Season4
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「風舞さん、風舞莉紗さん」
『あ、はい』
私は今日、学校を休んで病院に来ていた。その理由は個性検査を受けるため。戸籍と共に提出していた個性届は、母から遺伝した"風"と父から遺伝した"粘着糸"の2つになっている私。だけど"風"の個性も"自然"個性の中の一部分ではあるから間違いではないけど、現状、厳密には"自然"と言う個性が正しい。コスチュームやサポートアイテムの被覆控除を受けることが出来るのは届けが出された個性に対してのみ。つまり個性届を変更しなければ"土"や"水"、今後"火"や"雷"に関連するコスチューム要望やサポートアイテムに対しての控除が受けられない。その為、個性届の出し直しをしなければいけなくてその為には個性検査を受け個性認定医の診断書が必要。
故に、私は公欠を取り今病院に来ている。
「確かに、検査をしたところ風の性質だけじゃなくてほかの性質も個性反応が出ているね」
『個性反応、ですか?』
聞き馴染みのない単語に私は医師の言葉を繰り返した。
「そう、例えば個性が発現したばかりの頃は個人差はあるけど大体10~30前後。訓練をし使いこなしていくうちに数値は上昇し、プロヒーローだと大体300~500前後が平均と言われてる」
『へぇ』
「ちなみに、母君のウィンドリアさんは去年の検診では600台だったかな?No.1のエンデヴァーに至っては800台だったと思うよ」
『その個性反応は上限みたいなのはあるんですか?』
「いや、正直まだ未解明の部分が多くてね。上限があるかどうかはわからないんだ。個性の鍛錬をすればするほど数値が上がっていくのは判明しているんだけどね」
『そうなんですね』
「それで、"自然"の個性に関しては先生達に言われた通りナチュラリウムが5種類扱えただけで、5種類扱える事がこの個性の性質じゃないんだ。だからウィンドリアさんも"風"の性質にしか個性反応はないし、ピクシーボブも"土"、スプラッシュも"水"、それぞれの性質にしか個性反応は出ない」
だから母達はその性質以外は扱うことが出来ない、という事ね。
『じゃあ私は水にも土にも反応があるんですね』
「そう、君の"風"に対する個性反応は幼少期に発現し鍛錬してきている事もあり224と学生の中では高い数値が出ている。そして"水"は63、"土"は96という値だよ」
"自然"個性が発現してからずっと違和感のあった自分の個性。
祖母に聞いても話している事は分かっても心では自分の事だと到底思えず、不明瞭な事ばかり。仮免試験で使ってみて自分がその力を扱っているという事実感は湧いたものの、ずっと"風"の個性だと思って生きてきた中での"自然"の発現に戸惑っていた私は今日、検査をして医師の話しを聞くことでようやくそれらの違和感を咀嚼する事が出来た。
「だけど、"雷"と"火"に関してはまだ前兆なしかい?」
『何でですか?』
「いやね、"雷"も5と僅かな個性反応がある。おそらく発現までもうすぐだよ。火に至っては....」
『...........』
「おかしいね、59も反応が出てるなら発現していてもおかしくないんだけれど。まあ、とにかく君はナチュラリウムと同じで5つの性質を扱う完全体の"自然"個性が君の本来の個性で間違いないよ。診断書書いとくから個性届提出し直してね」
そう言って検査結果の書かれた紙を私に渡した医師。
『(59、か...)』
診察室を出てロビーで会計が出るのを待つ間も検査結果の紙を眺めながら、最近時折見る幼少期の夢の事を考えた。幼い頃、燈矢兄に個性発現の為の訓練をしてもらっていた頃の夢...。
粘着糸の個性を使いこなせるように導いてくれたのも、風の個性の発現を促してくれたのも燈矢兄だった。
だけど、それらの夢の中で唯一私の幼い記憶に全く残っていない映像が流れたことがある。
それは、私の手のひらに小さな火が灯っている映像だ。
燈矢兄の火を風を使って手に乗せてるのかな、と思ったけどそれにしては自分は風を出していないように見えたし何しろそんな高等技術は最近焦凍くんと訓練してやっと出来るようになった代物だ。
