バトルの前の再会
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プロジェクトD、神奈川遠征最終。
高橋啓介対北条豪のバトルが二本目に入り、ダウンヒル担当である藤原拓海はアップを始めた。
二本目で勝負は決まる。そうわかっているのだ。
アップを終える頃、拓海の元に近づく一つの人影があった。
「あれ、やっぱり拓海くんだよね……?」
「澪!?どうしてここに?」
「車が好きな友達に連れてこられたの。プロジェクトDが凄いから一緒に来てくれってね」
澪と呼ばれた女性は、私はその辺詳しくないから全然わからないけど、と少し気まずそうに頬を掻いた。
傍にいた涼介や史浩は少し驚いた様に拓海を見ている。
「…この娘 は?」
「あー……俺の、高校の時の同級生です」
「あ、は、初めまして突然すみません!拓海くんの同級生の澪です!」
「ほぉ、藤原に……」
「っちょ、涼介さん!」
「悪い悪い。史浩、ちょっといいか」
「あぁ、すぐ行く」
涼介が珍しく拓海をからかうと、史浩と共に何処かへ歩いていった。
恐らく気を遣ったのだろう。
拓海は恥ずかしそうにガシガシと髪を掻き、澪を見た。
約一年ぶり、だろうか。
卒業以来会っていなかった同級生がこんなところにいたなんて。
澪と拓海は高校が同じで、三年生の時以外はずっと同じクラスだった。
あまり他人と話さない拓海だが、澪は入学当初から拓海に話しかけ、一緒に過ごしてきた。
そんな学生の頃と違った私服や大人びた顔に、拓海は一年近く会わないだけでこんなに変化するのかと驚いていた。
呆然としている拓海をよそに、澪は先程の話の続きをした。
「最初は全く行く気がなかったんだけど、ダウンヒル?のハチロクが凄いって熱弁されてね。もしかしたらって思って来てみたんだけど、やっぱり拓海くんだったんだね」
「……良く俺だってわかったな」
澪は少し考えるような動作をした後、恥ずかしそうに笑った。
「何となく。ほんとに何となくだけど、そんな気がしていたの」
澪につられて拓海も顔が赤くなるのを感じる。
それを誤魔化すかのように拓海は咳ばらいをした。
「いいのか?こんなところに一人でいて」
「うん、道は覚えてきたから大丈夫。すぐに戻るし」
そして拓海の後ろにある86を見つけると、しゃがみこんでじーっと見つめた。
拓海はそんな澪を不思議そうに見る。
「これが、ハチロクってやつ?」
「そう。こいつがハチロクだよ」
暫く86を見つめていた澪が、満面の笑みで拓海を見上げる。
「この車、いい車だね!」
「……ハチロクが?」
「うん。だって車が嬉しそう!」
「車が…嬉しそう?」
拓海は素っ頓狂な声を出してその頭に疑問を浮かべた。
嬉しそう、とは。
「走れることを喜んでるみたいに見えるの。きっと拓海くんはいいドライバーなんだね」
ねー、と澪はしゃがんだまま86のリトラクタブルライト辺りを撫でた。
拓海は突然褒められたことに驚き、また頬の温度が上がるのを感じる。
澪の言葉一つ一つが拓海の身に染みて熱くさせる。
「やったぁあぁぁ!!!」
「……勝ったみたいだな」
「高橋啓介さん、だっけ。良かったね!」
ヒルクライムの勝ちが決まる叫びがそこかしこから聞こえる。
……ついに、拓海の最終戦が来た。
「藤原、そろそろ」
「あ、そうだよね。私行かなくちゃ!」
戻ってきた涼介の声かけに澪は慌てて立ち上がる。
そして拓海の方に向き直る。
「澪…」
「拓海くん」
拓海が何か言おうとする前に、澪が拓海の名前を呼んで遮る。
そして、拓海が今まで一緒にいた中で一番優しい笑顔で。
「私、拓海くんが勝つって信じてるからね」
拓海くんなら大丈夫だよ。
そう言って澪は拓海が反応する前に暗闇へと消えていった。
「……はぁ」
「中々可愛らしいことをするじゃないか、なぁ史浩」
「そうだな」
拓海は前髪をくしゃりと握り、しゃがみこんだ。
そんな拓海を見て二人は笑いながら冗談じみたことを言うと、拓海は慌ててしゃがんだまま涼介達を見上げた。
「ちょ、駄目ですよ」
「ん?狙ってなんかいないさ。だが、遅すぎるのは可哀想だぜ」
「……」
「あの娘の為にも、勝たないとな」
再び深く溜息を吐いた拓海は立ち上がり、深呼吸をして集中する。
神奈川最終戦に、澪が来ている。
それだけでも奇跡だと言うのに、彼女は俺に会いに来てくれた。
これが終われば、もう二度と会えないかもしれない。
それならばせめて、彼女の中に残り続けられるよう全力を尽くす。
そして願わくば、これが終わった後にまた彼女に会えたのなら。
ちゃんと伝えるんだ。
こんな少ない時間じゃ足りないんだって。
カッコ悪いところは見せられない。
拓海は澪が喜ぶ顔を思い浮かべては苦笑し、86へと乗り込んだ。
「喜んでる……か」
エンジンをかければ唸りを上げる86はまるで遠吠えをしているようだった。
「……ぜってえ負けねえから」
