呪われた者同士
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うん、流石にこれはお世話になってる整備士さんでも厳しいと思うの」
「そうか。……その、廃車に出す時に立ち会わせてはくれないか?」
「え?」
「いや、嫌なら別にいいんだ。大切な恋人からの贈り物との別れだろうし……ただ、その」
「いいわよ」
涼介にしては珍しくはっきりしない物言いを遮るように澪はあっさりと了承した。
「貴方には沢山助けてもらったもの。きっとワンエイティも許してくれるわ」
「あ、ありがとう」
涼介は澪の言葉に応えるようにワンエイティに再び触れた。
少しだけ寒気がしたが、先程のようなゾッとするような感覚はない。
……許されたのだろうか。
「あ、来たみたいね」
「あぁ。悪いなこんな時間に呼び出して」
「全然問題ないですよ。それで、運んでほしいというのは…」
「私の車です」
澪が1歩前に出てお辞儀をする。
「ワンエイティですか」
「エンジンブローが主な症状だ…見た感じ感じ直りそうか?」
「……うーん、これだと直すのは厳しいと思います」
「そうか、取り敢えず運ぼう。いつも世話になっているという工場は何処だ?」
「いいの?それじゃあ秋名にある”牛頭 ”に連れて行ってもらえる?」
「”牛頭”……ああ、あそこか」
「知ってるの?」
「走り屋の界隈じゃそこそこ有名な自動車整備工場ですね」
牛頭 とは、少数精鋭で活動している群馬にある自動車整備工場。
中々高い代金を取られるがドライバーにとってどの整備工場よりも一番いい仕上がりにしてくれる。
そのため、定期的に手入れをしに来る走り屋も多くいる。
「そうなの?私には走り屋とかよくわかってないから……」
「いいところだよ、牛頭は。俺も世話になったことがある」
「そうなんだ」
「じゃあ先に行ってますね」
「ああ、頼んだ」
遠ざかっていく180sxを見送った涼介は澪をFCのナビシートに案内した。
澪はナビシートに座った瞬間、涼介のFCの良さを肌で感じた。
「大丈夫か?」
「あ、う、うん…大丈夫」
「じゃあ行こう」
FCが走り出す。澪は驚きで目を見開いた。
シフトアップする時もシフトダウンする時もなにも違和感を感じずスムーズに変わる。
本気を出してはいないだろうが、それでもドリフトをしているにもかかわらず横Gをそこまで感じない。
乗っていてとても心地よかった。
「上手なのね、運転」
「伊達に走り屋を名乗ってないからな」
涼介はクスクスと笑いながらもそのハンドル捌きは見事なものだった。
そして、それは澪の眠っていた記憶を呼び起こした。
「似ている」
「え?」
「あの人の走りに、酷く似ているの」
うわ言のように澪がそう呟いた。
“あの人”とは恐らく澪の恋人のことだろう。
「そうなのか?」
「ええ。彼もFCに乗っていたの。色は赤色だったけれど」
「それで俺が来た時に驚いていたのか」
「そういうこと。彼は走り屋だったわ……関東の色々な峠に走りに行っては早朝に帰ってきていたの」
「……彼の名前を聞いても?」
澪は少し躊躇うように息を詰まらせた後、小さく頷いた。
そして絞りだした声は小さかったが、きちんと涼介の耳に届いていた。
「鈴川隼人」
「鈴川…!?」
鈴川隼人 。
16歳の頃から走り屋を始め、赤色のFCに乗っていた。
関東の様々な峠に姿を現すことから最初は『神出鬼没の赤いFC』と呼ばれていた。
走り屋のチームに所属することなくただ一人で走ることから、次第に『孤高の赤狼』と呼ばれるようになった。
挑まれたバトルは公平であると感じれば応じる、紳士な人間だった。
無敗のまま4年を過ごしてきたが、ある日急に姿を眩ませ、以降彼がどこの峠にも現れることはなかった。
「死んで、いたのか」
「ええ、とっくに。皆はまだ帰ってくると思ってる。もういない人なのに」
鈴川隼人の名を走り屋で知らない人間はいないくらい有名な人だった。
