空にサヨナラ
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事態は進展を見せないまま日々は流れ、ソウキのイライラは日増しにつのっていく。
そんなある日、第一部隊のメンバーはツバキに召集されエントランスに集まっていた。
「嘘、だろ?リンドウの捜索が、打ち切り…!?」
「まだ、腕輪も神機も見つかっていないんですよ!?
それなのに…!」
ツバキからもたらされたのは、アリサが快方に向かいつつあるという事、そして、絶望的な知らせだった。
リンドウを消息不明、除隊として扱う。
腕輪のビーコン、生体信号共に消失が確認。
誰も認めたくなかった事実が、改めて目の前に突き付けられた。
それを告げたツバキ自身も自らの感情を押し殺したような、固い表情のままその場を離れる。
サクヤは普段からは想像もつかないほど取り乱し、ソーマもまた苦々しそうな表情で立ち去ってしまった。
「俺は…皆、やれることはやったと思ってるんです」
意外にも冷静さを保っていたのはコウタで、彼もサクヤを追ってエントランスから出て行った。
残されたのは、ソウキとシュリだけになった。
「…俺は、何も出来なかったんだ」
「ソウキさん…」
「一緒にいたのに…あの時アリサの様子がおかしいに気付いてたのに。なのに、俺は」
ぎり、と爪が皮膚を破りそうになるほど強く拳を握りしめる。
今更悔やんだところで何が変わるわけでもない。それでも、自分の無力を責めずにはいられなかった。
「あの時なにがあったのか、自分で調べるしかないな。
…シュリちゃん」
「はい」
「アリサに…話を聞きに行こう。あの日アリサに何があったのか…俺は誰がなんと言おうと、アリサがあの状況で理由もなしにあんなことをしたなんて思えない」
「私も、です」
絶対になにかあるはずだ、そう呟いてソウキは歩き出した。
「…とはいえ、肝心のアリサがなぁ」
幸いオオグルマに会う事もなく医務室までやってきたソウキ達は、アリサの眠るベッドの脇で困ったように立ち尽くす。
シュリの感応現象で昏睡状態から意識を取り戻したアリサだったが、その後もアリサはこんこんと眠り続けていた。
「無理に叩き起こす訳にもいかないし…」
「ソウキさん、あの」
シュリからの提案は再度の感応現象を起こす、というものだった。
勝手に人の心の深い所を覗いてしまう事になるかもしれない。躊躇いはあるが、それしか手立てはないかもしれないという結論に至った。
もしも感応現象が起きるなら、あの時のアリサに何が起こったのか分かるのなら。
そしてまた自分達の思いも伝わるならば、絶対にアリサを信じている、それを伝えたい。
「でも俺、この前なにも起きなかったしな…なにか特別な事でもした?」
「いえ、こうやって触れたら、それだけで」
シュリがソウキの手を軽く握った。二人の間で感応現象は起きない。
「案外、二人で手繋いだままだったら上手くいったりして…――っ!?」
軽い冗談のつもりで、ソウキは空いている手で布団から出るアリサの手に触れてみた。
その瞬間、視界が真っ白に弾けた。そしてまるで映画でも見ているように、とある場面が映る。
目で見ている訳ではない。直接頭の中に映像を叩き込まれるような感覚。
小さな女の子が、暗くて狭い場所にいる。きっとこれはアリサだろう。
隠れんぼでもしているのか、外からは彼女を探す声、そして薄く開いた扉の隙間から見える男女の姿。その姿を見つけたアリサの心は喜びを感じる。しかしそこに聞こえる音に不安そうな声が混じり、そして。
その男女は、扉から外を覗く幼いアリサの目の前で、アラガミに喰われていった。
画面が暗転し、次は殺風景な場所と見覚えのある装置。
強い力を持ってアリサに浴びせかけるその声は支部長のものだろうか。
腕輪の装着機に手を差し込み、その痛みにアリサは悲鳴を上げる。
そんなアリサの中に満ちるのはアラガミに対する激しい怒りと、力を得られた事への暗い喜びだった。
