元JKと元あむぴ
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公安というのは案外正義感の強い人には向かないものだと思う。『私たちの功績は日の目を見ることはないけれど』というやつだし、決して堂々と口には出せないようなことをやらなくてはならないことだってある。けれど正義感というものがなければ違法作業はただの違法行為にしかならず、かといって正義は自らにあると過信してもいけない。自分の違法行為をそうと認識しながらも国のため正義のためであると飲み込み、そしてその正義が間違っている可能性すら常に心の隅に置かなくてはならない。つまりだ、これを総称するとだ。
「つまり公安はドM向きの仕事」
「……君はここ数年の新人の中でも飛び抜けて優秀なのになんでこうそんなところが……」
風見さんはもごもご言って頭を抱えてるけどこの人こそドMだと思う。何しろあの降谷さんに何年もついていけるのだ。ヤワなメンタルではやっていけるわけがない。
「風見さん、ドMってすごいんですよ。どんな苦痛をも楽しめるポジティブ精神、そしてプライドをベキベキにされても折れないメンタル。これぞ公安警察に必要なものだと思いません!?変装尾行にピッキング、そしてドM精神。これは公安の必須技能ですね」
「……ああ疲れてるんだな君は。最後に寝たのは?」
「睡眠はしっかり取る派なので八時間ほどがっつりと」
「何時間前に?」
「六十時間くらい前……?」
「寝ろ、今すぐ寝るんだ」
風見さんは数時間おきに十数分の短い仮眠派のようだけど私はがっつり寝たい派なのだ。というか寝たら起きれない。ずるずると仮眠室に連行されながらその辺りを訴えてみたけれど「絶対に起こしてやるから」「頼むから寝てくれ」の一点張り。
組織の残党を拘束するべく私たちは降谷さんの指揮の元ここ一月ほど走り回っていた。私が本格的な捜査に加わったのはこれが初めてのことで、内心色々ぶっ飛びそうになりながらもどうにか任務は成功した。終わってみるとあそこはこう動けばとか、ここはこうしてれば、なんていう細かな反省点は多々ある。けれど今必要なのはそれではない。散らかしたのなら後片付け、つまりは違法作業の回収だ。
「降谷さんが派手にぶっ壊したRX‐9の事故処理とかアジトで発見したショットガン連射とかほんと公安の違法作業ってダイナミックですね。しかも過去にRX‐7での処理が十数件あるからそれ参考にって相当アレですし」
「……あれは滅多にない方の違法作業だ。本来の違法作業とはもっとだな……」
「大型バイクも三台くらい壊れてましたっけ」
「そのうちの二台は君が壊したな、一台は大破だ」
「被疑者確保のためにちょっと公道でドリフトキメる必要が……」
「分かってる、そのうえ君はかすり傷で済んで何よりだ。それはそれとしてとにかく寝ろ」
いやまだ大丈夫です、もう駄目だ寝ろ、そんな攻防を繰り広げていたときだった。
「……何をしているんだ」
「あ、RX‐9大破させた降谷さん、お疲れ様です」
「早速大型バイク一台廃車にした期待のルーキー、よく頑張ったな」
「バイクだけは自信あるんです!工藤くんの友達にテクは教わってたんですよー!ドリフトキマると最高に脳内麻薬ドバりますよね、ほんとあれはクセになる」
「……おい風見、佐々木が睡眠を取ったのはいつが最後だ?」
「約三日ほど前と」
「今すぐ寝かせろ、今すぐにだ」
そう言う降谷さんも目の下がやばい。というか公安部全体的にやばい。本当にとんでもないところに来てしまったものである。いやほんと私は普通にお巡りさんになりたかったんだけどなあ。公安にスカウトされたとき国を守る警察官って聞いて何それカッコいいってテンション上がったあのときの私、どうかしてたわ。
「……分かりました、寝ます」
「そうだ、そうやって睡眠をきちんととり体調を整えいざというときに備えることも公安として……おい、どうした?」
「……先輩方を差し置いて休むのも申し訳ないので」
「だから気にするなと……オイ」
インスタントとはいえコーヒーの香り、そしてイケメンの顔。私の脳内に浮かんだのはこれしかなかった。
「お疲れの先輩方の息抜きにポアロでJKの心を弄んでた頃の降谷さんのモノマネします」
「……風見、今すぐこいつを仮眠室に……おい!こら!」
腕を掴まれかかったところからうまく抜け出す。これでも合気道や柔道その他武道はきっちり修めてきたのだ。これくらい全然余裕、行けてしまう。蘭ちゃんほどじゃないけど私だってインターハイ出れるくらいの実力はあったのだ……!
