Season0
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事件から数年が経ち、グルーガン達は懸念していた。
しかしその懸念は、2人の子供たちの生活でも子供たちのメンタルでもない。多忙を極め自分達が莉紗の特訓につくことが出来なかった為に娘の能力アップや個性のコントロールの訓練が進んでいない事が何よりの懸念であった。それを何とかすべく自身のサイドキック達を業務の一環とし莉紗の個性訓練に派遣するようになったのは莉紗が轟家の家から離れるようになった小学校3年生の時の事。
「初めまして莉紗ちゃん。君のご両親の事務所でサイドキックしてるフーディン。君の特訓をしてあげて欲しいとここに派遣されたんだ」
『...特訓って言うか半分子守りですよね』
「ハハ、まあご両親も君の事を気にかけている証拠だよ」
『(気にかけてるのは私の個性の成長具合だけだろうけど)』
両親が特訓をつけれない時には毎日その日の事務所のシフトに合わせて空いてるサイドキックがやってくる。
グルーガン事務所には稀有な治癒系個性のヒーローもいて医学についてや、応急処置、救命措置の方法なども教えてもらった。小学校を卒業する頃には、同年代の中では申し分ないほどに強く成長した莉紗。
フーディンは格闘系ヒーローで、近接戦を得意としていて莉紗が近接戦闘が得意なのはこのフーディンのおかげだった。
フーディン「腰を落としてなるべく重心を下に。これだけで体格差や単純な腕力の差はかなり埋まる」
『ホントだ、投げやすい』
フーディン「増強系や巨大化個性を除いて生身での戦闘だと男女の差はどうしても出てしまうけど、これをしっかり意識する事で大きく変わるよ」
『後は単純な筋力アップすれば男女の差大分埋まりますね』
フーディン「埋めたいんだね」
『男子の"女のくせに"って言葉が1番キライなんで』
表情を変えることもなく言う莉紗の言葉にフーディンが苦笑いをした。
フーディン「莉紗ちゃんって淡白に見えて案外負けず嫌いだよね」
『負けず嫌いっていうか、ムカつくだけです』
フーディン「いや、ヒーローをやっていく中でそういう気持ちは適度に必要だと思うよ。強くなる事への貪欲さもね。君からヒーローになりたいって言葉を聞いた事ないけど本心はどうなんだい?」
『昔は思ったこともありましたけど、今はよくわかりません』
莉紗のその言葉がフーディンは意外だったのか一瞬目を見開くと顎に手を当て何かを考えこんだ。
フーディン「そうかー。でも君、結構本気でヒーロー目指してるように思ってたんだけど」
『何でですか?』
フーディン「だって、莉紗ちゃん。いつも強くなることに必死だからさ。強くなりたい理由があるんだろうなって」
"強くなりたい理由"
フーディンのその言葉に莉紗の脳裏には幼い頃離れ離れになった幼馴染の顔が思い浮かんだ。
『....フーディンは何でヒーローになろうと思ったんですか?』
フーディン「俺?俺なんて動機不純だよ。ヒーローって普通にカッコいいじゃん?だからシンプルにカッコよくなりたかったんだ」
『不純っていうか...ホントに理由がシンプルですね』
フーディン「そうでしょ?まあ、理由が理由だから挫折しそうなことも多かったけどさ。お父さんにビシバシしごかれたよ」
ハハハと笑って話すフーディン。
ヒーローになった事への後悔などは微塵も感じず、そしてヒーローという仕事に誇りを持っている。莉紗の目にはそんな風に映った。
8つ年上の兄は高校卒業と共に家を出て一人暮らしをしている。反対に8つ年下の妹はまだ3歳で、最近ようやく会話が出来る様になった年齢。
轟家との関わりもなくなってからは、学校でも特別仲の良い友人もいない莉紗は、親の事務所から派遣されてくるサイドキック達との会話が唯一まともに会話できる時間だった。
そして莉紗が中学に上がって間もなく。
『...焦凍くん』
轟「莉紗....」
轟家から離れ、別の学校に通うようになり疎遠となっていた幼馴染と放課後偶然再会したのをきっかけに毎日学校が終わった後に2人で個性の特訓をするようになった莉紗。
その内、お互いの個性をよく理解するようになったし時折派遣に来たグルーガン事務所のサイドキックに相手をしてもらい実践形式で特訓をつけてもらっていたこともあり元々筋の良い2人の実力はメキメキと伸びていった。
サイドキック「2人スゴイ息合ってるね」
『そうですか?』
実践形式で相手してもらう事で、互いの考えなどを汲み取る訓練にもなる。その内2人の連携は中々の仕上がりになっていた。
