ひらこしんじ
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ここに来るのは何回目かは分からないし
数えても、その人が戻ってくることはないのも
わかっていた
「105年目だね」
彼が姿を消して、もうそれだけの月日が経ってしまったようだ。
寂しいとか、悲しいとか、そんな感情はすぐになくならなかった。
……じゃないと、今もここに来るわけもなくて。
「今頃何しているんだろうなぁ…。私のこと覚えてないんだろうな」
寂しいとか悲しいとかの感情が、この場所にいる必要性を私からどんどん奪っていって
彼が尸魂界から消えて50年が経った頃、
私は死神を辞めた。
数名の隊長たちが姿を消し
私は引き上げ、という形で七番隊副隊長から隊長をへ成り上がっていたのだが
狛村くんを推薦して私は護廷十三隊から籍を抜いた。
流魂街で小さな診療所を拓いて、得意だった回道で人々の傷を治していたり、
ちょっとした虚を倒して治安を守ってみたり。
手元に斬魄刀こそないが不自由のない生活を送っている。
ふわり、いつもの風より温かい風が頬を撫でた
それは頬、だけではなくて背中がぶつかる感覚と共に
懐かしい香りを運んできた
「覚えてるわ、忘れたことなんかないで」
忘れたことなんかない。
その言葉が、胸の奥をぐっと縛り上げる。
肺を潰されたような、息がうまく吸えない感じに
鼻の奥がつん、とする。視界がにじむ
「なぁ、凛。俺はここに戻ってこいっていわれてんねん。俺の出来損ないな副隊長がヘマして除隊になったんや」
あの時と変わらない、少し気だるそうな声
あの時と違うのは、視界には白い羽織もないし
煌めく金色の長い髪が揺れない
「完全にアウェイな護廷十三隊やし、戻ったら思ってた役職に凛はおらんし、なんやねん。
いつ辞めたん?なんで辞めたん?」
喉がずっとつっかえて何も言えない。
涙がとめどなく流れていくのだけ、わかっていた。
言葉がうまく出てこなくて
「ごめんな、凛。
俺がいない護廷十三隊はしんどかったな?」
背中から温度がなくなって
俯いた視界に入ってきたのは、革靴
あの時とは全く違う。
だけど
頭の上にぽん、と乗せられた大きな手のひらの温度と骨ばった指の優しさ。
「平子くん」
「せやで、平子くんや」
「平、子くん…だ」
ようやく顔を上げると、短くなった金色の髪に
ネクタイをしっかりと締めた、あの変わらない顔
タレ目で、生気のない、気怠そうな。
「ちなみに、拳西
も戻ってきてる」
「六車隊長も」
「せや。あとはローズも戻ってきててな
リサも時々来る。仲良かったひよ里は来んし、ラブもおらん」
伸びた手は肩を通り過ぎ手背中に回る
あの頃に感じた、薄いけどたくましい胸元が
近づいてきて目を閉じた。
ゆっくり息を吸う
「俺じゃ、だめか?」
「……っ、」
「凛が、護廷に戻る理由になられへん?」
「あの時、みたいに…」
同じ隊舎にいて、何気ないことで笑いあって
休憩がてら、甘味処に行って嫌な顔しながらも金つばを食べていた平子くん。
移隊の話が来た時には、涙が出て。
(俺が隊長になったら凛を戻したるから、なんやったら副隊長にだってしたる)
そんな約束をした。
「せっかく、隊長になって戻ってきたっちゅーのに凛はおらん。おらんかったら、副隊長にでけへんやんけ」
「申し訳、ございま、せん」
「やけど、聞いたで?
凛隊長もやってたんやろ?
副隊長じゃ役不足やね」
「平子くん、あの、」
「なら、もう一個の方法で俺の側においておくしかないなぁ」
抱き寄せられていた腕がほどかれる
まくしたてられるように話していた平子くんと
目がガッツリ合って、また伏せる
「あん時、言えんかったことがあんねん。
聞いてくれるか?」
「はい」
「俺がここから居なくなった時、
言えなかったことを偉い後悔したんやけど、
言わんくてよかったらともどんどん思ってきて、な」
「うん」
バツの悪そうに、頭を指で掻いて
視線がそらされる。
あー、とか、そのぉ、とか
いつもの平子くんらしくない言葉が
文章にならないで地面に落ちていく
すぅ、と息を大きく吸い込んだと思ったら
戦いに行くような、強い視線を向けられて
時が止まっているような感覚になる
「105年よりも前から、ずっと、凛のことが好きやった」
ザァァ、と強く風が吹く
「護廷十三隊に戻ってこいとは言わん
ただ、俺の側にいてくれへんか?」
「また、いなくなるとかは絶対にせん」
「寂しいことも、悲しいこともさせてまうかもしれんけど」
「また、甘味処いって金つば食べよ?」
「付き合うとか、
そんなちまちましたことしたいとは言わん」
頬に添えられた手のひら
そのまま顔を上に向けられ、視線が絡まる
「平子凛になってくれんか?」
逸らせない瞳から
一つ、涙がまたこぼれた時
返事を待たずに、触れた口唇
「返事は?」
コツン、とおでこ同士がぶつかって
吐息も重なる距離
「平子くん」
「なんや」
「おかえり、なさい」
「答えになってへんやん」
はっ、と嘲笑うように
だけど、答えをわかりきったように左の口角だけを上げて笑う
「凛」
「はい、」
「ただいま」
「はい、おかえりなさい」
いってきます、
おかえりなさい。
これが言い合えるような関係になるには
あと、もう少しだけ先の話。
今は、会えなかったあの日々を埋めるように
ずっと抱きしめて、
ずっと、キスをして、
