空にサヨナラ
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「たっだいまー」
ゲートを抜けてエントランスへ入る。任務で大半の人数が出払っているのか、そこは閑散としていた。
「うう、鉄塔の森って湿度高い上に水場多いんだよな…あそこ行くと大体服が濡れる」
ソウキが愚痴りながら受付の方へと歩きだそうとした、その時。
「ソウキさん」
「ん?アリサどうした」
「任務の報告は私がします。まず医務室へ行って下さい」
「え、でも俺一応リーダーだし」
「…怪我人はさっさと治療に行って下さいと言ってるんですっ!」
「はっ、はいぃ!」
その迫力ある怒声に、思わず反射的に返事をしてしまった。アリサはといえば何故か満足そうな顔をして受付へと歩き去ってしまう。
「…おーおー、威勢のいいこって」
「リンドウ」
タバコをくわえたまま、器用にリンドウが声をかけてきた。どこか楽しそうな様子でアリサの背中を見送っている。
「しかし、アリサがあんな態度で誰かに接してるなんて初めて見たぞ」
「マジで?」
「ああ…俺と任務出たときとかはもっと、事務的というか」
「へぇ」
「…なぁソウキ」
その声がふと真剣味を帯びて、ソウキはリンドウを見た。
「もう一人の新型にも頼んだんだが…同じ新型のよしみだ、アリサの事、頼むな」
「頼む、ねぇ」
「俺にもよく分からんが、どうも精神的に少し不安定らしくてな」
短くなったタバコを携帯灰皿で揉み消しながら、リンドウが言う。
すぐに新しいタバコを取り出し火をつけた。
「そんなわけで、気にかけてやってくれ。な?」
「…ま、言われなくとも、って感じだけど。
じゃー俺、医務室いくわ。アリサにまた怒られたくねぇしな」
そう零すと、リンドウが俺を眺めまわした。そして布を巻いてあった左足に目を止める。そして、今気づいたとでもいうような驚いた顔をした。
「お前、怪我してたのか」
「名誉の負傷ってヤツ…ってさっきのアリサの声、聞こえてただろ」
そういやそんな話だったか、とリンドウは記憶を遡っているようだ。
ついさっきの話だぞ、とソウキは心の中でツッコミを入れる。
「ソウキも無理するんじゃないぞ」
「急になんだよ」
「いや?なんとなく…言っておかないとな、と思って」
「適当だな…」
少し動いて、壁によりかかった。怪我した足を庇っていると立っているだけでも疲れてくる。
「ま、俺にも俺の信念があるし。悪いけど上官殿の命令より自分の信念が優先かも…たとえそれがお前の言う、無茶な事でもな」
す、と目を細めてソウキはリンドウを見遣る。
大体、他人に無茶するなーとか言う張本人が、たいてい一番無茶をしている事が多い。
俺を心配してくれているのは分かっているが、譲れない物があるのも確かなのだ。
リンドウはそれに対して何も答えず、ただ静かに全てを見透かすような、見定めるような視線を向けてくるだけだ。
常にふざけたようなポーズをとり、飄々とした態度を崩さないが実際のところ敵には回したくないタイプかも、なんてそんな事を考える。
「そんな訳でアリサの事は頼まれた。俺の事も…まあ善処しとく」
注がれる視線を振り払うかのように、ソウキは壁から背を離して歩み出す。
エレベーターに乗り込み閉まるドア越しに、ため息と共に煙を吐き出すリンドウの姿が見えた。
エレベーターが目的の階についた事を知らせ、扉が開く。
ソウキは軽く足を引きずりながら医務室までたどり着いた。入口についている開閉用のボタンを押せば、滑らかにドアが開く。
「すいませーん、怪我したんですけど…げ、いない」
