Season2
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そして、リビングに戻り暖かいお茶を入れソファーに並んで腰かけた二人。
『それで、話しって?』
轟「謝らなきゃならねぇ事がある」
『謝る?』
轟「.....ずっと。忘れてた」
『...何を?』
轟は莉紗の着ていたTシャツの胸元を少しだけずり下ろした。
『ちょっ..!!』
轟「お前を、傷つけたこと」
『?!』
ずり下ろしたTシャツの隙間からくっきりと残った火傷の跡が見えた。
それを見て轟は苦しそうな表情を浮かべた。
轟「やっぱ、残ってんな..」
『........』
莉紗のシャツから手を離し自身の手のひらを見つめた轟。
轟「緑谷のおかげできっかけが出来た。お前が背中を押してくれた。
だけど、左側を使おうとするたびに俺の頭の中にはクソ親父の顔や、泣いていたお母さんの顔...それと、不安そうなお前の顔がいつもちらつく。そして、お前を傷つけたことを思い出した」
轟が静かに話し出したのを莉紗は相槌を打つことすら忘れて聞いていた。
轟「俺の左側が、お母さんを追い詰めた。そして、お前に消えない傷を負わせた。けど俺は今日までそれを忘れてたんだ。そんな俺がこの力を使っていいのか...そう思ったら使うことに踏み出せなかった」
『焦凍くん....』
轟「お前、許せるのか?」
切ないような悲しいような表情を浮かべて莉紗を見た轟。そんな彼の表情に、莉紗は胸を締め付けられる思いだった。
『....そんな質問。バカだよ』
轟「.........」
『許せないなら、今こうして一緒にいないし焦凍くんの事応援できるわけないでしょ。この傷だって焦凍くんのせいだとか、焦凍くんを責めた事1度もなかったよ。そんな風に引きずるくらいなら忘れたままで良かった。
もっと、って囃し立てた私にだって責任があるし、私だって扱いきれてない個性で焦凍くんにケガさせたのは事実でしょ。程度なんて関係ない』
轟「莉紗....」
『前にも言ったでしょ。私がヒーローを目指すのは、焦凍くんが困った時に助けたいからだって。焦凍くんのこと支えたくてヒーローになろうと決めた。それはずっと変わってないよ。だから、そんな私が焦凍くんの枷や重荷になるのは嫌』
轟「...........」
『私はむしろ、謝りたいくらいなのに...』
轟「謝りたい..?」
『緑谷があんな風にぶつかってきてくれて焦凍君にきっかけをくれたように...私にだって同じことをしてあげるチャンスがたくさんあったはずなのに..私はしなかった』
轟「....しなかったんじゃなくて、出来なかったんだろ?お前も俺の見てきたもの一緒に見てきたからな」
轟の言葉に莉紗は涙を流しながら頷いた。
『焦凍くんの苦しみや葛藤全部知ってるから.....助けたい、守りたいって思ってた。
怖かった...突きつけて、焦凍くんの心が壊れちゃったらどうしよって。
でもそれ以上に焦凍くんに、嫌われたらどうしよって...
もう二度と、私に笑ってくれなくなったら...って考えたら。
私は、私のために見て見ぬふりをしたの!
焦凍くんに、何もしてあげてない...
