入学
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焦凍くんの事が気になって目の前で繰り広げられる試合に全く集中出来ない私は自分の試合でも情けない結果を残してしまった。
ミッドナイト「風舞さん、場外!勝者芦戸さん!」
脚力ブーストで芦戸ちゃんの攻撃を避けながら走っている時に突如響いたミッドナイト先生の声。
ふと自分の足元を見ると私の足が白線を踏んでいた。
逃げる事と焦凍くんの事で頭がいっぱいになって周りをちゃんと見ていなかった。
芦戸「風舞大丈夫ー?何かボーっとしてた?」
『ごめん、芦戸ちゃんの酸怖くて全然足元見てなかった..』
芦戸「へへ、どんなもんだい!」
芦戸ちゃん、ごめんなさい。
焦凍くんの事ばっか考えて集中してなかった何て失礼すぎて言えなかった私。
焦凍くんと緑谷くんの試合が始まった。
焦凍くんは容赦なく緑谷くんに向かって氷結をぶつけていくけど、緑谷くんも指を弾いて焦凍くんの氷結を壊している。
だけど、やればやるだけ緑谷くんの指はどんどんと色が変わり腫れあがっていくのに緑谷くんは退くどころからどんどんと焦凍くんに向かってぶつかっていく。
しまいには既に壊れたであろう指で焦凍くんの氷結を破壊したうえ、焦凍くんの腹部を殴った。
緑谷くんががむしゃらに氷結を壊してくるから、焦凍くんの右側にも大分霜が下りてきている。このまま行くと、焦凍くんの方が不利になる。
何で緑谷くんはあんなにボロボロになってまでぶつかっていけるんだろう。緑谷くんのあの必死さは一体....。
轟「何で...そこまで..」
緑谷「期待に...応えたいんだ..笑って応えられるような、かっこいい..ヒーローに、なりたいんだー!!」
二人の会話ははっきりとは聞こえない。だけど、焦凍くんの表情は明らかに迷っている。
自分はこのままでいいのか、自問自答しているようにも見える。
緑谷くんが焦凍くんに本気でぶつかってる。
焦凍くんの迷いを壊そうとしている。
そして、焦凍くんの心は揺らいでる。
私はずっと一緒にいて、ずっと見てきたのに...。
何をやっていたんだろう。
まだ会って数か月の緑谷くんがまるでおじさんとの確執を知っているかのように焦凍くんの想いや葛藤を暴き向き合わせようとしている。
昔は焦凍くんもオールマイトに憧れて彼のようなヒーローになりたいとよく語っていた。
それが今ではどうだろう。
いつからか、彼の口から憧れの名前は出なくなった。
代わりに、おじさんに対する憎悪ばかりが語られるようになった。
そう、おばさんが入院した日から焦凍くんは変わった。
何かを楽しんだり、喜んだりすることがなくなった。
夢を語る事も、憧れを口にすることも...。
焦凍くんから笑顔が消えた。
そんな彼の変化を見てきたのに、私は彼の為に何もして来なかった。
焦凍くんは私の悩みを聞いてくれたりヒーローを目指す後押しをしてくれたというのに...。
緑谷「君の!!力じゃないか!!」
そう、後悔ばかりが胸中を支配する中、緑谷くんが叫んだ言葉が聞こえてきてそれに続くように赤く煌々と燃える炎が私の目に映った。
『嘘...焦凍くんが、炎を....』
気づけば右側の霜はすっかり溶けきり、氷結の威力も上がっている。
炎司「しょーとぉぉぉぉ!!!」
その様子を見ていたおじさんも焦凍くんが炎を使った事に満足気に焦凍くんの名を叫んだ。
炎司「やっと己を受け入れたか!そうだ、いいぞ!!ここからがお前の始まり..俺の血を持って俺を超えていき、俺の野望をお前が果たせ!!」
違うよ、おじさん。
おじさんと違って焦凍くんがなりたいのは、No.1ヒーローじゃない。
彼が幼い頃に憧れたオールマイトのようなヒーローなんだよ。
そんな事を心の中で思いながら焦凍くんを見るとさらさらと揺れる髪の隙間から一筋の水滴が流れるのが見えた。
焦凍くん...笑いながら、泣いてる?
