Season4
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小さな武器で致命傷ではないとはいえ、至る所から流れ出る血液。
息苦しくなり、どんどん血の気が引いていくのが分かる。
初めて感じるこの感覚...。
これが...死?
身体が、重たい....これ以上、私...戦えない。
あんなの...私には、倒せない。
そう思った瞬間、頭の中に切島が自分の身を案じてくれた時の言葉が思い浮かんだ。
「お前が連れていかれた後、轟..見たことねぇくらい落ちてて、今にもビルから飛び降りるんじゃねぇかってくらい憔悴しててさ」
鮮明に覚えてる。
自分がワープゲートの中に引きずり込まれた時の絶望したような顔...。
神野で助けに来てくれた時、抱きしめてくれた時に見せた必死な顔...。
離れたいと言われた時、焦凍くんが見せた苦しそうな顔...。
そして、「好きだ」と言ってくれた時の穏やかな顔...。
大切に思われている。
それがよく分かるから。だからこそ、また自分に何かあったら...。
させられない..させたくない!!焦凍くんに、合宿の時のようなあんな顔..もうさせない!!
こんな所で死ねないし、終われない!
焦凍くんと...一緒に、ヒーローになるんだ!!
そう強く思った瞬間身体の奥底から力が漲るような感覚があり腕を大きく振るった。
災害を思わすような強風が辺りに吹き荒れ、土積を自分達から離した。
ウィンドリア「莉紗、動ける?!」
『もちろん!』
ウィンドリア「よし。じゃあ私が奴の気を引くから」
そう言って母さんは私以上に痛むであろう身体を引きずり土積を再び竜巻の中に閉じ込めその竜巻ごと土積の身体を持ち上げると風を解除しながら地面に叩きつけた。
私は粘着糸を太くして、土積の身体に巻き付けると瞬時に粘着糸を短くし土積の懐に入り、今度は0距離から土積の腹部に向けて旋風拳をねじ込むと土積の身体は壁に叩きつけられた。
土積「面倒な個性の親子だな、おい」
防戦一方となってきているのに段々とイラついてきているのかその表情は怒りに満ち満ちていた。
『攻撃力をカバーしたくて旋風拳を開発したけど。致命傷を与えるにはまだ足りない..』
ウィンドリア「大丈夫、そこは母さんがカバーする」
『え?』
ウィンドリア「親として守りたいし、プロヒーローとして...ちゃんと手本にならないとだからね!」
その一言と共に母さんの周囲に強い風が吹き荒れた。
その風は一方向ではなく四方から吹き荒れ、立っていることすら困難な程の強さだ。
ウィンドリア「サバイバルハリケーン!!」
突如発生した竜巻は自ら進んでいくかの如く土積に向かっていった。
土積はそんな竜巻を防ぐように土の壁を形成するものの竜巻はいとも簡単に土の壁を切り刻み、吹き荒れる渦の中に土積を閉じ込めた。
土積「あ"ああぁぁぁあっ!!!」
土積の身体はまるでナイフで切り付けられているかのように鋭利な傷を増やしていく。
『何に攻撃されてるの...?』
ウィンドリア「莉紗はきっと私の戦闘見たことないだろうから知らないかもしれない。あれは、かまいたちよ。竜巻の中でかまいたちが入り乱れているの」
『かまいたち?』
ウィンドリア「うん、それを意図的に作っているの」
『.........』
竜巻の中で切り刻まれていく土積。
『(風の個性...制圧力はあるけど打破力に欠けると思ってた。
こんな攻撃技があったんだ。ちゃんと個性を極めてる。プロ...伊達にトップヒーロじゃない)』
同じ個性なのに、見たことのない目の前の光景に気を取られてしまった。だから私は気づけなかった。
背後に死角が襲っている事に...。
ウィンドリア「ああっ!」
母さんの叫び声で後ろを振り向くと土の刃が母さんの腹部を貫いていた。
『ちょっ!(急所は外れてるけど...この損傷はまずい...!!)』
先ほどのナイフみたいなサイズじゃない。まるで太い槍のようなものが腹部を貫通している。
