Season2
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ロビーに来ると、大画面のテレビがあり雄英体育祭の特集番組がかかっていた。
1位の爆豪はセンスも実力もあるのに行動がヒーローとして伴っていないと辛口コメントが相次いでいた。
『(まあそりゃあ、表彰式でのあれはなぁ...)』
そんなコメントを聞き苦笑いしながら携帯でネットサーフィンを始めた私。その間にもコメンテーターが体育祭についてのコメントを述べる声が聞こえてくる。
「2位の轟焦凍くんは、あのフレイムヒーロー エンデヴァーのご子息とあって個性だけではなく身体能力や判断力もプロ顔負けの一流でしたね!」
「3位の風舞莉紗ちゃんも、そよ風ヒーロー ウィンドリアと育成の匠 グルーガンのお嬢さんとだけありかなり実戦慣れしてるなという印象を受けましたね」
『(まあ子供の時からかなりの数のプロ相手に訓練してきてますからねぇ)』
テレビのコメントに心の中でそう返答していると...
「あれ、莉紗ちゃん?風舞莉紗ちゃんだよね?」
『え?』
一人の中年の男性が声をかけてきた。
「体育祭見たよー!すごいね、ついこの前まで中学生とは思えない戦いっぷりだったよ!」
『あ、ありがとう..ございます』
その男性を皮切りに私はあっという間に囲まれてしまった。
色々と質問責めに合い、何とか上手く乗り切りロビーを離れた莉紗。
『(知ってはいたけど、雄英体育祭の影響力...。だけどこの認知度はやばい。焦凍くんと二人のところ見られたら根も葉もない噂立てられる...!)』
そう思い病院から一旦出ようと思ったのもつかの間、携帯のバイブが鳴り見ると轟からのメッセージが2つ。
"どこ行った?"
"お母さんがお前に会いたがってる"
『(マジか!)』
莉紗は今しがた病院を出ようとしたことなどもはや忘れ、轟冷の病室へ急いだ。
コンコン
『お邪魔しまーす』
冷「莉紗ちゃん、久しぶりね」
『冷、さん....』
目の前には、昔よりも少しやつれたが昔と変わらない優しい笑顔を向けてくれる轟冷に莉紗は涙が1筋零れ、それをきっかけに声をあげて泣き始めた。
轟「莉紗?」
突然泣き出した幼なじみに、目を見開いた轟。
『ごめん、会えたの...嬉しくて...』
冷「ごめんね、莉紗ちゃんにもいっぱい辛い思いさせたね」
申し訳なさそうに言う冷に、莉紗は首が取れるんじゃないかってくらいに横に振った。
『みんな、辛かったんだから...いいの』
轟「莉紗....」
冷「莉紗ちゃん....ありがとう」
莉紗は10年振りに冷に会えたこと、そして2人の様子から前に進めたんだと言うことを察し感情が涙となって溢れ、止まらなくなり近くにいた轟の腕にしがみつくと顔を轟の左腕に埋めた。
轟「目、腫れるぞ」
『泣きっ..止んだら、冷やして...』
轟「お前な...」
呆れながら言う轟に冷も思わず笑った。
轟「ほら」
突然首にものすごく冷たいものを感じ体が跳ね上がった。
『っ!?ちょっと!』
轟「やっと泣き止んだか」
『やり方!』
轟「いいからほら。冷やせ」
そう言って氷を出した轟。
渋々それを受け取り目元を冷やした莉紗。
冷「貴方たち、付き合ってるの?」
轟「『....?』」