ただ近くにいるだけ。
こんな私..いらない....って思った。
私は、焦凍くんに"ありがとう"なんて....っ、言ってもらえる資格...ないんだよ』
涙を零しながら話す莉紗。彼女の正直な想いを聞いて、隣に座る莉紗を見ていた轟は正面を向くと今一度自分の広げた左手を眺めた。
轟「...緑谷の言うとおりだった」
『....え?』
轟「緑谷に言われた。お前にそんな顔させてんのは...不安にさせてんのは誰だ、って」
『緑谷....』
轟「そうやって、ずっと自分の事責めてたんだろ?お前、優しいからな。
俺の弱さが、ずっとお前を苦しめて不安にさせてた」
『そんなこと!』
轟「けど、何もしてないなんて言うな。お前は、一緒に居てくれただろ。黙って話聞いてくれて、俺の迷いも..弱いとこも全部受け止めてくれただろ。
背中押して、応援..してくれただろ」
『............』
轟「救われた。俺が、どんな俺でも...お前は変わらなかった。変わらずにいてくれたから。ありがとな」
『焦凍くん....』
小さく微笑む轟の口から紡がれた感謝の言葉に莉紗は再び涙が溢れた。
轟「ごめん、莉紗。傷つけて突き放した俺なんかと、また一緒にいてくれたのにあんな事言って..」
轟が述べた謝罪の言葉。主語はなくても何のことか莉紗にはすぐ分かった。
轟「お前が、必要だって認めたら...俺の存在がお前を縛り付けちまう気がして。
親父に、利用されてお前が傷つくんじゃねェかって。
けど、気づいた。ガキん時とは違う。今度は、俺がお前を守ってやれば良いから。
今なら盾になってやれる」
『焦凍くん....』
轟「お前はいらなくなんかねぇよ。必要な存在だ。
俺には、お前が必要だ」
『っ....ありがっ、と...私..は、しょっ、とくんの、味方..だよ』
轟「!」
泣きながら途切れ途切れになった不恰好な言葉だが、轟の耳にはしっかりと伝わった。轟は優しい微笑みを浮かべ莉紗の頭をそっと撫でた。
轟「...おう。知ってる」
ずっと側にあった存在が、急になくなった..
見つけたと思ったのに、守るために今度は自ら手放した。
泣かせて、傷つけた。
それでも今こうして、隣で自分のために悲しんで、喜んで泣いてくれる。
いつも隣に座ってただ話を聞いてくれる。
笑顔で背中を押してくれる。
そんな莉紗の存在を、これからは自分が守って大切にしていこう。
轟は胸の中でそう誓った。
--------
翌日
昨夜俺は、そのまま莉紗の家に泊まった。
莉紗は寛太と梨央が寝てる部屋で一緒に寝てるらしい。
寛太は夜泣きもするようで、ゆっくり寝れないから莉紗の部屋で寝ていいって言ってきたが、幼少期からほぼ俺の家で一緒に暮らして来たから莉紗の家はあまり来た事がなく、どちらにしても落ち着かないと思ったし夜泣きした時も手伝える事があるかもしれないからと説得して、結局4人で同じ部屋で布団を並べて寝た。
A.M.7時
微睡む意識の中、腹の上にずっしりとする重みを感じる。
寛太「しょーとくん!あーぼ!」
訳:焦凍くん!あそぼ!
満面の笑みの寛太が俺の腹の上で飛び跳ねてる。
轟「ん...お、おう」
『こら、寛太!焦凍くんまだ眠いから寝かせてあげて!』
寛太「あしょぶのー!」
訳:遊ぶの!
『あんたまだご飯も食べてないでしょ』
寛太「いんない!あしょぶ!」
訳:いらない!遊ぶ!
轟「寛太、飯食ったら遊ぼうな」
寛太「うん!ねね、あわん!」
訳:うん!ねね、ご飯!