なら、あの火は一体....。
ボーっと昔のことを思い返してるうちに会計が終わったらしく自分の番号がモニターに表示されたのを確認し自動精算機で会計をすませ、診断書を受け取った私は病院を出ずに今度は病棟に向かっていった。
『冷さん、こんにちは』
冷「あら、莉紗ちゃん。いらっしゃい」
笑顔で迎え入れてくれる冷さん。
私が検査を受けに来た病院は冷さんが入院している病院だった。
だから検査の後に冷さんに会って来る事は元より決めていて、焦凍くんから手紙も預かっていた。
『はい、これ。焦凍くんからのラブレター』
冷「ありがとう」
『焦凍くんって意外と筆まめだったんだね』
そう言って笑って言うと冷さんも私に釣られてクスクスと笑った。
冷「クスッ、そうね。でも一緒に送ってくれる莉紗ちゃんからの手紙もいつも嬉しいよ」
『そっか、良かった』
冷「今日はどうしたの?」
個性検査をしに来たいきさつを話した私。冷さんも私の個性は"風"だと疑わなかったから驚いていた。
冷「そっか、大変だったんだね」
『15年"風"だと思って生きて来たからびっくり通り越して唖然だったよ』
冷「でもそんな短期間で実戦で使えるようになるくらい頑張ったんだね、凄い」
そう言って穏やかな笑みで私の頭を撫でてくれる冷さんは、幼い私を安心させてくれていた昔と同じ冷さんだった。
『....神野事件の後ね。両親や蒼兄とも、話し...したんだ』
冷「そっか...」
私の言葉に不安そうな表情をした冷さん。うちの家庭事情をよく知ってるから、和解したのか気になっての事か、それともその結末と私の心情を察してくれているのか。
『両親には頭下げられた』
両親は私や蒼兄を家政婦に任せきりで、家政婦が帰った後の夜は2人で過ごす事も少なくなかった。そんな私達を案じて冷さんは轟家に迎え入れてくれた。だけど、私達が怪我をしても気にも留めない両親。
冷さんも、昔何度か両親に話しをしてくれていたのは知ってる。
だけど相手はエンデヴァーと同じプロヒーロー。仕事のことを理由に跳ね返されるとヒーローじゃない冷さんにはそれ以上何も言えなくなってしまったんだと思う。
『蒼兄にも、謝られた。自分が守らなきゃいけなかったのに置いてったって』
冷「うん」
『すぐには難しかったけど、でもね。少しずつ会話するようにして..普通に会話、出来るようになってきたんだ』
冷「莉紗ちゃん...」
『家族で話し出来たのもね、焦凍くん達のおかげなんだ』
冷「焦凍達?」
『うん。私の家族とちゃんと家族の形になっても、私はこの家の家族には変わりない、居場所はここにあるって焦凍くんと冬ちゃんと夏くんに言われたの。だから、勇気出た』
冷「そっか...」
自分の子供達の心優しいエピソードを聞いて嬉しく思ったのか冷さんが小さく笑った。
『ありがとう、冷さん』
冷「え?」
『冷さんは、私のお母さんみたいな...ううん、私にとってはお母さんそのものだったから。冷さんが居て、冬ちゃん達がいて、焦凍くんがいてくれた。だから私、全然寂しくも悲しくもなかったよ』
両親と和解してから、ずっと冷さんに伝えたかった。
あの頃の私にとって、頼れて甘えられる大人は冷さんだけで。
冷さんがいたから、今の私がいる。それは変わることない事実。
ずっと伝えたかった。
『ずっと伝えたかったんだ。ずっと守っててくれてありがとう。私の事、育ててくれて...ありがとう』
私の言葉に冷さんが切ない表情を浮かべた。
冷「莉紗ちゃん...。私こそありがとう」
『え?』
突然、冷さんからのありがとうの言葉。冷さんにお礼を言われる理由が見当たらなくて困惑した私は言葉が出ずに冷さんを見つめた。
冷「私が壊れて焦凍と離れてしまった後も、焦凍を支えてくれて。あの子を導いてくれて」
あぁ、そっか。
冷さんはあれからずっと私が焦凍くんと一緒に居て支えて来たと思ってるんだ。私が、焦凍くんの個性と向き合わせて、焦凍くんのヒーローへの想いを思い出させたと思ってるんだ。
焦凍くん、冷さんに私達の事話してなかったんだね。
『それは....違うよ』
冷「え、違う?」
『導かれたのは私の方で...焦凍くんに個性と向き合わせたり焦凍くんのヒーローへの想いを思い出させてくれたのはクラスメイトなんだ』
