Season0
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昔ここに居候している時には、焦凍くんの部屋で相部屋にしていたからその名残からかどちらともなく、焦凍くんの部屋にやってきた。
焦凍「莉紗...」
『何?』
部屋に入り引き戸を閉めると名前を呼んできた焦凍くんの声のトーンに違和感を抱きながらも返事を返した。
焦凍「親父にやられた所...見せてくれないか?」
『え...あ、うん。あ、でも肩の近くだからブラウスの袖まくりきれない..』
焦凍「脱げばいいだろ。別に今更気にしない」
『........』
...一応年頃の男女なんだけど、まあいいか。
そう思いながらも焦凍くんに背を向けて、ブレザーを脱ぎブラウスを少しだけずり下ろし脱いだ。
両肩にくっきりと残った5cm程度の火傷のあと。
見せたけど反応を示さない焦凍くんに不思議に思って名前を呼んだ。
『...焦凍くん?もういい?』
呼びかけると私の傷に触れた焦凍くん。
焦凍「痕、くっきり残ってんな」
『あー、まあ別に大丈夫だよ。隠せる所だし他にもたくさん傷あるでしょ?綺麗な肌ってわけじゃないし』
焦凍「さっきの話も..これも、悪かった。知らなくて」
『あ、いや..全然気にしないで。仕方ないよ』
焦凍「俺はてっきりお前が嫌になって自宅に帰ったんだと思ってた。お前も...散々嫌な思いしてたから」
『私は....焦凍くんに嫌われたんだと思ってたよ』
焦凍「..何でだ?」
『学校で焦凍くんに会っても、なんか素っ気なかったし...』
焦凍「.........」
『だから、私なんかしちゃったのかなって思ってた』
焦凍「...悪りぃ。お前に八つ当たり、しそうだった」
『うん、なんかそうなんだろうなって今なら思うから。気にしないで』
焦凍「俺は、ヒーローにはなるが戦いで左の力は使わねぇ。それが俺のあいつへの嫌がらせだ」
『焦凍くん....』
焦凍「お前...あいつと会っても関わらなくていいからな」
『あ..うん』
焦凍「俺はあいつを許せねぇ。お前もあいつの事、許すな。許す必要ねぇ」
『...........』
空気が重苦しくなったその時、冬ちゃんの声が聞こえた。お風呂の湯が沸いたそうだ。
-焦凍side-
さっき3人から聞いた莉紗と親父の話し。
俺のイラついてんのに気づいたらしい莉紗がフォローしようとしていたが、そもそもあいつに対する嫌悪感しかない俺がそんな話を聞いて落ち着いていられるわけがない。
傷を見せてくれ、と頼めばブラウスの袖がまくりきらないから..と遠回しに断られたため「今更気にしない」と言ってやった。
子供の頃は一緒に風呂にも入った仲だ。気にするわけねぇ。
そう思ってたのに、目の前ではだけさせたその肩口がやけに色っぽくてガキの時から一緒にいた奴なのに全く知らない奴みたいだった...
普段はたくましく風を出す奴だ。
なんなら、組手は俺より強かったりする。
それなのに今俺の目の前にあるその肩は恐ろしいほどに華奢で強く抱きしめたら骨もろとも砕けちまうんじゃねぇかと思ってしまうほどだ。
そして、肩にかかる紐を見て今こうして彼女の肩を出させたことに背徳感を覚えた。
『焦凍くん?もういい?』
莉紗の声に、本来の目的を忘れてしまったことに気づいた。自分が今抱いた感情を押し隠すように彼女の傷に触れた。
焦凍「痕、くっきり残ってんな」
『あー、まあ別に大丈夫だよ。隠せる所だし他にもたくさん傷あるでしょ?綺麗な肌ってわけじゃないし』
莉紗の声の感じから本当に、残った傷跡については気にしてないんだということがわかったが、やはりその傷をつけた親父の事を許せねぇっつー俺の気持ちは変わらない。
俺は何も知らなかった事実に謝罪した。だが、莉紗は笑って俺を許した。こいつは昔から優しい奴だ。自分の傷より他人の傷を気にする。言わゆる損するタイプ。
だから、俺は、そんな莉紗に念押しした。
"あいつと関わらなくていい"
"あいつを許すな"
と。
**
莉紗との放課後の特訓は毎日欠かさず行っていた。お互い強制し合うわけでもない。
だからほとんど約束というものはしなかった。
個性の練習がしたくてここに来る。
ここで会うから一緒に特訓をする。
それは俺達の暗黙のルーティーンとなっていた。
そして、今日は個性の特訓の前に組手を始めた。