『こいつ....焦凍くんの言うことにはすんなりだな、おい』
梨央「寛ちゃん、顔キレイキレイしに行こう」
梨央が寛太の手を引いて1階のリビングに連れて行った。
『ごめんね、ゆっくり寝かせてあげようと思って静かなうちに連れ出そうとしたんだけど。私がトイレ行ってる間に起きちゃって...』
轟「いや、いいよ。お前の手伝いするのに泊まったんだし」
『気にしなくていいのに..』
轟「これくらいさせろ。姉さんいない時に飯作ってくれたり家の事やってくれたりして助かってるから」
『ん、ありがと』
莉紗が寛太達に朝ご飯を食べさせていると、夕方に帰ってくると聞いていた莉紗の親が予定よりも早い午前中に帰って来たらしく玄関のドアの開く音が聞こえた瞬間、トイレと言って莉紗はリビングから出ていったが、何やらその表情は暗かった。
轟「莉紗?」
梨央「きっと部屋行ったんだよ。お姉ちゃんとお父さん達あんまり仲良くないから。会ったらケンカになっちゃうの。寛太の前でしたら良くないからってお姉ちゃん、なるべくケンカにならないようにお父さん達とあんまり会わないようにしてるんだよ」
轟「(ほとんど顔合わせないってこう言うことか....)」
母「ただいま」
梨央「お父さん、お母さんおかえり」
寛太「おかーり」
おじさんとおばさんはリビングに入ると俺に気づいたらしく目を丸くした。
父「ん?お前、焦凍!」
轟「お久しぶりです」
母「生で見たら焦凍ちゃん、尚更すっかりカッコよくなって!体育祭見たよ〜?」
轟「どうも」
寛太「しょーとくん、しょーとくん」
相変わらず轟にべったりの寛太。
梨央「お父さん、お母さん。寛太が焦凍お兄ちゃんにスゴい懐いてんだよ?びっくりしちゃうよねー」
母「あら、やだ。それはびっくりだわ。本当に懐いてるわ」
父「寛太に気に入られたら大変だな」
母「焦凍ちゃん来てるならお昼はお寿司でも取ろうかしら?」
轟「や、俺これから用事あるんで帰ります」
父「いつでも遊びに来いよ」
轟「はい」
莉紗の両親達との挨拶をして、部屋に閉じこもった莉紗の元に戻った。
轟「莉紗」
『よし、焦凍くん家行こう』
轟「思ってたより俺には普通だった」
『私と兄貴にだけだからね、あの人たちが豹変すんの』
轟「そうか。
今日、お母さんのところに行く」
『うん』
そう自分で言い出した轟だが、その表情は迷っているようで躊躇してるようにも見える。
『.....途中まで一緒に行っていい?私も冷さんの体調落ち着いてる時に会いたいから病院の場所知っときたいし』
轟「....ああ」
本当は1人で行くのが、すごく怖いんだ。自分に会って、冷さんがまた壊れるんじゃないかってすごく不安なんだと思う...
けど、焦凍くんはそういう弱さを出すのがとんでもなく下手くそだから、一緒に来てとも言えないでいる。
私が居て少しでも焦凍くんが前に進めるなら、どこでもついていく。
轟「1回家帰って着替える」
『じゃあ、私も』
轟家について早々と着替えると二人は再び玄関に行き靴を履いた。
冬美「焦凍?莉紗ちゃん?どこ行くの?」
轟「病院」
冬美「え....急にどうした...?
ていうか、焦凍!それお父さんに言わなくていいの?!」
轟「ああ」
冬美「何で今更、お母さんに会いに行く気になったの?」
轟「..行ってくる」
莉紗を待たずにそそくさと家を出た轟。
『焦凍くんなりに、色んなものと向き合おうとしてるみたいだよ。私も、この傷のこと謝られちゃった』
そう言って莉紗は自分の胸元を指さした。
冬美「焦凍が....」
『一人で行くの不安そうだったから途中まで一緒に行ってくるね』
冬美「莉紗ちゃん...
