「だからその手を捕まえる」
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「……降谷さんは現在組織の残党狩りに当たっています。第二優先リストの構成員を確保したため各国合同捜査本部は解散、今後は各国の機関による連携になるでしょうね」
「あ、それじゃ一段落はつきましたね。……風見さんもお疲れ様です。その怪我、もしかしてこの前の爆破未遂の……」
「ええ。ただ降谷さんは似たような距離にいたのにぴんぴんして仕事してますしここで休むわけには……」
「降谷くんと比べちゃ駄目です。あの人はちょっと人間辞めてるし」
赤井さんもなかなかだったけど降谷くんも相当だ。あとで聞いた話だけれど、赤井さんは倉庫内に突入するとき車ごと扉をぶっ飛ばして組織の大物幹部を跳ね飛ばした上に両手両足を吹っ飛ばして捕まえたらしい。音声からでも相当なことをしているのは想像ついたけれどまさか車で跳ね飛ばすとは。――つまりはそんな二人と一緒に潜入していたというもう一人の同級生だってきっとすごい人だったのだろう、と思う。それを私が知る由はないのだけれど。
「……まあ確かにたまにあの人は人間なのかと疑いたくなりますが」
「私はしょっちゅうです。……フロントガラス素手で割れるって拳何で出来てるの」
「――それでもあの人の右腕と呼ばれていたいので」
あなたもそうでしょう、と風見さんは微笑んだ。――悔しいことに全くその通りで。本当に降谷零という人は罪な男だと思う。
「……ただ降谷くんには自覚を持ってほしい。自分はちょっとヤバい人間だって。ついでに赤井さんとコナンくんにも」
「それはそうですね……。特にあの少年は恐ろしいですよ……」
「私も何度ゲロらされそうになったことか……探偵とか本当鬼門ですよ……」
赤井さんはまだいい。見た目からして明らかに格闘技の達人のオーラがある。コナンくんはあの可愛い顔で中身にえげつないほどの推理力を隠しているから怖い。そして。
「降谷くん、あの顔で二十九でボクシングできてドラテクあれって……しかも爆発に巻き込まれてもタフに仕事してるし」
「……恐ろしい人ですよ」
お互い降谷くんには振り回されているらしい。風見さんは仕事で、私もある意味仕事で、だけど。それでも嫌いになれないのだから降谷くんは本当にずるい人だと思う。そう、風見さんの言葉に頷いたときだった。
「――僕がなんだって?」
はっと振り向くとそこにはグレーのスーツ、それから金髪に褐色の肌。――あの日を思い出した。この部屋に来た日のこと。降谷くんがそれを告げるまで何も知らずにいたあの日。今度は私が捕まえてやる、そう決めたあの日の光景がフラッシュバックした。
「風見、ご苦労だった。明日一日は休め」
「いえ、その先程のは……」
「そうじゃない、上から捜査員を交代でちゃんと休ませろとお達しだ。まずは軽傷とはいえ負傷中のお前だ。ゆっくり休んで英気を養え。今日はもう帰っていい」
「はっ……」
そう言って降谷くんは風見さんを半ば追い立てるように帰らせた。そしてドアが閉まる。けれど今度は降谷くんがいる。二人になって、降谷くんの表情が少しだけ変わる。優秀な潜入捜査官の顔から、同級生の顔に。
「……とりあえずだな」
「勝手にバイタルチェックつけててごめん」
「……それもまあ、あるけど」
「え、じゃあ音声データの方?でもおかげで事態がヤバいのを赤井さんたちに伝えられたし……」
「……音声まで抜いていたのか。俺が聞いたのは位置情報とバイタルデータだけだったが」
「……あ、はい」
見事に墓穴を掘った気がする。――やっぱり私はアイリーン・アドラーなんて名乗るにはぽんこつが過ぎるようだ。シャーロキアンに知られたらボコボコにされそう。
「……そっちじゃなくてだな、そもそもなんで戻ってきた」
「……とっ捕まって散々振り回されてある日理不尽にぶん投げられて捨てられたらそりゃあキレるでしょ。今度はこっちが捕まえて文句の一つも言ってやりたくなる」
「……悪かったよ。詳しく説明する余裕も、それに知ることでお前に余計な危険が及ぶのを避けたかった」
「知ってるよ。……だからそこがずるいんだよ。お前の能力はちゃんと役立ててやるとか、なんか偉そうなこと言って、なのに途中で置いてくんだから」
「……嫌いになったか?」
――ああ、本当に。ずるいひと。
「なるわけないじゃん。……なれないから、追いかけてるんだよ」
ソファから立ち上がって降谷くんのところに向かう。いつかの夜のように壁に凭れた降谷くんの手を掴む。万年冷え性の私と違ってじんわりと温かい。今度はふり払われたりしなかった。
「……捕まえた。降谷くんのこと」
