「だからその手を捕まえる」
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……やらせるかよ!」
ダイヤルを回す。ベルトから飛び出したボールが一度地面でバウンドする。狙いはただひとつ、宙を舞ってこちらに落ちてくる爆発数秒前の手榴弾。
「――いっけええ!」
一寸も違わず目標に当たった。無人の倉庫の奥で手榴弾が爆ぜ、光の後に一瞬遅れて爆音が、そして爆風が押し寄せてくる。
「……伏せるんだ!」
左右から大人の腕が伸び、コナンを地面に伏せさせた。地面に転がるジンと目が合う。
「お前は……」
「江戸川コナン。……いや、工藤新一、探偵さ!」
いつか誰かに同じことを言った。苦しげに幾ばくも無い呼吸を繰り返し、彼女はそれでも最後までこの男に抗い続けた。組織の存在を、向かうべき敵を教えてくれたのは彼女だった。やがて爆風が収まり、三人は体を起こした。
「……ウォッカは」
「逃げただろうよ。……投げたら成功不成功問わず撤退しろと言ってあったからな。どうせすぐに犬どもが来るんだろう?」
「……風見か。今幹部の一人が逃走した。ああ、コードネームはウォッカ、車は黒のポルシェ――」
「FBIも近くまで来ている。……ああ、そうだ、キャメル、黒のポルシェを追ってくれ」
サイレンは聞こえないが先程までとは桁違いの車のエンジン音が響く。そして捜査員たちが駆け込んできた。負傷し自力で歩かせられないジンを担架に乗せて運びだし、周囲に危険物がないか防護服を着た捜査員たちが確認を始めた。ウォッカ逮捕の報はそれから程なく、十数分後に届いた。
『……シュウ、大丈夫。たった今日本の公安が車をぶつけて止めたわ。なかなか……クレイジーね』
一歩間違えばエンジン爆発炎上よ、と呟く彼女の声に赤井は首を竦めた。
「やれやれ、上が上なら部下も部下というわけだ。なあ?降谷くん」
「当然だ。それくらいできなくて何が公安だ」
「……とりあえずこれでボス、ラム、それから主要幹部は捕えた。そういうことでいいんだよね?」
「そうだな。……まだ終わりではないが一区切りはついた」
「とりあえず坊やはFBIで一時的に保護する。文句はないだろう?」
「……この作戦のために日本国内で一時的に捜査権が許可はされているが、ここをアメリカだと思うなよ、FBI」
「分かっているさ。……ところでだな、降谷くん。今回の作戦の陰の立役者と話してみないか?」
赤井がコナンに目配せを送る。公安から渡された端末を差し出すと降谷は怪訝な顔で受け取った。端末の向こうからは慌て切ったような声。
『いや、あの色々お礼は言いたいんだけど、でもちょっと待って!ほらあの、バイタル監視とかスマホの隠し機能とか降谷くんには内緒で……』
「ほー、内緒ね。……なるほど、風見もグルか」
『……いや、あの、どちらかというと公安がグル、かなあ……?風見さんだけじゃないかな……?』
「この一件が終わるまでは一切関わらせずに保護しておけと言っておいたんだが」
『降谷くんが本格的に潜入したらガンガン回ってきたよ。……うそつき。私が名簿から消えてないの、知ってるんだからね』
――いずれバレる嘘ではあっただろう。知識にしろ技術にしろ、彼女を手放し一般人に戻す選択肢は公安警察にはほぼない。だがだからこそこれは好機だった。この一件のごたごたに紛れて解放してしまえばきっと。
『……大体さ、勝手に捕まえておいて何?彼女のフリしろだ、フリだけじゃやだ、それとなんだっけ?散々人のこと振り回して、それで肝心なとこで逃げるの?……ずるいよ』
「……分かってるさ。それくらい」
『逃げても無駄だからね。スマホの追跡技術ならこの数年でめちゃくちゃ磨いたんだから、降谷くんのことなんてすぐに見つけられる。どこにいたって捕まえる』
やや鼻声なのは泣いていたのだろうか。……降谷は微かに笑みを浮かべ、そして呟いた。
「覚悟しておく。……全部終わったらそっちに行く」
『覚悟してろ。降谷くんのスマホのデータ、片っ端から抜いてやる』
そこでぷつりと画面が暗くなった。おそらく充電切れだろう。一応それをコナンに返すと「昨日の夜からずっと使ってたからね」と呟いた。
「昨日の夜の作戦でフル活用、まあちょっと仮眠中に充電はしたけどそれから今日のここに来るまで。GPSもファイル共有もさんざんやったし」
「……これ、直通なのかい?」
「そうだよ。公安の人から、二三一一、あのお姉さんと連絡を取るのに使ってくれ、って」
「昨日の作戦……まさか」
「そのまさかだ。以前君が行ったという作戦を参考にやらせてもらったよ。さすがはアイリーン・アドラー、素晴らしい腕前だ」
「……そこまで知っていたのか」
「FBIも彼女の技術には目をつけていたということだ。まあ俺も専門で追っていたわけではなかったから詳しくはないが、君がデータを強奪した製薬会社に同時期にハッキングが行われている。……あの計画書とその事実を照らし合わせればすぐにわかることさ」
気に入らない、といった風に降谷は舌打ちを漏らした。ジンを乗せた車が走り去っていく。そしてウォッカを追っていた捜査車両も戻ってきている。
「……ま、諦めて掴まることだ。私立探偵など名乗る以上、『the woman』には勝てないのだから」