突然の冷からの質問に2人ともはてなマークが飛んだ。
『付き合ってないよ?』
冷「そっか、なんかそんな風に見えたから」
と、冷に言われたその言葉で莉紗は思い出したことがあった。
『あ、焦凍くん』
轟「何だ?」
『帰る時は別々に病院出よう』
轟「は?」
轟は何言ってんだ、こいつと言いたそうな表情をしている。莉紗もさすが幼なじみ、その表情の心情を悟ったがそこはスルーした。
『体育祭の影響力半端ない。私たちの認知度ちょっとヤバすぎなの。さっきロビーで体育祭の特集がテレビに流れてたのもあるけど、めちゃくちゃ囲まれたんだから』
轟「..だから?」
『一緒の所見られたら根も葉もない噂話立てられる』
轟「言わせときゃいいだろ」
『目立つの嫌だ』
轟「ヒーローになろうとしてる奴が何言ってんだ」
『そうだけど』
そんな2人のゴールの見えないやりとりに冷は思わず声をあげて笑った。
**
結局莉紗が押し切り、タイミングをズラして病院を出た2人。
轟「電車もズラすのか?」
『え、あー...んー』
轟「迷うのか」
『.....まあ、来る時一緒だったし今更か』
轟「.......」
『焦凍くん?』
急に黙った轟に莉紗は不思議に思い、顔を覗き込んだ。
轟「...莉紗」
『ん?』
轟「お母さん、笑ってた。笑って、許してくれた。俺が何にも囚われず進むことが幸せだって」
そう話す轟の顔は吹っ切れた表情をしていた。その様子に莉紗は静かに口を開き始めた。
『....多分ね?』
轟「?」
『冷さんも、多分...焦凍くんと同じ気持ちだったんだと思う』
轟「え?」
『冷さんもきっと、焦凍くんに対して自分を責める気持ちがあったんだよ
じゃなきゃあの日...あの時、あんな辛そうな顔して、焦凍くんの事抱きしめてないよ』
幼い頃の記憶でも莉紗の脳裏にはまるで昨日のことのように鮮明に残っている、主語のない"あの日"の記憶。
それがいつの、何のことを指しているのか。轟には考える必要もないほどにすぐに分かった。
お湯をかける瞬間のおぞましいものを見るような冷の表情。
お湯をかけられ、熱さと痛みにもがき苦しむ焦凍の姿。
そして、我が子にお湯をかけてしまい後悔に苛まれ苦しみながらも必死に我が子を抱きしめお湯を浴びた焦凍を自身の個性で冷やし続ける冷の表情を。
『冷さんも、きっと苦しんだんだと思う。
冷さんも、焦凍くんも優しいから。だから、きっとお互いがお互いの為に...お互いを苦しめないように自分の気持ちに蓋をして』
轟「莉紗....」
『でも、冷さんは謝ろうとか向き合おうとか...何かを変えようと思っても物理的に今はどうしようも出来ないから。だから、焦凍くんが来て嬉しかったと思うよ』
莉紗は轟の前に立ち、轟の手を取りギュッと握った。
『焦凍くんは、冷さんの事救ったんだよ』
轟「!」
『だって...冷さん、笑ってた』
轟「...っ!...」
"母を救う"
それが自分がヒーローを目指す為に立つべきスタートラインだと思っていた。だから、今日母に会いに来た。
胸にあったその決意。だが、それは正しいのか。自己満足ではないか?母はそれを望んでいるのか...不安で胸が押し潰されそうになっていた。
母が許してくれた今も、母は自分に会って辛くなかっただろうか。
自分は母を助けることが出来たのか...
