「だからその手を捕まえる」
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――犯人を自殺させる探偵は殺人者と変わらない。炎の中に消えていく彼の人を見送った時から心に決めていたことだ。FBIや公安警察からしたらそんな信条はとんだ綺麗事、夢物語に聞こえるのかもしれない。けれど自身が探偵であると、そう名乗る以上はそこを諦めるわけにはいかない。いつか彼の前で言った。「そんなのは正義じゃない」と。自分が正しいかどうかは分からない。けれど自らを探偵と名乗り顔を上げる以上、あの言葉を偽物にするわけにはいかない。
「……安室さんを助ける。ジンも止める……!」
「悪いが少々荒くなるぞ」
「大丈夫だよ。前にもっとすごいのに乗ったからね。……RX-7の助手席でさ」
『……あ、コナンくんもアレを体感したんだ。うん、ご愁傷様』
「お姉さんも?」
『うん……なんか犯人見つけたとかでいきなりカーチェイス始まってさ…片輪走行とかあれはちょっと人類には早すぎると思う』
「そうだね……僕もモノレールに突っ込んでいかれたときはさすがにヤバいと思ったよ」
『……モノレールって降谷くんほんと何してるの』
制限速度の倍近いスピードで飛ばすマスタングの運転手がくすりと笑った。
「今回はモノレールもカーチェイスもない。ただのロード・レースだからな」
『ただの、か……』
「むしろこの後が本番だ。坊や、策はあるか?」
「策か……ないことはないけど」
『……とりあえず周囲の店の防犯カメラの映像ハックしたから送りますね。周辺の状況、少しは分かるでしょうし』
新たに通知が入り、画面の上半分に分割されたモニター映像が表示される。目的地はおそらくコンビニ店内から出入口を映した映像の奥にちらりと見える倉庫だろう。地図で見るとその向こうは海になっている。
「……資料を見たときも驚いたが素晴らしい腕前だな。公安からの情報があるとはいえ、この短時間でよくここまでやる」
『それはどうも。…………あの、赤井さん』
「……なんだ?何かあるなら今のうちに頼む」
『……こんなこと言うべきでないのは分かってますけど、その、次は助けてください、ね』
――次。あのビルの出来事が赤井の脳裏を過る。死ぬべきではなかったあの男が死に向かうのを止めきれなかった。最終的にその一歩を踏み出させてしまった理由は自分以外の誰ひとり知る由もなく、そしてこれから先も誰かに告げることはない。だからこそ恨まれる覚悟は決めていた。電話越しの彼女の声は少し震えていた。
『昨日の映像を見て、赤井さんが本当に強い人なのは分かったんです。だから……こんなこと考えるのお門違いですけど、ちょっと思ってしまって。……この人も潜入捜査官だったなら、なんで助けてくれなかったの、って。……ごめんなさい。安全なところにいる私が言うの、本当烏滸がましいんですけど』
右に折れ、海沿いの通行の少ない道に出る。この直線を飛ばした先に例の倉庫がある。赤井はアクセルを強く踏み込んだ。
「……彼のことは今も悪かったと思っている。だからこそ、降谷くんは死なせない。……今後の掃討作戦に彼のような優秀な捜査員を欠くことは避けたいしな」
『……よろしくお願いします。……あの、赤井さんたちってまだ倉庫には着いてない、ですよね……?』
「まだだよ。あと一分もかからないと思うけど……まさか!」
『今、車のエンジン音が……そっちにも音声送ります』
端末から潮騒の音が微かに聞こえてくる。そして誰かの足音も徐々に近くなっていく。
『……おや、あなたでしたか』
「安室さんだ……!」
あと少し。三十秒もあれば。赤井がよりアクセルを踏み込む。さらに加速したマスタングは唸り声をあげて疾駆する。
『案外早かったですね。……ジン』
『……バーボン』
何度も聞いたその声。そして直後に響いたのは。
『……っ!』
「赤井さん!」
「分かってる!」
拳銃の発砲音。続いて彼女の悲鳴に似た声が上がる。
『い、生きてます!脈拍ちょっと早くなったけど普通だし、た、たぶん……』
そして倉庫の中からの声。
