林間合宿
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私達は今、とある山岳にやってきている。
その目的はただひとつ...。
『も、もう声が...』
林間合宿、またの名を強化合宿。
世間では楽しい夏休み。もちろんヒーローを目指す私達にはそんな楽しみはなく、個性を伸ばす為にやってきたこの山岳の中で今限界ギリギリまで個性を使い続けている。
私の個性"アビリティブースト"は、歌う事によって聞いた者の身体能力の強化や精神を落ち着かせる効果をもたらす。
バリバリのサポート系だ。
相澤先生からの指示で緑谷くんの近くで訓練をしている私の課題は人の能力をなるべく素早く一定に強化させること。
つまり、歌にこめる個性エネルギーを常に一定に保つことでムダなエネルギー消費を省く事を目的としている。
強化系の緑谷くんの課題は、地力の強化と力量のコントロールが目的。私の声が通らないようにヘッドフォンをかけて虎'sブートキャンプをひたすら行い、その最中抜き打ちで行うパンチングマシーンでの全力パンチ。私はいつ合図が来てもいいように常に個性を発動し歌い続ける。そして、虎さんが緑谷くんのヘッドフォンを外したらそれが合図。5秒前のカウントが始まる為私はその5秒の間になるべく高く緑谷くんにパワーブーストをかける。
緑谷「風舞さん...声、大丈夫...?」
『声は、大丈夫...でも、体力が....』
歌う仕事をしていたおかげで声はまだまだ出せる。
だけど、個性を常時使用することによる体力の消耗で身体はまるで鉛のように重い。そして目の前の緑谷くんもまるで魂の抜け殻のような表情で今にも倒れそう。初日から地獄のよう...。
だけど、辺りを見渡せばぐったりしているのは私達だけじゃないようで、A組もれなく皆満身創痍。
相澤「おい、風舞。歌止まってるぞ」
『は、はい!!』
相澤「気ぃ抜いてると課題曲にもっと難易度高い曲持ってくるぞ」
『滅相もございません!!』
訓練でヘトヘトになり、お腹の虫も激しく鳴り続けている私達に相澤先生と今回の合宿の引率であるプッシーキャッツからショッキングでかつ衝撃の一言が。
ラグ「己の食う飯くらい己で作れー!カレー!」
「「「(マジですか...。)」」」
泣き言を言っても始まらないし、ご飯にはありつけないのでみんなで協力して食事作りに励んだ。
麗日「莉紗ちゃん、料理出来る?」
『んー、一通り調理器具使うのは大丈夫程度かな。作る時間もあんまりなかったからホント簡単なものくらいしか..』
お米を洗剤で洗うとか、包丁を鉈のように使うとか、適量が分からなくて一瓶丸ごと入れるとかそんな破滅的な事はしないけど冷蔵庫開けてメニューを決めたりは出来ないし作り方もレシピ見ないと分からないことが多い。
蛙吹「任せて。私、料理は得意なの」
麗日「梅雨ちゃん、頼もしい~」
『梅雨ちゃん、かっこいいー!』
梅雨ちゃん主導で、私は不慣れながらもピーラーで野菜の皮を向いている時かまどに火をつけている焦凍くんが目に入った。
芦戸「轟ー!こっちにも火ちょうだい!」
焦凍くんが火をつけると芦戸ちゃんとお茶子ちゃんが両手をあげて喜んだ。
芦戸「燃えろ~燃やし尽くせ~!!」
麗日「尽くしたらアカンよ?」
2人のそのやり取りが面白かったのか、自分の炎で人を喜ばせられたことが嬉しかったのか焦凍くんは微かに口角を上げて喜んだ。
あんなに穏やかな顔して左を使ってるのは、子供の時以来かな。
少なくとも、冷おばさんが入院してからは左を使う事を嫌がってたから。焦凍くんも、前に進んでるんだ。
私も、負けてられないね。