「『いらっしゃいませ♪あ、今日も来てくださったんですね!』」
そう、かつてあむぴはこんな感じで帝丹高校をはじめとするJKの心を弄んでいたのである――!そう付け加えると先輩方がなぜか数人崩れ落ちた。昨今はあまり流行らないしハラスメント問題もあるけど新人の一発芸はよくあるやつだ。私はちゃんと職場に合わせたネタを仕入れてきた、出来る新人なのである。
崩れ落ちもせず頭を抱えもしなかった降谷さんは腕を組みながら顔をしかめた。
「どう考えても脚色がすぎるぞ、僕はそんな風じゃなかった」
「あむぴいたもん!こんな感じのあむぴ!」
「上司をあむぴ呼びとはいい度胸だな」
「あむぴはあむぴなので、イコール降谷さんではないので」
「お前さっき僕のモノマネと言っただろう」
「言いましたっけ?」
「寝ろ、今すぐに寝ろ」
「『頑張ってるあなたにサービスです☆』みたいな感じじゃなかったですか?あむぴって」
そう、私の記憶のあむぴはそんな感じである。優しくて頼れるお兄さんでしかも料理が上手い、そして私立探偵をしている喫茶店のイケメン店員――。
「いや冷静に考えてアラサーで私立探偵でアルバイトって相当アレですね、怪しい」
「佐々木、お前な」
「大人になった今なら思います。相当胡散臭いですよね。なんかもう顔の良さですべてカバーしてる感じというか」
そしてやたら良い車に乗っている。我々は何を追いかけていたというのだろうか。と、降谷さんが傍にあったカップを掴んだ。ポットにスティックコーヒー、そしてトレイ。素晴らしい手際でセッティングし、そして手の上にコーヒーカップの乗ったトレイを乗せた。これはまさか、まさかである。
「――お前がそこまで言うのなら本物ってやつを見せてやる」
「降谷さん本気ですか」
「『あ、いらっしゃいませ!今日もいらしてくれたんですね』」
「本物だー!あむぴー!」
狂喜乱舞する私の横でたまたま近くにいたという理由であむぴモードの鬼上司にコーヒーをサーブされた先輩は疲れからか気絶していた。
そんななか、誰かがぼそりと呟いた。なんだか聞き慣れた声だ。
「……控えめに言って地獄か、ここは」
「あ、工藤くん?やっほーひっさしっぶりー!」
そのときの私は死人一歩手前のような顔をしていた、と工藤くんは後に語った。なお直後私は仮眠室にぶち込まれた。
「つまり公安はドM向きの仕事」
「……君はここ数年の新人の中でも飛び抜けて優秀なのになんでこうそんなところが……」
風見さんはもごもご言って頭を抱えてるけどこの人こそドMだと思う。何しろあの降谷さんに何年もついていけるのだ。ヤワなメンタルではやっていけるわけがない。
「風見さん、ドMってすごいんですよ。どんな苦痛をも楽しめるポジティブ精神、そしてプライドをベキベキにされても折れないメンタル。これぞ公安警察に必要なものだと思いません!?変装尾行にピッキング、そしてドM精神。これは公安の必須技能ですね」
「……ああ疲れてるんだな君は。最後に寝たのは?」
「睡眠はしっかり取る派なので八時間ほどがっつりと」
「何時間前に?」
「六十時間くらい前……?」
「寝ろ、今すぐ寝るんだ」
風見さんは数時間おきに十数分の短い仮眠派のようだけど私はがっつり寝たい派なのだ。というか寝たら起きれない。ずるずると仮眠室に連行されながらその辺りを訴えてみたけれど「絶対に起こしてやるから」「頼むから寝てくれ」の一点張り。
組織の残党を拘束するべく私たちは降谷さんの指揮の元ここ一月ほど走り回っていた。私が本格的な捜査に加わったのはこれが初めてのことで、内心色々ぶっ飛びそうになりながらもどうにか任務は成功した。終わってみるとあそこはこう動けばとか、ここはこうしてれば、なんていう細かな反省点は多々ある。けれど今必要なのはそれではない。散らかしたのなら後片付け、つまりは違法作業の回収だ。
「降谷さんが派手にぶっ壊したRX‐9の事故処理とかアジトで発見したショットガン連射とかほんと公安の違法作業ってダイナミックですね。しかも過去にRX‐7での処理が十数件あるからそれ参考にって相当アレですし」
「……あれは滅多にない方の違法作業だ。本来の違法作業とはもっとだな……」
「大型バイクも三台くらい壊れてましたっけ」