『研究データとサンプルはどこだ?話せば楽に死なせてやる』
『……僕も痛いのは趣味じゃありませんからね。じゃあどこから話しましょうか……。昨晩の作戦が立案された辺りからにしましょうか?それとも僕が潜入する辺りからがいいですかね?』
『フザけやがって……よほど死にたいのか』
「……坊や、頭を抱えてろ!」
倉庫は目の前。だが赤井はスピードを緩めることなくそのまま突っ込んだ。古びた扉がはじけ飛び、そして中にいた男――長髪の銀髪を靡かせる男に向かって突っ込んでいく。拳銃を構え、今まさに発砲しようとしていた男は突っ込んでくるマスタングを見、驚愕の表情を浮かべた。
「……ジン!」
がつ、と衝撃が車内に走り、大きな影と小さな影が一つずつ宙を舞う。ジンが持っていた拳銃が跳ね飛ばされて飛んでいく。本人も跳ねられて吹っ飛んでいく。キイ、と急ブレーキをかけて止まったマスタングから飛び降り、コナンは真っ直ぐに彼の元に駆け寄った。
「安室さん!」
「君は……!なぜここが……」
「安室さんのスマホの位置情報だよ。風見さんからの情報でね」
「……まったく、あいつめ……。気づかなかったとは、僕もまだまだだな」
「それより大丈夫?……腕、これで止血した方がいいよ」
安室は右上腕部を撃たれていた。傷自体は痛々しいが、命に別状はないようだ。コナンがハンカチで簡易的に止血しているとジンの吹き飛んだ方向から一発の発砲音が聞こえた。安室が素早く拳銃を構え、コナンを背後に庇う。
「……利き手を撃たれれば予備の拳銃も使えないだろう?さあ、大人しく降伏してもらおうか」
「生きてやがったか……赤井秀一」
「お前を残して先に死んでは合わせる顔がないものでな」
利き手の掌を撃ち抜かれ、全身打撲のジンは満身創痍といった様子でふらふらと歩いている。なおも抵抗しようというのか、その目は鋭い。
「……往生際が悪い」
一発、いや二発の発砲音。ジンが崩れ落ちる。両の脛を撃ち抜いたらしい。太い血管は避けてはいるようだが、これでただでさえ微弱だった機動力はさらに削がれる。だがジンはぎらついた瞳を安室とコナンの方へと向けた。右手に光るのは予備の拳銃。
「……クソッ!」
「コナンくん、下がっているんだ!」
撃ったのは安室の方が早かった。右の腕を撃ち抜き、ついで赤井の射撃が拳銃を弾き飛ばす。転がったそれをコナンが素早く確保しに行き、赤井が拘束するべくジンへと近づいていく。そこに安室がポケットから取り出した手錠を滑らせた。
「……これを使え、FBI」
「用意がいいことだ。……四肢を撃って確保とはまるで獣だな」
「僕はそこまで残虐にやる予定じゃなかったんだけどな」
「……じゃあどうするつもりだったの?安室さん一人で確保するつもりだったの?」
「まさか。……五分もあれば公安が駆け付ける。それくらいの時間を稼ぐのなら訳はない、研究データやサンプルの場所をちらつかせれば奴は僕をそう簡単には殺せない」
「……それにしても性急に過ぎた。この気の短い処刑人なら途中で気が変わって殺されてもおかしくはない。せめて仲間と合流するべきだっただろう」
「お前がNOCと知られたきっかけを思い出してみることだな。……奴は尋常でなく勘が働く。部下を周りに伏せさせておけば容易く罠と知られる。奴が東都から脱出する前に、限られた時間で事を済ませるには僕一人が囮になるのが最善だった。これでも何かいうことはあるか?」
「……ないな。が、少々無茶が過ぎたのではないかな?先日俺の言ったことも少しは思い出すことだ」
「ハッ、後悔のないように、でしたっけ?……彼女のことなら安全な場所にいる。それでいい」
ジンに手錠をかけ、安室が用意していたロープで足を縛る。諦めたのか特に抵抗はないらしい。拘束の済んだジンを見下ろし、安室が風見にジンが拘束済みであること、そして負傷しているので治療の手配もするよう指示を出し始めた。
「……これでひとまずは……いや、待って!」
「どうした?」
コナンが何かに気づくのとジンが叫ぶのは同時だった。
「――ウォッカ!」
「兄貴……!」
駆けこんできたのは大柄な男。彼自身も負傷しているのかその動きはややぎこちない。だが。
