呪われた者同士
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「"俺と一緒に走ろう"って。私自身走ることは好きだったから、喜んで受け取ったの。詳しいことまではわからないから頑張って勉強もして。……ずっと、私と彼、黒のワンエイティと赤のFCはずっと一緒だった」
だからかな、と言って澪は俯いた。
「ワンエイティに乗ってると、彼と一緒にいて、彼と同じような走りをしているような気がするの。……ずっと、一緒にいてくれてたのね」
そして嬉しそうに、だが悲しそうに微笑んだ。
涼介はその横顔に見惚れてしまう。すぐ傍で触れているはずなのに、まるで彼女だけ遠くにいるような感覚。
「澪、終わったぞ」
その声に涼介は澪に触れていた手を離した。
澪は叔父に駆け寄り、その奥に解体された180sxを見てから叔父と目を合わせた。
「ありがとう叔父さん。それは好きにしてもらって構わないわ」
「そうか、これ忘れもんだ」
「え?……あ、」
澪の叔父の手から渡されたものは、180sxのキーだった。
澪はそれを受け取るとそっと抱きしめ、再び涙を流し始めた。
「愛しているわ、隼人。ずっと、永遠に」
涼介には見えた気がした。
隼人が澪を抱きしめながら頭をそっと撫で、嬉しそうに微笑んでいるのが。
恋人の時間だ。邪魔するわけにはいかない。
涼介は踵を返して外の自販機で飲み物でも買ってこようと歩を進めた。
「……らしくないな」
ガコンッと音を立てて落ちてきたコーヒーを手に取り、深く溜息を吐いた。
コーヒーを飲めば頭が冷静になって冴えていくのを涼介は感じた。
赤城山でたまたま出会った、憧れていたドライバーの彼女。
ただ、それだけ。
何もドラマチックな出会いをしたわけでもない。
それでも、何故か。
不思議な雰囲気があり、愁いを帯びた顔は大人びていて、流す涙はあまりにも美しい。
嫌な予感はしている。
だが、認めてはならない気がしていた。
これを認めてしまったら、と一人の女性との思い出が横切る。
「……はぁ」
「まるで悩んでるかのような顔。大丈夫?」
「ッ!?」
「あら、ごめんなさい驚かせちゃったわね」
口許に手を当てて笑う澪に、涼介は息を呑んだ。
美しい。
ただ、そう思った。
「ど、どうしてここに?」
「お礼を言いに来たのよ。改めてね」
「そんな、別にいいんだ」
「いいの。ありがとう、本当に。あそこで来てくれたのが貴方で良かったわ」
澪は深々と頭を下げた。
涼介は戸惑いながらも澪の肩にそっと手を添え、頭を上げるように促した。
「いいんだ、気にするな。……帰りはどうするんだ?」
「叔父さんが代車を貸してくれることになったの」
「そうか、良かったよ」
涼介はそう言いながらも、残念な思いがあった。
送って行けたのに。
だがそれを顔に出さないように、柔らかい笑顔を浮かべた。
澪は伝えられて満足したのか、踵を返した。
だが歩き出す直前で、あ、と思い出したように振り返った。
「お礼するの、忘れてないから。また連絡するわ」
「あ、あぁ。気にしなくていいのに」
「ふふ、私がしたいからするのよ」
「……やられたな」
あの時の涼介を真似するように澪は笑った。
そうして伝えた澪は涼介に背を向けて歩いていく。
「澪さん」
「どうしたの?涼介さん」
涼介は気づけば咄嗟に澪を呼び止めていた。
澪は再び足を止め、ゆっくり振り返って涼介を見た。
澪と目が合ったその瞬間、涼介は初めて180sxに触れた時と同じゾッとした感覚を覚えた。
その目はギラギラと輝き、その体は180sxと同じ黒いオーラに包まれていた。
「……いや、なんでもない。気を付けて」
「ええ、ありがとう」
それから彼女は振り返ることなく代車に乗り込み、闇へと消えていった。
まるで、憑かれているようだった。
否、憑かれているのだろう。
彼 の想いは車と共に消えると思いきや、彼女自身へと乗り移った。
そしてまたもや彼女はそれに気づいていない。
『愛してる、ずっと永遠に』
『愛しているわ、隼人。ずっと、永遠に』
契りというべきか、呪いというべきか。
それは何よりも堅く、千切れないものとなってしまった。
涼介はまるで自分を見ているようだった。
状況は違えど、恋人を亡くした者同士。
そして、彼女は恋人の想いに呑まれて溺れ、俺は香織さんの思い出に溺れている。
