呪われた者同士
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それはあまりにも唐突で、あまりにも不運だった。
「……噓でしょ」
運転席から下りた女性の顔立ちは整っており、髪は長く、スキニージーンズと長袖のシャツというシンプルな姿で車を見つめた。
そして女性……萩野澪は愛車である180sxの状態に絶句した。
平日の22時過ぎ、ここは赤城山の頂上にある駐車場。
彼女は仕事終わりに、たまには峠を走ろうと赤城山を上っていた。
だが、頂上のすぐ手前で彼女の愛車が大きな音を立てて挙動不審になった。
ここで止まるのは危ない。そう感じ取った澪はなんとかステアリングを切って頂上の駐車場に止まることができた。
澪は急いで車から降りてをボンネットを開ける。
エンジンルームは、酷い状態だった。
「エンジンブロー……」
まるで血飛沫のようにオイルが飛び散り、エンジンは煙を上げていた。
澪は落ち着いた様子で後部座席から道具を取り出し、飛び散ったオイルを丁寧に拭きとる。
引火の危険性がないかなどを確認し、特にないと判断すると、道具をしまい、運転席のドアを開けて煙草を取り出した。
ドアを閉めて寄りかかりながら煙草に火をつける。
「まさか、今こうなるなんてね。貴方との旅もこれで終わりなのかしら」
長年乗って一緒に走ってきた愛車を彼女は優しく撫でた。
頂上まで来て無事に止められたのがのが幸いだった。
きっと、最期の力で彼女をここまで送り届けてくれたのだろう。
「……ふぅ。もう、長くなかったのかもね」
“私が延命しすぎたのかしら”、と紫煙を漂わせながら一人けらけらと笑った。
10年以上乗ってるとは思えないほどの美しさを持つ180sxは彼女の手入れの丁寧さを物語っていた。
「さて、どうやって帰ろうかしらね。貴方との最後の野宿も悪くはないと思うけど」
澪はいつも世話になっている整備工場に電話をかけようと考えたが、携帯の電源が切れていたことを思い出し、会社で充電してくれば良かったと後悔した。
そんな澪を落ち着かせ宥めるように、空には無数の星が輝いていた。
どうにもならないと諦め、暫く景色と煙草を楽しんでいた澪の耳へ、微かにスキール音が届いた。
「こんな時間に人が……?」
その車は音の近づき方的に確実に上ってきていた。
近づくにつれて、その音がどのような車であり、澪自身聞いた事ある音だと気づく。
「この音、知ってる」
昔聞いていた音に酷く似ている。
峠が好きで色んな場所に行っていた、"あの人"が乗っていたあの車と。
「まさか、ね」
"あの人"がお迎えにでも来たのだろうか。
帰る手段もなく、峠の夜は長袖1枚だと寒い。歩いて帰る気にもなれない澪はどこか諦めていた。
そしてその車が丁度頂上に来た時、運転席に乗っている人と澪の目が合った。
「……FC、3S型」
澪はそのまさかが当たったことに驚きを隠せず、目を見開いた。
上がってきた白のFCはそのまま通り過ぎず、駐車場へと止めてエンジンを切った。
運転席から出てきた男は、背が高く俗に言う美形の部類に入る青年だった。
澪は驚きで煙草を落としかけたが、何とか正気に戻る。
「こんな所に一人で止まってるなんて、何かあったのか?」
「……実は、車が壊れたの」
ほら、と澪は青年に開けた状態のボンネットへと視線を移す。
それにつられた青年はエンジンルームの様子を見て今彼女が置かれている状況を理解したようだった。
「黒のワンエイティ…中々いい車に乗ってるな」
「ありがとう、自慢の愛車なのよ」
「エンジンブローか」
「それもそうだけど、タイヤもダメになっちゃったのよ」
青年は確かに、と微かにアンバランスな車を見つめた。
「一応応急処置はしたの。引火の危険性はないわ」
「そうだったのか。……いつからここに?」
「今が…22時半?ってことは丁度30分前ね」
青年は驚き、澪に少し待つように伝えてFCへと戻っていった。
助手席を開けて何かを取り出したかと思うと、急いで澪の傍に駆け寄る。
「これ、寒いだろうから使ってくれ」
そう言って青年が差し出したのは恐らく彼のであろうジャケット。
澪は驚いたが、やんわりとそれを断った。
「大丈夫よ、こう見えて強いから。わざわざありがとうね」
「……いいんだ、俺がしたいだけだから」
引き下がってくれたかと澪が安心したのも束の間。
ぱさり、と何かが澪の肩にかかり、暖かさを感じた。
「……え」
「言っただろ?俺がしたいだけだって」
「そ、そんな、返すよこれ……!」
澪が慌てて返そうとするが青年は受け取ろうとしない。
「峠の夜は少し寒い。風邪を引きやすいんだ」
だから、と念を押されてしまえば澪は引き下がるしかなかった。
実際Tシャツ一枚だけでは寒くて仕方なかったのだ。
澪はそっとそのジャケットを羽織り、改めて青年の顔を見た。
「ありがとう、私は萩野澪。今度お礼をしたいからお名前を教えていただける?」
「高橋涼介だ」
「高橋さんね」
「涼介で良い。俺も澪さんと呼ばさせてもらうから」
「わかったわ、涼介さん」
高橋涼介。その名前を澪は知っていた。
