同級生と殺人事件
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沙紀は頬杖をついて、今さっき渡した資料を覗き込んでいた。少し伸びた髪が頬にかかって、わずらわしげに掻き上げる。その一連の仕草にほんの一瞬目を奪われて、けれど今はそんな話をしたら殴られそうなので口をつぐむ。唇が微かに動いて、黒い瞳が忙しなく文字を追う。降谷くんみたいにぱっちり目だったらよかったのに、とたまにぼやいているのを耳にするが、やや黒目がちのその瞳は小動物のようにも見えて可愛らしい、と降谷は思っていた。
「へえ、じゃあこの人に例の遠隔アプリ仕込むの?」
「そうしたいとこだった」
「……失敗?」
「いや、危険度が高いという判断だ」
「まあ後ろ暗いことある人がスマホ放り出してはおかないよね……」
スマートフォンに差して三秒。沙紀も開発に協力した遠隔アプリは非常に便利だが、相手に何か後ろ暗いことでもあり警戒している場合はその三秒すら捻出が難しい。ある程度のネットリテラシーがある人間の間ではいくらロックを掛けていようとスマホからの情報流出の危険は周知の事実。そこに猜疑心も加われば物理的になんとかするのは非常に難しくなる。その場合の手段としては不正アクセス、すなわちハッキングである。
「とりあえず相手のネットワーク構成とか証拠なく探るのに手っ取り早いのが同じWiFiの圏内に入ることかなあ……。別につながせなくてもなんとかなるし。偵察だけなら複雑な操作も必要ないかな」
「それなら……」
「うん、いつも通り公安の誰かに中継点になってもらって」
「俺と行くか」
「……は?」
小動物のような目がこちらを見つめて一度大きく瞬きをする。――やっとこっちを見た。仕事の話をしているのだから当然だが、資料とデバイスの画面にしか向いていなかった瞳が自分に向けられると訳もなく高揚する。高校生のガキか、と自分を内心嘲りつつも、実際沙紀を前にするとそうなのだから手におえない。降谷は思考を振り払いつつ軽く首を竦め、とんとん、と資料の一か所を指で叩いた。
「ここにもある通り、対象は俺を黒の組織のバーボン、表向き私立探偵の安室透という認識でいる。だから近づいても特に問題はない」
「それを知ってるのって随分ダークな人じゃん。……え……もしかしてだけど本気で言ってる?」
「公安の人間が下手に近づいて警戒されるよりは元々顔見知りで裏側の人間だと思われてる俺が近づいた方がそっちの意味では警戒され難い。それに加えて女連れなら別目的で近づいたとも思われないだろう」
「まあそれはそうだけど……」
「面割れなら問題ない、さっき言った通りの情報さえ取れれば奴は来週には留置所行きだ」
「うわあ、いつもの違法作業」
そう言って沙紀は少し笑う。
「……そういう訳で、デートしましょうよ」
安室透の顔で笑ってそう言うと、胡散臭いなあ、と沙紀はぼやいた。
「へえ、じゃあこの人に例の遠隔アプリ仕込むの?」
「そうしたいとこだった」
「……失敗?」
「いや、危険度が高いという判断だ」
「まあ後ろ暗いことある人がスマホ放り出してはおかないよね……」
スマートフォンに差して三秒。沙紀も開発に協力した遠隔アプリは非常に便利だが、相手に何か後ろ暗いことでもあり警戒している場合はその三秒すら捻出が難しい。ある程度のネットリテラシーがある人間の間ではいくらロックを掛けていようとスマホからの情報流出の危険は周知の事実。そこに猜疑心も加われば物理的になんとかするのは非常に難しくなる。その場合の手段としては不正アクセス、すなわちハッキングである。
「とりあえず相手のネットワーク構成とか証拠なく探るのに手っ取り早いのが同じWiFiの圏内に入ることかなあ……。別につながせなくてもなんとかなるし。偵察だけなら複雑な操作も必要ないかな」
「それなら……」
「うん、いつも通り公安の誰かに中継点になってもらって」
「俺と行くか」
「……は?」
小動物のような目がこちらを見つめて一度大きく瞬きをする。――やっとこっちを見た。仕事の話をしているのだから当然だが、資料とデバイスの画面にしか向いていなかった瞳が自分に向けられると訳もなく高揚する。高校生のガキか、と自分を内心嘲りつつも、実際沙紀を前にするとそうなのだから手におえない。降谷は思考を振り払いつつ軽く首を竦め、とんとん、と資料の一か所を指で叩いた。
「ここにもある通り、対象は俺を黒の組織のバーボン、表向き私立探偵の安室透という認識でいる。だから近づいても特に問題はない」
「それを知ってるのって随分ダークな人じゃん。……え……もしかしてだけど本気で言ってる?」
「公安の人間が下手に近づいて警戒されるよりは元々顔見知りで裏側の人間だと思われてる俺が近づいた方がそっちの意味では警戒され難い。それに加えて女連れなら別目的で近づいたとも思われないだろう」
「まあそれはそうだけど……」
「面割れなら問題ない、さっき言った通りの情報さえ取れれば奴は来週には留置所行きだ」
「うわあ、いつもの違法作業」
そう言って沙紀は少し笑う。
「……そういう訳で、デートしましょうよ」
安室透の顔で笑ってそう言うと、胡散臭いなあ、と沙紀はぼやいた。