焦凍のことよろしく頼むね」
『うん!』
**
轟の母の病院までは電車で行かなければならない。
駅までの道のり、会話もなくただ並んで歩き続ける。
けれど、莉紗は気まずいなどとは微塵にも思っていない。
何故なら、比較的無口な轟と2人の時には無言はよくある状況なうえ、轟は今色々と自分の思いや母のことを考えているのを分かっていたからだ。
彼が自分の言葉を望む時には相応の合図をくれる。
だから望まれるまでは自分はただ側にいるだけ、と莉紗は決めていた。
そんな轟の心の中では、今までの自分の人生、体育祭での出来事...そして、母や今隣を歩く幼なじみの顔が次々と浮かんでいた。
莉紗side
気づくと目の前には大きな建物。
私たちは、焦凍くんの母 冷さんが入院する病院にたどり着いた。
焦凍くんは足を止めて病院を見上げた。
轟「....莉紗」
ふと名前を呼ばれて、私は小さく返事をした。
『ん?』
轟「...いいか?」
『いいよ』
轟「あの日以来...自分の存在が、お母さんを追い詰めてしまうから....会わなかった」
『....うん』
轟「お母さんは、きっと....まだ俺に、親父に囚われ続けてる。だから、俺がこの身体で...全力で再びヒーローを目指すには、理想のヒーローになるには会って話しを...たくさん、話しをしないと..そう、思った...」
決意を言葉にした焦凍くん。けど、その言葉の端々に不安や迷いを含んでいる。こうした方がいい、ああした方がいいなんて余計な言葉は言わない。必要ないからだ。
こう話した方がいい、ああ言った方がいいなんて事を考えて、取り繕った言葉で話す必要はない。ありのままの焦凍くんの言葉で冷さんと話さなきゃ意味ないから。だから私が焦凍くんに伝える言葉はたった一言。
『.....うん、分かったよ。
きっと、焦凍くんの気持ち...冷さんに伝わる』
轟「..........」
頑張れ、なんて言葉はかけない。
焦凍くんも冷さんもずっと頑張り続けてきた。
頑張ってきたからこそ冷さんは限界を超えて壊れてしまった。
そして焦凍くんは心の拠り所だったお母さんと離されてしまい、心を閉ざしてしまうようになった。
私の励ましなんて必要ない。だって焦凍くんは自分で決めて、自分の意志で今この場所にいるから。今焦凍くんに必要なのは、この1歩を踏み出すためのほんの少しのきっかけ。
そして、今それが出来るのはここに一緒にいる私だけ。私は、焦凍くんの背中にそっと手を添えた。
**
院内に入り、ナースステーションで轟冷の病室を焦凍くんが確認した時には詰所内が騒然とした。
そりゃそうだ。精神疾患の患者のバックグラウンドは病院側もなんとなく把握しているはず。
まさか、その要因の1人である息子が10年間1度も面会に来なかったのに今更見舞いに来るとは思わなかったのだろう。
315号室
轟 様
ネームプレートに書かれた名前を見つめる2人。
『じゃあ、私はロビーにいるから。私のことは気にしないでゆっくり話してきて』
轟「.....ああ」
轟は莉紗をちらりと見ると、再び病室のドアに向き合った。
莉紗は病室に入るのを見守ろうと少し離れた場所に移動した。
轟はドアノブに手をかけようと伸ばした手を1度下ろし、深呼吸をした。
汗をかいてしまうほど異常なまでに緊張しているその様子を見兼ねて莉紗は再び轟の隣に立った。
そして...
『はい、お守り』
体育祭の時と同じように、轟の左手首に粘着糸を1周巻き付けた。
轟「..........」
轟は粘着糸が巻き付けられた左手首を顔の近くまで寄せてじっと見つめた。
『私がドアを開けて焦凍くんの背中押して部屋に押し込むこともできるよ。でも、焦凍くんはそれは望まないよね』
轟「........」
『焦凍くん』
自分の名前を呼んだ彼女を見た轟。
『忘れないで。
私はいつだって焦凍くんの味方。応援、してるよ』
轟「莉紗....」
莉紗が轟に送った言葉。それは、体育祭の時にも何度も彼に伝えた言葉だった。
そして...
『なりたい自分に、なってきて』
轟「!!」
「なりたい自分に、なっていいんだよ」
かつて、轟の母が轟に言った言葉...
そして、目の前の彼女が体育祭で轟が左の炎を使う勇気をくれた言葉だった。
『焦凍くんなら大丈夫だよ』
彼女が昔と、そして体育祭の時と変わらない優しい笑顔で送ってくれる応援の言葉。それは、轟の中の緊張や不安をゆっくり溶かしていった。
轟「...莉紗」
小さく微笑んだ、轟。
轟「ありがとな
(例え望まれていなくたって、助けだす。
それが、俺のスタートラインだと..そう、思ったからだ。
恐怖はあった...けど、今はもう。
俺には...莉紗がいてくれる)」
その表情からは、さっきまでの緊張は見られない。
今度こそ、大丈夫。そう確信できた莉紗は、同じく小さく微笑みロビーに向かって歩いていった。
ドアを開ける音を背中で聞きながら....
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