白い部屋、消毒液の匂い、目の前に次々と表示されるアラガミの画像。
ねっとりと鼓膜に絡み付くような声が言葉を紡いでいく。
これらがアラガミ…怖い怖い、アリサの敵なのだと。
霞みがかる思考の中ではその声と画像だけが全てだった。
「最後にコイツが…」
画面が切り替わり、次に映し出されたのは紛れも無い、リンドウの姿だった。
「君のパパとママを食べちゃった、アラガミだ」
その声が思考をからめ取る。
そうか、これがパパとママを食べたアラガミか。これに向けて引き金を引く。簡単なことだ。
「один・два・три…」
魔法の呪文、強くなれる呪文、引き金を引ける呪文。
ああ、これで私は、パパとママの敵が討てる――
「っ!!」
それは唐突に終わりを告げた。
自分もシュリも立ったままで、ひどく長く感じたのはほんの一瞬の事だったのだろうか。
ふと目を落とせば、アリサがゆっくりと目を開ける所だった。
今のは一体。
アリサの記憶、そこに見過ごせないこの事件の片鱗を見た気がする。
「っ、ごめんシュリちゃん、アリサの事頼む」
アリサが何か言おうと口にするより早く、ソウキはそれだけ告げて部屋を飛び出していった。
医務室を出たソウキは足早に自分の部屋へ戻ると、ずるずると壁を背にへたりこんだ。
先程のアリサとの感応現象、そこで見た光景は衝撃的なものだった。
間違いない。アリサは誰かの手によって催眠をかけられていた。
そしてリンドウを暗殺するために使われたのだ。
リンドウは優秀な神機使いで、アラガミに対する貴重な戦力だ。そんな彼をただ殺して、得をするものは恐らくいない。
それならば、何故リンドウは殺されなくてはならなかったのか。しかもアリサという仲間を利用して、事故に見せかけてまで。
考えられるのは、これを企てた誰かにとって不都合な何かを、リンドウに知られてしまったということ。つまりは口封じ。
しかしリンドウは自分に対しても、他人に対してもかなり鋭いところがある。自分が殺されそうだということに気付かない訳も、その可能性を考えなかった訳もない。
「あいつなら、絶対…」
何か手がかりを残すはずだ。
リンドウは何を言っていた?あの時、最後にリンドウは何を…
『配給ビール、取っておいてくれよ』
ただの軽口にも取れる。だが、あの状況での一言、しかもリンドウが自分の命を狙う誰かの存在を知っていたとしたらそれはきっと大きな手がかりになる。
「ビールを取って置くのは…サクヤさん」
今しがた入ったばかりのドアを、ソウキは再び開き外へと飛び出す。
サクヤならなにかを知っているかもしれない。
「留守、か?」
サクヤの部屋の扉を叩くが返事はない。
居ないのだろうか、何気なく手をかけると扉はするりと開いてしまった。
「誰!?…あぁ、ソウキか」
「勝手にすいません。ノックしたけど返事がなくて…」
「いいのよ別に。それより、なにか用かしら」
ノックにも気付いていなかったのだろうか、サクヤはひどく驚いた様子だった。
ソウキが部屋の中へ一歩足を踏み入れると、サクヤは操作していたらしいターミナルの画面を閉じてしまう。
「ちょっとサクヤさんに聞きたいことがあって」
「なにかしら。答えられる範囲なら、何でも答えるわよ」
「じゃあ遠慮なく……サクヤさん、リンドウの残したものとか伝言、なにか知りません?」
「・・・いいえ?そういったものはなにもないわ」
一瞬の沈黙の後、サクヤは答えた。しかしその瞳が僅かに揺らいだのをソウキは見逃さない。
「そうですか…」
その返答は予想の範囲だったが、わざと落胆したようなそぶりを見せる。
サクヤに礼を述べ、部屋を出ようとしたソウキの背中に問いが投げ掛けられた。
「…ソウキは、なんでそんなこと聞こうと思ったのかしら」
「俺は、この一連の出来事になにか作為的なものを感じてる…つまりそういうことです」
失礼します、と言って今度こそ部屋を出る。呼び止められる事は無かった。