翌日も昨日と変わらない特訓が行われた。特に補習組は深夜2時まで補習が行われていたらしくて、今にも眠りの世界に落ちてしまいそうな程にウトウトしていた。
かくいう私も、身体が重くて仕方がない。早く、布団に...。
ピクシー「皆今日の晩はね、クラス対抗肝試しを開催するよ!」
というより、帰りたい....。
**
今日の夕食は肉じゃがをみんなで作って食べた。
文明の機器で簡単に調理が出来る今の時代。あまり実感がないけど、料理って大変だなぁと思った。
ヒーロー活動しながらご飯もちゃんと作ってくれるお母さんにもっと感謝しないとね。
それにしても疲れた...。
ご飯食べたら、寝たいな...。
くじ引きでペア決めをしていくと言うことで促されるままにくじを引いていく。
私は緑谷くんとペアだった。
『緑谷くん、よろしくね!』
緑谷「あ、風舞さん。よ、よろしく....」
声をかけた緑谷くんは顔を青くしてガタガタと震え、明らかに怯えていた。
『緑谷くん、怖い?』
緑谷「うん、実はこういうの苦手で...」
『そっかぁ、怖いよね』
緑谷「風舞さんは大丈夫なの?」
『ううん?私も苦手でさっきまですごい怖かったけど、緑谷くん見てたらちょっと落ち着いた』
そしてB組が脅かし先行で、肝試しが始まった。
開始早々森の中からは悲鳴が聞こえ始めた。
『響香ちゃんと透ちゃんの声、だね...』
緑谷「うん...」
次々と森の中に入っていき、私と緑谷くんの出番が近付いてきた頃。
突如焦げ臭い匂いがしてきた。
『ねぇ、緑谷くん...なんか』
緑谷「うん、なんか焦げ臭いね...」
周囲で何かが起きているんじゃないかと思い辺りを見渡すと、宿泊施設とは反対方向の森の中から青い炎が上がっているのが見えた。
『あ、アレって...!』
緑谷「青い..炎...?」
「飼い猫ちゃんは邪魔ねぇ」
近くで何か起こってるのでは?と皆で辺りを見渡していると、どこからか男性の声が聞こえたと同時にピクシーポブの身体が浮き上がるとどこかに引き寄せられていった。
ピクシーボブを目で追うと、本来ここにはいないはずの存在がそこにいた。
峰田「な、なんで..?万全を期したはずじゃ...なんで、ヴィランがいるんだよおおっ!!」
緑谷「ピクシーボブ!!」
ヴィランに地面に叩きつけられたピクシーボブは頭から血を流し、ぐったりとして気を失ってしまった。
ピクシーボブの元に走り出そうとする緑谷くんを止めるように虎さんとマンダレイが立ちはだかった。
マンダレイ「ヤバい...」
スピナ「ご機嫌よろしゅう、雄英高校!我らヴィラン連合!開闢行動隊!」
尾白「ヴィラン連合?!なんでここに...」
マグネ「この子の頭、潰しちゃおうかしら?どうかしら?ねぇ、どう思う?」
ピクシーボブの頭を鷲掴みにしたおかまのヴィランを鋭い目で威嚇した虎さん。
虎「させぬわ、この!」
スピナ「待て待て!早まるな、マグネ。虎もだ!落ち着け。生殺与奪は全て、ステインの仰る主張に沿うか否か..」
緑谷「ステイン..!?」
飯田「奴の思想にあてられた連中か!」
スピナ「あぁ、そう。俺は...そう、お前!君だよメガネくん!保須市にてステインの終焉を招いた人物。申し遅れた...俺はスピナ!彼の夢を紡ぐ者だ」
虎「何でも良いがな、貴様ら...その倒れてる女ピクシーボブは最近婚期を気にし始めててなぁ。女の幸せ掴もうって、いい年して頑張ってたんだよ...そんな女の顔傷モンにして、男がヘラヘラ語ってんじゃないよ!!」
スピナ「ヒーローが人並みの幸せを夢みるかー!」
マンダレイ「虎!指示は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せよう!あたしらは2人でここを抑える!