そう、焦凍くんの道行く先を照らして導いてくれていたのはいつだって緑谷だった。
焦凍くんは、そばに居てくれただろって言ってくれたけど。私は本当にそばにいただけで...。
冷「そうなの?焦凍はそうは言ってなかったけどなぁ」
『え?』
冷「その友達の話しもね、してくれた事あるの。考えて、向き合うきっかけをくれたって」
冷さんが話すそれはきっと体育祭での事。その"左"の力はエンデヴァーじゃなくて焦凍くんの力だって焦凍くんにぶつけてくれた緑谷の言葉で焦凍くんはずっと封じ込めていた"左"を使った。
冷「きっかけをくれたけど、実際左側を使う事は不安だったし怖かった。でも、背中を押して勇気をくれたのは莉紗ちゃんだって。莉紗ちゃんがいなきゃ今の自分はいないって言ってた」
『焦凍くんが、そんな事....』
冷「それにね、貴方達が離れてる時の事も聞いてるの」
『え?』
冷「離れてる間もずっと、莉紗ちゃんとの想い出や莉紗ちゃんという存在が支えだったって。あの子、そう言ってたのよ」
『っ...』
冷「莉紗ちゃんは優しい子だし、昔から背負い込んじゃう子だったから自分でそう思わないかもしれないけど。少なくとも焦凍は子供の頃の楽しいことも、嬉しい事も、辛い事も、将来の夢も全部。自分と一緒に見て、感じてきた莉紗ちゃんという存在を必要だと思ってるんだよ」
私は心のどこかで、焦凍くんの気持ちを疑っていた...。
いや、違う。
体育祭の後、焦凍くんは私が昔と変わらずにいた事で救われたと言った。
私を必要と言ってくれた。
だけど、どんなに焦凍くんがそう思ってくれていても私自身がそれを認められなかった。
どんなに焦凍くんが私に救われたと思っていても、やっぱり私は焦凍くんに何もしてあげられなかったって思ってしまってそれ故に自分を許せない。
だけど....。
焦凍くんはその言葉通り、ずっと私を必要としてくれていた。
私は、ちゃんと焦凍くんを支えられていた。
少なくとも焦凍くんは、そう思ってくれている。
そんな焦凍くんの気持ちを私は信じてなかったんだ。
そうだ、私達は子供の頃いつも一緒に乗り越えてきた。
辛いことも、悲しいことも...。
そして、いつも一緒に共有してきた。
楽しい事も、嬉しい事も...。
冷さんの言葉が、それを思い出させてくれたんだ。
『冷さん』
冷「ん?」
『ありがと』
私の送ったお礼の意味が分かった冷さんは冷さんらしい控えめな笑顔で「うん」と言った。
**
あれから、冷さんと話し込んでしまい寮に戻ってきたのが夕方になってしまった私。
緑谷「あ、風舞さん。おかえり」
私に気づいた緑谷が笑顔で出迎えてくれた。
他の人の気配はなく寮内はシーンとしている。
『ただいま、皆まだ戻ってないの?』
緑谷「うん、男子は授業の後試合形式の特訓しようって言って体育館借りてまだ特訓してるよ。僕はインターン参加の書類書いたりしなきゃならなくて今日は不参加」
『女子は?』
緑谷「ボイラー上がってるから皆でお風呂入りに行ってるんだと思う..」
少し顔を赤くしながら言う緑谷。お風呂の単語を出すだけで赤くなるなんてうぶだな、緑谷。
『そっか』
緑谷「風舞さんは、個性検査どうだった?」
『"自然"の個性で間違いないって。書類もそろったから明日インターン前に出してくる』
緑谷「そっか。風舞さんは明日からインターン始まるんだっけ?」
『うん、緑谷は明後日からだっけ??』
緑谷「うん、お互い頑張ろうね」
『うん、頑張ろう』
緑谷は飲み物を取りに来ただけらしく、まだ書く書類が残っているからと部屋に戻っていった。
今日の食事当番誰だっけ?と、当番表を確認すると"轟・瀬呂・切島"となっていた。もう夕方だというのに、食事が準備されている気配はない。
3人共絶対忘れてるな...。まあ遊んでるわけでもないし代わりに作ってやろうと私はエプロンを付けて台所に立った。
というより焦凍くんに食事当番なんてどう考えても無理だ。
寮生活になってから皆で考えたこの当番制。
