「遊び半分のハッキングの代償は大きかった」
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降谷くんが私の住む部屋――正確には彼のセーフハウスのひとつにやってきたのは一か月ぶりのことだった。海外に行かされたり公安の仕事があったりと非常に忙しかったらしい。たまにメールは来ていたけど、直接会うのはなんだか久しぶりだった。登庁帰りなのかグレーのスーツ姿、ネクタイを緩めながら私に一冊のファイルを放り投げた。ぎりぎりキャッチ。降谷くんや周りの方々と違って私の運動神経回路は初期不良だらけなのでちょっとはその辺考慮してほしい。
「米花町に拠点を移すことになった」
「……珍しいね?なんかあるの、米花町。確かに犯罪率高いって聞くけど」
「組織の都合だ。バーボンの方に少々厄介な仕事が入った」
バーボン。それが彼のコードネーム。かれこれ二年ほど前になるだろうか。降谷くんと同じく同級生の彼のことを問い詰めた後、彼の口から聞かされた。少しだけれど組織のことも。ハリウッドの大女優、クリス・ヴィンヤードもその組織の幹部であると聞いたときは驚いた。正直普通に好きだったし、知るまではテレビで彼女の出てる映画とか普通に見てた。道理で降谷くんが微妙な顔して見ていたわけだ。
彼女は変装の達人で声も自在に操れるので自分の姿をした人物が訪ねてきても合言葉を確かめること。最悪の手段として顔を引っ張って確かめるとよいとも。――まあそれで偽者だったら私はたぶんこの世からいなくなるけれど。
降谷くんの頬っぺたをぐにゅりと摘まんだ。細いようで全身筋肉で覆われてる降谷くんでも頬っぺたは柔らかい。頬っぺたをぐにゅぐにゅ引っ張られながら降谷くんは眉間に皺を寄せた。
「何の真似だ」
「いや、一応確かめておこうかなって。全身筋肉の降谷くんでもさすがにほっぺは柔らかいんだね」
「……それを言うならお前は全身柔らかいな」
頬っぺたを摘まんでいた手首を掴まれ、むにゅむにゅと揉まれる。そしてその手はどんどん上へ上へと移動していく。
「うわセクハラ!肘から上はアウト!お巡りさん!」
「呼んだか?」
「いくらお巡りさんでもアウト!迷惑防止条例違反!コンプライアンス!」
「散々人の顔で遊んでおいて……まあそれで話を戻すが、お前も米花町に移れ」
ファイルを見るよう促され、開くとそこには物件情報の書類があった。すべて米花町とその近辺である。
「……外では近づきすぎない方がいいんじゃなかった?」
「データの受け渡し上、近場に住んでもらうのが最良と判断した。組織の人間がうろうろしている以上は風見もそう頻繁に接触できない。しばらくは組織の幹部連中と動くことが増える以上、通信網もどこまで安全性が保てるか。……当初の予定以上に巻き込む形になってすまない」
――そこで降谷くんが謝るのはお門違いというやつだ。そもそも私が問い詰めた。組織のこと。……ヒロくんのこと。あのとき私が問い詰めなければ降谷くんは何も話さなかっただろう。それはきっと私の安全のためで、その保険の一つを叩き壊したのは私自身なのだから。
「……お前のことだが、組織に嗅ぎつけられた場合は別件で情報聞き出すために近づいた、そこそこ人脈も広いので関係を継続していると伝えることにしている。そのファイルにその設定もあるからよく読んで覚えろ」
「いよいよヤバい香りがしてきたわ」
「そのファイルの中ならどの部屋選んでもいい。安全性は確認できている。……それとお前のことは全力を挙げて守る。安心しろ、とは言えないが巻き込んだだけの責任は取る」
協力者の獲得には違法作業も厭わないが、一度懐に入れた協力者は何が何でも守る。私に組織のことを話してからというもの降谷くんは時々それを口にする。巻き込んだ、責任は取る、と。下手なプロポーズの言葉のようでなんだかむず痒い。まあ責任取るって言葉から連想されるのは、いわゆるちょっと先走ったタイプの順序を前後しちゃった系のものだけど。
