崩れる関係
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埼玉、正丸峠。23時。
22時半くらいから何本か走らせていた秋山渉は、休憩のために駐車場に86を止め、自販機で買った飲み物を飲んでいた。
すると、渉の耳に聞き慣れたエンジン音が入ってきた。
渉はその音を聞くと溜息を吐き、飲み物を飲み干してゴミ箱へと投げ入れた。
「まぁた来やがった……」
呆れながらもその車の到着を待つ。
すると、綺麗な青色のシルビアが駐車場にぴたりと止まった。
エンジン音が止まると、運転席から一人の少女が降りてくる。
少女は渉と目が合うと、一目散に渉へと走ってきた。
「わ"た"る"~~~!!!!」
「うわっ、今日もひでぇな……今度はどうした?」
少女は走りながら涙声で彼の名前を呼び、涙を流しながら抱き着いた。
渉はまるで慣れているかのようにその小さな体を抱きとめ、頭を撫でた。
「結婚詐欺師だったの!!!!!」
「おぉ…そりゃまた大層な人間が釣れたもんで」
「馬鹿にしてるでしょ!?」
「してないしてない。ほんっっっとお前は男運がねえな」
「なっ!?!?」
渉のバカ~~、とぐずりながら頭を更に渉の胸に押し付けて言う少女に渉は苦笑いした。
これが二人の関係。これが二人のいつものことなのだ。
秋山渉と神山澪の日常。
小さな頃から交流があった二人は実の兄妹のような関係だった。澪は何かあれば渉の元へと一目散に駆け寄っては兄のように懐き、渉もまたそんな澪を実の妹のようにかわいがっている。
今日もまた、澪の話を聞く。
渉は呆れながらもそんな日々が続いていることが嬉しかった。
「お金振り込む前だったからまだ良かったけど、本当に好きだったのに……」
「気づけて良かったじゃねえか」
「そうだけどさぁ~~」
それって弄ばれてたってことでしょ?、と涙目のまま頬を膨らませ、むっとした表情で渉の顔を見上げる澪。
渉はその表情に一瞬息を呑んだ。
「ッ……そりゃ、詐欺やってんだからそのつもりだったんだろ」
「やっぱりそうじゃんかぁぁぁ……」
再び顔を埋めてわんわん泣く澪とは対照的に、渉の顔は赤く染まっていた。
ほんっっとに此奴のこういうところは心臓に悪い。
全て無自覚でやってくるところが一番タチが悪い。
「ほら、泣きやめ」
「ヴッ……」
「変な声出てんぞ」
けらけらと笑いながらも、渉は何かを問うようなことはせず、澪が泣き止むまでずっと頭を撫でていた。
暫くして渉の胸がトントンッと叩かれた。
渉は頭を撫でていた手を止め、そっと体を離した。
「ありがと渉……」
「気にすんな。で、どんぐらい付き合ってたんだ」
「……半年」
「もうそんなに経つのか」
泣き止んだものの未だずびずびと鼻をすする澪。
彼女が失恋するのはこれで何回目だろうか。
一人目の男は浮気。
二人目の男は澪のシルビアを盗もうとした。
三人目の男は暴力。
四人目の男は走り屋を否定してきたクズ。
そして今回の五人目が結婚詐欺。
男運のなさに渉は呆れて笑うことしかできない。
渉の元から離れ、すぐ近くに止めてあったシルビアに寄りかかる。
「私は、本気で好きだったの。本気で恋してると、思ってたの」
今までもそうだけど、と涙で濡れた目を伏せた。
「でも、結局は別れちゃって。そしたら渉のところにいって慰めてもらって。それがお決まりみたいになっちゃうんだよね」
「別にいいじゃねえか。俺は何も迷惑でもないし」
「でも、やっぱり甘えちゃってるところはあるじゃん?」
澪は苦笑いで頬を掻く。
渉はむしろこのポジションが今のうちは役得であると思っていた。
自分の気持ちに蓋をしていれば澪とずっといられる。
そう思っていた。
「そろそろ渉離れもしなくちゃなって思ってはいるんだけど、やっぱり渉とこうやって一緒にいるのが心地よくて」
「澪……」
渉は何か言いたげに澪を見つめるも、澪が目線でそれを遮る。
そしてそのまま渉を見ながら澪は少し恥ずかしそうに笑った。
「渉のことが好きなんだって。渉が恋人だったらいいのに」
「は……?」
「え、……あっ」
自分の言ったことに気づいた澪はぶわっと顔を赤くさせ、慌てて顔の前で両手を振る。
渉はぽかんとした表情で澪を見る。
「な、何でもない忘れて!じゃあね!!」
「あっ、おい!!」
渉が何かする前に、焦ったようにシルビアに乗り込んだ澪は急いでエンジンをかけて峠を下りていく。
渉は急いで手を伸ばすも届くことはなく、その手は空を切った。
「……はー、クソ」
いつからか、この関係が崩れるのが怖えって思ったのが。
失うのが恐ろしいと思ったのは。
だが、今の澪はいとも簡単にその壁を崩してしまった。
この機会を逃がすわけにはいけない。
どれだけ、我慢してきたと思っているのか。
「ふざけんなよ」
そう吐き捨てて86に乗り込む。
エンジンをかけて深呼吸をするとアクセルをベタ踏みする。
86は渉の思いに応えるように唸りを上げて加速していく。
「絶対逃がさねぇからな」
"俺がどれだけお前のこと好きなのかわからせてやる"