『よし、1本取った』
焦凍「お前ほんと組手強いな、全然勝てねぇ」
『父親の事務所にめちゃくちゃ武闘強い人いてね、その人のおかげかな』
莉紗ははっきり言って強い。
個性の扱いも上手いが、何より組手が強い。男女の体格差なんてものとも言わせずに俺はまた1本取られた。
莉紗の親父さん達が不在のことが多い為に、莉紗の特訓に毎日グルーガン事務所のヒーロー達が日替わりで来て訓練をつけてもらってるらしくそれが強さの秘密らしい。
タイミングが合った時には俺も一緒に訓練を見てもらったりする事もあって親父じゃないプロヒーローに見てもらえるのは正直有難い。
焦凍「へぇ、俺が会った事ない人か?」
『そうだね、最近プリセプターになったらしくて最近来ないんだその人』
焦凍「小学校の頃から始まったんだったか?ああやって毎日誰か彼か特訓付けに来んの」
『うん』
焦凍「お前も大変だったな」
『まあ親の特訓受けるのは嫌だけど、事務所の人達はみんな良い人だから。特訓つけてもらえるのはありがたいし、なんなら親にはずっと帰ってこないで欲しいんだけど』
莉紗の親達は莉紗の個性の成長にしか興味が無いようでケガをしても様子を見にすら来なかった。蒼兄には見向きもしなかったからそのせいで蒼兄は莉紗を嫌ってる。
風舞家は家族仲がすこぶる悪かった。
莉紗のケガのことを知っても心配する素振りすらなく、まだ幼かった莉紗を平気で家政婦に預けて仕事に行っていたのを覚えてる。
笑った顔なんて見たことあっただろうか。
莉紗とここで会って訓練するようになってから半年が経った。
最初に家に連れてってから、姉さんが連れてこいというものだから最初は週1くらいに家に連れて行ったが、ここ最近は親父がいる日を避け週3~4は連れて行ってる。
今日も姉さんから莉紗を連れてこいと言われ、今日は親父は面倒な依頼が立て込んでるから泊まることになったらしいと姉さんから聞き俺も莉紗もそれなら..といつもと同じように2人で俺の家に向かった。
3人で談笑しながら夕食を食べている時玄関のドアが開く音に肝が冷えた。
炎司「冬美、客か?」
仕事終わりの親父が居間に入ってきた。
冬美「お父さん!?今日は泊まりじゃ..」
炎司「足りなくなった荷物を取りに来ただけだ」
姉さんとやり取りしたあと親父はふと莉紗を見た。
炎司「何だ、誰かと思ったらお前か」
『.....どうも』
莉紗は気まずそいのか視線をずらしキョロキョロと泳がせた。
炎司「グルーガンから聞いてるぞ。ウィンドリアの個性の扱いもかなり上達してるとな」
『....付き合い、まだあるんですね』
子供の頃は敬語なんて使ってなかった気がするが、しばらく会ってなかったし関係性でいえば関係はすこぶる悪かったのもあるのか敬語で話す莉紗。
炎司「お互い大手のヒーロー事務所だからな。仕事柄連絡することくらいある」
『..............』
焦凍「莉紗、行くぞ」
クソ親父の顔を見てるだけでもムカついて仕方ないが、莉紗の様子も気になった俺は莉紗の手を引いて自室に戻っていった。
焦凍「悪い」
『いや、焦凍くんのせいじゃないから。気にしないで』
焦凍「クソ、気分悪りぃ」
『意外と、穏便で安心したよ』
焦凍「穏便?」
『いや、顔合わせるたびにもっとバチバチドロドロしてんのかと』
焦凍「ああ、今はお前がいたからあいつの意識がお前に向いただけだ」
『あ、なるほど...』
焦凍「少ししたらいなくなると思う」
『あ、でも今日は帰るかな。私もそろそろ長袖必要かなーって』
週3~4で遊びにきてそのうちの半分は姉さんに泊まっていけと言われてそうしていたから俺の部屋に荷物を置いていけと言ったら素直に置いてった莉紗。今じゃ莉紗との 相部屋みたいになってる。
律儀なこいつは最初は持って帰っていってたが、姉さんがうちで洗濯するから置いていけと言ってからは甘えることにしたらしい。
だが、こいつの性格上世話になりっぱなしは気になるのか最近は家事を手伝うようになった。
姉さんも最初は断っていたが、今では一緒に食事を作るのが楽しいからと自ら手伝ってくれと誘う始末。
姉さんが居ない時も莉紗が飯を作ってくれたり掃除をしてくれて助かってる。
焦凍「送る」
『いや、いいって..そんな大した距離じゃないし』
俺の家から莉紗の家は徒歩で5分くらいの距離にある。
中々うんと言わない莉紗に根負けして結局玄関で見送ることにした。