「……いやあ、こんなイケメンに守るとか言われるのほんと役得だわ」
「俺は本気で言ってるんだぞ。……まあそういうことで、外で会ったときの俺は私立探偵の安室透だ。そのつもりでいてくれ」
「分かってるよ。……この会社に在籍時に安室さんと知り合って、会社が倒産してからは以前から勉強していたことを生かしてデザイナーに転職。一年前に一人立ち。何かと安室さんに手助けしてもらうこともあって感謝してる、そういう感じでしょ?」
「在宅ワーカーという設定だからそう使わないだろうけどな。まあ備えあれば憂いなしだ」
降谷くんも私もそのときはそう思っていたのだ。このときは。
「……お姉さんってもしかして安室さんと知り合いだったりするの?」
ランドセルが良く似合う眼鏡をかけた可愛い男子小学生。低学年だろうか。でも笑顔の奥の表情はなんだか、怖い。なぜだろうか、あの日何から何まで自白(ゲロ)らされた降谷くんのあの笑顔を思い出した。この子はほんの子供なのに、なぜ。
安室透として喫茶ポアロでアルバイトを始めることになった、データの受け渡しに都合が良いから半常連くらいになっておけ。そう言われたのは一週間前のこと。初日は爽やかな笑顔で店員さんしてる降谷くんがあまりに面白かったけれど例の設定を思い出して耐えた。梓さんという女の子が出してくれたコーヒーはとても美味しかった。明るくていかにも看板娘、人気だろうなあと思っていたら実際本当に人気の看板娘だった。
メニューもいかにも地元密着の喫茶店といった風の優しい味で、未だに食事の半分はコンビニ弁当かレトルト食品である私の舌と胃袋には非常に優しかった。そう言うと降谷くんは「最低限の健康で文化的な生活をしろ」と冷たい目を向けてきた。コンビニもレトルトも立派な文化的な存在であるのに。そう反論したら「健康的」と一字一字言い含めるように言われた。けん、こう、てき。確かにコンビニご飯オンリーはレパートリーもなければ少々味付けも濃いめでよろしくはないだろう。一応はサプリで栄養は摂ってます、と言うと憐れなものを見る目で「文化的はどこに行った」と言われた。それ以上は何も言い返せなかった。
そんなこんな。半常連に片足を突っ込みかかった私であるが、今大変困らされていた。店には窓際テーブル席に座った私と、壁際のソファ席に高校生の女の子が二人とその弟か妹だろうか、小学生が四人。その中の小学生の一人がじいっと私のことを覗き込み、爆弾発言を落としたのだ。……子供のカンって侮れないんだなあ、って言える感じの目じゃない。これは本気だ。カンとかそういうあやふやなものじゃない。降谷くん、じゃなくて安室さんがにこにこ笑いながら近づいてくる。さりげなく男の子と私の間に入ろうとしてくれてるけど男の子は退かない。――降谷くん相手にすごい度胸だ。私もその度胸の一欠片でもあればなあ、なんて思ったりして。
「……すごいなあ、コナンくんは。なんでそう思ったんだい?」
「……んーとね、なんとなく!」
そっか、なんとなくかーよかったなー。……いや、そんなことを思える訳がない。あの目はガチだった。そしてそのコナンくんに対する笑顔の安室さんも半分目が降谷くんだ。たぶんなんとなくじゃなくて何かを嗅ぎつけている。こんなんでここでデータの受け渡しとかできるんだろうか。いや、出来る訳がない。何もしていない今日でさえこれだ。
降谷くんは梓さんに呼ばれて一度カウンターへと戻っていった。その手のトレイにはアイスコーヒーとオレンジジュース。奥の子供たちのだろう。
「そうだね、ちょっと秘密にしてたんだけど実は……」
「もしかして安室さんの彼女だったりして」
