同級生と殺人事件
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目暮警部に頭を下げられた。……普通に良い人なんだろう。ただちょっと、状況がよろしくなかっただけで。でも今回目暮警部が強硬に出ざるを得なかった理由のほとんどは降谷くんのせいだと思う。庇ってもらっておいてなんだけど、あの態度はそりゃ怪しむよな……と思う。公安刑事ならもう少し柔軟に煙に巻けたんじゃないかなあ、なんて少し思ったりして。――でも庇ってもらえたのは実を言うと少しだけ嬉しかったような気もする。
「……あなたには大変申し訳ないことを致しました。まして体の具合もよろしくない時に」
「あ、全然……でもないですけど、でも捜査のためですから」
「……すみません、目暮警部。僕もむきになり過ぎました」
「いや、恋人に疑いを掛けられたとあっては……」
目暮警部との謝罪合戦の中に毛利さんが割って入ってきた。
「オメーもそういうとこあんだな。いっつもこうなんだ、スカしてるっつーか」
「……まあ、そうですね。僕の大事な彼女なんで」
降谷くんがそう言って肩を竦める。すっかり安室透の顔で。タクシーを呼んでありますから、私の腰を抱いたまま表に向かう。
「あの、えっと……」
「とりあえず帰りましょう。こんなことがあったんです、家でゆっくり休む。ね?」
そして店の出口から少しずれたところに止められていたタクシーに近づき、助手席の窓をとんとんと叩く。そして私を後部座席に押し込んだ。
「――お疲れ様です」
運転手さんが妙な挨拶をした。首を傾げていると降谷くんが四角い機械を――たぶん盗聴器発見器だ、それを翳してきた。降谷くんが軽く息を吐く。
「――潜入中の公安刑事だ。ドライブレコーダーも切ってある」
「どうも。降谷さん、そちらの女性が例の?」
「……余計な詮索はよせ。とりあえず米花町まで頼む」
「了解です。……対象ですが無事に追跡できています。余計な邪魔は入りましたが問題はないと」
車は夜の街を走り抜け、見慣れた街の景色が近づいていく。
「それにしてもすごい技術ですね。一般的な道具だけで近づいて数分でハッキングとは。しかも痕跡もほぼ残さないんでしょう?」
「ええ……まあ」
米花町のいつものセーフハウスの前に車が止まる。お礼を言って降りようとすると、なぜか降谷くんまでついてきた。
「え、ちょっと」
「……あんなことがあった後だ」
降谷くんは軽く手を振ってタクシー運転手に擬態した部下さんを帰してしまった。当然のようにエレベーターに一緒に乗り込み、ごく当たり前のように部屋に入ってきた。
玄関の戸を閉める。鍵をかけると同時に降谷くんはそのままぎゅっと私を抱きこんだ。顔を胸元に押しつけられ、降谷くんの匂いがした。それから今日食べたご飯の匂いも少しして、でもその奥にはコーヒーの香りも少し残っている。今日はポアロのシフトが入ってたんだろう。なんとなく安心する匂いだ、と思ったそれ。ポアロの香りは安室透の匂いだけど、でも降谷くんにだってよく似合う。
「……あの人、降谷くんが登庁でもするのから呼んだのかと思ったけど」
「安室透として振る舞った場から直で行けるわけもないだろう」
「まあそれもそっか。……じゃあなんでわざわざ部下の人を?」
「例の張り込み組だ。ちょうど離脱したとこどだったからついでに送ってくれと」
「公私混同……?」
「協力者を無事に帰すためだ。今のお前をそこらのタクシーに乗せて帰すのは危険だと判断した」
「……そこまでか弱くはないよ」
「貧血起こして倒れた奴がよく言う。……胆が冷えた」
お前まで死ぬのかと思った。
降谷くんはそう囁いて、私の頭を掻き抱いた。――私もだ。あの男の人を見て、何に重ねたって降谷くんにだった。死というものを。理不尽な死を目の前にして、それが彼に降りかかるのを恐れた。何気なく口にしたそれに組織の人間が毒を混入させていたら。かつての事件で恨みを抱いた人間がいたら。黒の組織のバーボンを殺したい人間がいたら。降谷くんは頭もいいし強いけど、でも今脈打つこの心臓は刺されたら死ぬ。私と同じように、刺されても撃たれても毒を飲まされても死ぬ。人間のからだ。
