Season3
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轟の元につくと、轟が気まずそうに莉紗を見上げた。
『..........』
轟「....悪い」
『何が?』
轟「...情けない所見せた」
『....バカ焦凍』
轟「.......」
そう呼ばれ轟は彼女がどれほど怒っているのか痛感した。
幼い頃、普段"焦凍くん"と呼ぶ彼女が"焦凍"と呼ぶ時があった。それは自分に対して心底怒っている時。
轟の前に座り込み動けない轟の体を風で包み立ち上がらせるとその腕を自分の肩に回させた。
『そうじゃないでしょ...』
轟「え..?」
『...とにかく、医務室に』
莉紗は風で轟の体を浮かせながら医務室に向かった。
**
セメントガンを受けたことと超音波を受けた事以外、外傷はなかった。セメントは熱で柔らかく出来るようなので莉紗が轟の左手をセメントに触れさせじんわり温めさせ、後は麻痺が抜けた後に轟が自分で溶かす事として、身体の麻痺が抜けるのをベッドに横になって待った。
ベッドに横になる轟とその近くで椅子に座る莉紗。
『ごめん』
どこかを見つめていた莉紗が小さな声で呟いた。
何故自分が謝られたのか分からず、ハトが豆鉄砲を食らったような顔で轟は莉紗を見た。
轟「何で、お前が謝る?」
『夜嵐の事。今思い出した...あいつ、そういえばエンデヴァーに対してすごく嫌悪してたって事。細かい事情は知らなかったけど、でもずっと好きだったのに幻滅したって話し聞かされたこと、あった』
轟「.........」
『覚えてたら、私がもっとフォローに入れてたから』
轟「...お前は、怒ってんのかと」
轟はバツが悪そうな顔で言った。
『怒ってるよ。でもそれは焦凍君の言うような情けない姿見せて、とかじゃない』
轟「..じゃあ」
『ヒーローになる事は焦凍くんがずっと追い続けてた夢でしょ。憎しみで周り見えなくなって一度は忘れてしまったけど、緑谷がその夢を取り戻すきっかけをくれた。
そしてこの仮免試験は、ヒーローになる為の大事な1歩。
...そのチャンスを無碍にするような失態だよね』
轟「ああ...そう、だな」
『焦凍君は自分の今までの努力の日々も、想いも、夢も...全部自分で裏切ることになるかもしれないんだよ』
轟「........」
『そんなの....そんなの、私が黙ってられるわけないでしょ?誰よりも焦凍くんの夢を応援してるのは...私なんだよ』
膝の上にのせていた両手をグッと握り、俯き加減で声を震わせて話す莉紗に轟は何も言えなくなった。
『でも...気持ちは、分かるよ。私もそうだから』
轟「何が...」
『私も何度も抗ってた。親の名前から離れたくて。親の呪縛から逃れたくて必死だった。
だけど蓋を開けてみれば、ヒーロー目指していい成績残せば親の七光り。
ヒーローになる事をやめて勉強も訓練も全てを放棄して堕ちるところまで堕ちてみれば、親の顔に泥を塗る。
結局何をしても、私がどうなっても..私が歩く先にはウィンドリアの名前が付きまとった』
自分と夜嵐の間にあったやり取り。その場にいなかったのに、聞いていたはずもないのに。
それでも轟が心の中で抱えたものや、試験中に立ちはだかった壁の原因が何なのかわかっていなきゃ出来ないその話しぶりに轟はただ驚いた。
莉紗の口から出たのは聞いていても苦しくなるような話しの内容。しかし、莉紗のその表情は少しも苦しそうではなかった。
そんな彼女の強さを垣間見、轟は自分と比べ落胆の色をみせた。
轟「.....今までの道のり。奴の息子だってこと、ヒーロー目指してく上で背負ってくこと...忘れたままじゃいられねぇんだって、思った」
『そうだね。
でもさ、この先たとえ私達がどんな成績残しても、プロヒーローになっても、親たちが引退しても...