「……手榴弾!?」
「お前らの思い通りになってたまるか……!ここで死ね!」
ピンが抜かれる。振りかぶって放物線を描いたそれは真っ直ぐにジンに向かって落ちてくる。そしてその周りにいる三人にも。ずっと静かだった端末から女性の声が微かに聞こえた。
『降谷くん……!』
「……安室さんを助ける。ジンも止める……!」
「悪いが少々荒くなるぞ」
「大丈夫だよ。前にもっとすごいのに乗ったからね。……RX-7の助手席でさ」
『……あ、コナンくんもアレを体感したんだ。うん、ご愁傷様』
「お姉さんも?」
『うん……なんか犯人見つけたとかでいきなりカーチェイス始まってさ…片輪走行とかあれはちょっと人類には早すぎると思う』
「そうだね……僕もモノレールに突っ込んでいかれたときはさすがにヤバいと思ったよ」
『……モノレールって降谷くんほんと何してるの』
制限速度の倍近いスピードで飛ばすマスタングの運転手がくすりと笑った。
「今回はモノレールもカーチェイスもない。ただのロード・レースだからな」
『ただの、か……』
「むしろこの後が本番だ。坊や、策はあるか?」
「策か……ないことはないけど」
『……とりあえず周囲の店の防犯カメラの映像ハックしたから送りますね。周辺の状況、少しは分かるでしょうし』
新たに通知が入り、画面の上半分に分割されたモニター映像が表示される。目的地はおそらくコンビニ店内から出入口を映した映像の奥にちらりと見える倉庫だろう。地図で見るとその向こうは海になっている。
「……資料を見たときも驚いたが素晴らしい腕前だな。公安からの情報があるとはいえ、この短時間でよくここまでやる」
『それはどうも。…………あの、赤井さん』
「……なんだ?何かあるなら今のうちに頼む」
『……こんなこと言うべきでないのは分かってますけど、その、次は助けてください、ね』
――次。あのビルの出来事が赤井の脳裏を過る。死ぬべきではなかったあの男が死に向かうのを止めきれなかった。最終的にその一歩を踏み出させてしまった理由は自分以外の誰ひとり知る由もなく、そしてこれから先も誰かに告げることはない。だからこそ恨まれる覚悟は決めていた。電話越しの彼女の声は少し震えていた。
『昨日の映像を見て、赤井さんが本当に強い人なのは分かったんです。だから……こんなこと考えるのお門違いですけど、ちょっと思ってしまって。……この人も潜入捜査官だったなら、なんで助けてくれなかったの、って。……ごめんなさい。安全なところにいる私が言うの、本当烏滸がましいんですけど』
右に折れ、海沿いの通行の少ない道に出る。この直線を飛ばした先に例の倉庫がある。赤井はアクセルを強く踏み込んだ。
「……彼のことは今も悪かったと思っている。だからこそ、降谷くんは死なせない。……今後の掃討作戦に彼のような優秀な捜査員を欠くことは避けたいしな」
『……よろしくお願いします。……あの、赤井さんたちってまだ倉庫には着いてない、ですよね……?』
「まだだよ。あと一分もかからないと思うけど……まさか!」
『今、車のエンジン音が……そっちにも音声送ります』
端末から潮騒の音が微かに聞こえてくる。そして誰かの足音も徐々に近くなっていく。
『……おや、あなたでしたか』
「安室さんだ……!」
あと少し。三十秒もあれば。赤井がよりアクセルを踏み込む。さらに加速したマスタングは唸り声をあげて疾駆する。
『案外早かったですね。……ジン』
『……バーボン』
何度も聞いたその声。そして直後に響いたのは。
『……っ!』
「赤井さん!」
「分かってる!」
拳銃の発砲音。続いて彼女の悲鳴に似た声が上がる。
『い、生きてます!脈拍ちょっと早くなったけど普通だし、た、たぶん……』
そして倉庫の中からの声。
『研究データとサンプルはどこだ?話せば楽に死なせてやる』
『……僕も痛いのは趣味じゃありませんからね。じゃあどこから話しましょうか……。昨晩の作戦が立案された辺りからにしましょうか?それとも僕が潜入する辺りからがいいですかね?』
『フザけやがって……よほど死にたいのか』
「……坊や、頭を抱えてろ!」
