林間合宿
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待つことしか出来ない私達。
電波障害が起こった森の中で、何とか上鳴くんの個性を使ってブラド先生が警察や消防に通報をした。
警察が到着した時には既にヴィランはいなくなっていたらしかった。
生徒41人のうち、ヴィランのガスによって意識不明の重体15人。
重軽症者11人。
無傷で済んだのは、私を含めて14人。
そして、行方不明が1人。
プロヒーローは6人のうち1人が頭を強く打って重体、1人が大量の血痕を残し行方不明となっていた。
その一方でヴィラン側は、3人を現行犯逮捕。
その3人を残して、他のヴィラン達は跡形もなく姿を消した。
私は、何台も停まっている救急車の近くで皆の怪我が少しでも早く治るようにヒーリングブーストを発動してひたすらに歌い続けた。
『焦凍くん!!』
そんな中救急隊の人に付き添われて、森の中から焦凍くんが戻ってきた。
悔しそうに歯を食いしばって俯いていて何かあったんだって事は分かったけどとても聞ける雰囲気じゃない。
『焦凍くん、怪我...大丈夫?』
轟「ああ...」
『来て、怪我治すから』
轟「...いや、今は。いい」
『でも...』
轟「少し、1人にしてくれ」
私の顔を見ることもなく、焦凍くんは感情のない声でそう言った。
冷たい言い方でも怒った言い方でもないのに、まるで突き放されてるみたいに感じて。
私は、わかった。と言う事しか出来なかった。
**
父「莉紗!!」
母「もう、心配したよ...ホント、無事でよかった...」
『心配かけてごめんね。私は一番安全な所にいたから大丈夫だったよ。ケガもしてないし』
家に帰るなり、お父さんとお母さんが駆け寄ってきてお母さんは私を抱きしめた。
母「でも、お友達にたくさんの被害が出て辛いよね...」
『ん...救急車に乗せられていく皆に、少しでも早く治るように歌う事しか出来なかった』
悔しくて、悔しくて...。
何もできない、してはいけない自分の無力さ。
いつも守られるだけの自分を、今日ほど恨んだ事はなかった。
母「そっか...ちゃんと、ヒーローらしくなってきたね」
『え?』
そんな私にお母さんがかけた言葉は、予想もしていなかった言葉だった。
母「突然ヴィランの奇襲にあって友達が傷つけられて...きっと怖かったはずなのに、友達を助けられなかったを悔しいって思える莉紗は..今、すごくヒーローの顔をしてる」
『お母さん...』
母「今日の悔しさ、糧にして頑張って立派なヒーローになればいい。それが莉紗が今一番心に留めておかなきゃいけない事だよ」
『おか...あ、さん......』
そんなお母さんの言葉はとても心に突き刺さって、ずっと堪えていた...色んな感情が入り混じった涙を。
私はとうとう流してしまった。
**
数日後、ガスによって意識不明となった響香ちゃん、透ちゃん、頭部を強打した百ちゃん、戦闘で重傷を負った緑谷くんは合宿所近くの病院に運ばれたらしくようやく面会許可がおりたみたいでクラスのみんなでお見舞いにやってきた。
上鳴「緑谷!目覚めてんじゃん!TV見たか?学校、今マスコミでやべーぞ」
砂藤「春の比じゃねぇ」
峰田「メロンあるぞー!みんなで買ったんだ」
常闇「迷惑かけたな、緑谷」
ベッドの上で起き上がっている緑谷くんを見て、皆が喜びから次々と声をかけていく。
緑谷「僕の方こそ、A組みんなで来てくれたの?」
飯田「いいや...耳郎くん葉隠くんはヴィランのガスによっていまだ意識が戻っていない...そして八百万くんも、頭を酷くやられここに入院している。昨日ちょうど意識が戻ったそうだ。だから、来てるのはそのうち3人を除いた...」
麗日「16人だよ」
轟「爆豪いねぇから」
芦戸「?!ちょ、轟...」
今の緑谷くんには辛いはずのその一言。
みんな気を遣って爆豪くんの話題を出さないようにしていたのに、何故か直球でズバッと言ってのける焦凍くん。
案の上、緑谷くんはその言葉を聞き俯いた。
緑谷「オールマイトがさ...言ってたんだ。手の届かない場所には、助けに行けないって。だから、手の届く範囲は必ず助けるんだって。僕は、手の届く場所にいた...必ず助けなきゃ行けなかった。僕の個性は...その為の個性なんだ...。
相澤先生に言われた通りになった」
そう言って、静かに涙を流し始めた緑谷くんは次第に声を上げて爆豪くんを救えなかった悲しみを嘆きだした。
緑谷「体、動かなかった....ヒック、洸太くんを助けるのに精一杯で...っ、目の前にいる人を」
切島「じゃあ、今度は助けよう」
切島くんのその言葉に緑谷くんも私達も驚愕した。
だけど、焦凍くんだけはその言葉を聞いても顔色も変えずに緑谷くんをじっと見ていた。
まさか、焦凍くんも切島くんと同じことを...?
