空にサヨナラ
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「ソウキ~~」
「うぉ!?」
エントランスのターミナルを操作していると、いきなり誰かに後ろから勢い良く飛びつかれた。
その勢いで手元が狂って変な所を押してしまう。
「なんだ、タツミ…ってぎゃー俺のメールがぁぁ!」
「なんだとはなんだ、なんだとはっ」
「うう、仕方ないやり直すか…はいはい、それでどうしたー?」
抱き着いたまま耳元で騒ぐタツミはとりあえず無視して、ターミナルの操作を再開する。
入力途中だったメールは、先程の操作ミスで綺麗に消えてしまっていた。
「お前も新型だろー新型繋がりでさーあの子なんとかしてくれよ」
「あの子?あー…もしかしなくてもアリサか」
あの子と言われて一瞬、もう一人の新型である少女が頭に浮かんだが、タツミがわざわざ自分に話を持ち掛けてきた事を考えれば、今はアリサしか浮かばない。
「おう、防衛班の任務について来てもらったのは良いんだが、ちょっとなー…」
つい最近第一部隊全員が集められ、そこで初めてアリサを紹介された。俺がまともにアリサと顔を合わせたのはそれきりだ。
リンドウがペラペラ喋っていたので俺は知っていたが、その頃にはもう、アナグラはまた配属される新型の噂で持ち切りであった。どこから話が漏れたのかは分からない。
しかし初対面からアリサはどうも他人に馴染まない…というか馴れ合うのが嫌いなのか、態度は硬いままで。
歓迎ムードだったコウタに対し、浮ついた考え、と一蹴したアリサ。あの瞬間の固まったコウタの顔にはちょっと笑った。そしてめげずにその後も話し掛けるコウタには少し尊敬した。
「悪い子じゃないとは、思うけど」
「俺もそう思う。あの歳で戦術理論をあそこまで理解してるのはすごいと思うが…防衛はまた違うんだよな」
「…まぁ、民間人の保護が最優先だもんな、防衛は」
「そうなんだよ!さすがソウキ!」
タツミがバシバシと腕を叩いてくる。地味に痛い。
俺も防衛班に一時期いただろ、とぼそりと呟けばそうだそうだと言いながらまた叩いてきた。
「ま、配属されたばっかりだし…新型っても色々あるのかもしれないな。俺もちょっとキツく言いすぎたかもな…」
ため息を1つ、タツミが俺から離れる。そしてちょうど消えたメールも復元できた。
「メール完了っ…と。あ、俺これからアリサと任務なんだわ」
「え、そうなのか」
「ああ。ちょっとまあ…色々気にしておく」
そうタツミに言えば、そうしてやってくれ、と安心したような笑みを浮かべた。
タツミも面倒見が良いやつだから、アリサのことが少なからず心配だったのだろう。
「…出発時間まであと10分ありません。こんなところで、何をしているんですか?」
不意に、呆れたような口調でそんな言葉が聞こえてきた。振り向けば少し苛立った様子のアリサが立っている。
「…あー、じゃあ俺はこの辺で。じゃあな」
そそくさとタツミは立ち去ってしまった。ちくしょう、逃げたな。
「悪い、ちょっとメールに手こずってな。準備は出来てるから…行くか」
そうして俺は、機嫌の悪そうなアリサと任務に出たのだった。
「場所は鉄塔の森。ターゲットは…グボロか」
アナグラを出発し目的地へ向かう車の中で作戦会議を行う。
「接近戦で俺が敵の気を引く。アリサは射撃で背ビレを狙ってくれ。あそこは剣じゃダメージ通りにくいからな」
「分かりました。
…しかし、まずは二人で遠距離からの狙撃を行った方が効率も良く、確実ではないでしょうか」
「んー、それはもっともだけど…俺、遠距離の扱い下手なんだよな」
はは、と笑えばアリサの表情が曇る。真面目そうな彼女にこんなことを言うのはマズかったか、と今更に思ったが時既に遅し。
「あなたは元々旧型だと聞きました。ですが新型に適合してから、練習をするだけの十分な時間はあったはずです」
アリサは苛立ちもあらわに、わずかに声を荒げた。
「苦手なのが分かっているなら、どうして克服しようとしなかったんですか?