医務室には誰もいなかった。ベッドのカーテンも全て開けられている。
机の上には呼び出し用の電話があるが、もし休憩中ならわざわざ呼び出してしまうのも申し訳ない。
重傷と言うわけでもないし、しばらくここで待つか、とソウキは手近な椅子に腰を下ろした。
「・・・戻って来ねぇな」
待つのにも少し飽きてきた頃、背後のドアが開く音がした。
しかし振り向いたその先には、違う人物が立っていた。
「ソーマか…」
「ソウキ?」
ここに自分がいることが意外だったのか、珍しくソーマが驚いた顔をしている。
「…なにしてるんだ」
「え?見ての通り怪我の手当に。先生待ちだけど」
戻ってこないし自分で手当するかなー、とソウキは言いながら立ち上がる。
薬品棚の前に行くと、中に入っているビンのラベルを眺めだした。
「呼びだせばいいだろうが」
「消毒液どれだ・・・や、なんか呼び出すのも悪い気しねぇ?」
「はぁ……おいソウキ。そこ座れ」
「だっ!いだっ!苦しっ!ちょ、俺ケガ人なんだけどっ」
ソーマに首根っこを掴まれ、ぐいっと引っ張られた。衿が締まって苦しいので抗議したが聞き入れられず、先程まで座っていた椅子に無理矢理座らせられる。
「ったく…なんだよ急に…」
そう呟いてソーマへと視線を向けると、意外な光景が目に入った。
棚の前に立つソーマは迷うことなくガラスのビンを取り出す。そして更に手際よくガーゼや包帯やらを準備した。
「足」
「へ?」
「怪我してんだろうが。足、出せ」
「あ、ああ」
座ったまま足を投げ出し、ズボンをめくりあげて足を出した。露出した傷を見て、ソーマが眉をしかめる。
「どうした、これ」
「庇おうとして飛び出したらグボロの牙にひっかけて切った」
そう告げると、再度ため息をついたソーマの手が傷に伸びる。
「ぎゃっ!い、痛いっ!しみるっ」
「…我慢しろ」
傷に触れられるのかと身構えた瞬間、ひやりとした感覚と痛みが襲ってきた。血が止まったとはいえ、まだ傷は塞がっていない。
ソーマが消毒液を傷口に思い切りかけて、流れ落ちた分や傷周辺の汚れをガーゼで拭って行く。その手つきは予想以上に慣れていた。
「………」
「なんだ」
「手際が良すぎて驚いてる」
自分の怪我は自分で始末するからな、ソーマは小さくそう言うとまた手当に戻ってしまった。
消毒を終え、清潔なガーゼを傷口にあてがい包帯で少しきつめに巻かれる。
「とりあえずこれで良いだろ。心配なら後で診てもらえ」
「いや、これで十分すぎる。最悪、唾つけときゃ治るかなって思ってたし」
「・・・お前な」
呆れたようなソーマの視線に、苦笑いで返す。
実際のところ、任務中であればのんびりと治療をするわけにもいかず、応急手当だけという事が少なくない。
それでも神機使いは普通の人間よりは治癒力が高いのでなんとかなるのだ。
「その怪我…庇ったとか言ってたか」
「ああ、言ったな」
ソーマからの質問に、巻いてもらったばかりの包帯を眺めながら返事を返す。
「相変わらず、アホだな」
「おま…アホってなんだよアホって」
「…庇わなきゃならないようなヤツは放っておけばいい。それで自分が死んだらどうする」
「んー…本望、かも」
思わず零してしまった本音に、ソーマの目が細められるのが見えた。
そこには嫌悪にも似た色が滲んでいる。
「そんな顔するなって。
仕方ないだろ、それが俺の信念…みたいなもんなんだよ。ってさっきリンドウにも同じ様な事言ったぞ俺」
茶化すようにそう言って、ソウキはゆっくりと立ち上がる。
「…手当さんきゅ。助かった」
じゃあな、とひらひらと手を振ってソウキは医務室を出ていく。
部屋に残されたソーマは、閉まったドアをじっと睨みつけていた。