澪自身は走り屋ではないが、あの人が教えてくれていた。
「……噓でしょ」
運転席から下りた女性の顔立ちは整っており、髪は長く、スキニージーンズと長袖のシャツというシンプルな姿で車を見つめた。
そして女性……萩野澪は愛車である180sxの状態に絶句した。
平日の22時過ぎ、ここは赤城山の頂上にある駐車場。
彼女は仕事終わりに、たまには峠を走ろうと赤城山を上っていた。
だが、頂上のすぐ手前で彼女の愛車が大きな音を立てて挙動不審になった。
ここで止まるのは危ない。そう感じ取った澪はなんとかステアリングを切って頂上の駐車場に止まることができた。
澪は急いで車から降りてをボンネットを開ける。
エンジンルームは、酷い状態だった。
「エンジンブロー……」
まるで血飛沫のようにオイルが飛び散り、エンジンは煙を上げていた。
澪は落ち着いた様子で後部座席から道具を取り出し、飛び散ったオイルを丁寧に拭きとる。
引火の危険性がないかなどを確認し、特にないと判断すると、道具をしまい、運転席のドアを開けて煙草を取り出した。
ドアを閉めて寄りかかりながら煙草に火をつける。
「まさか、今こうなるなんてね。貴方との旅もこれで終わりなのかしら」
長年乗って一緒に走ってきた愛車を彼女は優しく撫でた。
頂上まで来て無事に止められたのがのが幸いだった。
きっと、最期の力で彼女をここまで送り届けてくれたのだろう。
「……ふぅ。もう、長くなかったのかもね」
“私が延命しすぎたのかしら”、と紫煙を漂わせながら一人けらけらと笑った。
10年以上乗ってるとは思えないほどの美しさを持つ180sxは彼女の手入れの丁寧さを物語っていた。
「さて、どうやって帰ろうかしらね。貴方との最後の野宿も悪くはないと思うけど」
澪はいつも世話になっている整備工場に電話をかけようと考えたが、携帯の電源が切れていたことを思い出し、会社で充電してくれば良かったと後悔した。
そんな澪を落ち着かせ宥めるように、空には無数の星が輝いていた。
どうにもならないと諦め、暫く景色と煙草を楽しんでいた澪の耳へ、微かにスキール音が届いた。
「こんな時間に人が……?」
その車は音の近づき方的に確実に上ってきていた。
近づくにつれて、その音がどのような車であり、澪自身聞いた事ある音だと気づく。
「この音、知ってる」
昔聞いていた音に酷く似ている。
峠が好きで色んな場所に行っていた、"あの人"が乗っていたあの車と。
「まさか、ね」
"あの人"がお迎えにでも来たのだろうか。
帰る手段もなく、峠の夜は長袖1枚だと寒い。歩いて帰る気にもなれない澪はどこか諦めていた。
そしてその車が丁度頂上に来た時、運転席に乗っている人と澪の目が合った。
「……FC、3S型」
澪はそのまさかが当たったことに驚きを隠せず、目を見開いた。
上がってきた白のFCはそのまま通り過ぎず、駐車場へと止めてエンジンを切った。
運転席から出てきた男は、背が高く俗に言う美形の部類に入る青年だった。
澪は驚きで煙草を落としかけたが、何とか正気に戻る。
「こんな所に一人で止まってるなんて、何かあったのか?」
「……実は、車が壊れたの」
ほら、と澪は青年に開けた状態のボンネットへと視線を移す。
それにつられた青年はエンジンルームの様子を見て今彼女が置かれている状況を理解したようだった。
「黒のワンエイティ…中々いい車に乗ってるな」
「ありがとう、自慢の愛車なのよ」
「エンジンブローか」
「それもそうだけど、タイヤもダメになっちゃったのよ」
青年は確かに、と微かにアンバランスな車を見つめた。
「一応応急処置はしたの。引火の危険性はないわ」
「そうだったのか。……いつからここに?」
「今が…22時半?ってことは丁度30分前ね」
青年は驚き、澪に少し待つように伝えてFCへと戻っていった。
助手席を開けて何かを取り出したかと思うと、急いで澪の傍に駆け寄る。
「これ、寒いだろうから使ってくれ」
そう言って青年が差し出したのは恐らく彼のであろうジャケット。
澪は驚いたが、やんわりとそれを断った。
「大丈夫よ、こう見えて強いから。わざわざありがとうね」
「……いいんだ、俺がしたいだけだから」
引き下がってくれたかと澪が安心したのも束の間。
ぱさり、と何かが澪の肩にかかり、暖かさを感じた。
「……え」
「言っただろ?俺がしたいだけだって」
「そ、そんな、返すよこれ……!」
澪が慌てて返そうとするが青年は受け取ろうとしない。
「峠の夜は少し寒い。風邪を引きやすいんだ」
だから、と念を押されてしまえば澪は引き下がるしかなかった。
実際Tシャツ一枚だけでは寒くて仕方なかったのだ。
澪はそっとそのジャケットを羽織り、改めて青年の顔を見た。
「ありがとう、私は萩野澪。今度お礼をしたいからお名前を教えていただける?」
「高橋涼介だ」
「高橋さんね」
「涼介で良い。俺も澪さんと呼ばさせてもらうから」
「わかったわ、涼介さん」
高橋涼介。その名前を澪は知っていた。
澪自身は走り屋ではないが、あの人が教えてくれていた。
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