もやもやとした気持ちが残ったままでいた。
しかし、莉紗の言葉を聞き、張り詰めていた緊張や不安の糸が切れたのと同時に長い間積み重ねていた思いや葛藤などが溢れ、涙となって頬を流れた。
他人の気休めの言葉じゃない。
一緒に同じ景色を見てきた彼女だから。
一緒に傷ついたり、苦しんだりしてきた莉紗の言葉だったからこそ轟の胸に何の障害もなくストンと入り込んできた。
母を救うことが出来た。
彼女がかけてくれたその言葉で、轟自身も救われた。
轟の目から流れ落ちる涙。少なくとも成長してから初めて見たその涙に莉紗は一瞬目を見開くも、今まで轟が抱えていた想いが一気に溢れ、涙となった事を察した莉紗は、言葉をかけることはせず、落ち着くまで横に立ち背中をさすりながらただただ静かに寄り添った。
**
轟が落ち着き、電車に乗り轟家に戻ってきた2人。
冬美「焦凍!莉紗ちゃん!お母さんと..どう、だった?」
轟「普通に話して貰えた」
『よかったね』
轟「莉紗、ありがとな」
『ううん!』
お互い顔を見合わせて笑い合う2人。少し前までは普通に話していてもどこか遠慮し合ってるような気を遣いあってるようなよそよそしさが残っていたがそれがなくなり2人を包む雰囲気が以前よりも優しいものになっているのに気づき冬美は微笑んだ。
**
その日の夜、親がまたもや急遽泊まりで仕事になった為莉紗は弟と妹を冬美に紹介するべく轟家に連れて来た。
わりと人見知りせずすぐに人に慣れる梨央はすんなり打ち解けた。
冬美も小学校教諭をやってることもあり子供の相手には慣れていて、あろうことか梨央は勉強まで教えて貰っていた。
寛太も人見知りが発動して最初は大好きな轟にべったりだったが、冬美は無理に迫ったりせず距離を置いて時々遠くから優しく話しかけていた。姉がすっかり懐いている事もあってか、気づけば冬美のところにも自ら近寄っていた。
轟「寛太、やっと慣れたな」
冬美も久しぶりの幼児を前にメロメロして寛太に付きっきりになっている。
そんな様子を端の方でお茶を飲みながら轟と莉紗は眺めていた。
『でも寛ちゃんにしては早い方だよ。焦凍くんの時が早すぎたの。その日のうちに慣れることまずないもん。轟家の人は寛太に合ってるのかも』
轟「..お前、良い母親になりそうだな」
『え?』
轟「見てたらそんな感じする」
『そうかなー?』
轟「まあ、お前昔から面倒見いいからな」
『...?焦凍くん、今日はなんだかおしゃべりだね?』
轟「そうか?」
『うん、しかもなんかそんな褒め殺しみたいなの珍しい...』
轟「褒め殺し?」
『うん、まあいいや。
明日も行くの?冷さんのとこ』
轟「そのつもり」
『私も行っていい?』
轟「ああ、お母さんも喜ぶ」
『何買っていこうかなー?』
1つ1つ、誰もが何かと向き合い変わろうとしている。
轟も、母の冷も...
そして、それは莉紗も同じであった。
─────
とある日の夜の風舞家
母「ねぇ、貴方..」
父「何だ」
母「体育祭、見たでしょ?」
父「.......」
母「物心ついた時にはもうヒーローになんか絶対ならないって言ってた。なのにあの子は自ら雄英に行き、ヒーローを目指す子たちとあんなに必死になってたわ。私あの子のあんな生き生きした顔見たことなかったわ...」
父「...ああ」
母「思えば私たち、あの子をヒーローにすることばかりであの子がホントにヒーローになりたいかどうか聞いてあげたこともなかった」
父「...俺も、訓練が上手くいってるかどうかしか聞いてやった事なかったな」
母「私たち...あの子の笑った顔、見たことあった?莉紗だけじゃない。蒼弥もよ」
父 「...いや」
母「私ってば、今年のビルボJP上半期でも4位に選ばれたわ。
なのに、そんなヒーローである私が、自分の子供達の夢や思いを蔑ろにしてた...情けない」
父「俺もだ..育成の匠、なんて言われてる俺が自分の子供の心を育んで来なかった」
母「でも莉紗は、自分で目指す道を見つけ、自分の力で進んでるわ...」
父「向き合わないとな....莉紗とも、蒼弥とも」
母「話し、聞いてくれるかしら...」
父「聞いてくれるまで、何度だって頭を下げよう」
母「ええ....」
親として、子供と向き合って来なかった。
それ故に、今までただ自分たちへの反発の言葉しか向けてこなかった娘が同じ釜の仲間たちと生き生きと切磋琢磨し自分の足で力強くヒーローとしての道を進んでいることを目の当たりにした体育祭。
それが誇らしくあり、同時にどうしようもないほどの罪悪感に苛まれた莉紗の両親。
変わろうとしてる人間はここにもいたのだ。
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