「そのうちの二台は君が壊したな、一台は大破だ」
「被疑者確保のためにちょっと公道でドリフトキメる必要が……」
「分かってる、そのうえ君はかすり傷で済んで何よりだ。それはそれとしてとにかく寝ろ」
いやまだ大丈夫です、もう駄目だ寝ろ、そんな攻防を繰り広げていたときだった。
「……何をしているんだ」
「あ、RX‐9大破させた降谷さん、お疲れ様です」
「早速大型バイク一台廃車にした期待のルーキー、よく頑張ったな」
「バイクだけは自信あるんです!工藤くんの友達にテクは教わってたんですよー!ドリフトキマると最高に脳内麻薬ドバりますよね、ほんとあれはクセになる」
「……おい風見、佐々木が睡眠を取ったのはいつが最後だ?」
「約三日ほど前と」
「今すぐ寝かせろ、今すぐにだ」
そう言う降谷さんも目の下がやばい。というか公安部全体的にやばい。本当にとんでもないところに来てしまったものである。いやほんと私は普通にお巡りさんになりたかったんだけどなあ。公安にスカウトされたとき国を守る警察官って聞いて何それカッコいいってテンション上がったあのときの私、どうかしてたわ。
「……分かりました、寝ます」
「そうだ、そうやって睡眠をきちんととり体調を整えいざというときに備えることも公安として……おい、どうした?」
「……先輩方を差し置いて休むのも申し訳ないので」
「だから気にするなと……オイ」
インスタントとはいえコーヒーの香り、そしてイケメンの顔。私の脳内に浮かんだのはこれしかなかった。
「お疲れの先輩方の息抜きにポアロでJKの心を弄んでた頃の降谷さんのモノマネします」
「……風見、今すぐこいつを仮眠室に……おい!こら!」
腕を掴まれかかったところからうまく抜け出す。これでも合気道や柔道その他武道はきっちり修めてきたのだ。これくらい全然余裕、行けてしまう。蘭ちゃんほどじゃないけど私だってインターハイ出れるくらいの実力はあったのだ……!
「『いらっしゃいませ♪あ、今日も来てくださったんですね!』」
そう、かつてあむぴはこんな感じで帝丹高校をはじめとするJKの心を弄んでいたのである――!そう付け加えると先輩方がなぜか数人崩れ落ちた。昨今はあまり流行らないしハラスメント問題もあるけど新人の一発芸はよくあるやつだ。私はちゃんと職場に合わせたネタを仕入れてきた、出来る新人なのである。
崩れ落ちもせず頭を抱えもしなかった降谷さんは腕を組みながら顔をしかめた。
「どう考えても脚色がすぎるぞ、僕はそんな風じゃなかった」
「あむぴいたもん!こんな感じのあむぴ!」
「上司をあむぴ呼びとはいい度胸だな」
「あむぴはあむぴなので、イコール降谷さんではないので」
「お前さっき僕のモノマネと言っただろう」
「言いましたっけ?」
「寝ろ、今すぐに寝ろ」
「『頑張ってるあなたにサービスです☆』みたいな感じじゃなかったですか?あむぴって」
そう、私の記憶のあむぴはそんな感じである。優しくて頼れるお兄さんでしかも料理が上手い、そして私立探偵をしている喫茶店のイケメン店員――。
「いや冷静に考えてアラサーで私立探偵でアルバイトって相当アレですね、怪しい」
「佐々木、お前な」
「大人になった今なら思います。相当胡散臭いですよね。なんかもう顔の良さですべてカバーしてる感じというか」
そしてやたら良い車に乗っている。我々は何を追いかけていたというのだろうか。と、降谷さんが傍にあったカップを掴んだ。ポットにスティックコーヒー、そしてトレイ。素晴らしい手際でセッティングし、そして手の上にコーヒーカップの乗ったトレイを乗せた。これはまさか、まさかである。
「――お前がそこまで言うのなら本物ってやつを見せてやる」
「降谷さん本気ですか」
「『あ、いらっしゃいませ!今日もいらしてくれたんですね』」
「本物だー!あむぴー!」
狂喜乱舞する私の横でたまたま近くにいたという理由であむぴモードの鬼上司にコーヒーをサーブされた先輩は疲れからか気絶していた。
そんななか、誰かがぼそりと呟いた。なんだか聞き慣れた声だ。
「……控えめに言って地獄か、ここは」
「あ、工藤くん?やっほーひっさしっぶりー!」
そのときの私は死人一歩手前のような顔をしていた、と工藤くんは後に語った。なお直後私は仮眠室にぶち込まれた。