「……いやあ、ばれちゃいましたか。園子さんは鋭いですね」
一瞬の静寂。そして園子さんと呼ばれた女の子がきゃー、と悲鳴を上げた。いや、私だって悲鳴あげたい。何言ってんだろうか、この人。自分で設定忘れた?いやいや降谷くんに限ってそれもない。つまりこれは今新たに追加された設定である。即座にアップデート、である
「えー?ほんとに?」
「安室の兄ちゃん彼女いたのかよ!」
「在宅仕事で家から出ないから食生活とか健康とかちょっと心配だったんですよ。近場なんだしたまにはポアロに食事にでも来てくれれば僕も安心するからってお願いして。ね?」
「……まあ、そんな感じです」
その後安室さんは「彼女照れ屋さんなので付き合ってることは内緒でお願いしますね」なんて言ってウインクとサービスのケーキで子供たちを黙らせていた。こういうときイケメンは得だし料理までできるのだからハイスペックにも程がある。
コナンくん、と呼ばれた少年はじいっと私の顔を見上げていた。とっても、とても可愛らしい。でもその可愛らしさを今の私は素直に受け取れない。降谷くんだって顔だけはとっても可愛らしいのだ。例えその中身が住居侵入恐喝からの自白引き出してそれを元手に協力者か留置所ドライブを迫る男だとしても。
「……そっかー、お姉さん安室さんの恋人さんだったんだね。ごめんね?内緒だったのに」
「ううん。だ、大丈夫だよ。コナンくんだっけ?」
「うん。よろしくね、お姉さん?」
その笑顔が、差し出してきたその手が。あの朝の降谷くんに被って見えたのは本当にどうしてなのだろうか。たぶんそれは「暴いてやる」という目。探偵の目、だったのかもしれない。
その日私の部屋にやってきた降谷くんに勿論泣きついた。
「あの子こわい、ポアロもうやだ」
「設定上お前は何も知らない無自覚な協力者だ、証拠もない、堂々としてろ」
「証拠もないのに何から何まで自白したから今こんなことになってるんだよ」
「安心しろ、アイリーン・アドラーは名探偵ホームズを出し抜いた唯一の女性だ」
「降谷くんの言う通り私にその名は重すぎたみたいですごめんなさい」
何しろ私はリアルではぽんこつもいいところ。……まさかあの子に今後あれほど振り回されて助けられるなんて、その時の私は想像すらしていなかったのだ。
「米花町に拠点を移すことになった」
「……珍しいね?なんかあるの、米花町。確かに犯罪率高いって聞くけど」
「組織の都合だ。バーボンの方に少々厄介な仕事が入った」
バーボン。それが彼のコードネーム。かれこれ二年ほど前になるだろうか。降谷くんと同じく同級生の彼のことを問い詰めた後、彼の口から聞かされた。少しだけれど組織のことも。ハリウッドの大女優、クリス・ヴィンヤードもその組織の幹部であると聞いたときは驚いた。正直普通に好きだったし、知るまではテレビで彼女の出てる映画とか普通に見てた。道理で降谷くんが微妙な顔して見ていたわけだ。
彼女は変装の達人で声も自在に操れるので自分の姿をした人物が訪ねてきても合言葉を確かめること。最悪の手段として顔を引っ張って確かめるとよいとも。――まあそれで偽者だったら私はたぶんこの世からいなくなるけれど。
降谷くんの頬っぺたをぐにゅりと摘まんだ。細いようで全身筋肉で覆われてる降谷くんでも頬っぺたは柔らかい。頬っぺたをぐにゅぐにゅ引っ張られながら降谷くんは眉間に皺を寄せた。
「何の真似だ」
「いや、一応確かめておこうかなって。全身筋肉の降谷くんでもさすがにほっぺは柔らかいんだね」
「……それを言うならお前は全身柔らかいな」
頬っぺたを摘まんでいた手首を掴まれ、むにゅむにゅと揉まれる。そしてその手はどんどん上へ上へと移動していく。
「うわセクハラ!肘から上はアウト!お巡りさん!」
「呼んだか?」
「いくらお巡りさんでもアウト!迷惑防止条例違反!コンプライアンス!」