そっか...。きっと嬉しいんだね。
ずっとおじさんに縛られていたから。
その
炎を出した事で体内に蓄積されていた冷気がリセットされ氷結の威力が戻った。おびただしい規模の氷結が放たれると緑谷くんも飛び出して焦凍くんの懐に向かって飛んでいった。
焦凍くんは左手を振り上げ、今度は今出来る最大火力であろう炎を放った。
すると辺りが突然大爆発を起こし、視界は煙で真っ白になった。
煙が晴れると、フィールド内に立っている焦凍くんと、場外の壁に叩きつけられたのか気を失い倒れていく緑谷くんが見えた。
ミッド「み、緑谷くん..場外。轟くん、3回戦進出!!」
ミッドナイト先生のコールで会場中がわっと盛り上がりを見せた。
左側のジャージが燃えてしまったのか肩から腕にかけて完全に露出してしまっている焦凍くんはバックステージに入っていった。
追いかけたい。
けど、何て言葉をかけていいか分からない。
私は、焦凍くんの為に何をしてあげられるんだろう。
結局、焦凍くんがその後の試合で左の炎を使う事はなかった。
**
体育祭を終えて、制服に着替えた私達は教室に戻り帰りのHRを受けた。
相澤「お疲れー、明日明後日は休校だ。体育祭を観戦したプロヒーローから指名などもあるだろうが、それはこっちでまとめて週明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」
「「「『はい!』」」」
相澤先生が教室を出て行って帰宅となり皆が一斉に帰宅の準備を始めた。
私の頭の中は相変わらず焦凍くんの事でいっぱいだ。
焦凍くんは表彰式で、オールマイトに決勝で何故出しかけた左を収めてしまったのか聞かれていた。
それに対して、"清算しなきゃならないものがまだある"と。そう答えた焦凍くん。
きっとおばさんの事だ。
焦凍くんの左目の火傷。これはおばさんが焦凍くんに熱湯をかけて負ってしまった傷。
だけど焦凍くんはこの火傷は間接的におじさんから受けたものだと思っている。
そして、焦凍くんのその左の個性やおじさんから受け継いだ髪色や瞳。おじさんを彷彿させる左側がおばさんを追い詰めたとも思っている。
だから、自分が会ってしまうとおばさんの傷を抉ってしまうから会わないと入院した日からずっと会いに行ってない。
だから、きっと焦凍くんはおばさんに会おうとしてるんじゃないか。
なんとなくだけどそう思った。
轟「莉紗」
『焦凍くん...?どうしたの?』
ボーっと荷物をまとめていると焦凍くんが隣に立っていた。
轟「話、聞いてほしい」
『! 私に?』
轟「ああ」
そして帰り道。いつも乗る駅で電車に乗らずに今日は、その次の駅まで歩いて帰ることにした私達。
聞いてほしい話しがあるって言ってたけど、焦凍くんは少し沈んだ様子で今まだ口を開かない。
もしかしたら何をどう話せばいいのかわからないのかもしれないし、自分の気持ちが分からなくて混乱してるのかもしれない。
『焦凍くん...』
轟「何だ」
『ちょっと勝手に歌ってていい?』
轟「...ああ」
~♪
焦凍くんの許可を得て、私はメロディを紡ぎ始めた。
選曲ジャンルはムード歌謡。
轟「! 莉紗...」
個性を発動し、歌詞を口ずさんでいく。
私の意図が分かったのか、焦凍くんはただただ私の歌に耳を傾けてくれた。
今まで何も出来なかったから私が今焦凍くんの為に出来ること。
焦凍くんの心が落ち着きますように....。
『ふぅ....』
轟「莉紗...ありがとな」
そう言う焦凍くんの表情はさっきと比べて穏やかになっていた。
『どういたしまして』
そして、焦凍くんはゆっくりと今の自分の気持ちを話してくれた。
おばさんが入院したあの日から、おばさんを追い詰めたおじさんの力を使う事を拒み続けていたのに緑谷くんと戦って焦凍くんの"左の炎"はおじさんじゃなくて焦凍くん自身の力と思えるようになってきた事。
だけど、おじさんや自分の左側がおばさんを追い詰めたのにその力を使っていいのか迷っていた事。
自分で、自分の"左"を本気で受け入れられるのか....。
自分は、何のためにこの力を使うのか...。
何故ヒーローを目指していたのか。
轟「俺が左を使う事で...お母さんがまた壊れちまうんじゃないかって怖かった」
『............』
轟「それに、稀有なその個性で狙われ続けたお前を守るためにヒーローを目指したはずなのに...いつの間にかアイツへの嫌がらせの事しか考えられなくなってた。そんな俺が、ヒーローを目指していいのか...」
『焦凍くん...』
轟「情けねぇと思った。俺がずっと守ろうとしてたお前の方が、今じゃ俺なんかより本気でヒーロー目指してたから。ヒーローを目指す覚悟、お前の方がちゃんと持ってるんだなって」
そう言ってグッと左手を握りしめた焦凍くん。
私の事、そんな風に思ってくれてたんだね。
真っ赤になるほど握りしめていたその左手をそっと包み込んでなるべく静かに名前を呼んだ。
『.......焦凍くん?良いじゃん、別に。ヒーローになる理由なんて』
轟「え?」
『ヒーローを目指す理由に正解はないよ?人それぞれ。理由がコロコロ変わったっていいじゃん。どんな理由でも焦凍くんがヒーローを目指す覚悟は変わってないでしょ?私なんて、1回諦めたのにまた目指し直したんだよ?』
轟「莉紗....」
『私は、焦凍くんに感謝してる。ヒーロー科目指してみろって背中押してもらえて。おかげで1回諦めた夢をまた追いかけられてる、ありがとう』
焦凍くんが握りしめている拳を静かに解き、開かれたその手をギュッと握った。
『それに、焦凍くんはずっと私のヒーローだよ。これからは私も焦凍くんを守れるように頑張るね』
轟「.............」
『だから.....勇気出して、会っておいでよ!おばさんに』
轟「! なんで...」
おばさんに会おうとしてるのに私が気づいていたのが意外だったのかずっと俯き加減で私の話しを聞いていたのに、突如顔を上げ目を見開いた焦凍くん。
『それでも緊張したり、怖くなったらまた私が歌って落ち着かせてあげる。だって私は、今イー娘のりんりんじゃない。雄英高校ヒーロー科の風舞莉紗だもん』
ずっとヒーローを目指し続けてきた同級生たちと違って一度夢をあきらめてアイドルになった私。そんな背景に入学当初は同じヒーローを目指す土俵に立っていてもどこか皆に対して劣等感があった。
だけど今はこうしてヒーロー科学生として堂々と立っていられる。
だって、焦凍くんは私のヒーローを目指す覚悟と想いを認めてくれたから。
『頑張って』
轟「....おう、ありがとな」
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