君も俺も、似た者同士。
……いや、呪われた者同士と言った方が正しいか。
それでも俺は、君に惹かれ始めているんだ。
だからかな、と言って澪は俯いた。
「ワンエイティに乗ってると、彼と一緒にいて、彼と同じような走りをしているような気がするの。……ずっと、一緒にいてくれてたのね」
そして嬉しそうに、だが悲しそうに微笑んだ。
涼介はその横顔に見惚れてしまう。すぐ傍で触れているはずなのに、まるで彼女だけ遠くにいるような感覚。
「澪、終わったぞ」
その声に涼介は澪に触れていた手を離した。
澪は叔父に駆け寄り、その奥に解体された180sxを見てから叔父と目を合わせた。
「ありがとう叔父さん。それは好きにしてもらって構わないわ」
「そうか、これ忘れもんだ」
「え?……あ、」
澪の叔父の手から渡されたものは、180sxのキーだった。
澪はそれを受け取るとそっと抱きしめ、再び涙を流し始めた。
「愛しているわ、隼人。ずっと、永遠に」
涼介には見えた気がした。
隼人が澪を抱きしめながら頭をそっと撫で、嬉しそうに微笑んでいるのが。
恋人の時間だ。邪魔するわけにはいかない。
涼介は踵を返して外の自販機で飲み物でも買ってこようと歩を進めた。
「……らしくないな」
ガコンッと音を立てて落ちてきたコーヒーを手に取り、深く溜息を吐いた。
コーヒーを飲めば頭が冷静になって冴えていくのを涼介は感じた。
赤城山でたまたま出会った、憧れていたドライバーの彼女。
ただ、それだけ。
何もドラマチックな出会いをしたわけでもない。
それでも、何故か。
不思議な雰囲気があり、愁いを帯びた顔は大人びていて、流す涙はあまりにも美しい。
嫌な予感はしている。
だが、認めてはならない気がしていた。
これを認めてしまったら、と一人の女性との思い出が横切る。
「……はぁ」
「まるで悩んでるかのような顔。大丈夫?」
「ッ!?」
「あら、ごめんなさい驚かせちゃったわね」
口許に手を当てて笑う澪に、涼介は息を呑んだ。
美しい。
ただ、そう思った。
「ど、どうしてここに?」
「お礼を言いに来たのよ。改めてね」
「そんな、別にいいんだ」
「いいの。ありがとう、本当に。あそこで来てくれたのが貴方で良かったわ」
澪は深々と頭を下げた。
涼介は戸惑いながらも澪の肩にそっと手を添え、頭を上げるように促した。
「いいんだ、気にするな。……帰りはどうするんだ?」
「叔父さんが代車を貸してくれることになったの」
「そうか、良かったよ」
涼介はそう言いながらも、残念な思いがあった。
送って行けたのに。
だがそれを顔に出さないように、柔らかい笑顔を浮かべた。
澪は伝えられて満足したのか、踵を返した。
だが歩き出す直前で、あ、と思い出したように振り返った。
「お礼するの、忘れてないから。また連絡するわ」
「あ、あぁ。気にしなくていいのに」
「ふふ、私がしたいからするのよ」
「……やられたな」
あの時の涼介を真似するように澪は笑った。
そうして伝えた澪は涼介に背を向けて歩いていく。
「澪さん」
「どうしたの?涼介さん」
涼介は気づけば咄嗟に澪を呼び止めていた。
澪は再び足を止め、ゆっくり振り返って涼介を見た。
澪と目が合ったその瞬間、涼介は初めて180sxに触れた時と同じゾッとした感覚を覚えた。
その目はギラギラと輝き、その体は180sxと同じ黒いオーラに包まれていた。
「……いや、なんでもない。気を付けて」
「ええ、ありがとう」
それから彼女は振り返ることなく代車に乗り込み、闇へと消えていった。
まるで、憑かれているようだった。
否、憑かれているのだろう。
そしてまたもや彼女はそれに気づいていない。
『愛してる、ずっと永遠に』
『愛しているわ、隼人。ずっと、永遠に』
契りというべきか、呪いというべきか。
それは何よりも堅く、千切れないものとなってしまった。
涼介はまるで自分を見ているようだった。
状況は違えど、恋人を亡くした者同士。
そして、彼女は恋人の想いに呑まれて溺れ、俺は香織さんの思い出に溺れている。
君も俺も、似た者同士。
……いや、呪われた者同士と言った方が正しいか。
それでも俺は、君に惹かれ始めているんだ。
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