Season3
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「ぼく、大きくなったらひーろーになる!それで莉紗ちゃんを守る!」
『わたしも一緒にひーろーになりたい!』
2人で話した夢。幸せだった時間。
「ゴホッゴホッ...」
『やめて!おじまさま!』
「邪魔をするな!」
恐怖と絶望に泣くことしか出来ず無力だった幼い自分。
「俺たちの顔に泥を塗るような真似はやめろ」
「そんな程度のケガすぐ治るわ」
冷たく私を見下ろすその視線。
次々と蘇る記憶。
楽しかった記憶を塗り替えるように辛く苦しい記憶が脳の中を支配する。
皆が笑顔で食卓を囲む光景を思い出せない。
大好きな貴方の夢を語る笑顔を思い出せない。
報道陣が、カメラを回しオールマイト達が戦っていた現場を中継している。そのカメラが向けられていたオールマイトがカメラに向かって指をさした。
オールマイト「次は...次は、君だ」
その言葉は、オールマイトがまだ見ぬ犯罪者への警鐘として言ったものと思われた。弱っても平和の象徴であり続けようとするオールマイトの不屈の意志と想いであると誰もが思った。
その言葉に涙を流してオールマイトをたたえている街中の人々。
しかし、緑谷だけは違った。
街の人たちと同じように、涙を流してオールマイトを見ているもののその涙は街の人とは違い、心の底から悲しんでいるものようにも見える。
爆豪「............」
**
轟「...行こう。風舞を警察に保護してもらわなきゃならねぇ」
八百万「ええ」
『.........』
俺達の会話が聞こえていないのか、莉紗はテレビ画面をじっと見つめたまま反応を示さなかった。
轟「風舞!」
『!..あ、ごめん。何?』
轟「お前、大丈夫か?」
『あ、うん。大丈夫。やっぱオールマイトすごいな―って見入っちゃってただけ』
八百万「そうですわね、さすがNo.1ヒーローとして君臨し続けてきた方ですわ」
『ね』
轟「............」
八百万は気づいていないようだが、俺には分かる。
明らかに強がっている。明らかに様子が違う...。
だが今は莉紗を警察に送り届けなきゃならねぇ。
ずっと握っていた手を離し、莉紗の手首を掴むと半ば強引に引っ張り歩き出した。
轟「ほら、急ぐぞ」
『あ、ちょっ』
その後、無事緑谷たちと合流し爆豪と莉紗を警察に送り届けた。莉紗の様子はどんどんと顕著に変わっていった。その表情は暗く警察署に着くころには明らかに沈んだ様子だった。
だが、様子がおかしいのは爆豪もだった。
轟「風舞」
『?』
警察に誘導され署の中に入ろうとしていく莉紗を呼び止めた。
轟「終わったら、連絡しろ。姉さんに頼んで迎えに来る」
莉紗が合宿所に置いて行ってた携帯を手渡すと驚いたような迷ったような表情を浮かべた莉紗。
『え...』
轟「この状況じゃ、おばさんたちも来れねぇだろ。かと言って、未成年の俺1人じゃお前の事引き取れねぇし」
『..........』
轟「絶対だぞ」
『..ん、わかった。ありがと』
沈んだ様子は変わらないものの俺の言葉に少しだけ笑った莉紗。そして、今度こそ2人は警察署の中に入っていった。
2人を見届け、俺達も帰る流れになった。
俺はどこかで時間潰しながら莉紗が出てくるのを待つつもりで辺りをぶらついていたが、程なくして莉紗からLINEが来た為、確認すると警察からメンタル面を考慮した可能な範囲での事情聴取と今後の安全対策等の検討もあるため今日は2人とも署に宿泊してもらうことになると言われたらしく仕方なく俺も一度帰ることにした。
**
in轟家
冬美「おかえり!もうなんかすごい事起きてるわ、焦凍。母さんのお見舞いから連絡返してくれないから心配したよ..」
玄関に入ると姉さんが慌てて顔を出した。寛太と梨央が来ているようで家の中から寛太の騒ぐ声が聞こえてきた。
轟「悪りぃ、姉さん。寛太たち来てたんだな」
冬美「うん、おばさまたちが緊急出動になって預かってほしいって。
莉紗ちゃんも無事でよかったよ...ホント心臓止まるかと思っちゃった...」
男兄弟の中に蒼兄。とことん周りは男ばっかりだったからか莉紗の事は妹みたいに...いや、多分姉さんは血が繋がってないだけでホントの妹のように思ってると思う。
轟「姉さん..頼みが」
莉紗の引き取りについて、姉さんに頼もうとしたその時..。
ドォォォンっ!!