ぐったりと倒れこむ母さんの身体を支えていると、今度は私に向かって土の槍が飛んでくるのに気づいて母さんの身体を寝かせ、地面に両手をついて辺りの土をかき集め壁を作り槍の攻撃を防いだ。
『(ここまでやっても抑えられないって。一体どうしたら...)』
ウィンドリア「はぁはぁ、莉紗...」
何とか意識を保っているのか肩で呼吸をする母さん。敵から目は離さずに母さんの言葉に耳を傾けた。
ウィンドリア「莉紗なら、出来る...あんたは..個性の使い方が、器用..だ、から..」
『しゃべらないで』
母さんのかまいたちによる攻撃は敵への大きなダメージとなっているのは間違いない。しかし、それでも私の作った土の壁が少しずつ解体されていく。土積も個性を使おうとしている証拠だ。次を形成しようとしているんだ。
ウィンドリア「渦の、形を..意識、ごほっ!!して。普段の、竜巻は..一定、方向...かまいたちは、乱回転」
『(回転の方向...!!)』
ウィンドリア「あな、たなら...出来る...ウィンディ...!!」
『!!』
これまでずっと名前を呼んでいた母さんが私のヒーロー名を呼んだ。この意味が分からない私じゃない。
生徒としてではなくヒーローとして自分を信じてくれた相澤先生と同じ。
目の前の人は、母として私を守り、そしてヒーローとして私を信じ、託そうとしている。
想いの深さと、期待の重さを痛い程に理解した。
今まで竜巻を発生させる際の渦の回転を右回りか左回りの選択しか考えたことがなかった。しかし、両方の回り方を入り乱れさせることを母の言葉で気づき手に意識を向けた。
『(両回転の竜巻...)』
目の前の壁はもうすぐ壊される。
母さんの意識が朦朧としてきたのだろう。土積を閉じ込めていた竜巻がゆっくりと消えていく。
土積の身体が地面に落とされた。土積の身体の自由を奪う物がなくなり、個性が使いやすくなった瞬間に壁が壊れた。
『ハァッ!!』
私の右手に丸い球体のようなものが出来た。これならイケる。
なぜか分からないけどそう確信出来た。私はそれを土積の腹部にねじ込んだ。するとたちまち土積の腹部が抉れていく。
「ガハッ!!」
血を吐き出した土積の身体は吹っ飛び壁に叩きつけられた。
ブースト薬の効果が切れたのか、土積の身体がみるみるうちに小さくなっていく。
ブースト薬の副作用か腹部のダメージか土積は白目を向きゆっくりと地面に倒れて行った。すかさず粘着糸を最大まで太くして土積の身体を拘束した。
『.....何、今の』
自分は確かに竜巻を出そうとしていた。
それなのに、竜巻とは全く異なる球体のようなものが自分の手のひらにあった。
それは土積の腹を抉るほどの殺傷力。
もし、これを技としてマスターすれば自分の攻撃に大きな光が差すかもしれない..。
そんな事をぼんやり考えていた私の意識を引き戻したのは母の咳き込む声だった。
『?!まずい...大丈夫?!今救急隊のところに!』
母は返事をするのもままならない程に弱っていた。
私は母さんの腹部の止血をしながら風で体を持ち上げその場を移動した。
天井を破壊しながら地上に戻っていく。
『誰か!』
地上では警察が慌ただしく包囲網を敷いていた。ヒーローの姿は見えない。
『母が急所は避けてますが槍のようなもので腹部を貫かれて重傷です。出血量は目視で300ccくらいかと。勢いは収まりましたが現在も止血続行中。意識もJCSⅡ-30からⅢ-100、かろうじて反応がある程度です。すぐに救急搬送お願いします』
警察「まずい。すぐに治療に入らねば..救急隊!」
死傷に問わず警察・ヒーロー側の被害を鑑みて救急車を1台、救急隊員も5名程配置していた今回のミッション。
母さんはすぐに救急隊の手に渡り迅速に治療を受けることが出来た。
『リューキュウ事務所の人達はどこに?』
そう言って警察が指さした先には屋根ごと大きく破壊された後があった。
そこから地下に潜っていったようだ。
リューキュウって、普段は品の良さそうな感じだけど案外大胆なんだ。って、天井壊しながら上がってきた私が言えた事じゃないけど。