轟「タイミング気をつけねぇと俺の氷結がお前の攻撃の妨げになっちまうな」
『なら基本は私が焦凍くんの動きに合わせれば良いんじゃないかな?先制制圧は氷結の方が適任だし』
轟「ああ、そうだな」
『焦凍くんは、今でもヒーロー目指してるの?』
焦凍と再会した頃は、母ウィンドリアが産休を取り常に家に居た為莉紗はなるべく家に居る時間を減らしていた。
焦凍と再会し、訓練後に轟家でご飯をご馳走になったり泊まらせて貰う事も多くなっていた事は純粋に莉紗にとって救いだった。そんな中、食事も風呂も終わり焦凍の部屋で今日の訓練について振り返っていた最中に莉紗がふと聞いた。
轟「ああ、莉紗は?」
『焦凍くんがヒーローになるなら私もなるよ。だって私、焦凍くんのサイドキックになるんだから』
轟「...自分で事務所持たねぇのか?」
初めて聞いた莉紗の野望に目を丸くした轟。
『私個人としてはさしてヒーロー活動に興味ないからね。私は焦凍くんを支えるためにヒーローになるって決めたんだよ』
轟「莉紗....」
『だから、焦凍くんが自分のヒーロー事務所立てる時には私の事雇ってね』
轟「ああ、当たり前だろ」
離れていた分の時間を埋めるようにたくさんの事を話し、共に訓練に励み、夢を語り合った2人。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。
轟「俺はもう明日からここには来ねぇ」
『え..?』
突然放たれた言葉に莉紗の身体はまるで凍らされたように動かなくなった。
轟「だから、お前と会うのもこれが最後だ」
『な..んで、急に...』
轟「悪いな、俺にも野望ってもんがある。これ以上ぬるま湯に浸かってられねぇ」
何の前触れもなく唐突に突き放された莉紗。
フーディン「莉紗ちゃん、久しぶりだったね。最近忙しくなって来れなかったけどどう?」
『フーディン...』
フーディン「ん?」
『私、もう特訓いりません』
フーディン「え?」
『ヒーローにはならないんで』
元々表情のバリエーションが多い子ではなかったが、そう語る彼女の表情は今までで見た中でもっとも感情のないものに見えた。
フーディン「何か...あった?」
『元々親が私をヒーローにするために特訓つけさせてるんです。自分の気持ちと向き合ってみて私自身何の目標もないし、ヒーローになる気もないのに特訓に精を出せなくなりました』
フーディン「そっか...。グルーガンさん達からの命がなくても莉紗ちゃんがまた強くなりたいと思ったなら特訓してあげるから。連絡しといで」
フーディンは自分の連絡先を教えてそれ以上何も言わなかった。この日は、特訓はつけず事務所に戻ると最近体調が悪そうだったからしばらく休ませましょうと、提案したフーディン。グルーガンは自身の最も信頼する右腕の申し出だった為渋々了承した。
それから間もなくのこと。ウィンドリアが出産。莉紗に弟が出来た。
産後休暇を終えると、育児休暇は取らずベビーシッターを雇い早々に仕事復帰をした。
しかし、他人のベビーシッターに四六時中世話をされる弟や妹が可哀想に思えた莉紗は弟が保育園に入れるようになるまではベビーシッターに頼り、保育園に入園してからは学校が終わるとすぐに兄弟達を迎えに行き家事と兄弟の世話をこなす生活を送るようになった。
そして中学2年の夏....。
弟の夜泣きが落ち着き、夜間よく寝るようになった為自分の生活にも余裕が出来、気分転換に何か始めたいと思うようになった莉紗。しかし、自分が選手として部活に入部するほど時間に余裕は無いためサークルや同好会程度で考えていたが....。
『マネージャー?』
不二「最近マネージャーが1人辞めちゃってね。手が足りてないんだ。中体連が終わるまででも良いんだけどどうかな?」
同じクラスで隣の席の不二にマネージャーをお願いされた。
何でも中学テニス界で強豪とされる凝山南中学の男子テニス部は活動もアグレッシブかつ部員数も多いためにマネージャー業もかなりハードなものだったため中々マネージャーが入部しても長く在籍する人が少なかった。
『でも兄弟がまだ小さくて、やっても保育園のお迎えが間に合うまでだから19時前には学校出ないと行けないよ?』
不二「十分だよ」
『....顧問とか部長が19時前の上がりでオッケーなら』
結果的に、プライベート優先、日曜日の部活動には参加出来ない上兄弟が熱を出せばすぐにお迎えに行かなければならない事も了承を得てマネージャーとして入部した莉紗。むしろそんな家庭状況でもやってくれることに感謝された。