22時半くらいから何本か走らせていた秋山渉は、休憩のために駐車場に86を止め、自販機で買った飲み物を飲んでいた。
すると、渉の耳に聞き慣れたエンジン音が入ってきた。
渉はその音を聞くと溜息を吐き、飲み物を飲み干してゴミ箱へと投げ入れた。
「まぁた来やがった……」
呆れながらもその車の到着を待つ。
すると、綺麗な青色のシルビアが駐車場にぴたりと止まった。
エンジン音が止まると、運転席から一人の少女が降りてくる。
少女は渉と目が合うと、一目散に渉へと走ってきた。
「わ"た"る"~~~!!!!」
「うわっ、今日もひでぇな……今度はどうした?」
少女は走りながら涙声で彼の名前を呼び、涙を流しながら抱き着いた。
渉はまるで慣れているかのようにその小さな体を抱きとめ、頭を撫でた。
「結婚詐欺師だったの!!!!!」
「おぉ…そりゃまた大層な人間が釣れたもんで」
「馬鹿にしてるでしょ!?」
「してないしてない。ほんっっっとお前は男運がねえな」
「なっ!?!?」
渉のバカ~~、とぐずりながら頭を更に渉の胸に押し付けて言う少女に渉は苦笑いした。
これが二人の関係。これが二人のいつものことなのだ。
秋山渉と神山澪の日常。
小さな頃から交流があった二人は実の兄妹のような関係だった。澪は何かあれば渉の元へと一目散に駆け寄っては兄のように懐き、渉もまたそんな澪を実の妹のようにかわいがっている。
今日もまた、澪の話を聞く。
渉は呆れながらもそんな日々が続いていることが嬉しかった。
「お金振り込む前だったからまだ良かったけど、本当に好きだったのに……」
「気づけて良かったじゃねえか」
「そうだけどさぁ~~」
それって弄ばれてたってことでしょ?、と涙目のまま頬を膨らませ、むっとした表情で渉の顔を見上げる澪。
渉はその表情に一瞬息を呑んだ。
「ッ……そりゃ、詐欺やってんだからそのつもりだったんだろ」
「やっぱりそうじゃんかぁぁぁ……」
再び顔を埋めてわんわん泣く澪とは対照的に、渉の顔は赤く染まっていた。
ほんっっとに此奴のこういうところは心臓に悪い。
全て無自覚でやってくるところが一番タチが悪い。
「ほら、泣きやめ」
「ヴッ……」
「変な声出てんぞ」
けらけらと笑いながらも、渉は何かを問うようなことはせず、澪が泣き止むまでずっと頭を撫でていた。
暫くして渉の胸がトントンッと叩かれた。
渉は頭を撫でていた手を止め、そっと体を離した。
「ありがと渉……」
「気にすんな。で、どんぐらい付き合ってたんだ」
「……半年」
「もうそんなに経つのか」
泣き止んだものの未だずびずびと鼻をすする澪。
彼女が失恋するのはこれで何回目だろうか。
一人目の男は浮気。
二人目の男は澪のシルビアを盗もうとした。
三人目の男は暴力。
四人目の男は走り屋を否定してきたクズ。
そして今回の五人目が結婚詐欺。
男運のなさに渉は呆れて笑うことしかできない。
渉の元から離れ、すぐ近くに止めてあったシルビアに寄りかかる。
「私は、本気で好きだったの。本気で恋してると、思ってたの」
今までもそうだけど、と涙で濡れた目を伏せた。
「でも、結局は別れちゃって。そしたら渉のところにいって慰めてもらって。それがお決まりみたいになっちゃうんだよね」
「別にいいじゃねえか。俺は何も迷惑でもないし」
「でも、やっぱり甘えちゃってるところはあるじゃん?」
澪は苦笑いで頬を掻く。
渉はむしろこのポジションが今のうちは役得であると思っていた。
自分の気持ちに蓋をしていれば澪とずっといられる。
そう思っていた。
「そろそろ渉離れもしなくちゃなって思ってはいるんだけど、やっぱり渉とこうやって一緒にいるのが心地よくて」
「澪……」
渉は何か言いたげに澪を見つめるも、澪が目線でそれを遮る。
そしてそのまま渉を見ながら澪は少し恥ずかしそうに笑った。
「渉のことが好きなんだって。渉が恋人だったらいいのに」
「は……?」
「え、……あっ」
自分の言ったことに気づいた澪はぶわっと顔を赤くさせ、慌てて顔の前で両手を振る。
渉はぽかんとした表情で澪を見る。
「な、何でもない忘れて!じゃあね!!」
「あっ、おい!!」
渉が何かする前に、焦ったようにシルビアに乗り込んだ澪は急いでエンジンをかけて峠を下りていく。
渉は急いで手を伸ばすも届くことはなく、その手は空を切った。
「……はー、クソ」
いつからか、この関係が崩れるのが怖えって思ったのが。
失うのが恐ろしいと思ったのは。
だが、今の澪はいとも簡単にその壁を崩してしまった。
この機会を逃がすわけにはいけない。
どれだけ、我慢してきたと思っているのか。
「ふざけんなよ」
そう吐き捨てて86に乗り込む。
エンジンをかけて深呼吸をするとアクセルをベタ踏みする。
86は渉の思いに応えるように唸りを上げて加速していく。
「絶対逃がさねぇからな」
"俺がどれだけお前のこと好きなのかわからせてやる"
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