そして、私達が引退しても。
永遠にエンデヴァーの息子とウィンドリアの娘って事実は変わらないしその肩書は死ぬまで付き合っていかなきゃならないんだよ』
轟「........」
『あの人達が過去にどんな親であったとしても、ヒーローとしてはやっぱりスゴイ人達だった。神野の時に心底思い知らされた。生半可な事したってひっくり返せないし超えられない。
私達があの人達の子供っていうイメージを払拭して、1人のヒーロー"ショート"と"ウィンディ"でいるためにはさ。
あの人達よりすごくなるしかないんだよね、結局。あの人達が残してきた実績を上書きしていくしかないんだよね』
轟「莉紗....」
『だから、がんばろ?一緒に、ヒーローになろう?』
莉紗の言葉を聞いた轟が少しづつ動くようになった身体をゆっくり動かすと腕で自分の目元を覆った。
轟「....やっぱ、強ぇよ。お前は」
『ん?』
轟「俺も、欲しかった。そういう、自分で答えを見つけて、道を切り開いていく強さ。
俺は、間違えてばかりだ」
『...なんだ。私の事は何でもわかってくれてると思ったのに、意外とわかってないのか』
轟「え?」
『私だって間違った道に進むことくらいあるよ。
話したでしょ。反発心で勉強放棄したりヤンチャしてたって。今考えればバカだよ。
けど、どんな道に進んだって私の道の先にはいつだって焦凍くんがいた。
焦凍くんの存在が私の道標になって、私を正しい道に戻してくれたんだよ』
莉紗の言葉の数々に、胸を鷲掴みにされたような気分になった。轟は自分ばかりが救われてると思っていた。
だが実際は彼女の存在に救われていた自分と同じように、自分もまた、彼女の事を支えられていた事を初めて知った。
『ヒーロー目指すきっかけも、そして、1度は諦めたヒーローを目指したのもいつだって焦凍くんが私の目標で、私の目指す人だったんだよ。
だって焦凍くんは私の憧れだもん』
轟「お前は、何でそこまで...」
『今と昔じゃ気持ちは違うけど。でも、私にとって大切な人だから。昔から、今も...これからもね。
私が強いんじゃなくてさ。
焦凍くんの存在が、私を強くしてくれる』
轟は衝撃を受けた。
両想いにはなれた。自分を好きでいてくれてるのは分かってた。
だが、知らなかった。自分はここまで大切に思われていたんだと。
莉紗のどこまでも深い自分への愛情を知り涙がこぼれた。
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『私が強いんじゃないんだ。焦凍くんの存在が、私を強くしてくれるの』
俺は、こんなに想われていたのか。
その事実を知り自分をこれほどに大切に想ってくれる存在がいつも傍にいたこと。自分は恵まれていると自覚した。
だが、莉紗はそう言うが、莉紗もきっと分かっていない。
そんな莉紗の存在がいつだって俺の心を守り、傷を癒してくれた。
同じように、莉紗の存在が俺の背中を押してくれているということを。
だからこそ、俺には譲れないことがある。
轟「莉紗...」
きっと泣かせちまう。
『ん?』
轟「出遅れるかもしれねぇ」
傷つける事は分かってる
『.........』
轟「けど、必ずお前と同じ土俵に立つ。絶対、一緒にヒーローになろう」
だけど、俺にとって必要な試練でけじめだ。
『うん!』
こんな情けない俺を、ずっと憧れだと...目標だと言ってくれていたお前と同じ
轟「だから...
お前と同じ土俵に立てるまで...離れたい」
**
制服に着替えて、モニタールームに集まった私たち受験者。
ついに、合格発表の時。
皆、結果が気になってソワソワしてる。
私も同じ気持ちのはずだった。
だけど私の頭の中は焦凍くんの言葉で支配されていた。
まるで、金槌で殴られたような衝撃。
轟「必ずお前と同じ土俵に立って一緒にヒーローになる。
だから同じ土俵に立てるまで、離れたい」
何を言われたのか、分からなかった。
離れたい..?
つまり、何。別れるってこと?