切島「実は俺と轟さ。昨日も来てて」
切島くんの話しでは、2人が緑谷くんの病室に行く途中..。
オールマイトと警察が百ちゃんと話してるところに遭遇したらしくて。百ちゃんは、B組の泡瀬くんと協力してヴィランの1人に発信機を取り付けたらしい。
その受信機のデバイスを百ちゃんに捜査に役立てて欲しいと警察に渡したそうで。
飯田「つまり、その受信デバイスを八百万くんに作ってもらうと..」
焦凍くんと切島くんは、飯田くんのその言葉に静かに頷いた。
轟「だとしたら?」
飯田「グッ....プロに任せるべき案件だ!俺達が出ていい舞台ではないんだ!!馬鹿者!」
飯田くんが2人の提案を真っ向から否定した。
切島「んなもん分かってるよ!!でもさ、何も出来なかったんだ!ダチが狙われてるって聞いてさ、何も出来なかった!しなかった!ここで動かなきゃ、俺ぁヒーローでも男でもなくなっちまうんだよぉ!!」
上鳴「切島!ここ病院だぞ?!落ち着けよ。こだわりはいいけど今回は..」
蛙吹「飯田ちゃんが、正しいわ」
切島「分かってる...みんなが正しいよ。そんなことは分かってんだよ!でも!なぁ、緑谷!まだ手は届くんだよ!助けに行けるんだよ!!」
緑谷「........」
芦戸「えっと、要するに...ヤオモモから発信機のやつ貰って、それ辿って自分らで爆豪の救出に行くってこと?」
切島「ああ」
轟「ヴィランは俺らは殺害対象と言い、爆豪は殺さず攫った。生かされるだろうが、殺されないとも言いきれねぇ。俺と切島は行く」
飯田「...っ、ふざけるのも大概にしたまえ!!」
障子「待て、落ち着け。
切島の何も出来なかった悔しさも、轟の眼前で奪われた悔しさも分かる。俺だって悔しい」
複製口「だが、これは感情で動いていい問題じゃない。そうだろ?」
障子くんの至極最もな意見に、切島くんも焦凍くんも口を閉ざしたまま何も言わなかった。
青山「オールマイト達に任せようよ?林間合宿で相澤先生が出した戦闘許可は解除されてるし」
常闇「青山の言う通りだ。助けられてばかりだった俺には強く言えないが」
切島「でもさ!」
蛙吹「みんな、爆豪ちゃんが攫われてショックなのよ。でも冷静になりましょ。どれほど正当な感情であろうと、また戦闘を行うというなら...ルールを破ると言うのなら、その行為はヴィランのそれと同じなのよ」
梅雨ちゃんの言葉に誰もが沈黙した。
クラスの皆、私も含めて切島くんと焦凍くんの助け出したい気持ちが分からないわけじゃない。
もちろん、今すぐにでも助けたい気持ちは皆同じ。
だけど、敵が何人いるかもわからない。
私達だけで本当に助け出せるかどうかも分からない。
助けようとして逆に捕まってしまったら...。
それこそ警察やヒーロー達の首を絞めることにもなる。
私は、飯田くんと同じ...行くべきじゃないと思う。
コンコンコン
医師「お見舞い中ごめんねぇ。緑谷くんの診察時間なんだけど」
瀬呂「い、行こうか?耳郎や葉隠の方も気になるし」
お見舞いを終え、現地解散となった為私は焦凍くんと一緒に並んで歩いた。
『焦凍くん...ほんとに行くつもり?』
轟「ああ」
『でも、焦凍くん達に何かあったら...』
轟「心配しねぇでお前は先帰ってろ」
分かってはいた。
焦凍くんにとっての私が何なのか。
分かってたのに、どうしてこんなに悔しいんだろ。
『私は、飯田くんと同じ。行くべきじゃないと思ってる』
轟「.............」
『けど、それでも悔しいと思ってる。今でも焦凍くんにとって私は保護の対象でしかない事』
轟「そんな事」
『あるよ。それに、私の昔の事も知ってる焦凍くんなら私が黙って行かせるわけないって分かってたでしょ?』
稀有な個性のせいで何度も誘拐されてたくさんの人に迷惑をかけて来た。
アイドルになってからも、そう。
邪しまな人達、誹謗中傷、メディア、過激なファン....いろんなものから守られてきた。
どんな事情であれ、保護対象者は多くの人の手を煩わせ多くの人を巻き込む。
まして、今回はファンやメディアが相手の民事的に収まる話しとは違う。
一歩間違えれば、人が死ぬ。
焦凍くんがどんなに強くても、何の資格も持たない生徒である以上プロや警察から見れば保護対象。
私は確かに焦凍くんより弱いかもしれないけど私と焦凍くんは同じ保護対象なのに...。
焦凍くんは未だに私のことを守らなきゃと思ってる。
『私も焦凍くんと同じ、誰かを助けて守るためにヒーローを目指してるの。いつまでも保護対象として見ないで欲しい』
轟「俺は別に『焦凍くんにそんなつもりなくても、焦凍くんが私に対する接し方は昔のままだよ』」
轟「莉紗...」
『私は、いつまでも焦凍くんに守られてるか弱い幼馴染じゃない』
きっと焦凍くんの意志は変わらない。
だけど、私に焦凍くんは止められない。
今まで焦凍くんに意見した事なんてなかった。
でも私もヒーローを目指す以上、譲れない事もある。
私達は生まれて初めて、道を違えた。
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