風呂掃除当番5名、共有スペースや廊下などの掃除当番7名、キッチンとトイレの掃除当番3名、食事当番3名、買い物当番3名を日替わりで設けている。最初は出席番号順にしていたけど色々なペアと組む方が経験としてはいいだろうという満場一致の意見で途中から毎週土曜日に翌週の当番を決めるくじ引きをする事で決定している。
だけど、焦凍くんは料理全くダメ。切島も苦手。瀬呂も出来ないわけじゃないけど手際よく出来るほど得意でもない。
このメンバーじゃどう考えても食事が出来上がらない。
だけど、ヒーローである以上災害時に料理など出来ないといけないわけで全員が料理のスキルを会得する必要があるけど、中学の時のように調理実習の授業はないから寮生活の中で覚えて行かないといけない。
となると、爆豪、私、砂藤、お茶子ちゃん、それに梅雨ちゃん。クラスの中でも特に料理に慣れてるメンバーを筆頭として1人つけてそこに2人のメンバーをバランスよく配置していく方がいい気がする。くじびきでのランダム当番制も少し改革が必要かな。今度みんなに提案してみよ。
冷蔵庫の中を見ると中々に食材がほとんどない。
豚肉、キャベツ、レタス、それにベーコンに卵.....以上。
今日の買い物当番だーれだ。
当番表に再び視線を動かすと、"芦戸、峰田、常闇"
全く、皆当番表見てないでしょ。今日の食事当番の3人がこの冷蔵庫見ても多分何作っていいかわかんないってなっちゃうよ。
6人共、戻ってきたらお説教だな。
私は、メニューを決めて食事の準備に取り掛かった。
10分後お風呂からあがってきた三奈に「買い物当番さーん」と声をかけると「ゲッ!ごめーん!」と言って走って買い物に向かった。
30分後、男子たちがようやく戻ってきて「食事当番さーん」と声をかけると誰も返答せず、どうやら本当に当番表を見ていなかったようで食事当番の3人が自分達の名前を見てめちゃくちゃ申し訳なさそうに謝ってきたからまあ今回は許してあげよう。
そして、峰田と常闇も買い物当番であることを思い出したようだったけど三奈が慌てて買いに行った事を話すと、2人も走って寮を出て行った。
『騒がしいったらもう...』
麗日「莉紗ちゃん、何か手伝うよ!」
『ん?もう終わるから大丈夫だよ。あ、私今日お風呂掃除の当番だから瀬呂達悪いけど私の代わりにお風呂掃除お願いね』
切島「おう、もちろん!」
瀬呂「まじで悪りぃな...」
轟「悪い..」
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食事を終えそれぞれが自由に過ごす時間。
私は検査結果を話したくて焦凍くんを外に呼び出した。
轟「どうした?」
『ん、今日個性検査してやっぱり"自然"の個性だって』
轟「そうか」
『何か..実際使ってみても、それでも心のどこかでウソかと思ってた。何かの間違いじゃないかって..』
突然しんみりと話しだした私に横やり入れるでもなくじっと聞いてくれる焦凍くん。
『でも、今日個性検査してお医者さんに診断されてやっと受け入れられた。私の個性はこの"自然"の個性なんだって。覚悟決まった感じ』
轟「そうか」
私の気持ちを聞いた焦凍くんは穏やかな表情を浮かべた。
この個性が発現してからずっと、戸惑ってる私を間近で見てたから心配かけてただろうなぁと思った私は戻ったらすぐに報告しようって決めてた。
『冷さんもびっくりしてた』
轟「だろうな」
『手紙、喜んでたよ』
そう伝えると焦凍くんは少し嬉しそうな表情を浮かべて一言「...そうか」と呟いた。
『私も、冷さんに話せた。親や蒼兄と和解出来たこと。それに...』
轟「それに?」
『ずっと守っててくれて、私の事育ててくれてありがとうって言えた。親と話してからずっと伝えたかったんだ』
轟「そうか。お母さんもきっと喜んでる。お前はお母さんにとっても娘みたいなもんだから」
焦凍くんが私の頭にポンと右手を乗せた。
その手は、私の頭を撫でてくれた冷さんと同じに感じた。
どうしてだろう...。
冷さんの手も焦凍くんの右手も。
2人共、人より冷たいはずのその手。
なのに、私の頭を撫でる2人の手は何でこんなに暖かいんだろう。
それはきっと、2人が...
とても暖かい人だからだと思う。
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