同級生と殺人事件
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安室透の彼女。一般的に二十代の独身男性に彼女がいても問題はないし、私立探偵と喫茶店のアルバイトの掛け持ちなどという怪しい職業であってもあの顔なら恋人を作るのにさして苦労はしないことだろう。だがそれに首を傾げてしまうのは彼が「バーボン」であるから。黒ずくめの組織の幹部の一人、優秀で恐ろしく洞察力に長けた探り屋。さては彼女も組織絡みか、と警戒したのも仕方なかった。
のちに彼が公安警察からのスパイと知ってもその疑問は晴れなかった。いや、より深まった。危険で多忙な任務に身を投じている彼に恋人という存在が入り込む余地はあるのか、いやあったとして何故それを表に出したのか。――恐らくは彼女も警察か組織かどちらかに属する人間なのだろう。それならば下手に隠しておくよりも予め自分のシナリオ通りに周囲に認知させる方が余計な詮索を招かずに済む。ならば恋人というのもおそらくはフェイク。その正体は一体――。
「すみません。ちょっと彼女、気分が悪くなってしまったようで……」
はっと振り向くと安室さんはぐったりとした『彼女』を抱えて立っていた。辛うじて意識はあるようだがその顔色は蒼白で、一人ではまともに立っていることも難しいようだ。慌てて店員が店の奥のソファに案内し、安室さんはそっと沙紀さんをそこに横たわらせた。……すぐそばで人が死んだことにショックを受けて倒れるということは組織の関係者の線は薄いだろう。かといって警察関係者にしたって妙だ。思っていた以上に彼女は一般人なのか――いやそんな訳もない。
事件のことも気になる。だが今は彼女に、そして安室透に興味を駆り立てられて仕方なかった。ざわめく人々の足元をすり抜けて店の奥へと向かった。
間仕切りで簡易的に作られた個室で安室さんはソファに横たわらせた沙紀さんのすぐ側に座っていた。いつの間にか彼女の荷物も回収している辺り手際が良い。……つまりはその辺に荷物を放り出しておくわけにはいかなかった、という訳か。そもそもこの二人が何故このレストランにいたのか、という疑問もある。安室さんが話しかけていた男のこともそうだ。
「……安室さん、よかったら沙紀さんのこと、ボクが見てよっか?事件のこととか、刑事さんの事情聴取あると思うし」
「ありがとう。……でも大丈夫だよ。彼女のことは僕が見てるさ。事情聴取なら彼女の目が覚めてから応じる」
「軽い貧血、なんでしょ?」
「まあね。でも君だって大事な人が倒れたら心配だろう?たとえば蘭姉ちゃん、とか」
……そう言われると何も言えない。幼馴染が身も心もそこらの人間よりよほど強いのは知っている。けれど蘭が泣いていたら、悲しんでいたら何を置いてもその理由を取り除きたい。倒れたなんてことがあれば側にいたい。つまり、安室さんにとっても沙紀さんは。
「……大事なんだね、沙紀さんのこと」
「ああ。大事だよ。……少し巻き込み過ぎたかな」
「……それってどういう意味?もしかして――」
「それ以上は言えないよ。『ここ』ではね」
そう言って彼は随分と穏やかな笑みを浮かべて沙紀さんの頭を撫でた。その表情は少しだけ切なくも見えて。
「……安室さんはさ、」
言いかけたその瞬間だった。
「――すみませんがそちらの女性からもお話を伺えますか」
はっと振り向くと後ろには険しい顔をした目暮警部がいた。
のちに彼が公安警察からのスパイと知ってもその疑問は晴れなかった。いや、より深まった。危険で多忙な任務に身を投じている彼に恋人という存在が入り込む余地はあるのか、いやあったとして何故それを表に出したのか。――恐らくは彼女も警察か組織かどちらかに属する人間なのだろう。それならば下手に隠しておくよりも予め自分のシナリオ通りに周囲に認知させる方が余計な詮索を招かずに済む。ならば恋人というのもおそらくはフェイク。その正体は一体――。
「すみません。ちょっと彼女、気分が悪くなってしまったようで……」
はっと振り向くと安室さんはぐったりとした『彼女』を抱えて立っていた。辛うじて意識はあるようだがその顔色は蒼白で、一人ではまともに立っていることも難しいようだ。慌てて店員が店の奥のソファに案内し、安室さんはそっと沙紀さんをそこに横たわらせた。……すぐそばで人が死んだことにショックを受けて倒れるということは組織の関係者の線は薄いだろう。かといって警察関係者にしたって妙だ。思っていた以上に彼女は一般人なのか――いやそんな訳もない。
事件のことも気になる。だが今は彼女に、そして安室透に興味を駆り立てられて仕方なかった。ざわめく人々の足元をすり抜けて店の奥へと向かった。
間仕切りで簡易的に作られた個室で安室さんはソファに横たわらせた沙紀さんのすぐ側に座っていた。いつの間にか彼女の荷物も回収している辺り手際が良い。……つまりはその辺に荷物を放り出しておくわけにはいかなかった、という訳か。そもそもこの二人が何故このレストランにいたのか、という疑問もある。安室さんが話しかけていた男のこともそうだ。
「……安室さん、よかったら沙紀さんのこと、ボクが見てよっか?事件のこととか、刑事さんの事情聴取あると思うし」
「ありがとう。……でも大丈夫だよ。彼女のことは僕が見てるさ。事情聴取なら彼女の目が覚めてから応じる」
「軽い貧血、なんでしょ?」
「まあね。でも君だって大事な人が倒れたら心配だろう?たとえば蘭姉ちゃん、とか」
……そう言われると何も言えない。幼馴染が身も心もそこらの人間よりよほど強いのは知っている。けれど蘭が泣いていたら、悲しんでいたら何を置いてもその理由を取り除きたい。倒れたなんてことがあれば側にいたい。つまり、安室さんにとっても沙紀さんは。
「……大事なんだね、沙紀さんのこと」
「ああ。大事だよ。……少し巻き込み過ぎたかな」
「……それってどういう意味?もしかして――」
「それ以上は言えないよ。『ここ』ではね」
そう言って彼は随分と穏やかな笑みを浮かべて沙紀さんの頭を撫でた。その表情は少しだけ切なくも見えて。
「……安室さんはさ、」
言いかけたその瞬間だった。
「――すみませんがそちらの女性からもお話を伺えますか」
はっと振り向くと後ろには険しい顔をした目暮警部がいた。