倉庫は目の前。だが赤井はスピードを緩めることなくそのまま突っ込んだ。古びた扉がはじけ飛び、そして中にいた男――長髪の銀髪を靡かせる男に向かって突っ込んでいく。拳銃を構え、今まさに発砲しようとしていた男は突っ込んでくるマスタングを見、驚愕の表情を浮かべた。
「……ジン!」
がつ、と衝撃が車内に走り、大きな影と小さな影が一つずつ宙を舞う。ジンが持っていた拳銃が跳ね飛ばされて飛んでいく。本人も跳ねられて吹っ飛んでいく。キイ、と急ブレーキをかけて止まったマスタングから飛び降り、コナンは真っ直ぐに彼の元に駆け寄った。
「安室さん!」
「君は……!なぜここが……」
「安室さんのスマホの位置情報だよ。風見さんからの情報でね」
「……まったく、あいつめ……。気づかなかったとは、僕もまだまだだな」
「それより大丈夫?……腕、これで止血した方がいいよ」
安室は右上腕部を撃たれていた。傷自体は痛々しいが、命に別状はないようだ。コナンがハンカチで簡易的に止血しているとジンの吹き飛んだ方向から一発の発砲音が聞こえた。安室が素早く拳銃を構え、コナンを背後に庇う。
「……利き手を撃たれれば予備の拳銃も使えないだろう?さあ、大人しく降伏してもらおうか」
「生きてやがったか……赤井秀一」
「お前を残して先に死んでは合わせる顔がないものでな」
利き手の掌を撃ち抜かれ、全身打撲のジンは満身創痍といった様子でふらふらと歩いている。なおも抵抗しようというのか、その目は鋭い。
「……往生際が悪い」
一発、いや二発の発砲音。ジンが崩れ落ちる。両の脛を撃ち抜いたらしい。太い血管は避けてはいるようだが、これでただでさえ微弱だった機動力はさらに削がれる。だがジンはぎらついた瞳を安室とコナンの方へと向けた。右手に光るのは予備の拳銃。
「……クソッ!」
「コナンくん、下がっているんだ!」
撃ったのは安室の方が早かった。右の腕を撃ち抜き、ついで赤井の射撃が拳銃を弾き飛ばす。転がったそれをコナンが素早く確保しに行き、赤井が拘束するべくジンへと近づいていく。そこに安室がポケットから取り出した手錠を滑らせた。
「……これを使え、FBI」
「用意がいいことだ。……四肢を撃って確保とはまるで獣だな」
「僕はそこまで残虐にやる予定じゃなかったんだけどな」
「……じゃあどうするつもりだったの?安室さん一人で確保するつもりだったの?」
「まさか。……五分もあれば公安が駆け付ける。それくらいの時間を稼ぐのなら訳はない、研究データやサンプルの場所をちらつかせれば奴は僕をそう簡単には殺せない」
「……それにしても性急に過ぎた。この気の短い処刑人なら途中で気が変わって殺されてもおかしくはない。せめて仲間と合流するべきだっただろう」
「お前がNOCと知られたきっかけを思い出してみることだな。……奴は尋常でなく勘が働く。部下を周りに伏せさせておけば容易く罠と知られる。奴が東都から脱出する前に、限られた時間で事を済ませるには僕一人が囮になるのが最善だった。これでも何かいうことはあるか?」
「……ないな。が、少々無茶が過ぎたのではないかな?先日俺の言ったことも少しは思い出すことだ」
「ハッ、後悔のないように、でしたっけ?……彼女のことなら安全な場所にいる。それでいい」
ジンに手錠をかけ、安室が用意していたロープで足を縛る。諦めたのか特に抵抗はないらしい。拘束の済んだジンを見下ろし、安室が風見にジンが拘束済みであること、そして負傷しているので治療の手配もするよう指示を出し始めた。
「……これでひとまずは……いや、待って!」
「どうした?」
コナンが何かに気づくのとジンが叫ぶのは同時だった。
「――ウォッカ!」
「兄貴……!」
駆けこんできたのは大柄な男。彼自身も負傷しているのかその動きはややぎこちない。だが。
「……手榴弾!?」
「お前らの思い通りになってたまるか……!ここで死ね!」
ピンが抜かれる。振りかぶって放物線を描いたそれは真っ直ぐにジンに向かって落ちてくる。そしてその周りにいる三人にも。ずっと静かだった端末から女性の声が微かに聞こえた。
『降谷くん……!』