「散々人の顔で遊んでおいて……まあそれで話を戻すが、お前も米花町に移れ」
ファイルを見るよう促され、開くとそこには物件情報の書類があった。すべて米花町とその近辺である。
「……外では近づきすぎない方がいいんじゃなかった?」
「データの受け渡し上、近場に住んでもらうのが最良と判断した。組織の人間がうろうろしている以上は風見もそう頻繁に接触できない。しばらくは組織の幹部連中と動くことが増える以上、通信網もどこまで安全性が保てるか。……当初の予定以上に巻き込む形になってすまない」
――そこで降谷くんが謝るのはお門違いというやつだ。そもそも私が問い詰めた。組織のこと。……ヒロくんのこと。あのとき私が問い詰めなければ降谷くんは何も話さなかっただろう。それはきっと私の安全のためで、その保険の一つを叩き壊したのは私自身なのだから。
「……お前のことだが、組織に嗅ぎつけられた場合は別件で情報聞き出すために近づいた、そこそこ人脈も広いので関係を継続していると伝えることにしている。そのファイルにその設定もあるからよく読んで覚えろ」
「いよいよヤバい香りがしてきたわ」
「そのファイルの中ならどの部屋選んでもいい。安全性は確認できている。……それとお前のことは全力を挙げて守る。安心しろ、とは言えないが巻き込んだだけの責任は取る」
協力者の獲得には違法作業も厭わないが、一度懐に入れた協力者は何が何でも守る。私に組織のことを話してからというもの降谷くんは時々それを口にする。巻き込んだ、責任は取る、と。下手なプロポーズの言葉のようでなんだかむず痒い。まあ責任取るって言葉から連想されるのは、いわゆるちょっと先走ったタイプの順序を前後しちゃった系のものだけど。
「……いやあ、こんなイケメンに守るとか言われるのほんと役得だわ」
「俺は本気で言ってるんだぞ。……まあそういうことで、外で会ったときの俺は私立探偵の安室透だ。そのつもりでいてくれ」
「分かってるよ。……この会社に在籍時に安室さんと知り合って、会社が倒産してからは以前から勉強していたことを生かしてデザイナーに転職。一年前に一人立ち。何かと安室さんに手助けしてもらうこともあって感謝してる、そういう感じでしょ?」
「在宅ワーカーという設定だからそう使わないだろうけどな。まあ備えあれば憂いなしだ」
降谷くんも私もそのときはそう思っていたのだ。このときは。
「……お姉さんってもしかして安室さんと知り合いだったりするの?」
ランドセルが良く似合う眼鏡をかけた可愛い男子小学生。低学年だろうか。でも笑顔の奥の表情はなんだか、怖い。なぜだろうか、あの日何から何まで自白(ゲロ)らされた降谷くんのあの笑顔を思い出した。この子はほんの子供なのに、なぜ。
安室透として喫茶ポアロでアルバイトを始めることになった、データの受け渡しに都合が良いから半常連くらいになっておけ。そう言われたのは一週間前のこと。初日は爽やかな笑顔で店員さんしてる降谷くんがあまりに面白かったけれど例の設定を思い出して耐えた。梓さんという女の子が出してくれたコーヒーはとても美味しかった。明るくていかにも看板娘、人気だろうなあと思っていたら実際本当に人気の看板娘だった。
メニューもいかにも地元密着の喫茶店といった風の優しい味で、未だに食事の半分はコンビニ弁当かレトルト食品である私の舌と胃袋には非常に優しかった。そう言うと降谷くんは「最低限の健康で文化的な生活をしろ」と冷たい目を向けてきた。コンビニもレトルトも立派な文化的な存在であるのに。そう反論したら「健康的」と一字一字言い含めるように言われた。けん、こう、てき。確かにコンビニご飯オンリーはレパートリーもなければ少々味付けも濃いめでよろしくはないだろう。一応はサプリで栄養は摂ってます、と言うと憐れなものを見る目で「文化的はどこに行った」と言われた。それ以上は何も言い返せなかった。