炎司「焦凍」
焦凍「..........」
莉紗を見送って部屋で本を読んでいたところにクソ親父が部屋に入ってきたから睨んでやったが俺の睨みなんか気にならないらしい。
炎司「莉紗の存在はお前には不要だと思い、切り離したが....そうではなかったようだな」
焦凍「あ?」
炎司「必要だったようだ」
焦凍「何言ってやがる」
何なんだこいつ。突然部屋にやってきやがってワケわかんねぇこと...。
正直顔も見たくないのにわざわざ部屋まで押しかけられ気分は最悪だ。
そう思ってる俺の心情なんてあいつにとっちゃ知ったこっちゃねぇんだろ。
開いた口を閉ざすことなく喋り続けた。
炎司「グルーガンが、莉紗は個性のコントロールが同年代に比べると飛び抜けていると言っていた」
焦凍「だから何だ」
炎司「あいつの存在はお前には不要だと思い、切り離したがそうではなさそうだ」
焦凍「だから何のはな「お前がプロになった暁には必要になってくる。手放すなよ」
言いたい事言い終わったのか親父は部屋を出ていった。
どういう意味だ。突然押しかけ、意味の分からねぇことをぬかして勝手に満足して仕事に向かった。
必要になってくる?
手放すな?
親らしく、子供の身を案じて言ってるわけではないのは分かるがその言葉の真意が全く理解できなかった。
しかもプロになった後に?
俺がプロヒーローになった後...
奴はろくなことを考えねぇし、まともなことも言わねぇ。
その言葉の意味はあいつを傷つける要因にならねぇか?
奴が考えそうなことはなんだ..?
奴はオールマイトを超える..俺に超えさせることしか考えてねぇ。
なら、俺がそれを果たせなかったら...?
奴はどうするんだ...
そして、1つの結論に至った時、思わず息を飲んだ。
焦凍「...個性婚」
奴がオールマイトを超えるために自ら行った愚策。
俺がオールマイトを超えられなかった時の保険に、今度は俺に個性婚をさせようと考えている...?
その相手に莉紗を?
考えたくもねぇが、あいつなら考えそうなことだ。
頭の中はオールマイトを超えることしかねぇ。
あいつの頭の中には既にそのプランが組み込まれている...
俺と莉紗に再び接点が出来た今、奴自身が将来の保険プランの為莉紗に接触しにいく可能性も大いにありえる。
ふざけんな..。
莉紗もあの男には散々傷つけられた。
これ以上、あの男と関わらせたくねぇ。
そう思った俺は1つの決意をした。
**
翌日、いつものように放課後2人の特訓場にやってきた。
莉紗は先について特訓を始めていた。
『あ、焦凍くん。ごめん、ちょっと壁に氷結欲しい「莉紗...」
俺が気付いた莉紗が何かを言ったが俺は莉紗の言葉を遮った。
『なに?』
焦凍「俺はもう明日からここには来ねぇ」
『え..?』
焦凍「だから、お前と会うのもこれが最後だ」
『な、何?急に...』
焦凍「悪いな、俺にも野望ってもんがある。これ以上ぬるま湯に浸かってられねぇ」
莉紗は突然の俺の言葉に、動揺しているようでその瞳は揺れていた。
本意ではない別れ...。
どちらかというと勝ち気な性格の莉紗があまり見せてこなかった悲しみを帯びた表情を浮かべた。
その顔を見ていられず返答が返ってくる前に、と俺は踵を返し足早に家に帰っていった。
**
莉紗side
焦凍くんの背中はもう見えない。
何を言われたか分からなかった...。
突然、もうここには来ないと。
ぬるま湯に浸かってられない、と。
私との訓練はぬるま湯?
焦凍くんにとって、実のない時間つぶし?
あー、確かにはじめてここに来た時にも言ってたね。
"奴との接触時間を減らすための時間つぶし"...と。
そして、私はこれで確信した..。
幼いあの日、おじさまが言ってた言葉もウソじゃなかったんだ..と。
「焦凍は会いたくないと言っている」
どこか信じてなかった。
おじさまが、私達を引き離したくて言ってるだけだと信じてた。
こうしてまた一緒に特訓出来たり、一緒にご飯を食べたりできて、浮かれてしまっていた。
けど、もうこんなのあの言葉は真実だと言われたようなもんだよね。
もう焦凍くんの姿は見当たらない...。
この日から私は、ヒーローを目指すのをやめた。
そして、この場所に来ることも二度となかった。
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