家の奥からものすごくデケェ破壊音が聞こえた。
冬美「ちょっと前に帰ってきてね、ずっとああなの...」
轟「.........(オールマイトがホントにもう前線に立てなくなったのなら、No1の地位は..)」
音の発生源である訓練場に来てわずかに開いたドアの隙間から中を覗くと中は所々燃え、至る所が壊され道場の中にあったトレーニング器具などもめちゃくちゃに壊されていた。
炎司「こんな形で...認めんぞ!認めてたまるか!認めるわけにはいかんのだ!!」
轟「..........」
リビングに戻ると寛太と梨央が駆け寄ってきた。
寛太「あ、しょーとくん!」
梨央「焦凍お兄ちゃん...お姉ちゃんは?」
轟「大丈夫だ、今日は警察の所で泊まりだが明日には帰ってくる」
梨央「良かった...お姉ちゃんに、なんか..ヒック、あったらって思って、ヒック...心配だったよぉ...」
少なくとも俺が合宿先から帰ってからは泣いたところを見ていなかったがずっと我慢していたらしく、蓋が取れたように大泣きしだした梨央。
轟「...我慢してたのか。偉いな」
泣きじゃくる梨央の隣に座って頭を撫でてやると梨央は俺にしがみついてきてしばらく泣き続けた。
冬美「焦凍!今おばさま達が来て、焦凍に用事があるって...」
轟「...俺に?」
**
事件から翌日。
事情聴取を終えた私達は今後の安全策は学校とも連携して考える為なるべく外出は控えるように言われた。引き取り人の迎えを待つように言われ、それまで少し休んでいてほしいと別室に通され食事を出された。私は食事をとる前に...と、通話スペースに来て焦凍くんに電話をかけた。
[もしもし]
『あ、焦凍くん..もう帰ってもいいって』
[分かった。遠いし、夕方くらいになっちまうけど待ってろ]
『うん、冬ちゃんにも手間かけさせてごめんね』
[........]
『...焦凍くん?』
[あ、いや..気にすんな。姉さんにとってもお前は妹みたいなもんだから]
『..うん』
[じゃあ、後でな]
『うん、待ってる』
電話を終え、通された部屋に戻ってきた莉紗。
『(なんか、焦凍くん。最後様子変だったな...)』
考え事をしながら食事の前に座ると爆豪に呼ばれた。
爆豪「半分野郎に電話かよ」
『あー、うん。
(そういや、あの会話皆聞いてたんだよなあ..まあもう幼馴染ってことは知られてるんだし、別に良いか)』
ちょっとした懸念も自己完結し、莉紗はそういえば爆豪に言いたい事があったんだと思い出した。
『爆豪...』
爆豪「あ?」
『ありがとね』
爆豪「..何が」
『あんたの憎まれ口なかったら..諦めてたかもしれないから』
爆豪「........」
『1人じゃなくて...あんたが一緒に攫われてくれて、良かったよ。って言い方もなんか変なんだけどさ』
爆豪「ケッ。言ったろ、テメェの為じゃねぇよ」
『ん、そうだったね』
爆豪「いいからさっさと食えや」
『うん』
**
そして、その後しばらくして爆豪の両親が爆豪を引き取りに来た。
爆豪母は爆豪に似て多分血気盛んな人で会うなり心配の言葉と怒号が一緒に飛び交った。
その後、うちの勝己が一緒で迷惑かけなかったかとめちゃくちゃ心配されたけど、むしろ背中を押してもらって助けてもらった事を伝えると先ほどまでの血気盛んさを感じさせないほど穏やかな表情で一言"そう"と微笑んだ。これが、子を想う母の顔なんだろうと莉紗は確信した。両親に連れられ自宅に帰っていく爆豪を見届けてからほどなくして、警察の人が莉紗の迎えも来た事を教えてくれ、案内してくれた。玄関ロビーに下りると長椅子に座っている轟がいた。
『焦凍くん』
轟「莉紗、大丈夫か?」
『うん、冬ちゃんは?』
轟「あー...悪いな」
『ん?』
轟に外に出てくれと言わた為署の外に出ると莉紗は目を疑った。
『な....?!』
No.2ヒーローのエンデヴァーとNo.5ヒーローのウィンドリア、そして育成の匠グルーガンがそろい踏みして警察と話しをしていた。
『焦凍くん、何であの人たちがいるの?』
最初こそ驚きこそしていたがすぐに落ち着きを取り戻した莉紗。もっと怒りに満ちるかと思っていたが、思ったよりも淡々と聞いてきた莉紗。しかし、それが逆に心配になった轟。
轟「うちに来て、親としてお前を引き取りに行きたいって言われた」
轟「どうしたんですか」
楓子「焦ちゃん、冬美ちゃん...今日までごめんなさいね。私達は、親としてあるまじきだった」