だから、見ていて。
高橋啓介対北条豪のバトルが二本目に入り、ダウンヒル担当である藤原拓海はアップを始めた。
二本目で勝負は決まる。そうわかっているのだ。
アップを終える頃、拓海の元に近づく一つの人影があった。
「あれ、やっぱり拓海くんだよね……?」
「澪!?どうしてここに?」
「車が好きな友達に連れてこられたの。プロジェクトDが凄いから一緒に来てくれってね」
澪と呼ばれた女性は、私はその辺詳しくないから全然わからないけど、と少し気まずそうに頬を掻いた。
傍にいた涼介や史浩は少し驚いた様に拓海を見ている。
「…この
「あー……俺の、高校の時の同級生です」
「あ、は、初めまして突然すみません!拓海くんの同級生の澪です!」
「ほぉ、藤原に……」
「っちょ、涼介さん!」
「悪い悪い。史浩、ちょっといいか」
「あぁ、すぐ行く」
涼介が珍しく拓海をからかうと、史浩と共に何処かへ歩いていった。
恐らく気を遣ったのだろう。
拓海は恥ずかしそうにガシガシと髪を掻き、澪を見た。
約一年ぶり、だろうか。
卒業以来会っていなかった同級生がこんなところにいたなんて。
澪と拓海は高校が同じで、三年生の時以外はずっと同じクラスだった。
あまり他人と話さない拓海だが、澪は入学当初から拓海に話しかけ、一緒に過ごしてきた。
そんな学生の頃と違った私服や大人びた顔に、拓海は一年近く会わないだけでこんなに変化するのかと驚いていた。
呆然としている拓海をよそに、澪は先程の話の続きをした。
「最初は全く行く気がなかったんだけど、ダウンヒル?のハチロクが凄いって熱弁されてね。もしかしたらって思って来てみたんだけど、やっぱり拓海くんだったんだね」
「……良く俺だってわかったな」
澪は少し考えるような動作をした後、恥ずかしそうに笑った。
「何となく。ほんとに何となくだけど、そんな気がしていたの」
澪につられて拓海も顔が赤くなるのを感じる。
それを誤魔化すかのように拓海は咳ばらいをした。
「いいのか?こんなところに一人でいて」
「うん、道は覚えてきたから大丈夫。すぐに戻るし」
そして拓海の後ろにある86を見つけると、しゃがみこんでじーっと見つめた。
拓海はそんな澪を不思議そうに見る。
「これが、ハチロクってやつ?」
「そう。こいつがハチロクだよ」
暫く86を見つめていた澪が、満面の笑みで拓海を見上げる。
「この車、いい車だね!」
「……ハチロクが?」
「うん。だって車が嬉しそう!」
「車が…嬉しそう?」
拓海は素っ頓狂な声を出してその頭に疑問を浮かべた。
嬉しそう、とは。
「走れることを喜んでるみたいに見えるの。きっと拓海くんはいいドライバーなんだね」
ねー、と澪はしゃがんだまま86のリトラクタブルライト辺りを撫でた。
拓海は突然褒められたことに驚き、また頬の温度が上がるのを感じる。
澪の言葉一つ一つが拓海の身に染みて熱くさせる。
「やったぁあぁぁ!!!」
「……勝ったみたいだな」
「高橋啓介さん、だっけ。良かったね!」
ヒルクライムの勝ちが決まる叫びがそこかしこから聞こえる。
……ついに、拓海の最終戦が来た。
「藤原、そろそろ」
「あ、そうだよね。私行かなくちゃ!」
戻ってきた涼介の声かけに澪は慌てて立ち上がる。
そして拓海の方に向き直る。
「澪…」
「拓海くん」
拓海が何か言おうとする前に、澪が拓海の名前を呼んで遮る。
そして、拓海が今まで一緒にいた中で一番優しい笑顔で。
「私、拓海くんが勝つって信じてるからね」
拓海くんなら大丈夫だよ。
そう言って澪は拓海が反応する前に暗闇へと消えていった。
「……はぁ」
「中々可愛らしいことをするじゃないか、なぁ史浩」
「そうだな」
拓海は前髪をくしゃりと握り、しゃがみこんだ。
そんな拓海を見て二人は笑いながら冗談じみたことを言うと、拓海は慌ててしゃがんだまま涼介達を見上げた。
「ちょ、駄目ですよ」
「ん?狙ってなんかいないさ。だが、遅すぎるのは可哀想だぜ」
「……」
「あの娘の為にも、勝たないとな」
再び深く溜息を吐いた拓海は立ち上がり、深呼吸をして集中する。
神奈川最終戦に、澪が来ている。
それだけでも奇跡だと言うのに、彼女は俺に会いに来てくれた。
これが終われば、もう二度と会えないかもしれない。
それならばせめて、彼女の中に残り続けられるよう全力を尽くす。
そして願わくば、これが終わった後にまた彼女に会えたのなら。
ちゃんと伝えるんだ。
こんな少ない時間じゃ足りないんだって。
カッコ悪いところは見せられない。
拓海は澪が喜ぶ顔を思い浮かべては苦笑し、86へと乗り込んだ。
「喜んでる……か」
エンジンをかければ唸りを上げる86はまるで遠吠えをしているようだった。
「……ぜってえ負けねえから」
だから、見ていて。
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