神機使いとしての自覚が足りないと――っ…すいません、口が過ぎました…」
一気にまくし立てたアリサは、そこで我に帰ったかのように口を閉ざした。感情に任せて喋ってしまったことを後悔しているのか、俯いて何も言わない。
なんとも言えない気まずい雰囲気が車内を漂う。
「俺も、新型を使うことになったからには…とは思ってるんだが、なかなか上手くいかなくてさ。
だけどここには色んな技術に優れた仲間がいて…だから、それを頼るのも悪くないと思うわけ。ま、自分で扱えるにこしたことは無いだろうけどな」
「・・・・・」
「そういう訳で、俺の苦手な射撃については、仲間であるアリサにカバーしてもらいたい。いいか?」
「了解、です」
まだ完全には納得出来ない、といった様子ではあったがアリサは頷いた。
がたん、と揺れて車が止まる。どうやら鉄塔の森に着いたらしかった。
車を降りるとなにかの薬品のような鼻をつく臭いと、湿った空気が身を包む。
ソウキは少し離れた場所で神機の最終チェックをしているアリサをぼんやり眺めていた。
タツミにも言った通り、アリサは決して悪い子ではない。ただ、少し真面目すぎるのか、自分にも相手にも厳しすぎる気がする。
(どうしたもんかなー…)
新入りの新型というだけで、一部にはあまり良い感情を抱かれていないのはきっと本人も気付いているはずだ。
『新型』の肩書は妙に重い。
だからこそ、態度だけでも軟化させた方が良いと思うのだ。
(アリサならどっかのだれかさんよりよっぽど器用そうなのにな)
常に不機嫌そうな表情をフードの下に浮かべている人物がふと頭をよぎって、ソウキは小さく笑う。
「お待たせしました。準備完了です」
「…ん、はいよ。
さーて、お仕事始めますかね」
アラガミの地下施設の捕喰によって大部分が水没し、環境の変化によって緑化の進んだこの鉄塔の森では常に霧がかかっている。
普段は静かで水音だけが響くこの場所で、今は激しい戦闘の音が響き渡っていた。
「アリサ!今だ!」
「はいっ!」
ソウキの装備していたホールド効果のある刀身のおかげで、グボロ・グボロの動きがぴたりと止まった。
至近距離で相手を切り付けていたソウキは軽いステップでアリサのために射線を開ける。そこをすぐに雷属性のバレットがいくつも連続で通過して、背ビレを貫いていった。
攻撃に耐え切れなくなったのか背ビレの部分が砕けて結合崩壊を起こし、その衝撃からか大きく身をのけ反らせる。
「はぁぁぁっ!!」
「待て!アリサ!」
バレットを発射すると同時に、アリサは神機を素早く剣へと変型させて敵へ向かって走り出していた。
敵がホールド状態であるうちに一気に攻撃を仕掛けようとしたのだ。
「え…っ!」
しかしアリサが敵の元へたどり着くよりもわずかに早く、ホールド状態は解除されてしまっていた。
グボロ・グボロは怒りの咆哮を上げ、鋭い牙がずらりと並ぶ口を目一杯に開きアリサへと向けて食らいつこうとする。
敵の予想外の行動にアリサの判断が遅れる。しかし牙がその華奢な体を噛み砕くよりも一瞬早く、アリサの体は横に押し出された。
「……っ!!」
地面を転がる鈍い衝撃が全身に走り、アリサは自分が突き飛ばされたことを把握した。
同時に激しい光が辺りを包む。慌てて起き上がると、その目の前には。
「ソウキさん!」
左足を押さえ、うずくまるソウキの姿があった。足を押さえる手は赤く染まっている。
「っ俺は大丈夫、それより今だ!仕留めろ!」
どうやら先程の光はスタングレネードだったようで、視力を奪われたグボロ・グボロは激しくのたうちまわっていた。
アリサはすぐさま神機を構え、勢いよく地面を蹴り付け一気に距離を縮める。そしてその顔面にロングブレードを思い切り叩き付けて両断した。
ぐらりと巨体が揺らぎ、力無く地面へと倒れこんだ。完全に事切れたようで、ぴくりとも動かない。
「ふぅ…お疲れさん、アリサ」
しばし放心していたアリサだったが、その声にびくりと体を震わせ、振り向いた。
「…んで」
「ん?」
「なんで、私なんか庇ったんですか…!今のは完全に私のミスです!
あんな無茶な事をして、一歩間違えばあなたが死んでいたかもしれないんですよ!?」
命を助けてもらったという感謝の念よりも早く、アリサの心に浮かんだのは怒りだった。
敵の状態を見誤るなんて初歩的なミスはするほうが悪いのだ。それで命を落とすのは完全にその本人の責任である。
それなのにこのきょとんとした顔で座り込んだままの相手は、そんなミスを犯した自分を助けに飛び込んで来たのだ。
「ミスをした人間なんて、放っておけば良いじゃないですか…!下手したら、自分がっ」
「なあ、アリサ」
静かな声が自分の名を呼んで、アリサは言いかけた言葉を飲み込んだ。
「俺、言ったよな。アリサは『仲間』だって。仲間を守るのは、当然のことだろ」
「ですけど…っ」
「…神機を持つとき、俺は決めた。俺の手の届く範囲に助けられる人がいるなら絶対に助ける、ってな」
二人の視線が交錯する。
視線だけで会話が出来る訳もないが、お互いに何も言わなかった。
「…ま、任務は完了したしいつまでも座り込んでても仕方ない。戻ろうか」
神機を杖がわりにソウキは立ち上がる。いつの間にか傷口には布が巻かれていて、出血は止まっているようだった。
「・・・大丈夫、ですか」
「平気平気。飛び込んだ瞬間、アイツの牙に引っ掛けて切っただけだから。回復錠のおかげで血も止まったし」
ひょこひょこと左足を引きずりながら歩きだす。
アリサが肩を貸そうかと申し出たがそれは断った。実際、歩けない程酷い怪我ではなかったし、それで年下の女の子に肩を借りるのはさすがにプライドが許さなかったのだ。
「…ソウキさん」
後ろから声をかけられ、足を止めて振り返る。
「あの。…助けてくれて、ありがとうございます」
消え入りそうな小さな声でアリサはそういうと先に行ってますから、と言い残して早足で立ち去ってしまった。
残されたソウキは突然のことにしばらく目をしばたたかせると、やがて小さく笑い出す。
「ははっ…ほんとは良い子なのになぁ」
先を歩くアリサの背を見ながらソウキは呟くと、その後を追いかけるように歩き出したのだった。