みんな行って!いい?決して戦闘はしない事!委員長引率!」
飯田「承知しました!行こう!」
『うん!』
飯田くんが皆に声をかけてその場を離れようとしたけど緑谷くんだけが何故か私達と別の方向に向かって走り出した。
緑谷くんは洸太くんの居場所を知ってるから助けに行くと行って1人森の中に走り出した。
『緑谷くん!』
緑谷「なに?風舞さん」
『...気を付けて』
私は緑谷くんの無事を祈って強化系個性の緑谷くんの力になれるようにパワーブーストをかけた。
緑谷「風舞さん、ありがとう!」
頼もしい笑顔で私にお礼を言うと、緑谷くんは今度こそ森の中に入っていった。
私は飯田くん達と一緒に宿泊施設に戻ってきた。
だけどそこでは、相澤先生が個性を発動して顔中継ぎ接ぎのヴィランを地面に抑えつけていた。
飯田「先生!」
相澤「お前ら」
相澤先生が私達に気を取られた隙にヴィランが相澤先生の拘束から抜け出した。
荼毘「さすが雄英の教師を務めるだけのことはあるよ。なあ、ヒーロー?生徒は大事か?守り切れるといいなぁ。また会おうぜ」
そう言ってヴィランはドロドロの土になって消えていった。
『消えた...あの人の個性?』
峰田「先生!今のは?!」
私達の質問に答える事もなく相澤先生がその場を走り出し森の中に入っていった。
相澤「中に入っとけ!すぐ戻る!」
追いかけるわけにもいかない私達は施設の中に入った。
ブラド先生と補習組が待機していたけど、その中で切島くんがブラド先生に友達を助けに行かせてくれと懇願していた。
無理もないよね。
さっき、マンダレイのテレパスでヴィランの狙いの1つが爆豪くんだと判明したって報告が来てた。
切島くんは爆豪くんを助けたくて仕方ないんだと思う。
正直私も、ここにいるみんなも気持ちは同じだと思うけど、私達が動いた所で助けられるとは思えない。
緑谷くんも戻ってこないし、爆豪くんとペアだった焦凍くんも大丈夫かな...。
と、その時。ドアを開ける音が聞こえた。
砂藤「誰か来た?」
尾白「相澤先生が戻ってきたんじゃ...」
切島「ちょうどいい、直談判します!」
ブラ「いや、待て。違う!」
皆がドアに注目したそのとき、突如ドアを突き破って部屋の中に青い炎が入ってきた。
飯田「クッ!皆!下がれ!!」
顔中継ぎ接ぎの男が突き破ったドアから入ってきた。
峰田「あ、あいつ!さっきやられてたヴィラン!!」
ヴィランが手から青い炎を出した瞬間ブラド先生がヴィランの首を掴んで壁に叩きつけると、個性
切島「操血..強ぇ!」
物間「さすが僕らのブラド先生!」
ブラ「こんな所にまで考えなしのガンヅルか!舐めてくれる」
荼毘「そりゃあ舐めるだろ。思った通りの言動だ。後手に回った時点でお前ら負けてんだよ。ヒーロー育成の最高峰雄英生徒、平和の象徴オールマイト。ヒーロー社会において最も信頼の高い2つが集まった。ここで信頼が揺らぐような件が重なれば、その揺らぎは社会全体にまで蔓延すると思わないか?何度も襲撃を許すずさんな管理体勢、あげくに生徒を犯罪集団に奪われる弱さ」
切島「テメェ!!」
『奪われるって...まさか爆豪くんを..!!』
飯田「拉致する気か!!」
上鳴「ざけんじゃねぇ!!」
皆が個性を発動し、牽制をかけようとするけどヴィランは全く動じる事なく操血で抑えられていない部分に青い炎を灯し始めた。
荼毘「見てろ、ごくごく少数の俺達がお前らを追い詰めてくんだ」
ブラ「貴様!!」
相澤「ムダだブラド!」
荼毘を攻撃しようとしたブラド先生の横から飛び出た相澤先生が捕縛布でヴィランを拘束し足蹴にし始めた。
すると、さっきと同じようにまたもやドロドロの土になって消えていった。
相澤「こいつは煽るだけで情報を出さねぇよ。それに見ろ、偽物だ。さっきも来た」
芦戸「偽物...」
飯田「奴の個性か」
ブラ「イレイザー、お前何してた」
相澤「悪い、戦闘許可を出しに行ったつもりが洸太くんを保護してた。預かっててくれ、俺は戦線に出る。ブラドは引き続きここの護衛を頼む」
そう言って建物の外に向かって動き出した相澤先生を止めるブラド先生。
ブラ「まだどれだけ攻めてくるかわからん」
相澤「ブラド1人で大丈夫だ。この偽物を見ろ、2回ともこれ1体だ。強気なサマはプロの俺らの意識をここに縛る為だと見た。人員が足りない中で案じられた策」
切島「ヴィランが少ないならなおさら俺も!!」
飯田「ええ!数に勝るものなしです!」
相澤「ダメだ、プロを足止めする以上狙いは生徒。爆豪がその1人ってだけで他にも狙ってるかもしれん。情報戦じゃ圧倒的に負けてんだ。俺達はとりあえず、全員無事でいることが勝利条件だ。
風舞、お前も世間に顔が割れてる奴だ。警戒しろ」
『はい...』
相澤先生は今度こそ建物を出て行った。
残された私達の空気は重かった。
それは、きっとみんなも私と同じ...。
自分達にはどうしようも出来ない悔しさやもどかしさで心が一杯なんだと思う。
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