ずっと、ずっと、離れないで…ね
数えても、その人が戻ってくることはないのも
わかっていた
「105年目だね」
彼が姿を消して、もうそれだけの月日が経ってしまったようだ。
寂しいとか、悲しいとか、そんな感情はすぐになくならなかった。
……じゃないと、今もここに来るわけもなくて。
「今頃何しているんだろうなぁ…。私のこと覚えてないんだろうな」
寂しいとか悲しいとかの感情が、この場所にいる必要性を私からどんどん奪っていって
彼が尸魂界から消えて50年が経った頃、
私は死神を辞めた。
数名の隊長たちが姿を消し
私は引き上げ、という形で七番隊副隊長から隊長をへ成り上がっていたのだが
狛村くんを推薦して私は護廷十三隊から籍を抜いた。
流魂街で小さな診療所を拓いて、得意だった回道で人々の傷を治していたり、
ちょっとした虚を倒して治安を守ってみたり。
手元に斬魄刀こそないが不自由のない生活を送っている。
ふわり、いつもの風より温かい風が頬を撫でた
それは頬、だけではなくて背中がぶつかる感覚と共に
懐かしい香りを運んできた
「覚えてるわ、忘れたことなんかないで」
忘れたことなんかない。
その言葉が、胸の奥をぐっと縛り上げる。
肺を潰されたような、息がうまく吸えない感じに
鼻の奥がつん、とする。視界がにじむ
「なぁ、凛。俺はここに戻ってこいっていわれてんねん。俺の出来損ないな副隊長がヘマして除隊になったんや」
あの時と変わらない、少し気だるそうな声
あの時と違うのは、視界には白い羽織もないし
煌めく金色の長い髪が揺れない
「完全にアウェイな護廷十三隊やし、戻ったら思ってた役職に凛はおらんし、なんやねん。
いつ辞めたん?なんで辞めたん?」
喉がずっとつっかえて何も言えない。
涙がとめどなく流れていくのだけ、わかっていた。
言葉がうまく出てこなくて
「ごめんな、凛。
俺がいない護廷十三隊はしんどかったな?」
背中から温度がなくなって
俯いた視界に入ってきたのは、革靴
あの時とは全く違う。
だけど
頭の上にぽん、と乗せられた大きな手のひらの温度と骨ばった指の優しさ。
「平子くん」
「せやで、平子くんや」
「平、子くん…だ」
ようやく顔を上げると、短くなった金色の髪に
ネクタイをしっかりと締めた、あの変わらない顔
タレ目で、生気のない、気怠そうな。
「ちなみに、拳西
も戻ってきてる」
「六車隊長も」
「せや。あとはローズも戻ってきててな
リサも時々来る。仲良かったひよ里は来んし、ラブもおらん」
伸びた手は肩を通り過ぎ手背中に回る
あの頃に感じた、薄いけどたくましい胸元が
近づいてきて目を閉じた。
ゆっくり息を吸う
「俺じゃ、だめか?」
「……っ、」
「凛が、護廷に戻る理由になられへん?」
「あの時、みたいに…」
同じ隊舎にいて、何気ないことで笑いあって
休憩がてら、甘味処に行って嫌な顔しながらも金つばを食べていた平子くん。
移隊の話が来た時には、涙が出て。
(俺が隊長になったら凛を戻したるから、なんやったら副隊長にだってしたる)
そんな約束をした。
「せっかく、隊長になって戻ってきたっちゅーのに凛はおらん。おらんかったら、副隊長にでけへんやんけ」
「申し訳、ございま、せん」
「やけど、聞いたで?
凛隊長もやってたんやろ?
副隊長じゃ役不足やね」
「平子くん、あの、」
「なら、もう一個の方法で俺の側においておくしかないなぁ」
抱き寄せられていた腕がほどかれる
まくしたてられるように話していた平子くんと
目がガッツリ合って、また伏せる
「あん時、言えんかったことがあんねん。
聞いてくれるか?」
「はい」
「俺がここから居なくなった時、
言えなかったことを偉い後悔したんやけど、
言わんくてよかったらともどんどん思ってきて、な」
「うん」
バツの悪そうに、頭を指で掻いて
視線がそらされる。
あー、とか、そのぉ、とか
いつもの平子くんらしくない言葉が
文章にならないで地面に落ちていく
すぅ、と息を大きく吸い込んだと思ったら
戦いに行くような、強い視線を向けられて
時が止まっているような感覚になる
「105年よりも前から、ずっと、凛のことが好きやった」
ザァァ、と強く風が吹く
「護廷十三隊に戻ってこいとは言わん
ただ、俺の側にいてくれへんか?」
「また、いなくなるとかは絶対にせん」
「寂しいことも、悲しいこともさせてまうかもしれんけど」
「また、甘味処いって金つば食べよ?」
「付き合うとか、
そんなちまちましたことしたいとは言わん」
頬に添えられた手のひら
そのまま顔を上に向けられ、視線が絡まる
「平子凛になってくれんか?」
逸らせない瞳から
一つ、涙がまたこぼれた時
返事を待たずに、触れた口唇
「返事は?」
コツン、とおでこ同士がぶつかって
吐息も重なる距離
「平子くん」
「なんや」
「おかえり、なさい」
「答えになってへんやん」
はっ、と嘲笑うように
だけど、答えをわかりきったように左の口角だけを上げて笑う
「凛」
「はい、」
「ただいま」
「はい、おかえりなさい」
いってきます、
おかえりなさい。
これが言い合えるような関係になるには
あと、もう少しだけ先の話。
今は、会えなかったあの日々を埋めるように
ずっと抱きしめて、
ずっと、キスをして、
ずっと、ずっと、離れないで…ね
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