私もその穴から地下に向かって風に乗って走っていった。
最下層に辿りついた私の目に入ったのは、壊理を抱きしめて宙に浮き瓦礫に囲まれている緑谷の姿だった。
治崎の個性か、その瓦礫は先端が鋭く尖り緑谷を貫こうとしているように見えた。
『(緑谷!!)』
すぐに粘着糸を緑谷に巻き付け、自分の方に力いっぱい引き寄せると同時に空から地面に向かって突風を起こした。突風に煽られた治崎が地面に叩きつけられ、大量の瓦礫が地に伏せた治崎に襲い掛かった。
緑谷「風舞さん!」
『緑谷!壊理ちゃん、絶対離すな!!』
力強くそう言って粘着糸で巻き付けた緑谷の体を上空に向かって放り投げた。その勢いで空中での体勢が崩れたけど風の勢いを使って何とか体勢を立て直しうまく地面に着地した。
麗日「莉紗ちゃん!」
『お茶子ちゃん、梅雨ちゃん!』
蛙吹「無事だったのね、良かったわ」
『うん、みんなも』
お互いの安否を確認しホッと肩を撫でおろした莉紗。しかし、その安堵もすぐに消え去った。
『....ナイト、アイ?』
私の目に入ったナイトアイは柱のような太い瓦礫で腹部全体を貫かれ血だらけになりぐったりとしているナイトアイの姿だった。
サー「...敵に、集中...しろ...」
『!』
ナイトアイに指摘され振り返ると治崎が立ち上がっていた。
降り注いだ瓦礫に壊されたであろう右腕はあっという間に再生し元に戻った。
リューキュウ「まずい!」
サー「だい、じょうぶ..だ...君たちは...少なくとも、奴が今...君たちを標的にすることはない...奴は緑谷と壊理ちゃんを追って、地上へ...出る...そして、緑谷を..殺す」
麗日「?!そんなの!」
緑谷を助けようと走り出したお茶子ちゃんがその場に倒れた。
『お茶子ちゃん!』
麗日「走りたいのに..体が...」
『無理しないで、緑谷は私が追う』
そう言って私は足元から風を出し空中に浮かびあがるとそのまま建物の外にいる緑谷を追っていった。
蛙吹「莉紗ちゃん....」
サー「見た、んだ...」
リューキュウ「それ聞いて黙ってると..」
サー「君たちのその状態では...奴に向かっても勝てない..」
麗日「だからって...何もしないのは、ちゃうやろ!」
力の入らない足を奮い立たせ辺りの瓦礫の破片に触れながらゆっくりと立ち上がった麗日。
麗日「未来なんて..何かせな変わらんやろ!!」
**
空中浮遊しながらダッシュウィンドを連発し、緑谷の元へ急いだ。そして私の視界に入ったのは赤くて大きな物体。
『何、あれ....』
人の筋肉のようなものにも見えるソレ。さらに近づくとその中心には治崎がその中に埋まるように存在していた。間違いない、あれは増強しまくった筋肉のなれの果てだ。緑谷は自分の背中に壊理を固定し、治崎と対峙している。治崎は破壊と再生を繰り返しどんどんと筋肉を創り続けている。
対する緑谷も、今まで見たことないほど体中が血色を帯び筋骨隆々としている気がする。
限界以上の力を出しているのかもしれない。
長引けば緑谷が不利。何としても治崎に大ダメージを与えなきゃ...。
さっき、咄嗟にやったあれ。
手のひらに球体のようなものがあった。あれが何だったのか...原理は分からないけどすごい破壊力だった。
私はあの時竜巻を出そうとしていた。
だから、きっと風をギュッと球状に圧縮したものに違いない。
練習したこともない偶然出来た代物を..今出来る?
いや、出来るか出来ないかじゃない。やらなきゃ。
小さな女の子を助けなきゃ。
仲間を助けなきゃ。
私が何の力もない無力な子供だったから..。
守られるだけのただの子供だったから...。
だからオールマイトは、平和の象徴ではいられなくなった。
だから今度は守らなきゃ。私が。
私に出来る事なんて..今の私に守れるものなんて多くない。
だからこそ、目の前にいる女の子は絶対に助ける。
毎日、この言葉を胸に仲間と...焦凍くんと強くなってきたんだ。
そう、限界は超える為にある!!