涼介も見たことはないがその名はよく耳にしていた。
それから澪は深呼吸を数回繰り返し、外の景色を眺めた。
静かな時間が過ぎ、工場へと着いたのはそれからすぐだった。
「そうか。……その、廃車に出す時に立ち会わせてはくれないか?」
「え?」
「いや、嫌なら別にいいんだ。大切な恋人からの贈り物との別れだろうし……ただ、その」
「いいわよ」
涼介にしては珍しくはっきりしない物言いを遮るように澪はあっさりと了承した。
「貴方には沢山助けてもらったもの。きっとワンエイティも許してくれるわ」
「あ、ありがとう」
涼介は澪の言葉に応えるようにワンエイティに再び触れた。
少しだけ寒気がしたが、先程のようなゾッとするような感覚はない。
……許されたのだろうか。
「あ、来たみたいね」
「あぁ。悪いなこんな時間に呼び出して」
「全然問題ないですよ。それで、運んでほしいというのは…」
「私の車です」
澪が1歩前に出てお辞儀をする。
「ワンエイティですか」
「エンジンブローが主な症状だ…見た感じ感じ直りそうか?」
「……うーん、これだと直すのは厳しいと思います」
「そうか、取り敢えず運ぼう。いつも世話になっているという工場は何処だ?」
「いいの?それじゃあ秋名にある”
「”牛頭”……ああ、あそこか」
「知ってるの?」
「走り屋の界隈じゃそこそこ有名な自動車整備工場ですね」
中々高い代金を取られるがドライバーにとってどの整備工場よりも一番いい仕上がりにしてくれる。
そのため、定期的に手入れをしに来る走り屋も多くいる。
「そうなの?私には走り屋とかよくわかってないから……」
「いいところだよ、牛頭は。俺も世話になったことがある」
「そうなんだ」
「じゃあ先に行ってますね」
「ああ、頼んだ」
遠ざかっていく180sxを見送った涼介は澪をFCのナビシートに案内した。
澪はナビシートに座った瞬間、涼介のFCの良さを肌で感じた。
「大丈夫か?」
「あ、う、うん…大丈夫」
「じゃあ行こう」
FCが走り出す。澪は驚きで目を見開いた。
シフトアップする時もシフトダウンする時もなにも違和感を感じずスムーズに変わる。
本気を出してはいないだろうが、それでもドリフトをしているにもかかわらず横Gをそこまで感じない。
乗っていてとても心地よかった。
「上手なのね、運転」
「伊達に走り屋を名乗ってないからな」
涼介はクスクスと笑いながらもそのハンドル捌きは見事なものだった。
そして、それは澪の眠っていた記憶を呼び起こした。
「似ている」
「え?」
「あの人の走りに、酷く似ているの」
うわ言のように澪がそう呟いた。
“あの人”とは恐らく澪の恋人のことだろう。
「そうなのか?」
「ええ。彼もFCに乗っていたの。色は赤色だったけれど」
「それで俺が来た時に驚いていたのか」
「そういうこと。彼は走り屋だったわ……関東の色々な峠に走りに行っては早朝に帰ってきていたの」
「……彼の名前を聞いても?」
澪は少し躊躇うように息を詰まらせた後、小さく頷いた。
そして絞りだした声は小さかったが、きちんと涼介の耳に届いていた。
「鈴川隼人」
「鈴川…!?」
16歳の頃から走り屋を始め、赤色のFCに乗っていた。
関東の様々な峠に姿を現すことから最初は『神出鬼没の赤いFC』と呼ばれていた。
走り屋のチームに所属することなくただ一人で走ることから、次第に『孤高の赤狼』と呼ばれるようになった。
挑まれたバトルは公平であると感じれば応じる、紳士な人間だった。
無敗のまま4年を過ごしてきたが、ある日急に姿を眩ませ、以降彼がどこの峠にも現れることはなかった。
「死んで、いたのか」
「ええ、とっくに。皆はまだ帰ってくると思ってる。もういない人なのに」
鈴川隼人の名を走り屋で知らない人間はいないくらい有名な人だった。
涼介も見たことはないがその名はよく耳にしていた。
それから澪は深呼吸を数回繰り返し、外の景色を眺めた。
静かな時間が過ぎ、工場へと着いたのはそれからすぐだった。