「それは困ったな。で?俺のことを捕まえてどうするんだ?」
「ソファまで連行する」
そういうとちょっと首を竦めて大人しく降谷くんはついてきた。そしてテーブルの上のものを見て少し笑う。作ったんだ、と。
「……作ったけど微妙」
「あれ安い材料でいいんだぞ。要はそれをどう蘇らせるかってだけで」
「材料じゃないよ。腕は……まあ関係あるかもだけど、でも自分で作ってもそんなに美味しくなかった」
そんなに難しいレシピじゃなかった。パンを蒸すのだってラップをかけてレンチンでいいし、レタスもお湯に浸せばしゃっきりしてて美味しいし、マヨネーズも味噌もありきたりなもの。分かっているのに何度も作って、その味を似たものでいいからなんとなく求めてしまう理由。
「――降谷くんが作ってくれたから美味しかった」
純粋に腕が半分。そして、きっと。
「普通に放っとかれることもあったけど、でもたまに帰ってくるからなんとなく一人じゃない気がしてた。入らなくても降谷くんの部屋があるだけでなんとなく寂しくなかった。……一人なんて平気だと思ってたけど、そんなに平気じゃなかった」
案外私は寂しがり屋なことに気づいた。それから。
「……好き、なんだと思うよ。降谷くんのこと」
「そこははっきり言ってくれないんだな」
「そっちこそ、恋人のフリはやだとかはっきり言ってくれなかった」
練習だとか、嘘は言ってないだとか、そんな曖昧な言葉でぼかして。はっきり言えなかったのは仕方ないってわかってるけど、でもずるい。降谷くんは少し笑って、それから掴んだその手に指を絡めてきた。
「じゃあはっきり言わせてくれ。――降谷零の恋人になってくれないか?」
そっと絡む指に力を入れる。硬い掌の皮膚の感触が好きだな、とふと思う。爪の形や、指先のちょっとした造形さえ。頷くと繋いでいない方の手で抱き寄せられた。
「……もう降谷くんのこと離さないから。逃げても追いかけるから覚悟して」
「……俺ももう離してやれないからな。覚悟しておけ」
「公安警察が言うと怖いなあ」
「そっちこそ、世界有数のハッカーに言われたら説得力がある」
耳を寄せた胸から伝わる心臓の鼓動に不思議と安堵する。データじゃない生の感覚。生きているひとつの証。
「――それはそれとして協力者も継続だ。今回の活躍でどさくさ紛れに解放する作戦が立ち消えた」
「頑張ったんだから賞与とかないの?」
「希望は?」
「とりあえずは――」
明日の朝ご飯かな、と彼女は降谷の腕の中で呟いた。
「あ、それじゃ一段落はつきましたね。……風見さんもお疲れ様です。その怪我、もしかしてこの前の爆破未遂の……」
「ええ。ただ降谷さんは似たような距離にいたのにぴんぴんして仕事してますしここで休むわけには……」
「降谷くんと比べちゃ駄目です。あの人はちょっと人間辞めてるし」
赤井さんもなかなかだったけど降谷くんも相当だ。あとで聞いた話だけれど、赤井さんは倉庫内に突入するとき車ごと扉をぶっ飛ばして組織の大物幹部を跳ね飛ばした上に両手両足を吹っ飛ばして捕まえたらしい。音声からでも相当なことをしているのは想像ついたけれどまさか車で跳ね飛ばすとは。――つまりはそんな二人と一緒に潜入していたというもう一人の同級生だってきっとすごい人だったのだろう、と思う。それを私が知る由はないのだけれど。
「……まあ確かにたまにあの人は人間なのかと疑いたくなりますが」
「私はしょっちゅうです。……フロントガラス素手で割れるって拳何で出来てるの」
「――それでもあの人の右腕と呼ばれていたいので」
あなたもそうでしょう、と風見さんは微笑んだ。――悔しいことに全くその通りで。本当に降谷零という人は罪な男だと思う。
「……ただ降谷くんには自覚を持ってほしい。自分はちょっとヤバい人間だって。ついでに赤井さんとコナンくんにも」
「それはそうですね……。特にあの少年は恐ろしいですよ……」
「私も何度ゲロらされそうになったことか……探偵とか本当鬼門ですよ……」
赤井さんはまだいい。見た目からして明らかに格闘技の達人のオーラがある。コナンくんはあの可愛い顔で中身にえげつないほどの推理力を隠しているから怖い。そして。
「降谷くん、あの顔で二十九でボクシングできてドラテクあれって……しかも爆発に巻き込まれてもタフに仕事してるし」
「……恐ろしい人ですよ」
お互い降谷くんには振り回されているらしい。風見さんは仕事で、私もある意味仕事で、だけど。それでも嫌いになれないのだから降谷くんは本当にずるい人だと思う。そう、風見さんの言葉に頷いたときだった。
「――僕がなんだって?」