『プルス、ウルトラだー!!!』
乱回転をイメージした竜巻を作ると手のひらには、先ほどと同じように球状のものが姿を現した。
それはどんどんと大きくなり手のひらに収まりきらなくなっていく。
サッカーボール程の大きさになったそれ。
球体の中では無数の筋が入り乱れて動いていた。
私は粘着糸を最大まで太くして、治崎に巻き付けると、一気に縮めて治崎の懐へ。
突然拘束されたことで一瞬動きを止めた治崎の本体に球体をぶつけた。
治崎の顔面だけを残してバラバラに壊された身体。
『やれー!緑谷!!』
そこに100%の力を発動した緑谷が治崎の顔面に拳を突き立てた。
地面に叩きつけられた治崎は既に意識はないのかぐったりとして動かない。
私は治崎の体に粘着糸を巻き付け拘束した。
『緑谷!』
緑谷「風舞さん..」
急いで緑谷の元に駆け寄る。
『大丈夫?』
緑谷「うん、なんとか..っ!」
その時緑谷と壊理ちゃんの周りが黄金色に光り、突然地に伏すようにしてもがき苦しみ始めた緑谷。
『緑谷?!』
緑谷「ダメだ!近づいちゃ...壊理ちゃん、個性...コントロールが..」
『個性のコントロールが出来なくて、暴走してるってこと?』
緑谷「あぁっ...!!」
『なら..イレイザーヘッド!壊理ちゃんの個性を!』
後方で梅雨ちゃんに支えられている相澤先生に叫んだ。
自分で体を動かせない相澤先生は梅雨ちゃんに上を向かせてもらい個性を発動した様子。
すると、2人を包んでいた光は消え壊理ちゃんは緑谷の背中でぐったりとした。意識を失ったようだ。
何かに耐えるようにもがいていた緑谷も自分の背に倒れ込んだ壊理ちゃんを後ろ手で支えた。
『緑谷!大丈夫?』
緑谷「ハァハァ...うん。壊理ちゃん、大丈夫?」
『気を失ったみたい...』
緑谷「そっか...」
被害の状況を考慮し、警察が救急車の追加手配をしていた事で、迅速に重傷者を搬送することが出来た。
リューキュウが警察やヒーローたちに指示を出し、重傷者の搬送と敵の捕獲、現場整理を行っていく。
屋敷から担架に乗せられて出てきた者の中には見知った顔もいた。
『切島!』
意識を失っているようで、身体中包帯で巻かれている。
救急隊「大丈夫、命に別状はなさそうだ」
『良かった...』
救急隊「君も怪我してるね。向こうで手当を受けるんだ」
『え?』
救急隊に指さされると周りにいたクラスメイト達が顔を青くした。そう言えば私も負傷してたっけ?
多分皆、至るところに槍に刺された跡があるから顔を青くしてるんだと思う。
麗日「莉紗ちゃん!?結構重傷やん!」
蛙吹「早く、手当を受けて来て」
『忘れてた...』
麗日「普通忘れる?!」
『や、必死すぎて...』
苦笑いしながら救護スペースに向かった。軽傷とは言えないケガだけど戦っている間はアドレナリンがドバドバで全く痛みなんて感じてなかったのに意識するとどんどん痛みが強くなっていく。
「君、これでよく戦ってたね」
『もうそれどころじゃなくて...』
「そっか、さすがヒーローだ。お疲れ様。街を守ってくれてありがとうね」
突如かけられた思いがけない言葉に私は一瞬惚けてしまった。
『.....あ、いえそんな』
「あ、そういえば君ウィンドリアさんのお嬢さんだったよね?」
『あ、はい』
「重傷者は中央病院に搬送されたよ。ウィンドリアさんも幸い、急所も避けていたし何とか一命は取り止めた」
『そうですか、ありがとうございます』
現場の後始末は警察の仕事と言う事でヒーローは解散となった。
切島や母さんの様子を見に行こうと病院に検査と治療に行く事になった緑谷と共に私は中央病院に向かった。
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