう下手くそ、と言ってもいいかもしれない。
ヴァジュラが高々と咆哮を上げたのが風に乗って微かに届く。
次の瞬間、一発の銃声が辺りにこだました。
「・・・はぁ」
大きなため息をついてソウキはゆっくり神機を降ろした。
視線の先には、倒れ伏すヴァジュラと地面にへたりこむアリサ。
結局あの瞬間にソウキが引き金をひくことはなかった。
というのも、急に角を曲がってアリサへと走り寄る人影が現れたからだった。
背後から飛び掛かってくるヴァジュラに気付いていなかったのか、無防備なその様子にソウキは自分の銃撃の腕と誤射の可能性を考え、攻撃を躊躇ってしまった。
結果、アリサがヴァジュラにバレットを撃ち込んでとどめをさした。
これで少しは彼女のトラウマが軽くなればいいのだが。そう思いながらぼんやりとソウキはアリサに走り寄る仲間の姿を見ていた。どうやら第一部隊が任務に来ていたようだ。
「…見つかる前に帰るか」
顔見知りな分、見つかる可能性も高そうである。いくら離れたビルの屋上にいるとはいえ、遮蔽物もないので向こうからもまる見えだろう。
そのまま探索を続ける気分にもなれず、元来た道を引き返す。無理を言ってここまで連れてきてもらった顔見知りの操縦士に礼を言って、ソウキはヘリに乗り込んだ。
騒がしいヘリの騒音の中、考えるのはやはり不可解な一連の出来事の事ばかりだった。
もしも全てが偶然と自分の深読みであれば一番良い。そうならば不幸な事だと割り切って忘れてしまえばいいのだ、今までのように。
答えの出ない思考を巡らすうち、ヘリはアナグラへと到着した。
「帰ったか、ソウキ」
帰還して真っ先に出迎えに来たのはツバキだった。彼女がこんな場所にまで出てくるのは珍しい、と少しだけ驚く。
まさか、寄り道がばれたのだろうか。
「…まだ、正式な決定がおりた訳ではない」
いつも必要な事だけを簡潔にはっきり述べるツバキにしては少し変な、どこか躊躇うような口ぶりだった。
ソウキは無言で先を促した。ヘリの格納庫からそう離れていないここでは、整備士たちの声やエンジン音が微かに届く。
「だが、まずお前に意思確認を取ろうと思ってな。
――ソウキ、お前に第一部隊隊長へ昇進の話が来ている」
ここでの神機使いとしての歴も長い、ソーマのように問題行動が目立つ訳でもない。お前の昇進は極当たり前にも思える。
そうツバキは告げた。
「そう…ですか。少し、考えさせて下さい」
「ああ。焦らなくていい。まだ、正式な決定と言うわけでもない」
「はい。でも・・・いや、なんでもないです。失礼します」
小さく一礼し、ソウキは足早にその場から去る。
通路の角を曲がって消えたその背中を静かに見送ってから、ツバキもまた後を追うようにしてそこを立ち去ったのだった。