セーフハウスは一応降谷くんの部屋でもあるのでいつも2LDKの部屋で、片方を降谷くんの部屋、もう片方を作業部屋にしている。私が寝るときはリビングに置いてあるソファベッドだ。その方がなんとなく落ち着いて寝られる。でも私の靴を脱がせて抱え上げて降谷くんが運んだ先は降谷くんの部屋だった。ぽふりとベッドに下ろされる。
「……今日はこっちで寝ろ」
「落ち着かないし、それに自分で歩けたし」
「貧血は大丈夫と思った時が危ないんだ。今日はもう寝ろ。あとで着替えと飲み物持ってくるから」
そう言って降谷くんは立ち上がった。実際まだ足が地につかないというか、ワインの酔いだけではないなにかが残っている感覚はあった。ベッドに座ったままの私の髪を撫でて、降谷くんは呟いた。
「……悪かった。お前を巻き込み過ぎた」
「いや別に今回降谷くんのせいじゃないし……」
「いいからもう寝ろ。ほら」
そう言ってベッドに押し倒し、布団を掛けられ、ついでに背中をとんとんされる。でも外で着てた服のまま寝るのは気持ち悪い。そう呟くと降谷くんは首を傾げた。
「じゃあ脱がすか?」
「……だから性欲処理なら他を当たってよ」
「別にそう言う訳じゃないって……。まあ着替え持ってくるから」
降谷くんはその夜私に何もしなかった。というと語弊がある。世話はいつも以上に焼いてくれた。でもいつものようなスキンシップはまるでなく、ただ慈しむようにあれこれと世話をしてくれた。それだけ。
そしてその数週間後。久しぶりに顔を合わせた降谷くんに意外なことを言われた。
「明日にはここを引き払う。最低限の生活用品だけでも纏めておけ」
「明日!?またハードスケジュールな……分かったよ。生活関係は何とでもなるから、機材だけまとめる」
「そっちは公安から人手を回せる。お前はお前の荷物を片付けておけ」
「あ、そうなんだ。立ち会う?改造とか結構しちゃってるし」
「問題ない。機械関係に強い奴の手が空いてるんでな、なんとかなる」
「……了解。まあ最低限なんとかしとくわ」
暢気に私は頷いた。そのときはそれが何を意味するかも知らずに。
「……あなたには大変申し訳ないことを致しました。まして体の具合もよろしくない時に」
「あ、全然……でもないですけど、でも捜査のためですから」
「……すみません、目暮警部。僕もむきになり過ぎました」
「いや、恋人に疑いを掛けられたとあっては……」
目暮警部との謝罪合戦の中に毛利さんが割って入ってきた。
「オメーもそういうとこあんだな。いっつもこうなんだ、スカしてるっつーか」
「……まあ、そうですね。僕の大事な彼女なんで」
降谷くんがそう言って肩を竦める。すっかり安室透の顔で。タクシーを呼んでありますから、私の腰を抱いたまま表に向かう。
「あの、えっと……」
「とりあえず帰りましょう。こんなことがあったんです、家でゆっくり休む。ね?」
そして店の出口から少しずれたところに止められていたタクシーに近づき、助手席の窓をとんとんと叩く。そして私を後部座席に押し込んだ。
「――お疲れ様です」
運転手さんが妙な挨拶をした。首を傾げていると降谷くんが四角い機械を――たぶん盗聴器発見器だ、それを翳してきた。降谷くんが軽く息を吐く。
「――潜入中の公安刑事だ。ドライブレコーダーも切ってある」
「どうも。降谷さん、そちらの女性が例の?」
「……余計な詮索はよせ。とりあえず米花町まで頼む」
「了解です。……対象ですが無事に追跡できています。余計な邪魔は入りましたが問題はないと」
車は夜の街を走り抜け、見慣れた街の景色が近づいていく。
「それにしてもすごい技術ですね。一般的な道具だけで近づいて数分でハッキングとは。しかも痕跡もほぼ残さないんでしょう?」
「ええ……まあ」