そんなこんな。半常連に片足を突っ込みかかった私であるが、今大変困らされていた。店には窓際テーブル席に座った私と、壁際のソファ席に高校生の女の子が二人とその弟か妹だろうか、小学生が四人。その中の小学生の一人がじいっと私のことを覗き込み、爆弾発言を落としたのだ。……子供のカンって侮れないんだなあ、って言える感じの目じゃない。これは本気だ。カンとかそういうあやふやなものじゃない。降谷くん、じゃなくて安室さんがにこにこ笑いながら近づいてくる。さりげなく男の子と私の間に入ろうとしてくれてるけど男の子は退かない。――降谷くん相手にすごい度胸だ。私もその度胸の一欠片でもあればなあ、なんて思ったりして。
「……すごいなあ、コナンくんは。なんでそう思ったんだい?」
「……んーとね、なんとなく!」
そっか、なんとなくかーよかったなー。……いや、そんなことを思える訳がない。あの目はガチだった。そしてそのコナンくんに対する笑顔の安室さんも半分目が降谷くんだ。たぶんなんとなくじゃなくて何かを嗅ぎつけている。こんなんでここでデータの受け渡しとかできるんだろうか。いや、出来る訳がない。何もしていない今日でさえこれだ。
降谷くんは梓さんに呼ばれて一度カウンターへと戻っていった。その手のトレイにはアイスコーヒーとオレンジジュース。奥の子供たちのだろう。
「そうだね、ちょっと秘密にしてたんだけど実は……」
「もしかして安室さんの彼女だったりして」
「……いやあ、ばれちゃいましたか。園子さんは鋭いですね」
一瞬の静寂。そして園子さんと呼ばれた女の子がきゃー、と悲鳴を上げた。いや、私だって悲鳴あげたい。何言ってんだろうか、この人。自分で設定忘れた?いやいや降谷くんに限ってそれもない。つまりこれは今新たに追加された設定である。即座にアップデート、である
「えー?ほんとに?」
「安室の兄ちゃん彼女いたのかよ!」
「在宅仕事で家から出ないから食生活とか健康とかちょっと心配だったんですよ。近場なんだしたまにはポアロに食事にでも来てくれれば僕も安心するからってお願いして。ね?」
「……まあ、そんな感じです」
その後安室さんは「彼女照れ屋さんなので付き合ってることは内緒でお願いしますね」なんて言ってウインクとサービスのケーキで子供たちを黙らせていた。こういうときイケメンは得だし料理までできるのだからハイスペックにも程がある。
コナンくん、と呼ばれた少年はじいっと私の顔を見上げていた。とっても、とても可愛らしい。でもその可愛らしさを今の私は素直に受け取れない。降谷くんだって顔だけはとっても可愛らしいのだ。例えその中身が住居侵入恐喝からの自白引き出してそれを元手に協力者か留置所ドライブを迫る男だとしても。
「……そっかー、お姉さん安室さんの恋人さんだったんだね。ごめんね?内緒だったのに」
「ううん。だ、大丈夫だよ。コナンくんだっけ?」
「うん。よろしくね、お姉さん?」
その笑顔が、差し出してきたその手が。あの朝の降谷くんに被って見えたのは本当にどうしてなのだろうか。たぶんそれは「暴いてやる」という目。探偵の目、だったのかもしれない。
その日私の部屋にやってきた降谷くんに勿論泣きついた。
「あの子こわい、ポアロもうやだ」
「設定上お前は何も知らない無自覚な協力者だ、証拠もない、堂々としてろ」
「証拠もないのに何から何まで自白したから今こんなことになってるんだよ」
「安心しろ、アイリーン・アドラーは名探偵ホームズを出し抜いた唯一の女性だ」
「降谷くんの言う通り私にその名は重すぎたみたいですごめんなさい」
何しろ私はリアルではぽんこつもいいところ。……まさかあの子に今後あれほど振り回されて助けられるなんて、その時の私は想像すらしていなかったのだ。
