空にサヨナラ
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穴だらけの建物を風が抜けて通る。荒廃したビル群の向こうに沈みかける太陽を見ながら、シュリはぼそりと呟いた。
「まだかなぁ…」
「遅いよなぁ」
「うん…」
それに答えたのはコウタで、彼もまた暇そうに神機をいじっていた。
「おかしいわね、もう時間なのに…」
「忘れてんじゃねぇのか」
心配そうなサクヤに、そっけなく返すソーマ。贖罪の街でのシュリを交えた初の合同任務だというのに、第一部隊の隊長である当のリンドウがまだ来ていないのだ。
「ま、まさか何かあったんじゃ…!?」
「それはないと思うわ、万が一そんなことがあれば私達にも連絡が入るはずだもの」
「…来たぞ」
不測の事態を想像し慌てるシュリをサクヤが宥めていると、ぼそりとソーマが呟いた。
「離せぇぇ!」
「まぁまぁそう言うなよ」
騒がしくやってきたのは、動物の親がそうするようにソウキの首根っこを掴んで引きずるリンドウと、じたばた暴れるソウキだった。
「あー、諸君。遅れて悪かったな。なにしろコイツが暴れるもんで」
「俺のせいか!?」
「今日も仕事日和だ。全員無事に生きて帰ってこいよ」
リンドウは引きずってきたソウキから手を離し、ぼとりと地面に落とすと何事もなかったかのように話し始める。途中のツッコミもスルーした。
「この面子での任務は初めてか?…ま、いつも通りにな」
「って、リンドウさんはどうするんすか」
「俺か?俺は――これからお忍びのデートがあるんでな、ちょいとそっちに行ってくるわ」
「………」
投げ出されたままのソウキは、じとーっとした不満そうな視線でリンドウを見上げる。向こうに立つソーマも、似たような視線をリンドウに送っていた。
「だがまあ、報告義務ってのもあってな…そういう訳でコイツ置いていくわ」
「…俺の記憶が間違ってなきゃ今日俺は完全なオフだったはずなんだけど?」
「可愛い後輩と尊敬する先輩のためだろ。働け働け」
「後輩は良いとしてもオフを潰す先輩は尊敬出来ねぇ…」
「いいか、命令は何度も言ってる通り…『死ぬな 必ず、生きて戻れ』だ」
そう皆に話すリンドウの横で、神機の剣先で地面に落書きしながらソウキはしばらくぶつくさ言っていたがやがて諦めたかのように立ち上がった。
落書きに使っていた神機を肩に担ぎあげてリンドウを見据える。
「仕方ない。今日は代理やってやるけどそのかわり、」
「…自分で出した命令だ、せいぜいアンタも守るんだな」
「うんうん…って、ソーマに台詞取られた!」
任務もスムーズに終わり、ソウキ達はアナグラへと帰ってきた。
そこには既にリンドウがいて、のんびりソファーでくつろいでいた…ので休みを潰された仕返しとばかりにソウキが飛び掛かっていったのだがあっさりかわされていた。
簡単な報告を済ませて、ソウキは食事を取るというリンドウについて食堂へと向かう。
シュリは神機についての相談があるとかでリッカの元へ、サクヤとソーマは部屋に戻り、コウタは先程話題に上ったウロヴォロスを調べるとターミナルにかじりついていた。
「まーた今日も激しいデートだったようで」
「だろ?まったく、身がもたないぜ」
食堂へ向かう道すがら、歩きながら茶化すように言えばリンドウが同じような調子で返す。
「…ウロヴォロスとか、俺は一生関わりたくないね」
「そんなこと言っても、いつかはお前にだって嫌でも関わる時が来るだろうさ。
それに俺の心配をしてくれるのは嬉しいが、自分の事も大事にしろよ?」
「…考えとく」
「そこは素直に『はい』って言っておけ」
「っわ、やめろって!」
リンドウの手がぐしゃぐしゃとソウキの髪をかき乱して、思わずその手を振り払った。
もう子供という歳でもないのに、リンドウはこうやってたまに子供扱いしてくる。まぁ、6つ下なら相手にとっては十分子供なのかもしれないが。
「そういえば」
抵抗も空しくあしらわれ、しばらくぎゃーぎゃーやっていたところでリンドウがふと何かを思い出したように呟いた。
「また近々新型が配属されるとかって話だな」
「え、マジ?」
「・・・あ、これまだ口外したらマズいんだったか」
「お前な…」
呆れた、とばかりにリンドウを見る。
仮にも公開前の情報をこうポロっとこぼしていいものなのだろうか。
そのうち何か重大な極秘事項とかも口走ったり…しそうな気もする。これが第一部隊の隊長だと思うと、なんだか複雑な気分になった。
「でも、俺はまぁ予想外の…イレギュラーな存在だったとしても、これで極東支部に新型3人だろ?大盤振る舞いだな」
「しかも支部長が連れてきたって話だしな」
「おいおい、そうペラペラと喋っていいのかー」
食堂で食べ物を注文し、出てきたそれを受け取りながら席につく。トレイの上、料理の付け合せには山盛りの巨大トウモロコシ。付け合わせというよりもむしろこれが主食と言って良い程の量が盛られていた。
「ったく・・・支部長も何企んでんだか」
「へ?リンドウ今なんか言った?」
「いや…相変わらずトウモロコシが大盛りだ、と思ってな」
「…だな。十分腹は膨れるし贅沢言えないのも分かってるけど」
その後は特に話すこともなく、黙々と食事が進む。時折調味料を取れだの、そっちの料理を一口寄越せだのそんな会話だけが人の少ない食堂で交わされていた。
「よし、じゃあ俺行くわー。メシ食い終わったし、この後まだ任務あるんだよな」
「ん、そうか。気をつけて行って来いよ」
「へいへい。…命令はちゃんと守りますよ、リンドウ隊長」
からかうようにわざと隊長と呼んでやれば、なんだか微妙な表情をされた上にさっさと行けと言わんばかりに手をひらひら振られる。
それにちょっとイラっときたので、リンドウがちょうど火をつけて一服したばかりのタバコをその手からもぎとってやった。
最後の一本だったのに、と非難の声が背後から聞こえてきたが無視して食堂を出る。
そもそも食堂は禁煙のはずだ。
「にが・・・」
深く吸い込んでから吐き出した煙は、口に苦さだけを残して空気に溶けて消えた。