ダメだ、頭が働かない
『え...つまり、何..?別れてってこと?』
轟「そう、言うことになるな...」
『何、急に...』
轟「......俺は、お前と対等でありたい。出遅れたままお前の隣に立っていたくねぇんだ」
麻痺が抜けてきたのかゆっくりと体を起こした焦凍くん。
きっと焦凍くんは自分はこの試験落ちたって確信してるんだ。
『..意味、わかんないよ。そんなん、ただのプライドの話し、でしょ...』
轟「ああ...そう、だな。
けど、お前に一緒にヒーローになるぞって言ったからな。俺..」
『...だから?』
轟「そう言った俺が、あんな情けない真似しちまったこと...自分で許せねぇんだ」
『.......』
轟「俺の勝手でまたお前に辛い想いさせちまうが、待っててくれないか?俺が、またお前の隣で一緒にヒーローになろうって言える時まで」
『....待ちきれなくて、他に好きな人出来ちゃうかもよ』
轟「そう、思わせる前に..絶対ェ仮免取る」
涙が溢れそう...
隠すように俯いたけど、自分でもわかるくらい声が震えてる...
『どう、したらいいの...私、どう接したらいいの...?
今までの距離感から、急にただの友達になれって?無理だよ..今更』
轟「お前が辛いなら、避けたっていい」
焦凍くんのその言葉に、思わず焦凍くんの左腕に掴みかかった。
『辛いよ!急に距離が離れるなんて、一緒にいれないのは...でも、避けるなんて、もっと、っ...つらい、よ...』
こらえきれなくて、涙があふれた。
焦凍くんが戸惑った顔をしてる。
そりゃあそうだ。
私が焦凍くんに対してこんなに感情的に訴えかけた事があっただろうか。
焦凍くんが右手を伸ばして私の頬に触れようとしてきたけどその手が私に触れることはなく、焦凍くんはゆっくり手を下ろしていった。
見上げた焦凍くんの表情も苦しそうだった。
ああ、焦凍くんは本気なんだ。きっと何言ったって焦凍くんは考え直さない。
分かってる。
焦凍くんは、自分の血と..個性と、そしておじさまや家族と向き合いたいんだ。
私と焦凍くんはよく言えば互いに支え合い、悪く言えば互いに依存しあって来た存在。
私の存在が焦凍くんの逃げ道になってしまう。
私も逃げてきた焦凍くんを突き放せない。
それを分かってるから、焦凍くんは私と離れたいって言ったんだ。
そんなの、ダメって言えない。
ワガママ...言えないじゃん。
だって、焦凍くんが夢の為に決めた決意だってわかるから。
『...っ....!』
焦凍くんがゆっくりとベッドから降り私の前に立った。
轟「悪い。俺は、お前を泣かせてばっかだな...」
中学の時の事を言ってるんだろうか。
あの時は、私の為だった。もしあの時、理由を知ってれば全力で引き留めてた。だって、私のためだから。
でも、今回は焦凍くん自身の為。
焦凍くんの夢の為に、焦凍くんが自分で決めた事だから。
『焦凍くん...少しだけ、ぎゅってして』
焦凍くんは切ない顔で躊躇いがちに手を伸ばし、弱々しく私を抱きしめた。
『っ...もっと』
私のワガママに焦凍くんは抱きしめる力を強くしてくれた。
私がヒーローを目指した理由を思い出せ。
泣いてる焦凍くんを助けたかった。
ボロボロになっていく焦凍くんを守りたかった。
落ち込んでる焦凍くんの力になりたかった。
焦凍くんに、笑っていてほしかった。
私は、焦凍くんが抱えるものを少しでも取り除いてあげたかった。
ヒーローを目指す焦凍くんの夢を誰よりも応援してきた。
焦凍くんの夢を応援したい。
焦凍くんの力になりたい。
それが私のオリジン。
でも、それは焦凍くんの側にいることだけが正解じゃないはずだ。
焦凍くんが自分の夢の為に今、離れる事を望んでいるなら
私は受け入れよう。そして、いつまでだって待とう。
私は、ヒーローを目指して頑張ってる焦凍くんが、大好きだから。
『次は..嬉し泣きにしてよね』
轟「莉紗.....」
覚悟を決めた私はふぅーっと1つ息を吐いて焦凍くんの腕の中から抜け数歩後ろに下がって焦凍くんを見た。
『分かった。しばらく離れよう、焦凍くん』
待てるよ。
辛くないと言えば、ウソになる。
けど、焦凍くんと会えなかった時の方がよっぽど辛かった。
あの頃とは違う。
『絶対...迎えに来て』
轟「莉紗....ああ」
また、一緒に居られる日々が未来にあることを知っているから。
私は、待てるよ。焦凍くん
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