元々家事をこなしていた莉紗は競技的な事以外の雑務はすぐにマネージャーとして戦力になった。
特に、試合の時の差し入れは部員達から相当に評判が良かった。
マネージャー業務は大変ではあったがやりがいもあり、また個性の特訓漬けか家に篭りっぱなしの日々だった莉紗にとっては刺激的な日常を送ることができた為、中体連が終わった後もマネージャー業を継続した。
そして中3に上がる頃...。
不二「風舞は進路、考えてるのかい?」
『全く、私頭悪いしそもそも高校とか入れるかどうか』
菊丸「え?!莉紗っちヒーロー科行くんじゃにゃいの?!」
桃城「俺もそう思ってましたよ!莉紗さん、個性強いのに勿体無いっすよー!」
『汎用性あるだけでそんな強個性じゃないよ』
河村「でも、確かに個性複数持ちだしヒーロー目指してもおかしくないよ」
『..........』
大石「こら、お前達!そんなに押し付けがましく言うもんじゃないぞ」
過去にヒーローを目指したことがあっただけに周囲からヒーロー向きだと言われる事に悪い気はしなかった。
しかし、莉紗自身がヒーローを目指すきっかけとなった事、その人物とは既に疎遠となっている。
自分がヒーローを志す上で、何を目標として何を見据えてヒーローを目指せば良いのか莉紗は分からなかった。そんな中...。
いつものように弟を保育園に迎えに行って妹の小学校で待ち合わせをして家に帰る帰り道。
『今日給食何だった?』
梨央「スパゲティー!」
『そっか、じゃあ和食の方がいい?』
梨央「んー、でもオムライス食べたいなぁ」
『オムライス?うん、良いよ...ん?』
今日の晩御飯について話をしながら帰っていると行き慣れた家の門の中に見間違えるはずもない見慣れた後ろ姿が見えた。
『(焦凍くん....)』
昔、幾度となく共に鍛錬した道場で1人黙々と個性の特訓をしている轟焦凍の姿に莉紗は何とも言えない気持ちになった。
『(焦凍くんは、きっと今でもヒーローを目指してるんだ...)』
梨央「お姉ちゃん?」
『! あ、ごめん』
それ以来、莉紗の頭の中は特訓に励む轟の姿でいっぱいになった。
ヒーローへの夢を語り合っていたこと。
自分がヒーローを目指した理由...。
気付けばいつの間にか莉紗自身にもヒーロー科に進みたい気持ちが蘇りかけていた。そんな中行われた進路指導。
「風舞、お前進学どうする?正直お前の最近の筆記の成績だと一般高校でも難しいけどな」
『......決まって無いです』
「そうか...進学を希望ならヒーロー科目指すか?」
出るはずもないと思っていたその言葉が担任の口から飛び出し莉紗は思わず担任を見た。
『...ヒーロー科の学力偏差値高いのに?』
「確かにな。ただ、お前の個性やその成績は埋もれさせるには勿体ない。お前だってヒーロー科に全く興味がないわけじゃないだろ」
『ゼロと言えば、ウソになりますけど..』
「で、ここで提案だ。お前は中1の頃は成績良かったな。急に落とした要因の1つに家庭環境もあっただろ。現に、弟さんが熱だしたらお前が迎えに行くため早退していたくらいだ」
『まあ、勉強する暇はなくなりましたね。今更する気も起きなくて時間出来てからもやってないですけど』
「お前の一番の懸念は筆記試験だが、一般だと5強化受けなきゃならないところ推薦だと3強化と少なくなる分、筆記の合格率は上がるだろうからその個性を武器に推薦を狙いたい所だが」
『うちの学校からもう雄英の推薦出てますよね?』
「そうだな。さすがに同じクラスだと情報が早いな」
『あいつめっちゃ周りに言いふらしてましたけど』
「まだ黙ってろって言ったんだが...。まあ、なんだ。そういうわけで推薦枠は難しいわけだが、成績落とした事情もあるし嘆願推薦ってのを学校から出してみようと思う」
『嘆願推薦?』
「通常の推薦は先方から出されるものだが、それとは反対にこの生徒に推薦をくれませんか?と当校から先方にお願いするものだ」
『へぇ』
「んでだ、推薦って言うとハードルは高く感じるが、筆記試験のレベルで言えば一般の内容とさほど変わりはない。ヒーロー科推薦において最も大切なのは個性の授業における成績。すなわち、ヒーローを志すべく将来性がいかほどか...というところだ」
『将来性...』
「その点においては、お前なら実技試験で緊張したり体調不良で全く動けなかったとかがない限り99%心配ない」
轟との一件でヒーローを目指す事をやめてしまったが、最近特訓に勤しむ轟を見てヒーロー科に進みたい気持ちが再燃しかけていた莉紗にとっては心揺さぶられる話しだった。