轟・冬「「え?」」
寛治「ろくに子供たちの世話もせずに使用人や他人(ヒト)ん家に預けっぱなし。それなのに娘に自分達の理想通りの人生を歩ませることしか考えていなかった」
楓子「今まで親として何もして来なかったから..今日は、あの子をちゃんと親として迎えに行きたいの」
思わぬ申し出に言葉に詰まった轟。
楓子「あの子には、迎えに行くってメールは入れたけど返信なくて。そりゃそうよね...。
でも、私達だけで行ってもあの子戻ってきてくれないような気がして...だから、焦ちゃん。私達と一緒に行ってくれないかしら...」
轟「おじさん、おばさん...」
轟は目の前にいる2人は、明らかに今まで自分が見てきた2人とは違うと感じた。
今までは...そう。自分の父親と同じように冷たい視線で見下ろし、怪我をしようが泣こうが我が子を心配することもせず、ただ自分達の理想や圧力で莉紗を押しつぶしてきた..情のない人達だと思っていた。
けど、今目の前にいる人達は逸る気持ちをどうにか抑え、本気で娘を心配しているように見えた。
轟「分かりました、あいつから連絡来たら教えます」
楓子「ありがとう...」
寛治「ありがとう..焦凍」
炎司「俺も、行こう」
荒ぶった気持ちが落ち着いたのか、突如現れ突拍子もなく言ってきた轟炎司。
轟「..何でだ」
炎司「........」
それに対して、返答はなかったがその目は絶対に一緒に行くという意思が込められているように感じた。
寛治「炎司、すまなかったな」
炎司「いや...俺も、すまなかった。お前たちの娘に、傷を負わせたこと」
轟「!!」
親父は莉紗をうちから離させる為、牽制の為に自身の炎であいつの肩に火傷を負わせた。
それだけじゃねぇ。親父は俺を庇おうとする莉紗を何度も殴ってきた。おじさん達も知らないわけないだろうにそれを咎めることもして来なかった。
楓子「炎司くん...」
寛治「俺達にお前を咎める資格はないんだ...」
冬美「あ、じゃあ梨央ちゃん達もいるし莉紗ちゃんから連絡来るまでどうぞ、上がってください!」
重い空気に姉さんが終止符を打ってくれて空気が変わった。姉さんのこういう所には本当に救われる。
寛治「ああ...じゃあお言葉に甘えるよ」
楓子「ありがとう、冬美ちゃん」
冬美「いえっ!」
轟「ってことがあって。おじさん達だけで来てもお前出てこないだろうから俺も一緒に」
『...そっか。ごめんね、焦凍くん。うちの事情に振り回して』
轟「気にすんな、お前もうちに振り回されてきてんだからお互い様だろ」
そう言って轟は莉紗の頭にポンと手を乗せた。
轟「おじさん達も、変わろうとしてる。
今すぐじゃなくてもいいからお前も向き合ってみたらどうだ」
『........』
轟のその言葉は、説得力があった。
何故なら轟本人も父親との確執と戦い続けているからだ。
他の人に言われれば、"簡単に言うな"とシャットアウトしまいそうなものだが、言ったのが轟だからこそ莉紗は受け止め、真剣に考えることができた。
楓子「あ、莉紗!」
警察と話していたウィンドリアこと風舞楓子が莉紗に気づき駆け寄り、それに続いて父 風舞寛治と轟炎司も駆け寄ってきた。
楓子「莉紗...大丈夫?」
寛治「大丈夫か?」
『....No.2とNo.5ヒーローが揃ってお迎えなんて、そんなに今の世の中暇じゃないと思うんだけど..』
楓子「莉紗....」
『メディア意識で突然親らしいことしようとしてんならムダだよ。今更何にも響かない』
楓子「違うよ、莉紗...」
炎司「莉紗、俺も間違いばかりの父親だった。だから分かる。2人共本気で変わろうとしてる...だから」
『なら分かるでしょ?!一度出来た溝は簡単に戻らないって!失った信用は簡単には取り戻せないって!!』
突如声を上げエンデヴァーに辛辣な言葉を言い放つ莉紗。
炎司「........」
轟「莉紗....」
『分かるでしょ。私は親としてのこの人達を信用してない。全てが使用人任せ。梨央たちが産まれてから自分達は変わった気でいるんだろうけど、結局自分達の仕事優先で私任せにしてる。私達が傷つこうが事件に巻き込まれようが見向きもしてこなかった。焦凍くんや冬ちゃんが協力してくれてるの知ったら、2人にまで頼り切ってる。
私や蒼兄の時と変わったのは子供への当たりが和らいだだけ。
結局放置してるのには変わらない!