はっと振り向くとそこにはグレーのスーツ、それから金髪に褐色の肌。――あの日を思い出した。この部屋に来た日のこと。降谷くんがそれを告げるまで何も知らずにいたあの日。今度は私が捕まえてやる、そう決めたあの日の光景がフラッシュバックした。
「風見、ご苦労だった。明日一日は休め」
「いえ、その先程のは……」
「そうじゃない、上から捜査員を交代でちゃんと休ませろとお達しだ。まずは軽傷とはいえ負傷中のお前だ。ゆっくり休んで英気を養え。今日はもう帰っていい」
「はっ……」
そう言って降谷くんは風見さんを半ば追い立てるように帰らせた。そしてドアが閉まる。けれど今度は降谷くんがいる。二人になって、降谷くんの表情が少しだけ変わる。優秀な潜入捜査官の顔から、同級生の顔に。
「……とりあえずだな」
「勝手にバイタルチェックつけててごめん」
「……それもまあ、あるけど」
「え、じゃあ音声データの方?でもおかげで事態がヤバいのを赤井さんたちに伝えられたし……」
「……音声まで抜いていたのか。俺が聞いたのは位置情報とバイタルデータだけだったが」
「……あ、はい」
見事に墓穴を掘った気がする。――やっぱり私はアイリーン・アドラーなんて名乗るにはぽんこつが過ぎるようだ。シャーロキアンに知られたらボコボコにされそう。
「……そっちじゃなくてだな、そもそもなんで戻ってきた」
「……とっ捕まって散々振り回されてある日理不尽にぶん投げられて捨てられたらそりゃあキレるでしょ。今度はこっちが捕まえて文句の一つも言ってやりたくなる」
「……悪かったよ。詳しく説明する余裕も、それに知ることでお前に余計な危険が及ぶのを避けたかった」
「知ってるよ。……だからそこがずるいんだよ。お前の能力はちゃんと役立ててやるとか、なんか偉そうなこと言って、なのに途中で置いてくんだから」
「……嫌いになったか?」
――ああ、本当に。ずるいひと。
「なるわけないじゃん。……なれないから、追いかけてるんだよ」
ソファから立ち上がって降谷くんのところに向かう。いつかの夜のように壁に凭れた降谷くんの手を掴む。万年冷え性の私と違ってじんわりと温かい。今度はふり払われたりしなかった。
「……捕まえた。降谷くんのこと」
「それは困ったな。で?俺のことを捕まえてどうするんだ?」
「ソファまで連行する」
そういうとちょっと首を竦めて大人しく降谷くんはついてきた。そしてテーブルの上のものを見て少し笑う。作ったんだ、と。
「……作ったけど微妙」
「あれ安い材料でいいんだぞ。要はそれをどう蘇らせるかってだけで」
「材料じゃないよ。腕は……まあ関係あるかもだけど、でも自分で作ってもそんなに美味しくなかった」
そんなに難しいレシピじゃなかった。パンを蒸すのだってラップをかけてレンチンでいいし、レタスもお湯に浸せばしゃっきりしてて美味しいし、マヨネーズも味噌もありきたりなもの。分かっているのに何度も作って、その味を似たものでいいからなんとなく求めてしまう理由。
「――降谷くんが作ってくれたから美味しかった」
純粋に腕が半分。そして、きっと。
「普通に放っとかれることもあったけど、でもたまに帰ってくるからなんとなく一人じゃない気がしてた。入らなくても降谷くんの部屋があるだけでなんとなく寂しくなかった。……一人なんて平気だと思ってたけど、そんなに平気じゃなかった」
案外私は寂しがり屋なことに気づいた。それから。
「……好き、なんだと思うよ。降谷くんのこと」
「そこははっきり言ってくれないんだな」
「そっちこそ、恋人のフリはやだとかはっきり言ってくれなかった」
練習だとか、嘘は言ってないだとか、そんな曖昧な言葉でぼかして。はっきり言えなかったのは仕方ないってわかってるけど、でもずるい。降谷くんは少し笑って、それから掴んだその手に指を絡めてきた。
「じゃあはっきり言わせてくれ。――降谷零の恋人になってくれないか?」
そっと絡む指に力を入れる。硬い掌の皮膚の感触が好きだな、とふと思う。爪の形や、指先のちょっとした造形さえ。頷くと繋いでいない方の手で抱き寄せられた。
「……もう降谷くんのこと離さないから。逃げても追いかけるから覚悟して」
「……俺ももう離してやれないからな。覚悟しておけ」
「公安警察が言うと怖いなあ」
「そっちこそ、世界有数のハッカーに言われたら説得力がある」
耳を寄せた胸から伝わる心臓の鼓動に不思議と安堵する。データじゃない生の感覚。生きているひとつの証。
「――それはそれとして協力者も継続だ。今回の活躍でどさくさ紛れに解放する作戦が立ち消えた」
「頑張ったんだから賞与とかないの?」
「希望は?」
「とりあえずは――」
明日の朝ご飯かな、と彼女は降谷の腕の中で呟いた。
