空にサヨナラ
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結局、贖罪の街ではなにも見つける事は出来なかった。迎えにきた帰りの装甲車に揺られながら、ソウキは心の奥でちりちりとくすぶるような違和感と疑念を抱いていた。
やがて車はアナグラへと到着し、神機をメンテナンスへと出してソウキはゲートを抜けてエントランスへと入る。
なにも成果は得られなかったが、とりあえずツバキへ報告するか、とヒバリに居場所を聞こうとした時。
「うぉっ!?」
「きゃっ!」
エレベーターから慌てて降りてきた様子のシュリがぶつかってきた。こんなに焦るなんて何かあったのだろうか。
「す、すいませ・・・あ、ソウキさん!」
「どうしたの、そんなに慌てて」
「探してたんです、聞きたい事があって…!」
「わ、分かった分かった…ちゃんと聞くから少し落ち着こう、な?」
ぽんぽんと肩を叩いてやれば、やっと落ち着いたらしい。
どうやらあまり人に聞かれたくない話らしく、二人はエントランスの端、人気の少ない場所へ移動した。
「さて。何があったのシュリちゃん」
「アリサの、事なんですけど」
「ああ…まだ目が覚めないんだっけか」
「それなんですけど、実は…」
語られたのは不思議な内容だった。
意識のないアリサにシュリが触れた瞬間、映像のような物が頭に流れ込み――そしてアリサは目を覚ましたのだという。
「私も良く分からないんですけど…同じ新型だし、もしかしたらソウキさんもそういう事、あるかなって…」
「残念ながら、俺にはないな…それにほら」
そう言いながらおもむろにソウキはシュリの手を取った。
いきなりの行動に少し驚いたようだが、振り払われる事はなく内心ソウキはホッとする。
「こうしても何もないだろ?今までもそんなこと無かったし…」
思い出す限り、シュリが言うような現象を体験したことはない。
しかし嘘をつくような理由もないので、彼女が言っていることは事実なのだろう。
「そう、ですよね…オオグルマ先生も驚いてたみたいですし」
「…驚いた?」
「はい。アリサが目を覚ましたの見たら、『まさか』とか言って慌てて病室を出ていっちゃって」
意識のないアリサが目を覚まして、喜ぶなりすぐさま検査をするのならまだ筋は通る。
しかし、慌てて部屋を出て行くなんていうのは少々おかしい気がする。
あの医者は、アリサに付き添ってわざわざロシアから同行までしてきたらしく、アリサからの信頼もある。
それなのにやっと目覚めたアリサを放っていくとは、よっぽどの事でもあったのだろうか。
「あの、ソウキさん?」
「あ、ああごめん。考え事してた」
「えっと、ソウキさんにもアリサの様子、見に行ってもらえればって…」
考えごとに集中していたあまり、シュリの話を聞いていなかった。名前を呼ばれてやっと話し掛けられていたことに気付く。
「そうだな…俺にはその現象については分からないけど、一度アリサの様子を見にいきたいとは思ってたんだよな」
なにやら不安そうな表情の消えないシュリに、そう言って笑ってみせれば、つられたように少し笑顔を見せる。
「善は急げ。早速行ってみるか」
とりあえずツバキへの報告は後回しにしよう。
シュリに別れを告げ、ソウキは病室へと向かった。
全体的に白く、消毒液の匂いがする。
その部屋のベッドの上でアリサは静かに眠っているようだった。
意識を取り戻したと聞いたが、一瞬の事だったのだろうか。
ソウキはじっと自分の右手を見つめ、そしてアリサにそっと触れてみた。
「・・・・・」
しかし、シュリの言っていたような現象は全く起こらなかった。なにか条件でもあるのだろうか。
「おや?君は…」
「っ!!」
急に後ろから声をかけられ、特に後ろめたい事をしたわけでもないのにびくりと体をすくませてしまった。
「…オオグルマ先生」
「ああ、確かアリサと同じ部隊の」
「空夜ソウキ、です」
「ソウキ君か…もしかして、旧型から新型使いになったという?」
「えぇ、まあ」
非常に稀なケースだ、新型神機の研究者としてはぜひ今度ゆっくり話を聞きたい、などと親しげに話しかけてくるオオグルマに、ソウキは差し障りのない返事を返す。
医者だというには少々身なりがそぐわない気もするが、その気さくな様子は特別悪人とも思えない。
しかしソウキはこの人物が初対面から苦手だった。人当たりの良さそうな笑みを浮かべるその裏に、何かを隠し持っているような気がするのだ。
そしてそれは先程聞いたシュリの話でさらに濃くなった。
「君もアリサの見舞いかい?さっき少しだけ意識を取り戻したが…また眠ってしまったみたいだ」
「そうみたいですね。そういえば、やっぱり同じ部隊のシュリって子がアリサに触れたら意識が戻った、とかって聞いたんですけど」
「え?あ、ああそうだな。確かにそうだ」
僅かに同様したオオグルマに更に探りを入れようとソウキは口を開く。
「オオグルマ先生はなにかご存知ですか?」
「そうだな…ふむ…断言は出来ないが、新型同士の間に稀に起こるとされる現象ではないかと…」
「稀に起こる?」
「新型という存在自体が今は少ないもので、はっきりとは分かっていないんだよ。
…一部では『感応現象』と呼ばれているが・・・ああ、すまないがそろそろ検査の時間だ。また、日を改めて来てもらえるかな」
やんわりと、しかしはっきりと拒絶を示される。それはまるで、何かを隠そうとしているようで。
しかしそんな事は顔にもださず、ソウキは頷いて立ち上がると病室を出たのだった。
「感応現象…か」
自室に戻ったソウキはソファーに座り一人考え事をしていた。
シュリから聞いたオオグルマの不可解な言動、なかなか目覚めないアリサ…しかしこれだ、というような答えは見つからない。
よく考えてみれば、この一連の出来事は全てそうだった。
明らかな違和感、不自然さを感じさせるのに、それらを1つに繋ぎ合わせる共通点は見つからない。
「くっそ…!」
まとまらない思考にイライラし、思わず悪態をついて目の前にある机に拳をたたき付ける。
飲み終わったまま放置されていた空き缶が騒々しい音をたてながら床に転がった。
「このままじゃ…何も分からねぇ…っ!」
真実を解き明かすには情報が足りない。かといってその情報を集めるための力も、そしてあの時リンドウを守れるだけの強さも、自分には無かったのだ。
「どうすりゃ…いいんだよ……」
震えるソウキの声を聞く者は、誰もいなかった。