蒼兄も愛想尽かせてさっさと家出て行ったし。物分かりのいい梨央だけじゃなくて、イヤイヤ期の寛太でさえあんた達がいないことに何も言わないし...。あんな小さい子たちですらあんた達に何も期待してないし求めてないんだよ!仕事は大事だよ。しなきゃ生活出来ないもんね。ヒーローだもん、世の中を守んなきゃね。けど、自分の家族すら大事にしないヒーローって?
何にもわかってないくせに今更親ヅラして出てこないでよ!!』
声を荒げて言う莉紗に気圧され大人は3人共何も言えなくなった。何故なら、あまり関わってこなかったが故にここまで感情をあらわにする莉紗を見たことがなかったからだ。
轟「莉紗、落ち着け。とりあえず、家に帰るぞ。お前はあっちでタクシー拾ってろ」
肩を抱き莉紗をなだめる轟。鋭い目つきで一瞥すると近くの大通りまでタクシーを探しにその場を離れた。
轟「俺も、あいつの気持ち...わからなくない。今まで積み重なってきたものは、急に変えらんないっていうか...」
炎司「焦凍..」
轟「けど、あいつ。人の気持ちにすごい敏感な奴だ。内に秘めた感情にちゃんと気づける奴だから。だからおじさんたちが本気で向き合おうとしてくれてるのはちゃんと伝わってると思う。でもあいつ、こんなことの後で混乱してるし、結構参ってるから。落ち着いたら、あいつと一回腹割って話してやってください」
楓子「焦ちゃん...」
轟「まあ基本口悪いから、酷い言葉ポンポン言うと思うけど..」
寛治「...ありがとな、焦凍。お前があの子の近くにいてくれてよかった」
轟「いえ」
楓子「そうだよね....あの子も参ってるよね。悪いけど焦ちゃん。あの子とタクシーで帰ってあげてくれない?」
轟「はい」
**
轟と莉紗を乗せたタクシーが出発するのを見届けた大人たち。
楓子「.....情けない。子供に説教されるような大人だなんて」
寛治「俺も、育成の匠なんて呼ばれてるくせに...自分の子供を自分の手で育て上げることを放棄してきた。名が恥じるな..」
楓子「けど、私たちが親として放棄し続けてきてしまったのにも関わらずあの子たちあんなに立派に育ってるわ。これほど、誇らしいことってないのね」
炎司「ああ...そうだな」
**
私達を乗せたタクシーは神野を出発した。
ここから自宅までタクシーっていくらかかるんだろうととんでもない額になりそうだなと考えたが親から十分すぎるお金は普段から持たされているから心配いらないし、多分それは焦凍くんも同じだろうから最悪2人で出し合えば足りない事はないはずだからお金の心配はしていない。
轟「大丈夫か?」
『ごめんね、なんかあんな大声で取り乱して...』
轟「気にすんな」
『....焦凍くんはすごいよ』
先ほど親に向けた自分の感情を思い出し、改めて焦凍くんがいかに精神力を削られる想いをしてきたか実感した。
轟「..?何がだ?」
『ちゃんとおじさまと向き合ってるでしょ。私もいざその時が来たらもう腹の底からドロドロしたものがふつふつと沸き上がってきて...』
轟「俺も同じだ。けど、見ようとしなきゃ見えなかったからな。No.2ヒーローとしての親父」
『........』
轟「お前や緑谷がいなかったら今も見えてなかった」
『焦凍くん...』
轟「でも、お前も昨日一緒に見ただろ。ヒーローとしてのあの人達」
『うん....』
轟「おばさんだってやっぱり伊達にトップヒーローじゃねぇ。おじさんだってそうだ。これから時間かかってもいいから見ていけばいいんじゃねぇか?」
『.........』
轟「お前ならおじさんやおばさんが口だけで言ってんじゃねぇって分かっただろ。俺でも分かった。だから、落ち着いたら一回話ししてみろ」
『...焦凍くん、同席してくれる?』
轟「風舞家の話し合いにか?」
『....我を忘れて怒り狂いそう』
轟「フッ...まあいいけど。疲れてるだろ、着くまで寝てろ」
小さく笑った焦凍くん。そして、私の頭を引き寄せ自分の肩に寄りかからせると、そっと手を握ってくれたから、私も握り返した。
『ん、ありがと』
焦凍くんの匂いがする...
会いたくてたまらなかった人が、隣にいる。
焦凍くんの吐息や、心臓の鼓動が伝わってきて
さっきまで沸き上がっていた怒りがまるでなかったかのように心が穏やかになっていく。
隣から感じる、焦凍くんの気配...
それら全てに安心感が込み上げ、私を眠りの世界へと誘う...
そして、私が眠りに落ちるのにそう時間はかからなかった。
伝えなきゃ...伝えたいことがある。
でも今はまだ...微睡んでいたい。
どうか、夢の中でも...焦凍くんと一緒にいれますように
.