米花町のいつものセーフハウスの前に車が止まる。お礼を言って降りようとすると、なぜか降谷くんまでついてきた。
「え、ちょっと」
「……あんなことがあった後だ」
降谷くんは軽く手を振ってタクシー運転手に擬態した部下さんを帰してしまった。当然のようにエレベーターに一緒に乗り込み、ごく当たり前のように部屋に入ってきた。
玄関の戸を閉める。鍵をかけると同時に降谷くんはそのままぎゅっと私を抱きこんだ。顔を胸元に押しつけられ、降谷くんの匂いがした。それから今日食べたご飯の匂いも少しして、でもその奥にはコーヒーの香りも少し残っている。今日はポアロのシフトが入ってたんだろう。なんとなく安心する匂いだ、と思ったそれ。ポアロの香りは安室透の匂いだけど、でも降谷くんにだってよく似合う。
「……あの人、降谷くんが登庁でもするのから呼んだのかと思ったけど」
「安室透として振る舞った場から直で行けるわけもないだろう」
「まあそれもそっか。……じゃあなんでわざわざ部下の人を?」
「例の張り込み組だ。ちょうど離脱したとこどだったからついでに送ってくれと」
「公私混同……?」
「協力者を無事に帰すためだ。今のお前をそこらのタクシーに乗せて帰すのは危険だと判断した」
「……そこまでか弱くはないよ」
「貧血起こして倒れた奴がよく言う。……胆が冷えた」
お前まで死ぬのかと思った。
降谷くんはそう囁いて、私の頭を掻き抱いた。――私もだ。あの男の人を見て、何に重ねたって降谷くんにだった。死というものを。理不尽な死を目の前にして、それが彼に降りかかるのを恐れた。何気なく口にしたそれに組織の人間が毒を混入させていたら。かつての事件で恨みを抱いた人間がいたら。黒の組織のバーボンを殺したい人間がいたら。降谷くんは頭もいいし強いけど、でも今脈打つこの心臓は刺されたら死ぬ。私と同じように、刺されても撃たれても毒を飲まされても死ぬ。人間のからだ。
セーフハウスは一応降谷くんの部屋でもあるのでいつも2LDKの部屋で、片方を降谷くんの部屋、もう片方を作業部屋にしている。私が寝るときはリビングに置いてあるソファベッドだ。その方がなんとなく落ち着いて寝られる。でも私の靴を脱がせて抱え上げて降谷くんが運んだ先は降谷くんの部屋だった。ぽふりとベッドに下ろされる。
「……今日はこっちで寝ろ」
「落ち着かないし、それに自分で歩けたし」
「貧血は大丈夫と思った時が危ないんだ。今日はもう寝ろ。あとで着替えと飲み物持ってくるから」
そう言って降谷くんは立ち上がった。実際まだ足が地につかないというか、ワインの酔いだけではないなにかが残っている感覚はあった。ベッドに座ったままの私の髪を撫でて、降谷くんは呟いた。
「……悪かった。お前を巻き込み過ぎた」
「いや別に今回降谷くんのせいじゃないし……」
「いいからもう寝ろ。ほら」
そう言ってベッドに押し倒し、布団を掛けられ、ついでに背中をとんとんされる。でも外で着てた服のまま寝るのは気持ち悪い。そう呟くと降谷くんは首を傾げた。
「じゃあ脱がすか?」
「……だから性欲処理なら他を当たってよ」
「別にそう言う訳じゃないって……。まあ着替え持ってくるから」
降谷くんはその夜私に何もしなかった。というと語弊がある。世話はいつも以上に焼いてくれた。でもいつものようなスキンシップはまるでなく、ただ慈しむようにあれこれと世話をしてくれた。それだけ。
そしてその数週間後。久しぶりに顔を合わせた降谷くんに意外なことを言われた。
「明日にはここを引き払う。最低限の生活用品だけでも纏めておけ」
「明日!?またハードスケジュールな……分かったよ。生活関係は何とでもなるから、機材だけまとめる」
「そっちは公安から人手を回せる。お前はお前の荷物を片付けておけ」
「あ、そうなんだ。立ち会う?改造とか結構しちゃってるし」
「問題ない。機械関係に強い奴の手が空いてるんでな、なんとかなる」
「……了解。まあ最低限なんとかしとくわ」
暢気に私は頷いた。そのときはそれが何を意味するかも知らずに。