『話しは分かりましたけど。でも学力の成績悪いのに推薦なんて貰えるんですか?』
「そこは先生の腕の見せどころだ。先方がお前を取りたいと思えるように交渉する。どうだ、ヒーロー科」
『........頑張って、みたいです』
莉紗は雄英進学を目指す事を決めた。
『皆、勉強教えてくれない?』
親が早く帰ってくる日は最後まで部活に参加する事が出来る莉紗。久しぶりに終わりまで部活に参加し、レギュラーメンバー達と次の試合の話しをしながら帰ってる最中突然言い出した莉紗。
不二「僕らでよかったら。受験、どこにするんだい?」
『...雄英』
「「「えぇっ?!」」」
菊丸「ヒーロー科の最高峰だにゃん?!」
桃城「莉紗さん、結局ヒーロー科進むんすか!」
『筆記さえ何とかすれば実技はよっぽどのヘマしなきゃ落ちることないからって言われて。嘆願申請したら直近のセンター試験で30位以内に入ったらうちの推薦枠増枠するってなって。受けるだけ受けてみようかと..』
菊丸「何だよ~そのコメント。超優等生じゃん!」
不二「実際個性の授業に関しては優等生だけどね」
菊丸「俺なんか自分の個性の事あんまりよくわかってないよん」
越前「菊丸先輩、そんな胸張って言うことっすか?」
乾「人口の8割が何らかの超常能力を持っている現代において、超常能力はクセにも近い程人間にとって無意識下の中に存在するような個性もあれば風舞のように持ち主を形取るほど派手な個性もあるが、個性の使用を法律化し、制限を設けた現代においてヒーローを志す者でなければ個性をあまり深く考えず、ホクロのように何となく自分にあるものと意識しない者も多い....」
越前「前置きはいいっす、乾先輩」
海堂「一応ここにいる全員大小なりとも個性持ちっすよ...」
学力レベルが比較的高いメンバーたち。同じクラスの不二には特に休み時間なども欠かさず勉強を教えてもらい、直近のセンター試験で30位以内に入ることが出来、無事推薦枠を得る事が出来た。そして、推薦入試も何とか無事に終え...。
自宅に届いていた一通の白い封筒。
その送り主は雄英高校となっていた。
『合否来たっぽい』
「「「「え?!」」」」
桃城「そういうの普通家でドキドキしながら開けません?!」
『どうせ部屋で1人で見るから同じでしょ』
河村「でも、なんか普通の手紙みたいだね」
『うん、とりあえず開ける』
皆の視線を集める中、静かに封筒を開けると中には丸い形の500玉くらいの大きさのチップのようなものが入っていた。
『何これ?』
と、みんなでキョトンとしてブツを見ていると突如光だし、まるでプロジェクターのようにオールマイトが投影された。
「「「オールマイト!!!」」」
[私が投影されたー!!実は、私はこの春から雄英に務めることになった!君の合否を発表する、それが今日の私の役目。
まず、今回の推薦入試実技試験の採点ポイントを説明しよう。今回の実技試験はマラソンレース。もちろんレースの順位と実技試験の通過順位はイコールではない。それだと加速系の個性持ちが圧倒的に有利になり公平性に欠くからね。
1位なら100点、2位なら95点と...レースの順位によって基礎ポイントが振り分けられ、その基礎ポイントに対して個性の使い方や判断力、応用力などの立ち回り方を評価ポイントとして最大100点を加点し、最後にNG行為やヒーローとして望ましくなかったりその場にふさわしくない立ち回り方などを減点し最終的な点数としている。
今回、風舞少女のレースの順位は3位だったから基礎ポイントは90点。そして、評価ポイントは90点!これは今推薦受験者の中で最高点を叩き出したぞ!これはどういう事か..そう、君の個性の扱い方や立ち振る舞いをヒーロー候補生として高く評価してもらえたという事だ!
なーのーで!最終的に風舞少女、君は2位と大きく差をつけて実技試験圧巻の1位通過だ!
だが、少しレースの途中で集中を切らしてる瞬間を見受けられ減点5点がついてしまっていたようだ。戦闘中なら命取りになることもあるから気を付けような]
『.............』
[あ、ちなみに筆記試験はかなりギリギリの合格だったから総合成績で言うと真ん中くらいだったぞ。入学したら、勉学にもしっかり励もうな!]
『つまり....?』
菊丸「すっごいにゃー!!合格ー!!」
桃城「ヒーローの知り合い出来るとかテンション上がるっすね!」
『気が早い...』
こうして雄英への入学が決まった。
紆余曲折はあったものの、ヒーローを目指すためのスタートラインに無事に立った莉紗だった。
End